第22回 ニュースルームとオウンドメディア(8)

こんにちは、荒木洋二です。

大企業が展開する広報は、ニュースルーム、オウンドメディア、SNSが主流の手段として定着しつつある、と筆者は見ています。これらをいかに組み合わせて情報を発信するのか、日夜試行錯誤しているようです。「情報」を扱っているという点で、前述の三つは共通しています。

「ニュースルームとオウンドメディア」と題した連載をお届けしています。

前回は、『ステークホルダーを巻き込みファンをつくる! オウンドメディア進化論』(平山高俊著、宣伝会議刊)を参照し、オウンドメディアとは何かを深掘りしました。今回も同様に参照しつつも、ウェブ上の広報、つまりデジタル広報の実態を筆者ならではの視点から分析しています。

◆自社の魅力を「蓄える」場所としてのニュースルーム

ニュースルームはストック型メディアです。対してSNS(ソーシャルメディア)はフロー型メディアです。
ストック型とフロー型の分類に関しては、拙著『図解入門ビジネス 最新 ブランディングの基本と動向がよ~くわかる本』(秀和システム、2024年9月刊)で詳説しています(P213〜215)。平山氏はストック型を「貯める」場所、フロー型を「流れる」場所と表現しています。
筆者は、「蓄える」場所と表現しています。

ニュースルームやオウンドメディアは、先進的なBtoCの大企業が熱心に取り組んでいます。ただ、大企業自体でもその運用はさまざまです。手探り状態でまだ定まっていません。ニュースルームもオウンドメディアも、いずれも「蓄える」場所です。整理すると、次の3系統に分けられます。

・企業ウェブサイト内ニュースルーム
・企業ウェブサイト内ニュースルーム + オウンドメディア併設
・企業ウェブサイト + オウンドメディア併設

中にはオウンドメディアを複数展開している企業もあります。コンテンツ量もかなりなもので、ここに公式SNSの開設・運用も加わります。ここまで大掛かりになると、大企業以外では到底取り組めません。

◆BtoCの大企業特有の現象

先述したとおり、オウンドメディア内のコンテンツをよくよく確認してみると、今まで広報部門が紙媒体で発信してきた内容と重なることが分かります。
デジタルマーケティング文脈で登場したオウンドメディアだったにも関わらず、なぜデジタル広報文脈と重なることになったのか。筆者の分析では、BtoCの大企業に特有の現象といえます。

これら大企業、特に価格帯が高額ではない食品・飲料などの日用品メーカーは、膨大な人数の顧客(≒消費者)がいます。特有の環境として、競合他社との厳しい競争環境、ならびに顧客との距離・関係が挙げられます。
機能面でも価格面でも競争が激しいことがよく知られています。一度、あるいは数度購入したとしても、いとも簡単に他社へとスイッチされてしまう、ということが起こっています。顧客とのつながりが希薄というケースも少なくありません。
どうやってコミュニケーションを継続させ、その心理的距離を縮め、関係を深めることができるのか。各社とも苦心しています。ただ商品を買うだけの関係ではなく、自社のファンになってほしいと強く願っています。実状として、一般消費者と顧客の境界線は極めてあいまいなのです。

◆顧客との関係を深めるためのオウンドメディア

ですから、商品を介したつながりではなく、企業の経営者、社員、取引先・パートナーなど、人格を持った存在としての、企業そのものとつながる関係をどうしても築きたいのです。今や機能面で差別化は難しく、情緒面、感情面で差別化するしかない時代を迎えているからです。

ですから、BtoC事業を営む先進的な大企業は、いずれも心理面、思い、感情でのつながり、コミュニケーションを強化しているのです。顧客との関係をもっと深めたいのです。企業の理念やビジョンに共感する次元まで、関係を高めたいのです。
さまざまな価値観やライフスタイルを持つ顧客との接点を増やすため、コミュニケーションを深めるために多岐にわたるメディアを自社で運営しているわけです。

SNS、スマートフォンなどの情報端末の普及により、マーケティングと広報PRの垣根が崩れ始めています。企業が発信する情報には、機能的側面の情報と情緒(感情)的な側面の情報があります。従来、マーケティング領域の情報は機能が中心でした。対して広報PR領域は情緒・感情が中心です。このコンテンツ面においても、両者は融合し始めているのです。

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