企業の基礎体力としてのリスクマネジメント 第2回

第2回 規程だけでは、会社は強くならない
基礎体力を分解すると見えてくるもの
第1回で、リスクマネジメントを「企業の基礎体力」として捉える視点を提示しました。
では、その基礎体力とは、具体的に何を指すのでしょうか。
基礎体力という言葉は、どこか感覚的で、捉えどころのないものとして受け取られるかもしれません。
しかし実際には、それはいくつかの要素に分けて考えることができます。
そして、その一つ一つは、日常の中でどのような状態にあるかによって、リスクが大きくなるか、小さく収まるかに直接的に影響しています。
ここでは、それを五つの側面から整理してみたいと思います。
現場で話を聞いていると、同じような事象が起きていても、企業によって、その後の展開が大きく異なることがあります。
ある企業では、問題は比較的早い段階で収まり、大きな影響を残さずに終わります。
一方で、別の企業では、同じ程度の出来事が、長期化し、拡大し、結果として大きな損失や信頼の低下につながってしまうこともあります。
その違いは、何か特別な対策や仕組みの有無だけで説明できるものではありません。
むしろ、日常の中で積み重ねられている、いくつかの「状態」の違いとして現れていることが多いように感じます。
それが、前回触れた「基礎体力」です。
この基礎体力は、大きく五つの側面から捉えることができます。
一つは、問題が起きたときに、それを受け止めることができる強さです。
もう一つは、状況が長引いたときに、途中で崩れずに対応し続けられる持続性です。
さらに、相手の反応や環境の変化に応じて、対応を変えていける柔らかさも必要になります。
加えて、何を守り、何を変えるのかという判断の軸、いわば重心の安定も欠かせません。
そして、小さな違和感や兆しに対して、早い段階で反応できる感度も重要です。
これらを、より分かりやすく整理すると、
・筋力
・持久力
・柔軟性
・バランス
・敏捷性
という、身体にたとえた五つの要素として捉えることができます。
まず、筋力です。
ここで言う筋力とは、一度の出来事や外部からの圧力に対して、組織がすぐに崩れてしまわない強さのことです。
問題が起きたとき、社内の連携が取れず、関係者がばらばらに動き、それぞれが異なる方向を向いてしまう企業は、最初の衝撃そのものに耐えきれません。
反対に、日頃から一定の信頼関係があり、必要なときに人と情報が動く企業は、同じ出来事に直面しても、受け止め方が違ってきます。
次に、持久力です。
問題は、短時間で終わるとは限りません。
対応が長引くこともあれば、表に見えない調整が続くこともあります。
そのときに問われるのは、途中で疲弊し、ぶれたり、あきらめたりせず、必要な対応を持続できるかどうかです。
属人的な頑張りだけに依存している組織は、時間が経つにつれて対応が弱くなります。
一方で、仕組みや役割分担が一定程度整っている組織は、長い時間の中でも力を保ちやすくなります。
そして、柔軟性です。
相手の反応は、こちらの想定どおりに動くとは限りません。
顧客の不満、社員の不安、地域や社会の感情は、状況によって大きく変化します。
そうした変化に対して、最初に決めた方針だけを硬直的に守ろうとすると、かえって問題を大きくしてしまうことがあります。
必要なのは、軸を失わずに、相手の受け止め方や状況の変化に応じて、言葉や対応を調整できるしなやかさです。
さらに、バランスです。
何が起きたとしても、組織が「何を守り、何を変えるのか」を見失ってしまえば、判断は揺れ、対応は迷走します。
その場その場の空気に引きずられて方針が変わる組織は、結果として、社内にも社外にも不安を広げてしまいます。
逆に、判断の軸がある組織は、迷いがないわけではなくても、どこで踏みとどまり、どこで修正するのかを考え続けることができます。
バランスとは、単に中立でいることではなく、重心を失わないことです。
そして最後が、敏捷性です。
大きな問題が表に出る前には、小さな違和感や、弱い兆しが現れていることがあります。
その段階で気づき、「まだ問題ではないから」と流さずに、小さく反応できる組織は強い。
反対に、明確な問題になるまで動けない組織は、毎回、後手に回りやすくなります。
敏捷性とは、速く動くことそのものではありません。
小さな変化を変化として受け止め、早い段階で必要な対話や確認を始められる感度のことです。
これら五つの要素は、それぞれが独立しているわけではありません。
一つが弱ければ、別の要素にも影響が及び、全体としてのリスク耐性を下げてしまいます。
逆に、日常の中でこれらが重なり合い、一定の状態が保たれている企業は、大きな問題に直面したときにも、崩れにくく、回復もしやすくなります。
リスクマネジメントは、特別な仕組みや対応手順だけで成り立つものではありません。
むしろ、日常の中でどのような状態を保っているか、その積み重ねによって形づくられていくものです。
次回は、この五つの要素が、実際の現場でどのように表れ、どのように整えていくことができるのかを、もう少し具体的に見ていきます。
本記事は、RMCAジャーナルの一環として掲載しています。
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