SRCF理論:第1回 SRCFとは何か──五資本で世界を読み替える

こんにちは、荒木洋二です。

2026年1月1日、当社ニュースルームで「企業人格×SRCF宣言」を公開しました。

SRCFとは何か。これから連載「SRCF理論」として解説します。

Ⅰ.なぜ、いま「世界を読み替える」必要があるのか

1.表層では説明できなくなった企業・社会の現象
成果を出していても、ガバナンスや倫理・風土の問題から社会的信頼を大きく毀損した企業が近年増えています。SNSの普及とともに、炎上から不買・離反まで、一気に波及した企業も枚挙にいとまがありません。

そのほか筆者が注目する現象として、顧客や社員をファン化する企業と、そうでない企業に明確に分かれています。この決定的な差が生まれるのはなぜでしょうか。
実に多くの企業が数値やKPIを重視し、最新の戦略フレームを採用し、経営しています。しかし、これら数値目標などの定量情報を中心とした説明に違和感を抱いていたのは筆者だけではないでしょう。それぞれの企業のステークホルダーも同様の感覚を持っているに違いありません。

表層だけでは企業や社会の現象を説明できなくなっています。問題の本質は「戦略」でなく、「関係」と「意味」にあるのではないか、と筆者は捉えています。

2.既存の経営理論・資本論の限界 
株主価値最大化に代表される財務資本中心の世界観は、19世紀に土台が形成されました。1980年代後半には北米企業の支配的なビジネスモデルとして定着されるに至ったとされています。
その後、財務資本中心のロジックがもたらす副作用への批判が蓄積し、2008年の金融危機を契機に「株主資本主義の限界」が広く論じられます。

他方、金融危機を前後して、無形資産ブームが到来します。「財務資本だけでは説明できない価値を見たい」という本能的なニーズから始まったのです。1990年代以降、無形資本の有用性の顕在化を背景に、2000~2010年代に世界中でESG(環境・社会・ガバナンス)・人的資本・知的資本として制度化・バズワード化します。
しかし、2020年代、「測り方・関係・実効性」などのが明確な設計が追いつかず、見直しや再定義の段階に入った、といわれています。

資本とは価値を生み出す能力です。財務資本、人的資本、知的資本など、いずれも企業の成長に無関係ではありません。ただ、それぞれを単一のものとして捉える傾向があり、統合できていません。
無形資本には、前述以外にも「関係」「感情」「物語」「歴史」があります。しかし、理論上、これら資本は周辺化されています。さらに、それぞれの資本の関わりや意味を明確に説明できていません。部分最適の理論では、全体の振る舞いが見えないのです。 

だからこそ、いま、世界を「読み替える」必要がある。筆者はそう思うのです。

Ⅱ.なぜ今、SRCFなのか

3.ステークホルダー資本主義は「関係の時代」を開いた
2020年のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)における主要テーマは、「ステークホルダー資本主義」でした。同会議を起点に世界経済は、株主資本主義からステークホルダー資本主義への移行を始めたといえます。株主だけが特別ではなく、全てのステークホルダーを同等・対等に捉えるという考えです。つまり「関係の時代」が始まったのです。

あれから、まる5年が経過しました。しかし、ステークホルダーそれぞれとの「関係」をどう扱えばいいかは現時点では明確に示されていません。日本国内に目を向けても、前述した現象が起きています。これら現象は、関係をどう扱えばいいのかが理解できていないから生じている、と筆者は解釈しています。関係に歪みが生じているのです。

では、なぜ、顧客、社員、社会との関係が壊れるのか。どうすれば続くのか。その理由を誰も明確に説明できていません。

SRCFとは、「Stakeholder Relational Capital Framework(ステークホルダー関係資本フレームワーク)」の略称です。
筆者が当連載で解説するSRCFは、「関係」を資本として扱うための理論です。

4.デジタル時代がもたらした決定的変化
現代はデジタル時代です。DX(デジタルトランスフォーメーション)が脚光を浴び、あらゆる分野、領域において変化が求められています。デジタル空間においては、企業を中心としたニュースルーム、個人を中心としたSNSにより「感情」が可視化されています。

デジタル時代以前においては、企業がステークホルダーとコミュニケーションする場合、それがリアルでもメディア(媒体)でもステークホルダーごとに分けざるを得ませんでした。企業が扱うメディアが印刷メディアだったからです。
ある意味、種別の間に壁があったといえます。そのため、種別を超えたコミュニケーションは現実的に不可能に近い状態が続いていたのです。

