【ポッドキャスト #30】事実が重要! ファクトチェックって何? どうやって見極めるのか?
参議院選挙が佳境を迎えています。
マスメディアやSNSで発信される数多の情報。これらが投票行動に与える影響は小さくありません。
「ネットは陰謀論」「マスゴミ」とお互いに揶揄してみても生産的ではありません。
何よりも自分自身が「事実=ファクト」とは何かを問う姿勢を持つことが大切です。
フェイクニュースに振り回されてしまう可能性が自分自身の中にもある
その弱さや危うさを秘めていることを自覚する
荒木洋二: 皆さん、おはようございます。
濱口ちあき: おはようございまーす。
荒木: 7月17日木曜日、『広報オタ倶楽部』を今日も元気に始めて行きたいと思います。ちょっと、どもりましたね。
濱口: いいですね。「ちゃんと毎回収録してるんだぞ」というのが伝わります。
荒木: そうですね。『広報オタ倶楽部』は、本来の広報、企業広報のあり方を広めるべく、28年以上にわたって企業広報活動を支援してきた、わたくし荒木洋二によるオタク目線で語る広報の哲学ラジオです。
聞き手は・・・
濱口: 「まな弟子」の濱口ちあきでございます。
荒木: はい、ありがとうございます。相変わらず暑いですね。
濱口: 暑いですね。
荒木: 東京も暑いですよ。
濱口: 東京とかそっちの方が暑いんじゃないですか。
荒木: そうですね。たまに涼しいというか、温度が下がる時はあります。ただ、蒸し暑いですよね。
濱口: 蒸し暑いですよね。
荒木: それが嫌ですね。
濱口: この前びっくりしたのが、『広報オタ倶楽部』を編集しているリクライブさんは、帯広の会社じゃないですか。ニュースで帯広も37度の予報が出ていて。
荒木: それはすごい、いや怖いですね。
濱口: リクライブの皆さん溶けているんじゃないか・・・。
荒木: かもしれないね、慣れずに。
暑いと言えばですね、ちょうど今大詰めで参議院選がありますね、7月20日ですか。今日が17日木曜日だから、あと実質3日間ですね。3日間の戦いとなるので、どうなるのか。与党が過半数割れするんじゃないか、という話もあるぐらいだから注目浴びている。
ということで、たまには時事ネタを絡めてといきましょう。今までも、フジテレビ問題とかやってきました。きょうは「ファクトって何だろう」「事実って何なんだろう」ということについて、参院選を絡めて考えていきたいと思っています。
濱口: 大変渋いテーマですね。「事実ってそもそもなんだ」ということですね。
荒木: ちょうど今、自分自身が理事長を務めている、リスクマネジメントの専門人材を育成するNPO法人がある。名前が長くて、日本リスクマネージャー&コンサルタント協会といいます。略称RMCA。その副理事長の石川慶子さんが、われわれと同じ広報の世界で長くやっている。彼女は、RMCAの公式Youtubeチャンネルの中で、「リスクマネジメントジャーナル」という番組をかなり前からやっています。
7月の初めに僕も出演している回がある。同番組は石川さんが頑張ってやっているので、かなり長くて・・・、ちょうど第400回です。
濱口: それはすごいですね。
日本新聞協会の「インターネットと選挙報道をめぐる声明」
荒木: 一応、6〜7年ぐらいやっていて、2万5800人の登録者がいるから、真面目なチャンネルとして、まあまあ頑張っている番組なんですよ。そのRMCAの番組に、時折私がゲストで入って、副理事長(石川)と理事長(荒木)でいろいろな話について語っている。その回では「ファクトチェックをどこまでできるのか」をテーマにして収録しました。
それは選挙に絡んだ話だった。今はちょうど(参院選の)最後、佳境に入っているので、真面目に「ファクトチェック」について考えてみたいなと思いまして。きょうは、少し堅いテーマにしました。
一般社団法人日本新聞協会という団体が昔からあります。ほぼ全ての新聞社がそこに入っている。同協会が今年の6月12日にある声明を出したんですよ。「インターネットと選挙報道をめぐる声明」というものです。
この声明でファクトチェックについて書かれているので、少し長いんですが、読んでみますね。
