第27回 「蓄える」場と「流す」場(1)

こんにちは、荒木洋二です。
インターネットの普及、それに伴う多様なコミュニケーション手段の出現により、広報領域におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進展を続けています。大企業においてはニュースルーム、オウンドメディア、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という三つのデジタルメディアをどう組み合わせるか、各社が苦心しています。
◆「蓄える」場としてのニュースルーム
前回まで12回にわたり、ニュースルームとオウンドメディアの違いや役割に関して、独自の視点を交えて解説しました。ただし、中小・中堅企業、スタートアップにおいては、必ずしもオウンドメディアは必要ではありません。無用なメディアを増やすことは、時に組織としてのコミュニケーションに混乱を来します。
ゆえにニュースルームに集約すべきと述べたのです。オウンドメディアは、デジタルマーケティングの文脈で登場しているため、本来的な意味合いからも適していません。単なる表現の問題であって細かく目くじらを立てなくても、という声が聞こえてくる気がします。しかし、専門家としては必要な分類だと捉えています。
ニュースルームがDXを牽引する最も重要な役割の一つを担います。ニュースルームには、数々のエモーショナルなエピソードを蓄え続けることができます。しかし、決して万能ではありません。「蓄える」場としてのニュースルームには、その最適な組み合わせとして「流す」場が欠かせません。
今回から始まる新たな連載のテーマは、「蓄える」場と「流す」場です。数回にわたり、連載します。ここで改めて整理します。
何を蓄え、流すのかといえば、それは「情報」です。その主体は、もちろん企業であり、あらゆる組織体です。主に扱う情報は、自社の魅力です。つまり企業・組織自らが自社の魅力(情報)を「蓄える」場がニュースルームです。
◆SNSはマーケティングの一環なのか?
まず、「流す」場を持つことの大切さを考察していきます。結論から述べると、「流す」場とはSNSのことです。
現在の企業環境では、SNSは本質を誤解されたまま扱われている、と筆者は捉えています。その傾向は、特に中小・中堅企業やスタートアップの周辺環境で顕著です。近年、SNS運用代行会社が急増しています。学生起業家や若い世代がその中心を担っている、というのが筆者の肌感覚です。
それら運用代行会社による営業の殺し文句(=キラーワード)が「バズらせる」です。
ここ1年くらいでは、少々勢いが落ちてきたと感じる場面にも出くわします。が、総じてまだまだ健在といえるでしょう。このワードに心が動かされる経営者やマーケティング担当者は相当数いるでしょう。
何のために「バズらせる」ことを望んでいるのか。客が増える、売り上げが伸びる、採用が成功する、会社が有名になる、などさまざまです。ここまで見てきて明らかなことは、SNSはマーケティングの一環として位置付けられている、ということです。これが主流であることは間違いがないでしょう。
◆SNSとの向き合い方を見つめ直す
このようなマーケティングの現場に流れる「空気感」を筆者なりに表現してみます。奇跡、魔法の杖、瞬発力、瞬間風速、爆発などが挙げられます。しかし、そんな都合のいいことが起こるはずがありません。
冷静になって、自分自身や身近な人たちの行動を観察してみてください。結局、短期、一過性、刹那、見せかけに行き着くことは自明の理です。
目新しいSNSのサービスが米国から矢継ぎ早に輸入されます。それらはいずれも圧倒的な資本力に裏打ちされたマーケティング戦略が功を奏して、あっという間に日本市場を席巻します。市場の浸透具合に商機を見いだし、先述した運用代行会社などが急増するというわけです。
キラーワードに魅せられて、いや、というよりもむしろ事業者に焦りや不安を見透かされて飛びついていませんか。その前に立ち止まることが決定的に重要です。SNSとはそもそも何のか、という本質を見極める必要があります。
