【ポッドキャスト #10】そもそも「広報」って何!? 誤解・勘違いされたままの「広報」の今を憂う(2)
前回に続いて、「本来の広報とは」をテーマに荒木と濱口が切り込んでいきます!
広報担当者が出てくる小説やドラマでも、マスメディアとの関係が多く描かれています。
「人格」を持った企業が、組織としてコミュニケーション能力を持つ重要さにも言及していきます。
広報の本質を探る ドラマと小説から見る広報の課題とは
荒木: おはようございます。今週も『広報オタ倶楽部』を、濱口さんと一緒に始めてまいります。よろしくお願いします。
濱口: おはようございます。皆さまの知見が上がる『広報オタ俱楽部』です。
荒木: 考えてみれば、(当番組)放送を途中から視聴する人もいるので、放送開始時に毎回、「サブMCは、濱口ちあきさんです」と言った方がいいかなと思う。きちんと、濱口さんとだと分かるようにね。
濱口: そう考えると、荒木さんも名乗った方がいいですよね。
荒木: そうだね。毎回そうしましょう。
濱口: 私たち、これまでの放送では、オープニングに何もせずに始めていましたね。
荒木: そうだね。オープニングに名乗っていなかったね。
次回からは、「『広報オタ俱楽部』メインMCの荒木洋次とサブMCの濱口ちあきです」と毎回、言うようにしましょう。
濱口: そうですね、必要です。そうしましょう。
荒木: 前回の放送(#9)は、話が中途半端に終わってしまったので、前回の続きをもう少し話したいと思います。
濱口: はい。お願いします。
荒木: テレビなどで放送されるドラマは、いろいろな人たち(視聴者)の人生に影響を与えるな、と思う。特に、お仕事系のドラマは影響を与えると思う。例えば、すごく古いドラマで(当時アイドルの)堀ちえみさんが、スチュワーデス(現在はCAと呼称)の訓練生役。俳優の風間杜夫さんが教官役で出演する『スチュワーデス物語』がある。そのドラマの影響を受けて、「CAになりたい」という人が増えた。
スポーツを扱ったドラマや漫画も、その舞台裏が描かれ見えることで、視聴者に大きな影響を与える。普段、仕事としてとか、人としてなど、生活している中で接するだけでは、そこで何が行われているのか分からない(気にも留めない)。実際に自分が、その中に入っていないからね。
でも、ドラマは一歩引いた立場で、さまざまな苦労や失敗を見ることができるから、内実が分かってすごく影響力がある。
濱口: そうですね。
荒木: 小説も、そうだ(影響力がある)よね。
濱口: 確かに、そうですね。
荒木: 濱口さんは、高杉良著『広報室沈黙す』(講談社刊)を知っているかな。
濱口: いえ、初めて聞きました。
荒木: すごく古い小説。その内容は、不祥事を起こしたことで危機に陥った企業が、それを乗り越えていくストーリー。
事件や事故があった場合、そこには、やはりマスメディアのかたがたが関わり、探ってくる。そこで、広報室の担当者がマスメディアの窓口となり、社会に向けてどのように情報を発信するかが描かれていた(詳細はもう覚えていないけれど)。
そこには、企業広報のマスメディア対応がある。企業は、マスコミ(マスメディア)の後ろには当然社会(世間)があるから、そこを見据えている。だけど、直接的なやり取りをするのは、マスメディアのかたがたになる。
同書を読んだ当時(1999年)、私はPR会社に入っていた。会社はマスメディアに対する情報発信しかしなかった。だから、この本を読んで、「なるほど、こういうダイナミックなことがあるんだ」「(広報には)こういう役割があるんだ」と分かったことは良かった。けれど、一方で、(そこで描かれているのは)どうしても「対マスメディア」との関係だけなんだよね。
ドラマでも「広報」を扱ったものがある。濱口さんは、広報担当者が主人公のドラマを見たことあるかな。数年前に放送された『空飛ぶ広報室』(2013年4月14日~6月23日、夜9時から放送開始のTBS系「日曜劇場」)というドラマ。
