#27 伝わるための三原則(1)

こんにちは、荒木洋二です。

◆大企業以外では、当たり前になっていない広報PR

当社は創業以来、日本の企業社会に広報文化を広めることを目指し、事業を営んできました。

大企業では、かなり以前から広報PRが当たり前に行われてきました。すでに機能として細分化され、複数の部署にまたがり、日常業務として定着しています。社内報、IR(株主向け広報)資料、顧客対応の一環としての情報紙誌、報道関係者向け発表資料(プレスリリース)など、これら広報媒体の作成や配布に相当数の社員が従事しています。

しかし、大企業・有名企業や一部の先進的かつ一定の企業規模があるスタートアップ以外では、広報PRは当たり前になっていません。経営を担う機能として、日常業務に組み込まれていません。広報を担う部署が設置されていないばかりか、広報を行える人材も社内にほとんどいません。その理由については、当コラム「#18 なぜ、日本の企業社会に広報PRは根付かないのか」で筆者の見解を述べました。

日本の企業社会に広報文化を広めるために、つまり「全ての企業・組織に(正しい)広報PRを当たり前に」するためには、広報人材の育成が欠かせません。昨秋より、当社は広報人材育成とシステム提供を軸にした新たなビジネスモデルでの歩みを始めています。

人材育成の一環として、プレスリリースの書き方などを無償で教えるワークショップをオンラインで開催しています。企業・組織が自らの価値や魅力を伝えるためには、プレスリリースだけでなくファクトブックや(社内報や顧客向け情報紙誌などの)ニュースレターが必要です。プレスリリースは隔週、ファクトブックとニュースレターはそれぞれ月1回、開催しています。毎週、中堅企業やスタートアップの広報担当者が参加しています。

大企業でないと、複数の広報担当者を置くことは容易ではありません。そこで、在宅主婦たちなど、社会に埋もれてしまっているかのような立場にある、貴重な人材を広報人材として育成したいと考えています。「隗より始めよ」ということで、当社自身が昨秋より、ママワークスという仕組みを活用し始めました。

◆伝わらない文章が氾濫!?

現在、4人の在宅主婦のかたがたに仕事を委託しています。そのうちの二人に、当社が提供するeラーニングの広報PR講座、全245講座(約34時間)の内容をチェックする仕事をこなしつつ受講してもらいました。その際に、一人の主婦のかたが非常に細かいところに気付き、かつ文章表現に関する着眼点というか、気になる点にについても鋭いし、感性が高いと感心することがありました。

そこでプレスリリースのワークショップにも参加してもらい、演習としてプレスリリースをゼロから作成することに取り組んでもらいました。12月中旬から毎週マンツーマンで文章の書き方や編集に関するオンライン講座を受講、今年に入ってからは、ほぼ毎週、実際のプレスリリースを校正するという演習と、それをもとにした、答え合わせを含めた約1時間の研修を継続しています。

プレスリリースの題材は、プレスリリース一斉配信事業者のウェブサイトに掲載され、一般に公開されているリリースから選びました。

そこで驚いたというか、ショックを受けたことがありました。

プレスリリースの体を成していないものが、予想よりもはるかに多かったことです。おそらく営業用資料をそのままコピーしただけか、あるいは見よう見まねでプレスリリース風に同資料に少し手を加えただけのような文章ばかりが目につきました。プレスリリースには盛り込むべき要素や文章構造など、基本構成があります。それらを満たしていないだけでなく、何を伝えたいのかが、何度読んでもまるで理解できない文章も少なくありませんでした。プレスリリースとしてだけでなく、営業用資料としても、これでは相手に何も伝わらないのではないか、と暗澹たる気持ちを抱きました。

一体、誰に何を伝えたいのか。

伝える相手のことを考えず、伝える内容も吟味せずに、ただ発信すればいいという姿勢が感じ取れました。SNSの普及により、簡単に情報を発信でき、短い文章でのやり取りや絵文字・スタンプが一般化し、より気軽に円滑にコミュニケーションできるようになりました。このことはもちろん社会全体にとってプラスの効果もありました。反面、文章力が全体的に低下し、真意が伝わらない、誤解される、といったことも増えたのではないでしょうか。伝わらない文章が氾濫しているのではないでしょうか。

企業広報でいえば、どんな表現でどう伝えれば、自らの真意や価値・魅力が相手に伝わるのか。

そのためには相手の状態や状況を想像したり、可能な限り情報を集めたりするなどして、相手をより深く理解しようと努める姿勢が欠かせません。その姿勢を貫きつつ、どんな情報を創造するのか、どうやって見える化するのか、どんな手段で伝えるのかを熟慮していくべきでしょう。

◆情報の質・量・間

自らが発する情報が相手に伝わるためには、どうすればいいのか。24年に及ぶ広報PR人生を歩む中で分かったことがあります。

情報発信には三原則があるということです。伝わるための三原則です。

その三つとは質・量・間(ま)です。「間」とは時間と空間を指します。相手の状況と状態を見極めた上で、見える化したコンテンツの品質をどう担保するのか。文章でいえば文字数、動画でいえば分数(所要時間)をどうするのか。そして、伝えるタイミング(時間)や伝える場所・機会(空間)により、質・量をどう変化させていくのか。

次回のコラムでは、この三原則について、相手の状態と状況をどう見極めるのかについても言及しながら解説します。

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