「インターネットは、誰もが自由かつ容易に情報を発信できる手段であり、公共的な議論や真摯な意見表明に利用されている。インターネット選挙運動を解禁した2013年の公職選挙法改正は、インターネットを通じて国民の政治参加の機会が広がることを期待するものだった。
だが、近年のインターネット空間では、偽情報や真偽不明の情報、暴力的な情報も流通し、生成AIによって情報を作成すること自体が一層容易になっている。さらに、いわゆる「アテンションエコノミー」のもとで刺激的な情報が拡散されやすくなっており、不正確な情報によって選挙結果が左右されることが社会的に懸念される事態となっている。
本来、こうした事態への対応は、情報が流通するプラットフォームの運営事業者が主体的に取り組むべき課題だが、十分なされるとは言い難い。
選挙は民主主義の根幹である。不正確な情報が選挙結果に強く影響することは、民主主義の自壊を招きかねない事態であり、当協会はこれを深く憂慮する。一方で、新聞、通信、放送といったメディアの報道について、選挙の公正を過度に意識しているとの批判がある。
そこで当協会は、選挙報道に関して加盟各社が留意すべき原則を記した公職選挙法第148条に関する統一見解の内容を改めて確認した。統一見解は、選挙に関する報道、評論の自由を、公選法が大幅に認めていることや、虚偽や事実を曲げたものでない限り、結果として特定の政党、候補者に利益をもたらしたとしても問題はないことを、判例等を含めて明らかにしている」。
荒木 : さらに読み進めます。
「1966年に公表したこの見解について、当協会加盟各社は、2025年の今日においても堅持すべすべきものであるとの認識を改めて共有した。放送についても、同法151条の3において同様の趣旨が規定されており、これらのルールは現在も変わっていない。
事実に密着した報道により民主主義の維持発展に貢献することは報道機関の責務である。当協会の加盟各社は、統一見解を念頭に、インターネットを取り巻く現状を踏まえて、選挙報道のあり方を足元から見直し、国際的なファクトチェックの手法なども参照しながら、有権者の判断に資する確かな情報を提供する報道を積極的に展開していくことを確認する」。
要は、今まで選挙の時に割と報道を控えるというか、積極的ではなかった。しかしながら、兵庫県知事選に絡む問題で、亡くなったかたも出ていますよね。
それで、その時に、いわゆるデマみたいな情報も飛び交っていた。SNSで、真偽が定かでない情報が飛び交って、いろいろな影響があったのではないかということなんです。その現象を日本新聞協会としては危惧している。
なので、もっときちんとファクトチェックをしようではないか、というのが彼らの趣旨ですね。
実際、1週間前ぐらいの(読売新聞か朝日新聞かどちらかの)1面のトップ記事で、スマホでYoutubeなどを見ていると、自分が検索した、視聴したものを(分析して)レコメンド(推薦)してくれる。
そうすると、そのスマホ画面の情報が全てであるし、それが正である、事実であると思いがち。なので、あくまでもシステムがその人の性格や視聴傾向を分析して、「これだったらもっと見るかな」と思ってレコメンドしてくるからこそ、同じようなものが並ぶ。そういうこともあまり意識しないで使っていると、自分が画面で見ている情報が全てだと思ってしまいやすいということ。
誤報は人生を狂わすし、命を奪うこともある
荒木: 「何がファクトなんだろう、確かな情報ってなんなんだろう」ということを、きちんと考えないと怖いよね。一概にネットの話を陰謀論と片付けるのもまた、極端ではある。マスコミのことを「マスゴミ」というのもまた極端ではある。
ちゃんと「ファクト」を見極める目をわれわれが持たないと、今後大変だよね、ということを感じている。
この報道に先駆けて読売新聞はプレスリリースを出している。読売新聞は、読売新聞単体だと難しいので、読売新聞と佐賀新聞、時事通信社、日本テレビ放送の4社が協力して、SNSなどのインターネット上に流れている選挙に関する情報を対象に、共同でファクトチェックを実施する、としている。それを東京の都議選から始める。
そのことを6月4日に読売新聞が発表しているぐらいなので。選挙で真偽が定かではない情報を信じて投票してしまう、あとは投票しないという決定をすることは、良くないことなので、この「ファクト」ということは大事だなと思います。
