#06 「不正会計と企業統治」第1回 制度があるのに、なぜ不正は起きるのか

不正会計と企業統治 ― 成長の論理と統治の論理は、なぜ衝突するのか

第1回 制度があるのに、なぜ不正は起きるのか

企業の不正会計に関するニュースは、定期的に報じられます。

・売上高の水増し
・損失の先送り
・不適切な会計処理

そして企業は会見を開き、次のような説明を行います。

「内部統制が機能していなかった」
「監査体制に不備があった」
「ガバナンスを強化する」

再発防止策として発表されるのは

・社外取締役の増員
・監査体制の強化
・コンプライアンス教育の徹底

といった対策です。

企業名は変わっても、報道の構図はほとんど変わりません。

そのたびに、私は同じ疑問を抱きます。

制度はすでに存在しているのに、なぜ不正は起きるのか。

企業統治(コーポレート・ガバナンス)は、企業の暴走を防ぐための制度です。

・取締役会
・監査役
・監査法人
・社外取締役
・内部統制

企業の周囲には、数多くの制度が整備されています。それにもかかわらず、企業不祥事は繰り返されます。この事実は、ある可能性を示唆しています。

問題は制度の有無ではないのではないか。

むしろ制度の中で、人はどのように判断しているのか。

企業不祥事が起きるとき、原因はしばしば次のように説明されます。

「一部の担当者による不正」
「チェック体制の不備」
「組織の管理不足」

つまり問題は組織の機能の欠陥として理解されます。しかし、本当にそうなのでしょうか。もし、制度や機能の問題であれば、制度を整備すれば不正はなくなるはずです。ですが現実には、制度が整備されても不正は繰り返されます。

ここで視点を少し変えてみたいと思います。

企業は制度によって動いているように見えます。

しかし、実際には、企業の重要な意思決定は、制度ではなく、最後は人が決めています。その決定の積み重ねが、企業の方向を形づくっていきます。つまり企業とは、判断の連続で動く組織なのです。

・どの事業に投資するのか
・どの数字をどう説明するのか
・どの情報を、いつ開示するのか

こうした決定は、最終的には経営者や組織の判断に委ねられています。

ここで改めて考えたいのは「企業統治とは、いったい何を統治している制度なのか」という問いです。

制度が統治しているのは組織の仕組みでしょうか。それとも人間の判断でしょうか。企業不祥事を「制度の不備」として理解するだけでは、この問いにはたどり着きません

企業という組織は

・制度
・市場
・評価
・人間の判断

という複数の要素の中で動いています。

不正会計という現象もまた、単なる違法行為ではなく、こうした構造の中で生まれています。

もう一つ、ここで考えておきたいことがあります。

企業不祥事が起きたとき、私たちは経営者をどのように評価しているのでしょうか。企業が成長しているとき、その経営者は「名経営者」と呼ばれます。しかし、不祥事が起きた瞬間、同じ人物が厳しく批判されることになります。

企業の成長と、企業の健全さ

この二つは、本当に同じものなのでしょうか。

・企業統治とは、何を守るための制度なのか
・企業とは、誰の責任で動く組織なのか
・そして、企業の判断は、どこで誤るのか。

次回は企業統治とは何を統治しているのかという視点から、ガバナンスという制度の本来の意味を考えてみたいと思います。

評論としてではなく、私自身の迷いと判断の履歴として、ここに残していこうと思います。

#00 なぜ、この記録を始めるのか

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