NewsRoomの使い方 そもそも『NewsRoom』って何?

近年、「ニュースルーム」というウェブサイトが注目され始めています。GAFAはもちろんのこと、日本ではトヨタさんをはじめとした大手や有名企業がニュースルームを始めています。

2017年頃から米国で始まったニュースルームが、なぜ注目され始めたのか、そもそもニュースルームとは何なのかを解説します。

ニュースルームが必要な背景

■ 「経営における基礎体力」の強化が求められている

近年、想定外の事象が頻発しています。日本経済においては1990年前半のバブルの崩壊に始まり、ITバブルの崩壊、リーマンショック、長引く株価低迷とデフレなど枚挙にいとまがありません。地震や大型台風による水害など、自然災害も毎年猛威を奮っています。

感染症も今回の新型コロナウイルスだけではありません。SARS、MaaS、アフリカではエボラ出血熱や南米では蚊が媒介する感染症など、後を絶ちません。そのたびに、私たちは経済危機にさらされ、企業の事業継続や成長が阻まれることがあるのです。

そこで、これまで以上に重要になるのが、企業の「経営における基礎体力」です。アスリートは本番で最高のパフォーマンスを発揮するために、日々、基礎体力の強化を欠かしません。基礎体力の強化にゴールはありません。アスリートは地味で地道なトレーニングをずっと続けています。どんな競技であっても変わりません。

どんな優れた戦略を学び、個々の技術を研ぎ澄まそうと努力を重ねたとしても、肝心の基礎体力がなければ、試合では勝てません。戦略を生かすこともパフォーマンスを発揮することもできません。そもそも発揮するだけのパフォーマンス(=能力)自体が備わっていません。そればかりか、急激な状況変化など、想定外の事態に適切に対応できないため、練習中や試合でけがも絶えないでしょう。けがからの回復にも時間がかかります。

企業も同様に、日々の事業で最高のパフォーマンスを発揮し、想定外の出来事に適切に対応でき、打撃を受けても迅速に回復できる、そのような「経営における基礎体力」の強化が、今まで以上に求められているのです

■ 「経営における基礎体力」とは

では、企業が事業継続、成長するために必要な「基礎体力」とは何でしょうか。企業を取り巻くの関係者たちとの、関係やつながりの強さや深さこそが「経営における基礎体力」なのです。関係が強くなり深くなると、どうなるでしょうか。

・従業員は働きがいや意欲が増し、良いアイデアも生まれ職場に活気があふれる。結果、生産性は向上する。
・顧客は長く継続して商品・サービス、そして会社そのものを愛してくれる。ファンになってくれる。ファンになると、積極的に人に薦めてくれ、新たな気付きも与えてくれる。
・株主は安定株主として長期保有し、危機に直面としても支援を継続してくれる。
採用においても理念やビジョンに共感し、必要な人材が集まる。
・取引先は思いを一つに協力し合い、より良いものを生み出す。 危機に直面しても手を取り合い、困難を乗り越えてくれる。
地域社会は好意を持って応援してくれる。
・メディア・報道機関は進んで好意的な報道をしてくれる。報道の機会も増える。

このような企業を取り巻く関係者たちとの一つ一つの関係、つながりが「経営における基礎体力」なのです。基礎体力が強化されることで、普段から最高のパフォーマンスが発揮でき、想定外の突然の出来事に直面しても適切に対応できます。現在皆さんが取り組んでいる、さまざまな施策の効果を最大化できます。開発やマーケティング、人事労務、財務に至るまで、全てにおいて目に見えて成果が上がります。経営における「基礎体力」とは経営の根幹であり底力なのです。

先ほど事例で挙げた企業を取り巻く人たちのことを、経営用語で「利害関係者」といいます。実は、彼らは「経営資源」そのものなのです。個々の経営資源が、自ら効率的に活動してくれれば、強い企業になれることは当然のことです。

想定外の出来事に直面する機会が増えた現代。企業の事業継続、成長のために「経営における基礎体力」がこれまで以上に求められていることが、「ニュースルーム」が注目されている理由なのです。

「広報PR」を正しく理解する

■ 「経営における基礎体力」を鍛えるには?