濱口: そうですね、事実とは何かはすごい難しい・・・。
荒木: うん、難しい。
濱口: ですよね。
荒木: 切り取られると誤った解釈になるケースがありますよね。例えば、これも2週間ぐらい前かな。石破さんが討論番組で、コマーシャル中に司会者の女性のアナウンサーを、「なめるな」といって恫喝した、という話がSNSで出回ったそうなんですよ。
でもそれをきちんとチェックしてみると、ずっとそのコマーシャルの時間も録画して流れていた。全然別の文脈で、「なめないでほしい」と言ったことを、それを女性MCに対して言った言葉だということを(誰かが)発信して、それが相当広がったそうなんですよ。でもそれは事実じゃないということが分かった。
きちんと事実を見極める目というのを、われわれにも問われているなと思いますね。
濱口: そうですよね。だから、事実を報道するのは本来メディアの役割であったと思うのですけれど、今はもうインターネットが普及し始めて、われわれ個人も発信できるようになった。今はもうメディアだけではなくて、国民全員が「事実とは何か」というのを見極める目を持っていかないと、本当に情報に踊らされると思います。
荒木: そうだね。新聞を含めたマスメディアが本来やるべき事実確認をして、根拠をきちんと示して、それを本当に確かなものなのかということを確認した上で、報道しないといけない。
誤報は人の人生を狂わすし、命を奪うことも当然ある。今までもあったので、とても重要じゃないですか。しかしながら今は、そのような基準は課せられないままに、Youtubeであったり、SNSで安易に情報が発信されるので、それを信じてしまうと怖いのかなと思う。
濱口: そうですね。それで私、昔に鹿児島の高校の先輩が選挙に出た時に、事実と違う報道をされて、選挙に出れないどころが、逮捕されてしまった人がいるんですよ。
荒木: なるほど。
濱口: それで、よくよく調べていったら、それは事実ではなかった。
その選挙に出た先輩は無実だった。その事実はあるんですけど、結局報道も小さくしかされなかったですね。「事実はこうだったんですよ」というのを他の人に伝えたとしても、最初の虚偽の報道を信じてしまって、国民の中ではそれが「事実」になってしまっている。
現実にあったことと、人それぞれの中の事実が、極端に変わってしまっていて、本当にそれは恐ろしいなと思いました。
報道の本来の役割と使命
ある事実を恣意的に「報道しない」という偏向報道
荒木: それは気を付けなければいけないなと思う。
だから、今回の日本新聞協会の発表で私が思ったことは2点ある。真逆とも言えるんだけど、1点目は「そうだよ」ということ。
「マスゴミ」などと言われてて、そこに甘んじていてはいけない。甘んじていないかもしれないけれど、きちんとファクトチェックをすることが、報道機関が得意とするところだし1番のミッションなわけです。一次情報に当たって、(情報が)確かかどうか、(自分の)目、耳、足で稼いで、きちんと確認していく。それができるのがマスメディアであり、それがミッションであり、報道とジャーナリストの使命だと思う。
ようやく本来の使命に目覚めて、ぜひこの少しねじ曲がった言論空間になりつつあるネット上に、きちんとした情報が流通するようにしてほしいという期待感が1つ。
もう1点は、「あなたたちも偏向報道しているよね、よく言うわ」ということ。恣意的に報道しないという形での情報操作もある。
本来は、市井の人たちの声なき声を拾ってくるとか、そうやって「本当はこんな苦しんでる人がいるんだ」という事実を伝える。いろいろな役割が当然報道にもあるんだけれども、「自分たちも都合の悪い事実を隠すよね」とも思う。
濱口: それは私もどっちも思いますね。
荒木: だから、「やっとか」というのと、でも自分たちも襟を正さないとも思う。
知っているのに、事実を伝えた方がいいのに、報道しないという選択をしていることもあるから、それはどうなんだろうか。
逆にそれを、インターネット上で、例えば被害に遭ったその本人が発信することで、事実が裏付けられて、初めて報道が動くという場合もあると思う。
だから、そういう意味では、「いや、それはマスメディアさん、あなたたちもしっかりやりましょうね」「報道しないという選択は、やめましょうね」と言いたい。
