「社員ファースト」によりモチベーションが向上 約10年間は自主退職者なし
株式会社VERVE 代表取締役 久保田一氏(後編)
Q5:起業家・経営者として譲れないこだわりは何ですか?
徹底していることは、ステークホルダーの優先順位を絶対に間違えないことです。多くの場合、株主がいて、社員、お客さま、取引先と優先順位を付けると思います。ですが、当社は、社員が最優先です。
優先順位を確立したきっかけは、約13年前(2010年くらい)に、若手社員から「やりたいことができないので辞めます」と言われことでした。自分ではスタッフの意見を、よく聞いているつもりでいたので、その言葉に驚きました。当時は社員が100人を超えていたこともあり、自分が思っているほどコミュニケーションが取れていなかったのです。
その社員に何をやりたいのか尋ねました。その内容は、話してくれていたら、すぐに実行できるものでした。そこで、さらに「なぜ相談しなかったのか」尋ねると、彼にとっては、私が「雲の上の存在」と感じ、言えなかったと答えたのです。
私はその時、会社の組織が自分の管理能力を超えている、と感じました。そもそも私は、組織を大きくしたいわけでもなく、上場するつもりもありませんでした。自分や社員がやりたいことを自分たちの判断でできる会社を作りたかったのです。
社員がやりたいことができないと感じて辞めてしまう状況を幹部や役職者に伝え、組織を縮小することを決意しました。本来は、お客さまのために作ったチームでもあります。そのため、再編成しました。そして、改めて採用する際には、社員のやりたいことをしっかりと聞ける組織づくりを目指し、「社員ファースト」を掲げています。
他にも、私が意識しているこだわりがあります。それは、自分が社員時代に経験して嫌だったことは、社員に対して絶対にしないとことです。
具体的には、私が売り上げ目標に対して指示を出すことや、前年比の売り上げアップも強要しません。社員が自発的に設定した目標の合計が会社の目標になります。そのため、私は全体的な売り上げを把握していないのです。このことには、多くの経営者が驚きます。
基本的には、プロジェクトごとに社員が目標を設定しています。社員のモチベーションは人それぞれで、お金が動機の人もいれば、技術が好きで仕事をする人もいます。仕事に対するやりがいもさまざまなのです。なので、彼らのやりがいを聞き、それを実現するために、プロジェクトの売り上げ目標を逆算します。その合計値が会社の売り上げ目標となります。
さらに、採用時にも当社独自のこだわりがあります。当社は技術や履歴書よりも、会社の考え方や価値観に合った感覚を最優先にしています。技術や経験も必要な要素ではありますが、後からでも十分に学ぶことができます。しかし、仕事に対する姿勢やモチベーションは修正が困難です。
このこだわりを重視しながら採用を続けているおかげで、社内での揉め事が減り、この10年間は自主退職者がいない状況が続いています。
Q6:これからどんな挑戦をしたいですか?(現在の課題やかなえたい目標など)
私は経営者になって以来、社員の夢や成長を応援し、育成に力を注ぐ姿勢で日々を過ごしています。そのことを継続していくことが一つの挑戦です。
最近になって、将来的に挑戦してみようかなと思う新たな可能性を見いだしました。今年に入って、他の経営者から「辞めない組織づくり」や「事業の壁打ち」に関する相談を、多く受けるようになったことがきっかけです。
私の事業はもともとシステム開発ですが、自社の経営コンサルティングや組織改革にも自ら取り組んできました。システム開発以外の知見を教えることを意識したことは、これまでありません。しかし、私のもとに経営コンサルティングや組織改革の相談が増えたことで、自分の経験と知見を生かしたシフトチェンジの可能性を考える機会となったのです。私の頭が、システムやIT業界の技術革新に追いつけなくなった時を想定して、新たな可能性に挑戦することを視野に入れています。
困り事を解決し、相手に喜ばれることがビジネスの本質
Q7:企業理念を教えてください(事業を推進するうえで一番大切にしていることなど)。
当社は企業理念というよりも、仕事に対する姿勢を重視しています。プロフェッショナルとして仕事を遂行し、「結果が全て」という考え方です。特に、成功報酬であるため、言い訳や努力の説明よりも、実績と成果を重視し、正しい手法で実力を発揮することが、プロフェッショナルな仕事だという意識を持つことを伝えています。
先ほど述べたことと重複しますが、社員ファーストで社員が夢をかなえて、成長し続けられる組織であることは、最も大事にしていることです。
Q8:あなたにとってのビジネス(事業)とは何ですか?