それが、デジタル空間があまねく広がることで決定的な変化がもたらされました。ステークホルダー種別を超えたコミュニケーションが容易に実現できる環境が整ったのです。それぞれの感情を全てのステークホルダーが(種別の関係なく)共有できるのです。

しかも欧米企業を中心として、社員や顧客が株主に、社員や取引先・パートナーが顧客となる現象が起きています。ステークホルダー構造が重層化しています。 あらゆるステークホルダーの感情・行動・関係が同時に動く世界が始まっています。 

企業の成長、価値創造を語る場合、もはや「企業×顧客」だけのモデルでは足りません。あらゆるステークホルダーに等しく光を当てなければなりません。

 Ⅲ.SRCFとは何か

5.SRCFの基本定義
ここでSRCFの基本定義を明確にします。
SRCF(ステークホルダー関係資本フレームワーク)とは、企業とステークホルダーの間に形成される「関係」を資本として捉え、感情・物語・制度・歴史といった無形要素の動的循環を可視化する理論フレームワークです。

筆者は 新しいモデルを提示します。SRCFは「意味と関係の動態モデル」といえます。

.五つの資本の全体像

6.SRCFを構成する「五資本」
SRCFは五つの無形資本で構成されています。今後、当連載の中で詳説します。ここでは簡潔な説明にとどめておきます。

①物語資本(NarrativeCapital) 
 意味づけ・理念・価値観・存在理由 

②感情資本(EmotionalCapital) 
 共感・誇り・信頼・愛着・熱量

③関係資本(RelationalCapital)
 継続的なつながり・ネットワーク・コミュニティ

④制度資本(InstitutionalCapital) 
 文化・仕組み・ルール・場(ニュースルームなど)

⑤歴史資本(HistoricalCapital)
 意味づけられた時間の蓄積

これら無形資本は「並列」ではありません各資本に意味があり、位置(役割)があるのです。それぞれが「循環」し、「動的」なのです。 中心に「物語」、縦軸に「歴史」があるのです。詳しくは今後順を追って解説します。

7.五資本は「強さ」ではなく「循環」で決まる
「物語」「感情」「関係」「制度」「歴史」は、どれか一つが強くても意味がありません。感情と関係が強いから、企業が持続的に成長できるわけではありません。制度と歴史が強ければ、永続的な成長が実現できるわけでもありません。

五資本の「循環」が決定的に重要です。特に経営者の皆さんは、このことを覚えておいてください。循環が止まると、全てが劣化します。五資本のどれか一つでも軽視すれば、循環が止まります。

企業・組織における崩壊スパイラルの予兆は「物語の歪み」から始まるのです。後続回で崩壊スパイラルについても解説します。

 Ⅴ.当連載でどこまで行くのか

8.この1年で扱う問い
筆者が当連載で扱う問いは次のとおりです。

・なぜ関係は続くのか、壊れるのか
・感情はどこで生まれ、どう増幅されるのか
・ニュースルームはなぜ制度資本なのか
・歴史はどうすれば資本になるのか
・戦略とは何を設計することなのか

SRCFは「広報」だけに閉じられた理論ではありません。「経営」「広報」「戦略」「組織」を横断する理論です。

9.理論と事例の往復運動
「新年のごあいさつ」で述べたとおり、2026年は4つの連載を同時進行させます。それぞれ月1回、年間全12回で完結させます。

概要は次のとおりです。

①SRCF理論
 意味と関係の循環から、企業と社会を捉え直す理論編

②CaseStudy/ArakiTheory:MLB
 世界最大級のスポーツ産業を、関係資本の視点から読み解く事例編

③CaseStudy/ArakiTheory:HANA
 感情資本が生まれ、広がっていく過程を捉える事例編

④CaseStudy/ArakiTheory:欧州ラグジュアリーブランド
 歴史・物語・制度が価値となる構造をSRCFで読み解く事例編

抽象と具体を往復しながら理論を磨いていきます。理論は机上で完成しません現実との往復で成熟します

.結び

10.当連載が目指すもの
SRCF理論は、流行の理論ではありません。 即効性の処方箋でもありません。 しかし、企業と社会を長期で読み解く「レンズ」を提供します。 

「選ばれ続ける企業とは何か」

その問いに、当連載では1年かけて向き合います。

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