では、どのようにして「経営における基礎体力」を鍛えればいいのでしょうか。

それは、すでに強靭な「基礎体力」を備えている大手企業や有名企業をお手本にすればいいのです。彼らはそうしてきたから「今」があるのです。そして、今もなお、基礎体力の強化を怠ることなく、地道に続けているのです。

彼らが基礎体力を強化する、つまり経営資源である利害関係者と信頼関係を築くために実践しているのが「広報PR」です。というより、「広報PR」とは、そもそも「経営における基礎体力」の強化を目的に実践するものなのです。国内企業の多くは、広報部はおろか、広報担当者もいないし、たとえ広報部を設置していても目的をはき違えていることが多いのが実態です。結果が出るわけがありません。

■ 「広報PR」の正しい意味

では、そもそも「広報PR」とは何でしょうか。

「PR」とは、「Public Relations」の頭文字を取り、「PR」といいます。「プロモーション」や「アピール」と同意語で使う人たちがいますが、明らかに間違えています。直訳すると「Public」は、「公共・公衆」、そして「Relations」は、「関係性」です。PRを直訳すると「公共との関係性」です。意訳すると「利害関係者との良好な関係構築」です。つまり、「PR」とは施策の名前ではなく、概念なのです。

PRは、多くの利害関係者たちの声を広く(公衆=一般社会の人々の声を)聴く「広聴」と、広く(公衆=一般社会の人々に)知らせる(=報せる)「広報」がセットになっています。日本では戦後「広報」と訳して、日本社会に定着してしまい、これが誤解を生む一因になったともいえます。

正しく広報PRを理解していない企業は、製品やサービスの販促の一環としてメディアで報道されることだけを目的にしています。これは広報PR全体の活動の中で、「メディア・リレーションズ」という一つの活動に過ぎません。考えてみてください。メディアとは報道機関であり、そもそも企業の告知媒体ではありません。視聴者や読者にとって必要な情報を報道しているのです。企業側にとって、都合の良い時だけ報道してほしいと願うのは、本質を見誤った姿勢の表れです。日頃から報道関係者と良好な関係を築いておくことこそが重要です。報道されるかどうかはその先の話です。

■ 広報PRの実務

では、広報PRとは具体的に何をすればいいのでしょうか。「経営における基礎体力」を強化するために、「利害関係者と良好な関係を構築する」という正しい目的を踏まえて考えてみましょう。難しく考える必要はありません。対象はあくまでも人なので、どうしたら信頼関係を構築できて、共感や一体感を抱いてくれるのかを考えればいいのです。

信頼関係を築く上で重要なのが「情報」です。広報PRの実務は、取り巻く関係者の「情報」を知ることから始まります。彼らの姿や振る舞いをつぶさに「見る」こと、声に真摯に耳を傾け「聴く」ことで「情報」を得ることができます。そこから得られた「情報を」もとによく「考えて」、戦略を立てます。戦略に基づいて自らの価値を「情報」としてまとめます。そして、価値ある「情報」を関係者たちに自ら伝えます。「見る」「聴く」「考える」「伝える」というコミュニケーション活動全般が広報PRの実務なのです。

企業・組織が自ら情報を伝えるための媒体を「広報媒体」といいます。一般的には伝える相手によってさまざまな種類に分類されています。皆さんがよく知っているのは、「プレスリリース」だと思います。プレスリリースの作り方には基準があるし、使い方にもルールと呼べるものが存在します。インターネットの発達と普及に伴って、プレスリリースを報道機関などに一斉に配信できるサービスが登場しました。便利になった反面、基準を満たしていなかったりルールを逸脱したりするプレスリリースを発信する企業も少なくありません。広報の本質やプレスリリースとはそもそも何かという、大切な部分が抜け落ちたまま取り組んでいる企業が多いからです。基準やルールを蔑ろにしたプレスリリースを送ると、記者から迷惑がられ心証を悪くするだけです。これでは良好な関係を結べません。