「事実ではないから報道しない」ではなくて、「都合が悪いから報道しない」。それをやっちゃうと、「マスゴミ」と言われてしまう。だから、両方の気持ちがある。選挙を前にして、今後選挙は何度でも来るので、われわれ自身がどうやって情報の確かさ、確からしさを確保できるのかということを、自分の中で考えていく必要がある。
情報の確かさや確からしさを確保するために、生活者は「4つの情報源」を組み合わせているという話があって、その話はラジオではしたかな。
濱口: まだここでは言っていない気がします。
われわれ一人一人に問われるメディアリテラシーと情報リテラシー
荒木: 来週、別のテーマにしようと思っていたのだけど、今週の流れも含めて少し考えて、そちらの話をしてもいいかなと、今思いました。今それを話し始めると1時間もかかっちゃうので。
それは、2017年の「生活者のメディアに対する向き合い方の調査結果」を分析した内容があった。その分析内容は、このスタンスや感覚は皆さんは今も持ち続けているだろうな」と思っていて、印象に残っている。
その調査結果から分析された「4つの情報源」というものは、僕は自分の本にも書いたし、大変適切な分析だと思う。自分自身もその「4つの情報源」を見ながら多分判断してるんだろうなとも思う。別のテーマを考えてはいるんですけれど、少し考えた上でこの話をしていくかもしれません。
よく「メディアリテラシー」、あるいは「情報リテラシー」と言われるように、われわれ自身がきちんと見て、確かめて、きちんと聞いて、確かめて、事実かどうかを判断していく。その事実に自分の解釈を交えて発信していくことや、そういう癖、そういう感覚を身に付けていかないと、知らない間によくない情報を拡散していた、ということもあり得る。
安易にシェアとかをしてしまうこともよくないので、考えていくべき問題だなと思いますね。
濱口: すごく難しいですね。
荒木: 事実があったとしても、そこに至る背景とか解釈もある、いろいろなものがある。だから、それを分析するのも結構大変なことです。調査結果の数字が出たとしても、それが何を意味するかは、さらに深く突っ込んで、他のデータと比較などをしないと分からないこともあったりする。
だから、自分も油断していると、フェイクニュース、真偽が定かではない情報に振り回されてしまう可能性が自分自身の中にもある。その弱さや危うさを自分も秘めている。そのことを自覚した上で、情報と向き合っていくようにしないと、無意識の思い込み、最近流行りのアンコンシャス・バイアスで、なんとなく信じて、検証もしない。いろいろな場面でそんなことが起こりがち。
全部毎回やっていたら大変なのだけれど、自分自身もそういう危うさを秘めているんだ、脆さや弱さがあるんだということは自覚しながら、日々情報と接していきたい、ということですね。
濱口: うーん、いや、本当にそうですよね。
荒木: それを大切にしていければな、ということです。20分は早いですね。
濱口: いやいや、いつものことですよね。私、覚えていますよ。ちょうど1年前に荒木さんと食事に行った時に、荒木さんがもう3〜4時間ぐらいずっと止まらず・・・。
荒木: (あの時は話をしっかりと聞いてくれて)ありがとうございます。
濱口: そんな20分で収まるような人じゃないですからね。
荒木: ということで、今回は、マスメディアがファクトチェックを始めた、その機会にわれわれも「ファクトとはなんだろう」ということを考えてみませんか、というテーマでした。
濱口: そうですね。報道も誰かの主観が入っている可能性があるということですね。
荒木: あります。多いにありますからね。ということで、皆さん、投票することも自分の大事な生活者、国民としての権利ですからね。
ぜひ権利を行使できるように、参院選はもう4日も経てば結果が出ていると思うのですが、皆さん、私も含めてきちんと考えてから投票に行きたいなと思っています。
濱口: 清き一票をよろしくお願いします。
荒木: お願いいたします。では皆さん、今週も残りあとわずかですが、頑張って仕事に励んでください。いってらっしゃい。
濱口: いってらっしゃい。
荒木: ありがとうございます。

