HANA:第5回 ステークホルダーは誰か 〜感情資本は誰のあいだで循環していたのか

こんにちは、荒木洋二です。

HANAという現象を見ていると、私たちはつい、分かりやすい構図で理解しようとします。
表舞台に立つメンバーがいる。
それを応援するファンがいる。
そのあいだに感情が生まれ、広がっていく。

もちろん、その理解は間違いではありません。実際、HANAという現象の中心には、メンバーとファンのあいだに生まれた強い感情資本がありました。
しかし、それだけでこの現象を説明することはできません。

前回述べたように、デジタル空間において感情は可視化され、反復され、共鳴し、社会化されていきました。その共鳴が起きるためには、誰かが場をつくり、誰かが支え、誰かが整え、誰かが届けているはずです。

そう考えたとき、あらためて浮かび上がる問いがあります。

HANAという現象におけるステークホルダーは、本当は誰なのか。

この問いは、単に「関係者を一覧にする」ためのものではありません。
感情資本がどこで生まれ、どこを通り、誰のあいだで循環していたのかを捉え直すための問いです。

1、ステークホルダーを「利害関係者」で終わらせない

一般にステークホルダーという言葉は、利害関係者と訳されることが多い。
企業であれば、顧客、株主、従業員、取引先、地域社会、金融機関、行政などが想定されます。誰がその企業に影響を与え、また影響を受けるのか。その整理自体は、もちろん重要です。
ただ、HANAのような現象を前にすると、その定義だけでは何かがこぼれ落ちます。

なぜなら、ここで起きていたのは、単なる利害の交差ではなかったからです。そこで生まれていたのは、感情であり、応援であり、共鳴であり、物語でした。つまり、五資本の生成と循環そのものが起きていたのです。

そうであるなら、ステークホルダーを単なる利害関係者として捉えるだけでは足りません。

本連載では、ここで一歩踏み込みたいと思います。

ステークホルダーとは、資本生成に参与する人たちである。

感情資本、関係資本、物語資本、制度資本、歴史資本。
それら五資本の生成と循環に関わる人たち。表舞台に立つかどうかではなく、その現象の成立にどのように参与しているのか。その観点から見直したとき、HANAという現象の輪郭は、これまでよりはるかに多層的に見えてきます。

2、最も見えやすいステークホルダー

まず、最も見えやすいステークホルダーから確認しておきたいと思います。

言うまでもなく、中心にいるのはHANAのメンバーです。
彼女たちがいなければ、この現象は存在しません。未完のまま差し出された姿、迷いながら進む過程、自分自身と向き合い続ける姿。それが感情資本の起点でした。

次に、ファンがいます。
応援し、見守り、言葉を交わし、時間を差し出してきた人たちです。彼ら、彼女らがいなければ、感情資本は個人の内面にとどまり、共鳴現象にはならなかったでしょう。

さらに、プロデューサーであるちゃんみなの存在も決定的です。
このオーディションの思想を形にし、既存の評価軸とは異なる場を立ち上げた。単なる企画者ではなく、感情資本が生まれる条件そのものを提示した存在だったと言えます。

そして、BMSGという運営母体もまた重要です。
どのような場をつくり、どのような公開の仕方を選び、どのようなプロジェクトとして世に出したのか。その判断の連続がなければ、HANAという現象は同じ形では立ち上がらなかったはずです。

ここまでは、多くの人が比較的意識しやすいステークホルダーです。
しかし、この現象の厚みは、ここから先にあります。

3、見えにくいが、欠かせないステークホルダー

HANAという現象をもう少し丁寧に見ていくと、表舞台の外にいる人たちの存在が、実はきわめて大きかったことに気づきます。

たとえば、ダンスを指導した人たち。
歌唱を指導した人たち。
制作に関わったスタッフ。
撮影、編集、配信に関わった人たち。
現場を整え、進行を支え、彼女たちが挑戦できる環境をつくった人たち。

こうした人たちは、通常であれば「裏方」と呼ばれるかもしれません。
しかし、SRCFの視点から見るなら、その表現は正確ではありません。

彼ら、彼女らは単に後方で支えていたのではない。
感情資本が生まれる現場そのものを整えていたのです。

未完性が見える場を守る。
真正性が壊れないように支える。
時間共有が可能になるように公開の形式を整える。
言い換えれば、彼らは感情資本生成の条件を支えた参与者でした。

視聴者が見ていたのは、単にメンバーの努力だけではありません。
その努力が努力として立ち上がる場、挑戦が挑戦として見える環境、変化が変化として伝わる構造を、無意識のうちに見ていたのです。
その意味で、支える人たちもまた、HANAという現象の当事者でした。

