第31回 「蓄える」場と「流す」場(5)

こんにちは、荒木洋二です。

インターネットの普及、それに伴う多様なコミュニケーション手段の出現により、広報領域におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進展を続けています。大企業においてはニュースルーム、オウンドメディア、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という三つのデジタルメディアをどう組み合わせるか、各社が苦心しています。

企業が自社の魅力(情報)を「蓄える」場をニュースルームといいます。その最適な組み合わせとしての「流す」場がSNSなのです。今回は、「『蓄える』場と『流す』場」と題した連載の第5回です。

前回は、経営者が情報戦略を描くことがどれほど重要なのかを示しました。情報発信は、目的・対象・内容・手段の4つの要素で構成されています。戦略を設計するために、最も重要なことは「目的」を明らかにすることです。前回述べたとおり、その目的は以下の3段階に分けられます。

・第1段階:知らせるため
・第2段階:選ばれるため
・第3段階:選ばれ続けるため

◆ステークホルダーと向き合う

情報発信における最終段階の目的は、選ばれ続けることです。では、一体誰から選ばれ続ける必要があるのか。目的の次に「対象」を明らかにします。一言で表せば、ステークホルダーです。日本語では利害関係者と訳されます。利益も損害も共有する、影響し合う関係者のことです。

一般的には社員、顧客、取引先・パートナー、株主、社会(地域社会)のことです。ステークホルダーとは、企業経営の本質からいえば、「価値を共に生み出す仲間たち」なのです。ちなみに、ここに報道関係者を加えることもあります。(自社のステークホルダーを含む)社会全体に小さくない影響を及ぼすからです。

筆者のコラムで繰り返し主張してきたことがあります。現代社会は、株主至上主義、金融資本主義からステークホルダー資本主義へと大きく転換しつつあります。

「わが社のステークホルダーは誰なのか」
「ステークホルダーと正面から向き合っているのか」

経営者は常にこの問いを発し続けなければなりません。

経営者がこれらの問いを発することを疎かにすると、目的は途端にぶれます。手段も数字も大切です。ただ、それらに囚われて、振り回されるているならば、本末転倒と言わざるを得ません。

◆知らせる対象は未来のステークホルダー

ここで第1段階の目的に焦点を当て、対象に関してもう少し深掘りしてみましょう。前回述べたことを再度繰り返します。「知らない」は「存在していない」に等しい。だから「知らせる」のです。
つまり、知らせる相手は「知らない人」ということです。会社のことも、商品・サービスのことも「知らない人」が対象です。かといって「知らない人」であれば、誰でもいいということではありません。やみくもに不特定多数の人々に知らせていては莫大な費用がかかるだけです。

大切なことなので、もう一度確認します。最終段階の目的は、ステークホルダーに選ばれ続けることです。

ステークホルダーの種類は、前述したとおり、社員、顧客、取引先・パートナー、株主、地域社会です。それぞれが単なる「関係者」で止まっていては意味がありません。選ばれ続けるためには、より多くの関係者が「価値を共に生み出す仲間」へと成長することが重要なのです。

ここから分かることがあります。知らせるのは、ただの「知らない人」ではありません。結論から述べると、未来のステークホルダーです。ステークホルダー候補者たちです。それぞれの種類でどんな属性の人たちをステークホルダーとしたいのか。つまり、それぞれの「ペルソナ」を明確に持つことです。「ステークホルダー像」を明らかにするのです。

自らの思い描く「ステークホルダー像」と合致した(するであろう)人たちに対して、情報を伝えることが第1段階の目的なのです。

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