SRCF理論:第2回 戦略とは何か──意味と関係の動態モデル

こんにちは、荒木洋二です。
SRCF(ステークホルダー関係資本フレームワーク)とは、企業とステークホルダーの間に形成される「関係」を資本として捉え、感情・物語・制度・歴史といった無形要素の動的循環を可視化する理論です。企業と社会を長期で読み解くための、新しい「レンズ」です。
Ⅰ.なぜ、いま「戦略」が機能しなくなっているのか
1.戦略を語っているのに、現場が動かない企業
戦略はどの企業にもあります。中期経営計画、成長戦略、ポートフォリオ、競争優位。言葉としては十分に揃っている。
それでも、戦略が「動いていない」企業が少なくありません。
・掲げたはずなのに、社員の表情が変わらない
・顧客との距離が縮まらない
・社会・パートナーとの関係が更新されない
この違和感は、「戦略がない」からではありません。戦略が何を動かすものか──その前提が、ずれているのです。
2.戦略は立派だが、共感も関係も生まれない現象
資料は立派で、分析も整い、KPIも明確。それでも、戦略が「他人事」として受け止められる。
ここで起きているのは、戦略の質の問題というより、意味づけの共有と、関係の更新が起きていないという問題です。共感が起点にならなければ行動は続かず、行動が続かなければ関係は深まりません。
Ⅱ.従来の戦略論が前提としてきたもの

3.戦略=競争・差別化・資源配分という前提
従来の戦略論は、「どこで戦うか」「どう差別化するか」「資源をどう配分するか」を中心に発展してきました。
企業を「合理的主体」とみなし、論理的に設計すれば組織は動く、という前提です。
4.企業は「合理的主体」ではない
しかし現実の企業は、人の集合体です。感情があり、関係があり、経験と記憶があります。
戦略が合理的であることと、戦略が受け取られ、動き出すことの間には隔たりがある。ここを説明できないまま、戦略は「正しいが、効かない」状態に陥りやすいのです。
5.感情・意味・関係が「ノイズ」として扱われてきた構造
従来の戦略論では、感情や物語、関係は扱いづらいものとして周辺化されてきました。
しかし現場では、怒りや不安、誇りや期待、上司部下・部門間・顧客との信頼といったものが、戦略の成否を左右します。
「見ないことにする」ことで戦略は美しくなりますが、同時に現実から離れていく。これが「正しいが、効かない戦略」を生む構造です。
Ⅲ.SRCFが捉える「戦略」の再定義
6.戦略とは「意味と関係の動態設計」である
SRCFの視点で戦略を再定義します。戦略とは、意味と関係の動態設計である。
人は資料や数字だけで動きません。「いま何が起きているのか」「私たちは何者で、どこへ向かうのか」という「物語=意味」によって動く。
そして組織内外には、社員同士、顧客、取引先、株主、地域社会など、関係が張り巡らされています。戦略が動くかどうかは、その関係の中で誰が共感し、誰が不安を抱き、誰が連携を選ぶかに左右されます。
7.なぜ戦略は「計画」ではなく「運動」なのか
戦略は一度決めて終わりの計画ではありません。
環境が変わり、解釈が変わり、関係が揺れる中で、「いま何が起きているか」を捉え直し、「誰とどう関係を結び直すか」を選び続ける運動です。
8.意味が動き、感情が揺れ、関係が変化するプロセス
事実や体験には必ず感情が伴います。共感だけでなく違和感も、意味づけの起点になります。
その揺れが行動を生み、行動が関係を更新する。戦略とは、このプロセス全体を扱う営みだと捉えるべきです。
Ⅳ.意味と関係は、どう動くのか
9.物語が先に動く場合/関係が先に動く場合
現場には二つのパターンがあります。
物語が先に提示され、共感が生まれ、関係が動く場合。関係が先に動き、小さな協働が始まり、意味が後から揃う場合。戦略はこの二つが入れ替わりながら進みます。
10.感情が媒介する戦略の伝播
戦略は文書だけで伝わりません。会議や対話の場で表に出る感情が、受け止め方を変えます。
切実さは「自分ごと」を生み、冷めた空気は「他人事」を増やす。戦略の伝播は、情報伝達ではなく「感情を含んだ理解の広がり」です。
11.戦略が「誤解される」「ねじれる」瞬間
戦略は途中で歪みます。
曖昧な言い回しは都合よく解釈され、中継点(管理職など)の翻訳で意図がそぎ落とされたり強調されたりする。
このズレが蓄積すると、現場では「別物の戦略」が動き始めます。だから戦略は、ズレを前提に扱わなければならないのです。
Ⅴ.戦略はどこで失敗するのか
12.数値は達成しているのに、関係が壊れる理由
売上高や利益は達成しているのに、社内の空気が悪化し、離職や分断が進む。これは、目標達成の過程で生じた侮辱、無視、不公平感、犠牲の偏りといった「関係の傷」が見えないまま積み上がるからです。
数字だけを評価軸にすると、「どう達成したか」で壊れた信頼が見えなくなる。短期で勝っても、中長期で失うのです。
13.戦略崩壊の兆候は「意味のズレ」に現れる
戦略が崩れる兆候はKPIより先に、意味のズレとして現れます。
同じ言葉でも、人によって呼び起こされる物語が違う。「選択と集中」が投資に聞こえる人もいれば、リストラに聞こえる人もいる。
意味の地図がそろっているうちは修正が効きます。バラバラになった時点で、戦略は静かに崩れ始めています。
Ⅵ.結び
14.戦略を成立させる「見えない基盤」とは何か
戦略が紙の上では筋が通っていても、現場で動かないのは、「見えない基盤」が弱いからです。それは、意味(物語)・感情・関係という無形資本です。
SRCFというレンズで戦略を読み替えると、戦略の根幹を支えているものが見えてきます。次回は、その基盤の中心にある「企業良心」へ進みますす。