濱口: タイトルは聞いたことがあります。
荒木: タイトルにも「広報」とあるように、このドラマは航空自衛隊の広報室が舞台。撮影には、航空自衛隊が全面的に協力している。
ドラマは、航空自衛隊の広報チーム「チーム広報室」の仕事現場にフォーカスを当て、広報担当者とテレビディレクター(女性)とのやり取りが描かれる。
主人公であるテレビディレクターの女性を新垣結衣さんが演じ、航空幕僚幹部広報室広報官を綾野剛さん、広報室長を柴田恭兵さんが演じた。ストーリーが面白くて話題にもなった。中でも特に印象的に描かれていたのは、自衛隊の広報チームと対マスメディアの関係性だった。
私は(ドラマ好きだから)ドラマを見ていて思うことがある。ドラマの中で、「社内報に載せます」という表現(セリフや状況)は当たり前のように出てくる。例えば、「社内報に掲載されるインタビューを受けました」とか「自分のライバルが社内報に掲載されました」というように。これも(社内報も)広報の一環だけれど、主人公として物語にしにくいのか、広報として描かれやすいのは、対マスメディアがテーマとなるもの。
他にも「広報」を扱った『着飾る恋には理由があって』(2021年4月20~6月22日、夜10時放送開始のTBS系「火曜ドラマ」)というドラマがある。主演は、川口春奈さんと横浜流星さん。主人公の川口さんは、インテリアメーカーの広報担当を演じている。そこでは、広報業務として主にSNSでの情報発信を担当していて、その「SNS担当」というところは今時だなと感じた。
それも、もちろん広報の一つなので、いい傾向ではあると思う。だけど、ドラマを見た人たちは、(広報の一環として捉えるのではなく)「広報ってこういう仕事なんだろうな」と捉えるよね。
今も変わらずマスメディア対応に偏重する広報のイメージに危機感
濱口: 偏った認識になりますよね。
荒木: もちろん、マスメディアのかたとのコミュニケーションは広報の重要な役割の一つで、自分たちの会社が報道されることは良いことだし、プラスの影響もいっぱいある。だけど、「それだけ(広報=対マスメディア)」と思われてしまうと、それはマーケティングの一環だと認識され、「売り上げを上げるため」といった間違いが起こりやすくなる。そして、そういう認識のまま新聞記者や雑誌の編集者に会うと、話が噛み合わずに、時には記者を怒らせてしまうことになる。
企業にとって大事なことは「私たちは、自分たちの媒体の読者や視聴者にとって、有益・有意義な情報と判断すれば、自分たちの責任において発信する」というスタンスでいること。それが結果的には副次的効果として、売り上げの増加や、認知度の向上につながるかもしれない。でも、そのことを目的にアプローチしてしまうと、相手に「何なんだろう」と思われてしまうケースもある。そうなると、記者たちと良好な関係を築けないから、あまり記事にならなかったり、相手にしてもらえなかったりする。だから、その認識は良くないと思う。
濱口: そうですね。そういう(副次的効果を目的としてアプローチする)企業が増えてきていますね。独自にプレスリリースを発行したり、代行したりする企業も同じように、おかしな方向にいっているなと思います。
私が以前、テレビ局で動画を作っている制作会社の男性(直接雇用であるかは覚えていない)から聞いた話です。彼は、いろいろな人から「ぜひ取材してください」と声をかけられることが多いそうです。でも、彼は「本当に面白い情報であれば、こちらから探して取材に行きます」と話していました。
荒木: その通り。良くないことだけど、私もPR会社にいた頃は(会社の方針でもあったから)、テレビへ取り上げられることを目的としたPRに取り組んでいた。競合もたくさんいたから「成果報酬で、どこどこの番組に取り上げられたら200万円」ということもあった。当時の私は、それこそが広報の醍醐味だと思っていたからね。
