HANA:第3回 なぜ「応援」が始まったのか 〜他者の未来に時間が接続されるとき

こんにちは、荒木洋二です。

HANAという現象を見て、多くの人が同じ感覚を抱いたはずです。

それは単なる感想ではありません。
「好き」「かわいい」「かっこいい」といった言葉では説明しきれない感覚です。

気付けば彼女たちの動画を追い、配信を見守り、成長の過程を共有しています。
まだ成功しているわけでもありません。完成されたスターでもありません。

それでも多くの人が、自然と「応援」を始めていました。

ここに、ひとつの問いが生まれます。

なぜ人は、見知らぬ他者を応援するのだろうか。

私たちは通常、身近な人を応援します。家族や友人、仲間であれば、それは自然なことです。

しかし、HANAの現象は、それとは少し違います。多くの人が、個人的な関係を持たない存在に対して、時間を使い、関心を寄せ、未来を見守っています。

それは娯楽や消費だけでは説明しきれない行動に見えます。

では、応援とは何なのか。

1、応援は「消費」ではない

一般的に、ファン活動は消費として説明されることが多い。

・音楽を聴く
・ライブに行く
・グッズを買う

こうした行為は確かに市場の中で成立する消費活動でもあります。しかし、HANAの現象を注意深く見ると、そこには別の動きがあります。

人々が関心を寄せているのは、完成された成果ではありません。むしろ、その途中です。

まだ不安定で、未完成で、これからどうなるか分からない過程。
迷い、揺らぎ、試行錯誤の連続。

その過程を見守ることに、多くの人が時間を使っています。

もし消費だけが目的であれば、人は完成されたものを選びます。より洗練された作品や、すでに成功したスターを求めるはずです。しかし、ここで起きていることは違います。

人々は、未完成の物語に関与しています。

それは完成品を楽しむ行為ではなく、物語の途中に立ち会う行為です。消費は、完成した価値を受け取る行為です。しかし、関与は、まだ形になっていない未来に関わる行為です。

HANAの現象が示しているのは、まさにこの後者です。

2、応援とは「時間の投資」である

では、人は何を差し出しているのでしょうか。

お金でしょうか。
情報でしょうか。

もちろんそれらも含まれます。しかし、本質は別のところにあります。

それは、時間です。

・動画を観る時間
・配信を追う時間
・変化を見守る時間

応援とは、自分の時間をそこに差し出すことです。そして時間は、人間にとって最も有限な資源です。増やすことも、取り戻すこともできません。

つまり応援とは、単なる関心ではありません。

自分の人生の時間の一部を、他者の物語に接続する行為です。

ここで、第2回の定義を思い出してほしい。

感情資本が生まれた瞬間とは、
他者の物語を、
自分の人生の時間として引き受けてしまった瞬間である。

応援とは、この瞬間のあとに始まる行為なのかもしれません。一度時間が接続されると、人はその未来を見守り始めます。

成功するかもしれない。
失敗するかもしれない。

それでも、その過程に関わり続ける。

応援とは、時間を伴った関与なのです。

3、応援が関係を生む

時間が差し出されると、そこには関係が生まれます。もちろん直接的な関係ではありません。多くの場合、応援する人と応援される人は面識を持ちません。

それでも確かなつながりが生まれます。

・誰かの成長を見守る
・変化に喜びを感じる
・困難な場面で励ましを送りたくなる

こうした感情の往復は、やがてコミュニティを形成します。同じ物語を見守る人々が集まり、経験を共有します。そこに信頼や連帯が生まれます。

このとき感情資本は個人の中にとどまりません。それは徐々に、関係資本へと広がっていきます。

応援とは個人的な感情の表現であると同時に、社会的な関係を生み出す力でもあるのです。

4、感情資本はどこから生まれるのか

応援は偶然に生まれるわけではありません。

第2回では、感情資本が生まれる三つの条件を示しました。

・未完性
・真正性
・時間共有

この三つが重なったとき、人は他者の物語に自分の時間を差し出します。HANAの現象は、その条件が自然に揃った例と言えるでしょう。

しかし、重要なのは、これが偶然ではないという点です。もしこの構造を理解すれば、感情資本が生まれる環境は、ある程度設計できます。

ここで企業や組織のコミュニケーションの問題が見えてきます。

多くの企業は、情報を発信することに力を注ぎます。商品の魅力や成果を伝えることに集中します。しかし、それだけでは、人々の時間は動きません。

人が時間を差し出すのは、完成された成果ではありません。未完の物語に触れたときです。

5、ニュースルームという場所

ニュースルームとは、本来そのための場所です。
それは情報発信の場ではありません。宣伝媒体でもありません。

ニュースルームとは、組織の物語が途中のまま共有される場所です。

そこでは

・成功だけでなく過程が語られる
・完成ではなく挑戦が示される
・結果ではなく判断の履歴が残される

こうした記録が積み重なるとき、人々はその物語に関与し始めます。

つまりニュースルームとは、感情資本が生まれる環境なのです。

6、応援という行為の意味

最後にもう一度、問いに戻りたい。

なぜ人は応援するのか。

それは成功を願うからではありません。感動したからでもありません。

応援とは、他者の未来を、自分の時間の中に引き受けることです。

まだ確定していない未来に、自分の時間を差し出す。その過程に立ち会い、見守り続ける。

そのとき、人と人のあいだには、新しい関係が生まれます。

感情資本とは、他者の物語に、自分の時間が接続されたときに生まれる関係の始まりなのです。

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