第19回 ニュースルームとオウンドメディア(5)

こんにちは、荒木洋二です。
大企業が展開する広報は、ニュースルーム、オウンドメディア、SNSが主流の手段として定着しつつある、と筆者は見ています。これらをいかに組み合わせて情報を発信するのか、日夜試行錯誤しているようです。「情報」を扱っているという点で、前述の三つは共通しています。
「ニュースルームとオウンドメディア」と題した連載をお届けしています。
前回は、「デジタル広報」の概念やその始まり、経緯について簡潔に解説しました。ニュースリリースとは、第一義的には企業の社会的責任であることは案外見落とされがちです。情報開示と説明責任がその一丁目一番地です。
◆「デジタル広報」の文脈で登場したニュースルーム
情報開示とは、常に誠実に何事も隠さずに公表することを意味します。説明責任とは分かりやすく丁寧に説明することです。別の言い方をすると、「透明性」といいます。
広報の基本は等身大、「ありのままの姿」を伝えることです。この姿勢がなければ、企業はステークホルダーと信頼関係を築くことはできません。
ステークホルダーとは、利害関係者と訳され、社員、顧客、取引先・パートナー、社会などの総称です。それぞれの個人・集団は、価値の創造や継続には欠かせない存在です。
ステークホルダーとのコミュニケーションなくして、経営は成り立ちません。ステークホルダーとの信頼関係が、経営における基礎体力だといえます。この基礎体力づくりが広報の重要な役割です。大企業は紙媒体の時代、社員、顧客、株主など、各ステークホルダー向けに広報媒体を発行し、コミュニケーションしてきたのです。
ニュースルームの本来の役割は、それぞれのステークホルダーと長く関わり続ける姿を共有する、「ストック型メディア」(蓄える場所)です。企業サイト(ホームページ)と並列する形で、デジタル広報文脈で登場したのが、ニュースルームです。広報総合ウェブサイトともいえるでしょう。そして、企業における情報発信の本拠地なのです。
◆先進企業が展開するニュースルーム
ニュースルームは、10年以上前に米国で誕生したといわれています。当初、ブランド(商品・サービス群)ルームと呼ばれたものが企業全体の情報を発信するニュースルームへと変化を遂げたといいます。GAFAを始めとする大企業がウェブサイトのディレクトリーを「newsroom」としたことに端を発しているようです。
この潮流が日本に輸入されたのが、2018年頃だと思います。日本で先陣を切ったのがトヨタ自動車です。トヨタはグローバルニュースルームと銘打ち、展開しています。有名な『トヨタイムズ』もニュースルーム内のコンテンツとして位置付けられています。筆者が同ニュースルームを初めて訪れたのが2019年でした。
自動車業界は、右ならえと言わんばかりに日産自動車、本田技研工業、マツダと相次ぎニュースルームを開設したのです。他業界でもパナソニックホールディングス、大和ハウス工業、JTB、りそなホールディングスなど、企業サイト内に設けました。米国同様にウェブサイトのディレクトリーを「newsroom」としています。
大企業は従来の「ニュースリリース」のカテゴリーを「ニュースルーム」に変えました。しかも単なる公式発表資料だけではなく、従来の社内報や広報誌の内容と重なるものもあり、多岐にわたる傾向が顕著です。
◆全ての広報媒体を集約させるニュースルーム
社内報、広報誌など広報媒体のデジタル化は、全てニュースルームに集約させることが本流になるだろう。筆者はそう予測しています。そうなることがデジタル広報の進む道だ、と確信めいた気持ちがあります。
同時にそうでなければ、「広報」が社会の中で埋もれてしまう、という強烈な危機感も持ち合わせています。予言とかではなく、筆者の体験から強くそう思っているのです。
筆者は1997年、PR会社への入社を機に広報PRの世界へと足を踏み入れました。今年(2025)4月で広報PR歴28年。PR会社を起業したのが2006年。
起業後、クライアントは、広報部門がない、広報機能が経営に組み込まれていない中小・中堅企業、スタートアアップばかりでした。これら企業の経営者に広報の重要性を説き、その上で広報部門を担うことが主業務だったのです。
当初、プレスリリースなど報道関係者とのコミュニケーション、情報発信だけが業務でした。一般的なPR会社と何ら変わりませんでした。5年、10年と経過し、クライアントの潜在的な要望に応えるなかで、本来の広報業務全般を担うように変化します。その文脈でたどり着いたのが、ニュースルームだったのです。