プレスリリースとは「報道関係者向け発表資料」です。「報道関係者」に向けて、新たな取り組みを「発表」する「資料」なのです。「5W3H YTT」という要素が資料の中に漏れなく網羅されていなければなりません。資料ですから尊敬語や謙譲語は用いません。プレスリリースを前述の配信サービスを利用して配信するだけで終わっている例も多々見受けられます。報道関係者が集まる、肝心の記者クラブに投函しなかったり、社員とすら共有していなかったりする企業も数多くあります。報道関係者に発表するほどの重要な情報を、身近な利害関係者全員と共有するのは当然のことではないでしょうか。他社も実施しているから何となく模倣しているだけでは、効果を期待できるはずがありません。プレスリリース以外にも、ニュースレターやファクトブック、アニュアルレポートといった代表的な広報媒体があります。それぞれに作り方や使い方があります。本質やノウハウも知らず、何も分からずに取り組んでも成果が生み出せるわけがありません。

ニュースルーム事例

■ 「表舞台」と「舞台裏」の情報

広報PRにおいて、多くの企業が発信したがる情報は「製品・サービス」の情報です。「業績」や「事業戦略」などの情報です。要は「企業は稼げればいい」わけですから、製品やサービスの情報を発信したがる気持ちは理解できます。しかし、相手の立場で考えてみたら見えてくることがあります。あたかも押し売りのように繰り返し発信されたら、どんな感情を抱くでしょうか。信頼されることもままなりません。ましてや共感や一体感を抱くことなど起こり得ません。結果的には選ばれないのです。選んでもらえなければ、「稼げない」のは自明の理です。

製品・サービス、業績、事業戦略などを「表舞台」の情報と呼んでいます。結果や成果などの一時的な情報といえます。「表舞台」に至る過程でのさまざまな出来事や、入社・購入・提携などの事象から始まるそれぞれの体験などの情報を「舞台裏」の情報と呼んでいます。

「表舞台」の情報として、新製品のプレスリリースを配信するとします。配信した時点で「新製品発表」という出来事は終わります。「舞台裏」の情報は実に豊富です。「なぜ、開発・製造したのか」「どんな人物が開発したのか」「開発でどんな苦労をしたのか」など、「表舞台」より手前にあった情報があふれています。発売後には「どんな人(企業)が購入し、なぜ選んだのか」「顧客はどんな体験をしたのか」「改善点はあるのか」など、「舞台裏」の情報は次から次へと生み出されます。

企業が伝えたいのは「表舞台」ですが、案外、みんなが知りたいのは「舞台裏」なのです。「舞台裏」に目を向けてみてください。光を当ててみてください。そこに企業の価値が現れます。「舞台裏」は魅力の宝庫であり、源泉です。「舞台裏」の情報こそが信頼を醸成し、共感や一体感を育むのです。

<メディアが伝える舞台裏>
皆さんは、メディアを通じて多くの舞台裏の情報に触れています。スポーツニュースでも練習風景や家族の絆などを特集することがありますし、「警察24時」は捜査や事故の舞台裏を伝えています。TV番組の「がっちりマンデー」や「ジョブチューン」、古い番組では「プロジェクトX」などは、企業の「舞台裏」を伝える番組です。

■ 広報PRの「標準化」

では、表舞台と舞台裏の情報を関係者たちにどのように伝えればいいのでしょうか。もちろん広報媒体を使います。まだ広報PRを実践できていない企業や組織の場合は、基本中の基本である「四つの広報媒体」から始めればいいのです。主に表舞台を伝えるのが「プレスリリース」と「ファクトブック」です。主に舞台裏を伝える媒体が「ニュースレーター」と「アニュアルレポート」です。