4、なぜ支える人たちもステークホルダーなのか

ここで、あらためて問いたいと思います。
なぜ支える人たちまでステークホルダーとして捉える必要があるのか。

それは、彼らが結果に関係しているからではありません。
むしろ、生成過程に関わっているからです。

完成した商品を売るだけなら、表に出る人と買う人の二者で説明できる場面もあるでしょう。
しかし、HANAで起きていたことは、完成した価値の受け渡しではありませんでした。未完の過程が公開され、その途中で感情が立ち上がり、応援が生まれ、共鳴が広がっていく。そこにあったのは、生成そのものです。

生成過程には、必ず支える人がいます。
育てる人がいます。
整える人がいます。
届ける人がいます。

彼らは、単なる補助者ではありません。
生成に関わる人たちです。
だからこそ、ステークホルダーと呼ぶべきなのです。
このことは、MLBの事例でも同じでした。
球場で目に見えるのは選手と観客かもしれません。
しかし、球団、コーチ、フロント、球場運営、地域スタッフ。
そうした人々がいなければ、関係資本産業としてのMLBは成立しません。

HANAもまた同じです。
ただし、MLBがすでに成熟した関係資本産業であるのに対し、HANAは感情資本が生成される初期段階を可視化していた。その違いはあります。
しかし、見えにくい参与者たちが構造を支えている点では、本質的に共通しています。

5、ステークホルダーとは「資本生成の参与者」である

ここまで来ると、ステークホルダーという言葉の意味を、もう一度定義し直す必要があります。

従来の理解では、ステークホルダーとは、企業や現象の外側にいて、何らかの利害を持つ人たちです。もちろん、その理解は今後も必要でしょう。
しかし、それだけでは、感情資本がどのように生まれ、関係資本へと育っていくのかを十分には捉えられません。

本連載で見えてきたのは、むしろ別の姿です。

感情資本を生む人。
関係資本を支える人。
物語資本を媒介する人。
制度資本を整える人。
歴史資本を蓄積させる人。

そのすべてが、現象の外側にいるのではなく、資本生成のプロセスの内部に参与しています。

そう考えるなら、ステークホルダーとは、周辺にいる「関係者」ではありません。
資本生成に参与する人たちです。

この定義に立つと、ステークホルダー論は大きく変わります。
誰が影響を受けるか、誰が損得を持つか、という発想だけでなく、誰が感情を生み、誰が関係を育て、誰が物語を運び、誰が場を整えているのか、という発想に移っていくからです。

これはHANAに限った話ではありません。
企業のニュースルームも、スポーツも、ブランドも、同じように見直すことができるはずです。

6、HANAが示したステークホルダー論の更新

HANAという現象が示したのは、ステークホルダーを「利害」からだけでは捉えきれない、ということです。

もちろん利害はあります。
ビジネスもある。
契約もある。
権利もある。
責任もある。

しかし、それだけでは足りない。

HANAの現象を支えていたのは、感情でした。
応援でした。
支援でした。
場づくりでした。
共鳴の媒介でした。

つまり、そこには「利害」だけでなく、「関与」があったのです。

ステークホルダーは誰か。
この問いは、利害関係者を列挙する問いではありません。
どのような関与が、その現象を成立させているのかを問う問いです。

この視点に立ったとき、表に立つ人と見る人だけではなく、支える人、整える人、運ぶ人、育てる人まで含めて、現象全体が立ち上がって見えてきます。

そしてそのとき、私たちはようやく、感情資本が誰のあいだで循環していたのかを具体的に捉え始めることができます。

7、HANAという現象を支えていたもの

HANAを支えていたのは、表舞台に立つ人たちだけではありませんでした。
応援する人がいた。
育てる人がいた。
整える人がいた。
届ける人がいた。
そして、そのすべてが、感情資本の生成と循環に参与していたのです。

だからHANAという現象は、単なる人気の出来事ではありません。
それは、多層的なステークホルダーの関与によって成立した、感情資本産業の生成現場でした。

ステークホルダーとは誰か。
その答えは、単純ではありません。
しかし少なくとも言えるのは、彼らは単なる利害関係者ではない、ということです。

ステークホルダーとは、資本生成に参与する人たちである。

この再定義は、HANAという事例を理解するためだけのものではありません。

これからの企業、ブランド、ニュースルームを考えるうえでも、重要な視点になるはずです。

次回は、この感情資本がどのように増幅され、ファンという存在が広がっていくのか、ファンはどのように増幅されるか を考えていきます。

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