だけどやっぱり、「#8」の回で話したように、(言い方は悪いけれど)テレビ局には番組を制作するための下請け構造がある。当然、(テレビ局は)制作会社をたくさん抱えていて、二次請け、三次請けとなるケースがある。そういう構造ゆえに、現場に資金がない場合は「捏造問題」が起こることがある。
だから、(「#8」放送回で)心理的安全性について話したように、業界の構造は現場の人たちの行動に大きな影響を及ぼす。業界の構造を分かっていると、制作会社に直接行って「テレビに出してほしい」と頼む人たちも当然いる。
そういう場合、本来はニュースリリースが基本なんだよね。
濱口: そうですね。
荒木: だから、ニュースリリース(プレスリリース)を一斉に配信する(事業者)会社が増えている。そのことによって、「プレスリリース」や「ニュースリリース」という言葉が一般的になり、広がったと思う。
私も(3年ぐらい前に、一定期間)「プレスリリース作成」の無料講座を行ったときに、濱口さんが言ったことと同様に感じたことがある。講座を受講してくれた広報担当者は、広報業務の未経験者だった。でも、広報業務を担当することになり、経営者は広報について良く分からないまま、毎月、何本もニュースリリースを出すように言ってくる状況に置かれていた。そして、「情報発信」や「ニュースリリース」という名のもとに何でも発信している。
発信する内容のほとんどが、キャンペーン情報であったり、ニュースリリースと異なる内容であったりする。私は、そういった会社が増えてきていると感じる。
私が開催していた講座に、広報担当者は迷いながらも探して勉強にくる。そして、講座を受講すると担当者は悩んでいた。「社長から違う視点でいろいろと指摘される」と現場では苦しんでいるようだった。
個人ではなく、企業自らが組織として情報を発信する力を持つことが重要
濱口: 悲しいですね。私も荒木さんの無料講座を受けさせてもらったのが、ご縁でしたね。あの講座が本当に勉強になって、今でも個人のかたや中小零細企業のかたから「プレスリリースを書いてほしい」と、依頼いただくときに、「そもそもプレスリリースとは何なのか」をお伝えします。そうすると、ものすごく納得していただきます。依頼いただくことも、うれしいのですが、私は、「自分で(自社で)書いた方がいい」と勧めています。
そうすると、「ちょっと頑張ってみます」と言って、自ら書く人もいます。
私にとっては、お金にならないことですが、やっぱり自分で書く方が定期的に発信しやすくなりますからね。それから、一企業がメディアに対して(自らの言葉で)発信する力を持てるようになっていく方が、企業のためなると思います。
荒木: 自分たちのことだから、できることなら自分たちで直接コミュニケーションを図っていった方が当然いい。でも、どうしても手が足りない場合は、外部の人間に手伝ってもらってもいいと思う。
自分たちが何を考え、何を目指し、そのためにどんなことをしているのか。どんな人たちと関わっているのか。そういったことを人に伝えるのだから、やはり自分の言葉で発信していくべきだと思う。そのためには、ニュースリリースにはニュースリリースに適した文章の書き方があり、学ぶべきことがたくさんある。例えば、言葉の使い方、漢字・ひらがなの使い分けなど。ニュースリリース作成に慣れてきたら、そうした細かいところにも、こだわった方がいい。
対マスメディアにばかりとらわれることは、悲しい。それは広報の一つではあるけれど、「一つに過ぎない」という理解が必要。
企業の規模が小さいうちは、代表者や創業メンバーなど(創業時に志高く集まってきたメンバーたち)が自分の言葉で、新しく社員になる人や顧客、パートナーに対して、「うちの会社は、こうだよ」と自社について直接的に話すことができる。でも、企業が大きくなっていく段階で、(個人ではなく)組織として、企業という一つの人格を持つ存在として「発信すべきこと」や「発信した方が良いこと」がコミュニケーションとして求められる。その段階でしっかりと、広報の役割を担うチームを社内に置いた方がいい。そうしないと、なかなか浸透しない。
