広報PRコラム#36  オウンドメディアって何?(1)

こんにちは、荒木洋二です。

◆企業自らが発行する媒体

ここ2、3年で企業社会に急速に広がっている外来語があります。

ーーーーーーオウンドメディア

皆さんも耳にしたことがあるでしょう。マーケティングに関わるビジネスパーソンであれば、日常会話で飛び交っているのではないでしょうか。

米国から「降りてくる」最新の経営用語やビジネス用語をいち早く捉え、ビジネスの現場に取り入れることに意味がないとは思いません。なぜ、あえて「降りてくる」と表現したのか。まるで天からの啓示であるかのように、無批判に受け入れ、深く理解したりローカライズ(日本仕様に変換)したりせずに飛び付いているように見えるからです。そのままカタカナ用語を使い、事業化までしている姿勢に少なからず疑問を抱いています。

そもそもオウンドメディアとは何なのか。

自分自身が面倒だと思わないわけではありませんが、いつも、ついつい問いたくなるのです。そもそも何なんだろう、と。事業やサービスとして提供する側も提供される側もどう理解して仕事として取り組んでいるのでしょうか。オウンドとは「owned=所有する」ということです。オウンドメディアを直訳すると、「(自らが)所有するメディア」となります。企業や組織が所有するメディアという意味です。メディアとは媒体、媒体とは送り手から受け手への情報伝達の媒介手段です。言葉のそもそもの意味から分かることとして、企業自らが所有する媒体がオウンドメディアの正体です。

つまり、印刷(紙)媒体で挙げれば、会社案内、商品カタログ、サービス案内資料、採用案内、小冊子、社内報、(顧客向け)情報誌は全てオウンドメディアです。電子媒体に目を向けますと、コーポレートサイト、ブランド(商品)サイト、メールマガジン、ブログ、SNS、採用や商品のLP(ランディングページ)も全てオウンドメディアということです。大企業・上場企業が主に株主向けに発行しているアニュアルレポート(年次報告書)、株主に限らず利害関係者全般に向けて発行している統合報告書(従来のアニュアルレポートとCSRレポートを統合)もそうです。

◆ウェブマーケティングとトリプルメディア

もともとの言葉の意味からみると、何ら新しくありません。カタカナ用語になることで、ここまで注目を浴びているのはなぜでしょうか。その理由はインターネットの普及と、情報技術の革新に深く関係しています。なかでもウェブマーケティングの文脈で現れ、語られることで脚光を浴びました。

マーケティングとは当コラム第19回で言及したとおり、「市場と関わるあらゆる行為」であると当社は理解しています。売上高という業績を企業に直接もたらすのは顧客です。顧客を獲得するための、あるいは顧客を維持するための行為や活動がマーケティングの本丸といえます。ウェブマーケティングはインターネットに関する技術革新によって急速に変化し、進化を遂げています。それはとどまることを知らず、今も続いています。

「オウンドメディア」という用語が初めてマスメディアに登場したのは2009年、今から約12年前です(筆者による日経テレコン調べ)。『映像新聞』の同年10月5日発行号でした。日本アドバタイザーズ協会の活動組織であるWeb広告研究会が同年9月29日に開催した、設立10周年記念フォーラムの模様を報じた記事で触れられています。同研究会では「今後5年間のキーワードはトリプルメディア」と宣言したとしています。ウェブマーケティングにおけるキーワードがトリプルメディアであることは、筆者も確かにその頃からよく報道で見たり、実務の現場で耳にしたりしていました。トリプルメディアとは広告を掲載するペイド(paid)メディアと自前のオウンドメディア、信頼や評判に関わるアーンド(earned)メディアです。アーンドメディアとは生活者や企業・組織が発信するブログやSNSのことです。

ただ、当時(2012年3月5日付け)の『日経MJ』(日本経済新聞社)に掲載されたフリーアナウンサーの八塩圭子氏(当時:学習院大経済学部特別客員教授、現在:東洋学園大学現代経営学部准教授)の寄稿を読むと、オウンドメディアに関してはあくまでも企業が運営するウェブサイトとの理解で、これから「鍵となるのはアーンドメディア」だとして、ソーシャルメディアの台頭に注目していました。

◆大企業でも寿命が短いオウンドメディア

ここで筆者の私見を述べます。現在、企業社会で語られるオウンドメディアとは、企業が見込み客を獲得するため、あるいは顧客を維持するために運営する「雑誌のような」「顧客向け情報」を掲載したウェブサイトです。あえて辛辣な言い方をすれば、「雑誌のまねごとサイト」といえます。