私にとってビジネスは、課題解決と、やりがいです。会社で起こる困り事(課題)は、自分たちで解決できることは自分たちで解決すればよいと思います。しかし、プロフェッショナルな視点や技術があってこそ、解決できることがあります。それらの課題については、外部の専門家に依頼することが重要です。
自分たちのプロフェッショナルな強みを生かして課題を解決し、その結果、相手に喜ばれる。このことが、プロとして仕事をする上で最もやりがいや喜びを感じる瞬間です。
ビジネスは何をするかではなく、困り事を解決して相手に喜んでもらう。これが私の考えるビジネスの本質です。将来、異なる分野のビジネスを行うとしても、この信念だけは変わりません。同じ志で取り組んでいきます。
自分で考え抜いた決断を信じることの大切さ
Q9:これから進路や将来を考える子どもたちに、あなたの仕事の魅力を教えてください。
私が子どもたちに伝いたいことは、将来の仕事を考えるとき、何の仕事を選ぶにしても、自分で考え抜いた結論を信じることが大事だということですね。仕事だけでなく、何かを決断する場面で、そのことをやり続けてほしいと思います。
これまでの人生を振り返ってみても、自分で考え抜いて決断したことは、一切、後悔がありません。「やっておけば良かった」とか「やらなければ良かった」という後悔が生まれないのです。なので、子どもたちにも、自分で考え抜いた決断に自信を持ち、後悔のない道を歩むことの大切さを伝えたいです。
「自分で考え抜くことの大切さ」は、私の父からの教えです。父は早くに亡くなっていますが、生前、口酸っぱく言われていたのが、「頭は帽子を乗っける道具じゃねぇ、自分で考えろ」という言葉です。つまり「自分で徹底的に考えろ」という教えです。
私が考え抜いて出した結論や理由に対して、父は何も言わず了承していました。改めて父の偉大さを感じます。そして、その教えは、今でも心に深く残り、私の仕事や生活に大きな影響を与えています。
子どもたちが、将来の仕事を選ぶ際、自分の考えと判断を信じ、自分のやりたいことや興味を追求してほしいです。さらに、その道で自分の強みを生かして、喜びや、やりがいを感じてほしいと思います。
私が考え抜いて出した結論で最も誇れるものがあります。それは、成功報酬型のシステム開発を立ち上げたことと、事業形態を拡大路線から脱却する決断したことです。
当社は現在設立18年目になります。10周年を迎えた際に、社員たちと記念のパーティーを開催しました。その時、半数以上の社員から「この会社に入って良かったです」という言葉をもらいました。これは本当にうれしい言葉でした。中には、「 入社から今まで一度も退職や転職を考えたことがない」と話す社員もいました。
私は社員たちの言葉から、当社に私の大事にしている信頼関係が確立できていることを実感したのです。それは、職場や仕事内容に関する不満や問題があれば、率直に言える環境です。これまで社員のために取り組んできたことが間違っていなかった、という強い思いが湧き起こりました。
プログラムを作ることは、モノづくりと同じです。「自分で新しいモノを作り出す喜び」を味わえることが、プログラム作成の魅力です。
作り出す過程には、個性が強く反映されます。例えば、プログラムが「美しい」と感じるかどうかは、その作成者の視点によって異なります。優れたプログラマーが作成したプログラムは、他人でも理解しやすく、整然としています。プログラムの品質が高いと感じるのはそのためです。
今の子どもたちは、ゲームを比較的手軽に作れる環境が整っているため、自分のアイデアや理想を実現する手段としてプログラムは非常に魅力的です。
例えば、当社は単に仕事としてではなく、自分の便利さを実現するためのものを作ってもらうことがあります。これは、自分のために作ったものなので、なぜ作ったのか理由を明確にできます。この視点は顧客の視点で問題を解決することにつながり、最終的には、私たちの仕事にもつながる方法です。自分の頭で考えたアイデアをプログラムで具体化できることは、非常に充実感をもたらします。このことも、仕事の魅力ですね。
Q10.システム開発など、今の仕事、今の分野を選んだきっかけは何ですか?
私の父親は、溶接を専門としており、ロケット、人工衛星の溶接に携わっていました。日本で数少ない溶接のプロでした。そんな父への憧れもあって、高校進学時には、機械科を専攻したのです。
しかし、入学後に自分自身が金属アレルギーだったことが判明したのです。そのため、実習などの授業に参加できなくなり、その間、学校に導入が始まったばかりのパソコンを、独学で勉強することになりました。次第に設計やプログラムを作ることが面白くなり、自分でトランプゲームなどを作り始めました。それが楽しくて、この分野への興味や関心が強まったことがきっかけです。
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