第29回 「蓄える」場と「流す」場(3)

こんにちは、荒木洋二です。
インターネットの普及、それに伴う多様なコミュニケーション手段の出現により、広報領域におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進展を続けています。大企業においてはニュースルーム、オウンドメディア、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という三つのデジタルメディアをどう組み合わせるか、各社が苦心しています。
2週前から新しいテーマで連載を始めています。そのテーマは、「『蓄える』場と『流す』場」。今回が第3回です。企業が自社の魅力(情報)を「蓄える」場をニュースルームといいます。その最適な組み合わせとしての「流す」場がSNSなのです。
前回は、そもそもSNSとは何なのかを5つの特徴を挙げて、解説しました。そのうえで中小・中堅企業、スタートアップが直面する課題について明らかにしたのです。
SNSの誤用は、ときに経営危機を引き起こすこともあります。その根本理由の一つが、経営者がSNSの本質的意義を忘れている、あるいは意識できていないことにあります。
◆SNSを情報戦略の一環として位置付ける
前回挙げた5つの特徴は表面的・技術的な事柄でした。もう一歩踏み込んで、本質まで掘り下げることで、見えてくることがあります。SNSで扱っているのは「情報」です。企業は「情報発信」の一環としてSNSを運用しています。
もちろんSNSは発信だけでなく、双方向で相手とコミュニケーションできることが特徴です。前回述べたとおりです。そのことを踏まえた上で「情報発信」を掘り下げていきます。
情報発信は次の4つの要素で構成されています。
・目的:何のために発信するのか
・対象:誰に発信するのか
・内容:何を発信するのか
・手段:どうやって発信するのか
経営者はこのことに目を向けるべきです。SNSの運用方法は、情報戦略の一環として位置付けるべきものです。慌てて焦って、やみくもに情報を発信して、有益な成果が生まれるはずがありません。まず、情報戦略の設計図を描くことが大切です。
米国からの影響により、企業現場では外来語(筆者は「カタカナ・ビジネス用語」と名付けています)があふれています。マーケティング、ブランディングはその最たるものです。典型例といえます。何となく日常会話で発している企業人は少なくありません。
◆SNSの運用を事業者に丸投げする経営者の意識とは
次から次へと輸入されるサービスの総称も(カタカナ・ビジネス用語として)あっという間に企業社会に広がります。例えば、ウェブサイト、ブログ、メールマガジン、SNS、LP(ランディングページ)、オウンドメディアがそれに当たります。
それぞれが、日本市場に「輸入」されるまでの背景があります。特徴にもそれぞれ違いがあります。経営者や社内で情報発信に携わる者たちは、そのことを理解する必要があります。
結論から伝えます。SNSは情報発信の「手段」です。双方向性があるので、コミュニケーションの手段ともいえます。近年、最も注目を浴びている手段の一つであることは間違いがありません。しかし、特徴を理解しないまま、誤った使い方をすると、経営に不具合が生じます。
特に中小・中堅企業、スタートアップの場合、どうしても知識、人材、資金などが不足しています。そのため、SNSの運用を事業者に委託する企業が大半でしょう。しかも極めて無責任なことに事業者に丸投げしてしまいます。
丸投げする場合、経営者の意識の中では次のような思いが横たわっていることが予想されます。
・よく分からない
・でも流行に乗り遅れたくない
・現状を一変してくれる「魔法の杖」かもしれない
・売り上げが急増、採用も順調になるかもしれない
・成果が出なければ、担当者や事業者の責任だ
・何か他に新しい「魔法の杖」があるかもしれない
◆経営者は情報戦略を設計せよ
戦略が欠落した情報発信が成果を生めるはずがありません。根底には無責任ともいえる意識、思い込みも持ち合わせています。これでは話になりません。経営者は情報戦略を設計することから目を背けてはなりません。
すでに気付いた読者もいると思います。ニュースルームもオウンドメディアも情報発信の手段に過ぎません。Youtubeなどの動画サービスも同様に手段の一つです。手段ありきの運用からは成果が生まれません。
「目的・対象・内容・手段」の4要素をどう構成するのか。情報戦略を設計することが経営者に求められています。