・見込み客や顧客にどんなコンテンツを提供しているのか。
・誰が誰に向けて記事を書いているのか。
・あえて運営主体の企業情報を分かりづらくしているのか。

さまざまな懐疑の気持ちを込めて、あえて「雑誌のまねごと」という言葉を使いました。

先述の日経MJの寄稿と同年の12月25日発売の専門誌『日経デジタルマーケティング』(日経BP社)では2013年のトレンドとして「トリプルメディアが融合する」と掲げていました。同記事ではオウンドメディアのことを「自社サイトのように企業が所有、運営するメディア」としています。「自社サイトのように」という表現が引っかかります。自らの魅力を伝える、わが社ならではの、わが社らしいコンテンツを堂々と提供しているのでしょうか。

同月19日付けの『日経MJ』では大企業のウェブマーケティング担当者の座談会を記事として掲載していました。日本コカ・コーラ、良品計画、ローソンの担当者が登場しています。なかでも成功事例として大きく取り上げられていたのが、日本コカ・コーラが運営するオウンドメディア『コカ・コーラパーク』でした。会員数は1,300万人というのですから圧巻としか言いようがありません。「さすが、世界のコカ・コーラ」です。ゲームやニュースなどをそろえたポータル型のサイトで、他社からの広告も掲載してあったというのですからマスメディアの領域に達しています。同社の担当者は同サイトを「自社でプラットフォームを持つ意味は非常に大きい」とまで豪語していたほどです。

しかし、同サイトは現在は存在していません。2007年に開始したといいますから10年近く運営してきましたが、2016年の年末で閉鎖されたからです。生活者、消費者の行動変化を捉えて、スマートフォンアプリに移行しました。閉鎖前に『Coke On』というアプリを始動させ、現在では2,400万ダウンロードを突破しているから驚きです。

同じ企画の別の回の記事(2013年4月3日付け)では、日産自動車がソーシャルメディア用の記事を発信する「にっちゃん情報局」を立ち上げたことも取り上げていました。しかし、これも現在、あまり積極活用されてはいないようです。

◆そもそもオウンドメディアとは何なのか

大企業や有名企業が運営するオウンドメディアでは、ほかにどんなものがあるのでしょうか。

BtoB受発注プラットフォーム『アイミツ』(ユニラボ社運営)のサイト内記事でオウンドメディア200社を分析し、その中で23のサイトを高く評価しています。記事の公開が2017年8月28日で更新日が2021年1月14日です。ニキビケア商品「プロアクティブ」で有名なガシー・レンカー・ジャパン社が運営する「ニキペディア」もその一つです。「『不安や悩みを抱えた方の味方』になることを目指しているというサイト」で、「ニキビの種類、美肌をつくる生活習慣、オロナイン(※ガシー・レンカーのド競合です!)はニキビに効くのか? という検証など、ニキビにまつわるあらゆる悩みをカバーする記事の多さ・豊富さが特徴。『仕事のストレスでお肌が荒れ気味…』という方には絶対に役立つはず」と絶賛しています。しかし、同サイトは2020年12月25日に閉鎖されました。常に移り変わる若い世代と彼らの生活様式や意識の変化に対応するのは簡単ではありません。ニキビケア商品ですから若い世代が主な対象でしょう。その対応が難しく閉鎖に追い込まれたのかもしれません。

ただ、BtoB企業が運営する次のオウンドメディアは今も運営されています。

サイボウズ式(サイボウズ株式会社)
Mugendai(株式会IBM)
Marunouchi.com(三菱地所株式会社)
MeetRecruit(株式会社リクルートホールディングス)
Career Supli(アデコ株式会社)

これらサイトは記事数も多く、頻繁に更新されています。マスメディアが発行する媒体の視覚的なデザインと記事の品質に近いと評価できそうです。いずれも大企業といえる会社ばかりです。豊富な資本力や経営資源があってこそ運営できていることは間違いありません。

そのほか評価されているオウンドメディアは、IT(情報技術)やウェブマーケティングに関わるサービスを提供している会社ばかりでした。専門技術や知識、事例などを記事にしています。詳しく閲覧できていませんが、内容としては大差がないように見受けられます。

そもそもオウンドメディアとは何なのでしょうか。次回は日本広報の歴史から、企業自らが発行する媒体についての考察を深めていきます。

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