濱口: 今、衰退の一途をたどっていますからね。
荒木: 長年、広報・PRの業界にいる身としては、まだ力不足だなと思うところがある。「本来の広報を当たり前にしたい」という思いで追求する姿勢は、変わらず貫きながら、その思いを発信していくところが、この『広報オタ倶楽部』だと思っている。
だから、もっともっと困っている人や悩んでいる人、「何が正しいのだろうか」と思っている人が、『広報オタ俱楽部』にたどり着いてほしい。そして、「やっぱり、そうだったのか」とか「なんだ、そうだったのか」などの気付きを得て、「企業にとっても、経営にとっても広報がすごく重要な役割を担っているんだ」と思ってくれる人が増えたらいいな。そして、そこにやりがいを感じてもらえたら、うれしい。
濱口: そうですね。草の根運動ではありますが、私がお会いする人たちに「広報で、こんな取り組みをしている人とラジオ番組をやっているんですよ」と伝えています。そうすると、「その広報の人、知っています。じんちゃん(荒木の仕事上の相棒)ですよね」と言われたんです。だから、「惜しいですね。じんちゃんと一緒に仕事をしている荒木さんとラジオ番組を持っています」と答えました。
荒木: なるほど。彼もいろいろなところで(広報について)話しているからね。
濱口: そうそう。そうですよね。
荒木: このラジオ番組は、濱口さんとの会話で「オタク」度をなるべく柔らかく、分かりやすく、親しみやすい言葉に変えながら伝えていければと思っています。
濱口: 荒木さんの話は、玄人向けですからね。玄人の中でもピンキリあるとして、その中でもピンの玄人向けの「オタク」度です。
荒木: 確かに(「#9」でも話したけれど)まだ、なかなか広報と広告の区別がつかない人がいて、その状況下でインターネットがこれだけ広がっている中では、それらの境界線は本当に曖昧になってきている。そうなると、自分たちが何をやっているのかが分からなくなる。だから、もう一度、「情報とは何か」とか「われわれは情報を扱っている」などということを整理していった方がいい。
情報を発信するためには、必ず媒体が必要(もちろん、口頭でのコミュニケーションも手段の一つにある)。「媒体が関わってくる」といった観点から、「広報」という言葉をいったん使わずに「情報」という視点で見ていくと、案外、自分たちが何をやっているのかが分かってくると思う。このことについては、また別の機会に詳しく話していこう。
濱口: 面白そう。
荒木: というところで、そろそろ放送終了の時間かな。
濱口: 毎回、あっという間ですね。
荒木: あっという間だね。20分でコンパクトにまとまる雑談ネタがいいけれど・・・、探すのが大変かもしれない。
濱口: ない、ない、ないです。
荒木: 最近の放送は必ず「じゃあ、この内容はまた次回に」となってしまうからね。
濱口: 荒木さんは、どんな話をしてもめちゃくちゃ掘り下げていくので、1回では終わらないんですよ。
荒木: 終わらないね・・・。また来週も頑張って別のネタを考えよう。そして、(そのネタを)コンパクトにまとめる努力をしながらお伝えしていきます。
濱口: どんどん課題が見つかっていきますね。すごいです。
荒木: そうですね。
それでは、『広報オタ俱楽部』MCは荒木洋二でした。
濱口: サブMCは、濱口ちあきでした。
荒木: 次回から、これ(名前)を最初に言いましょう。
濱口: そうですね。それが、われわれの次の課題ですね。
荒木: はい・・・。今ごろ気が付きましたね。
今週もありがとうございます。じゃあ、皆さんいってらっしゃい。
濱口: いってらっしゃい。