第20回 ニュースルームとオウンドメディア(6)

こんにちは、荒木洋二です。

大企業が展開する広報は、ニュースルーム、オウンドメディア、SNSが主流の手段として定着しつつある、と筆者は見ています。これらをいかに組み合わせて情報を発信するのか、日夜試行錯誤しているようです。「情報」を扱っているという点で、前述の三つは共通しています。

「ニュースルームとオウンドメディア」と題した連載をお届けしています。

デジタル広報の文脈で近年台頭したのが、ニュースルームであることは前回述べたとおりです。プレスリリース、社内報、広報誌など企業が発行する広報系の媒体は、全てニュースルームに集約されるでしょう。
これは筆者の実践経験から得た感触であり、確信でもあります。机上の空論ではなく、現場からたどり着いたことなのです。

◆中小・中堅企業、スタートアップの現場と世界の潮流が合致

前回の終盤から筆者の体験をつづっています。もう少し続けさせてください。
2017年、東証一部上場企業(当時)から出資も受けていたスタートアップ企業が当社のクライアントでした。同社の広報業務を一手に引き受ける中で、デジタル化の課題が浮き上がりました。
プレスリリースだけでなく、ステークホルダー全般向けの広報媒体を企画し、作成していました。

内容は
・社長インタビュー
・海外出張先での現地レポート
・提携した米国企業のボードメンバーたちとの対談
・顧客体験談(生の声)
・株主インタビュー

これらを紙媒体(A4用紙両面印刷・2ページ)で発行していたのです。ステークホルダーにも配布していました。

当社は、デジタル広報を推進する立場にもあったので、当然のように、紙媒体のコンテンツを同社ウェブサイトへの掲載を進めようとしました。すると、サイトの更新を外部に委託していたため、時間も費用も掛かるとの理由で思うように進みませんでした。自家撞着に陥っていたのです。
そこで広報専用ウェブサイトの開設と運用を、当社が全て受託する方向に活路を見いだしたのです。このサイトを当時「プレスルーム・オンライン」と名付けました。

この専用サイトを普遍化したい、との思いに駆られ行動を起こした時、「ニュースルーム」という名称とその存在を知ったのです。現場でもがいてきた先に導き出した解答が世界の潮流と合致した、と腹落ちしたことを鮮明に記憶しています。

◆中小・中堅企業、スタートアップこそニュースルーム

日本の企業社会では、残念ながら、「広報は大企業がやること」と考えているビジネスパーソンがほとんどです。そう思っている経営者も少なくありません。しかも「広報=パブリシティ(ニュースなどの報道)」という認識がほぼ定着しています。
ですから、中小・中堅企業で広報に取り組む企業はごくわずかでした。実務スキルを備えた人材がいないばかりか、そもそも広報視点での情報発信など、考えることすらほとんどなかったのが実情です。ニュースリリースが広がりを見せてはいますが、明らかに目的を履き違えています。情報発信の領域は混迷を増すばかりです。

他方、本質を捉えた経営者がいざ広報に取り組もうとしても、先述したとおり、紙媒体による広報では障壁が高過ぎます。始める前に諦めるか、途中で挫折してしまうのが落ちでした。そんな経営者にとって、デジタル化は福音以外の何ものでもありません。
大企業であれば、社員向けにはウェブ社内報、顧客向けにはオウンドメディア、複数の公式SNSと多数のデジタルメディアを運用することができます。ただ、大企業以外にとっては極めて困難なことです。だからこそ、ニュースルームに全ての広報コンテンツを集約させるのです。それが最善、最適の道です。

◆オウンドメディアとニュースルーム

ここからニュースルームとオウンドメディアの役割と関係性について、整理します。大企業であっても両者に対する理解はあいまいで定まっていません。ただ、今まで述べたとおり、オウンドメディアの方が先行して、企業社会に浸透していました。
オウンドメディアの変遷や現状、その未来まで網羅した良書が2023年2月に出版された『ステークホルダーを巻き込みファンをつくる! オウンドメディア進化論』(平山高俊著、宣伝会議刊)です。著者の平山氏は、キリンホールディングスのコーポレート・コミュニケーション部に所属しています。

筆者は同書を読み進めていくうちに実感したことがあります。マーケティングと広報PRの垣根が崩れ、融合し始めている、ということです。いや、もっと正確にいえば、大多数の人がその変化を捉えられず、混乱しているのかもしれません。
平山氏がキリンに入社した2018年、キリンではオウンドメディアの運営はデジタルマーケティングの管轄でした。それがオウンドメディアの変容とともに、コーポレート・コミュニケーションへと移ったのです。

次回も平山氏の著書に触れながら、ニュースルームとオウンドメディアの役割と関係性を整理します。

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