ファクトブックとアニュアルレポートは一度作成してしまえば、後は更新するだけです。ファクトブックは、毎年度、期初に最新情報に更新します。アニュアルレポートは1年間の活動内容を期末で締めて、最新のレポートを発行します。日々、活用できる広報媒体はプレスリリースとニュースレターです。特にニュースレターは伝える対象や内容によって、何種類も作ることができます。採用で使いたければ、「働く人の声(インタビュー)」を紹介するニュースレターを作ってもいいでしょう。営業用であれば、「顧客の声(インタビュー)や姿(現地レポートなど)」をニュースレターとしてまとめればいいのです。日本でも有名な外資系システムベンダーは、顧客へのインタビューで構成する「導入事例」を多数作成し、積極的に活用しています。例として挙げた広報媒体は、前述の対象に限らず、全ての利害関係者と共有すべきです。優秀な人材や新たな顧客は遠くのどこかにいるのではなく、利害関係者の身近にいるのかもしれないからです。

広報PRの本質を理解し、実務として「四つの広報媒体」の作り方や使い方を学び、実践することで広報PRを標準化できるのです。

■ 広報PRの「最適化」

前項で述べた紙の広報媒体にも欠点があります。多くの制約があることです。文字数や掲載する写真の枚数は紙面に合わせて制限されます。締め切りもあるし、印刷や配布にコストもかかります。経営資源が十分でないスタートアップや中小企業の中には、なかなか取り組めないという企業があっても仕方がありません。

しかし、これらの制約は大手企業にとっても課題です。この課題を解決するために登場したのが「ニュースルーム」です。ニュースルームとは広報PRを最適化するためのウェブサイトです。企業社会でにわかに流行している「オウンドメディア」というウェブサイトをご存じの人も多いでしょう。観察してみると、閲覧してほしい対象は顧客層ですし、目的は主にマーケティングであることが分かります。ニュースルームの目的は明らかに異なります。主に今、目の前にいる利害関係者に情報を積極的に公開し、共有します。未来の利害関係者に対しても情報を公開し、共有します。ニュースルームの目的は「経営における基礎体力」を強化、向上させることです。

ニュースルームを開設すれば、先ほどの全ての制約から解放されるだけでなく、もし誤字・脱字があったとしても気付いた時点で即座に修正できます。画像も多数保存でき、動画も掲載できます。SNSへのリンクや無償のニュースサイトへのリンクも簡単に設定できます。情報は蓄積されるので、カテゴリーごとにソートをすれば、過去の情報をまとめて読むことができます。

国内企業で最もニュースルームに力を入れてるのは、トヨタさんだと思います。ホールディングスとしてのニュースルームの傘下に、会社としてのコーポレート、自動車ブランドとしてのトヨタレクサスと三つのニュースルームを運営しています。参考になるので一度ご覧になってみてください。

特に「メールアラート」という機能はシンプルですが、情報共有という意味で非常に有効です。メールアドレスを登録しておけば、新しい記事が投稿されると同時にメールで知らせてくれます。

「ニュースルーム」とは、広報PRの無駄を省き、より効果的に実行するために最適化できるウェブサイトなのです。

最後に

いかがだったでしょうか。ニュースルームについてご理解いただけたでしょうか。企業の情報発信を考えるとき、私たちが最も重要だと考えているのは「表舞台と舞台裏の情報を自ら伝える」ということです。残念ながら、既存メディアの影響力はインターネットに押されています。SNSも分散化が進み、利用者の年代や属性によって、何種類ものSNSを運用しなければなりません。

それは、「企業自らが情報発信しなければならない時代になった」ということを意味していると確信しています。

当社でも、広報PRを学べるeラーニング(2020年11月末時点で約240講座予定)を安価に提供しています。どなたでも簡単にニュースルームを運用できるCMSも提供しています。どちらも無償お試し期間があるので、ご興味がありましたらこちらをご覧ください。

参考:KOHOgeneニュースルーム

参考動画:荒木 洋二の「5分でわかる広報PRの真の目的!」

(株)AGENCY ONE 代表取締役 荒木 洋二
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