#15 企業が発信すべき2種類の情報

こんにちは、荒木洋二です。

■情報は2種類に分けられる

企業・組織は総体で見ると、日々、いや時々刻々、秒刻みに大量の情報を発信しています。インターネットが普及し、デジタル化が急進する近年、企業社会だけをとってみても生成され、消費される情報はすさまじい勢いで増え、あふれかえっています。

それぞれの主体が発信しているのは、どんな情報なのでしょうか。コンテンツの性格によって、それら情報を分類することができるでしょうか。分類できるとして、何種類に分けられるのでしょうか。

組織が発信する情報は2種類に分けられる、と筆者は考えています。正確にいえば、「公式」に発信する情報です。

筆者が経営するPR会社は、主に中小企業を顧客として事業を営んできました。起業して15年目を迎えています。広報歴にして24年の実践と経験、学習、議論の末に到達した答えです。

公式情報はたった2種類に分けられるのです。

では、誰に伝えるのかといえば、全ての利害関係者です。利益も損害も共有するほど近しい間柄にある、自らを取り巻く関係者たち全てに伝えるのです。社員・スタッフに伝え、顧客や取引先、報道機関などにも伝えます。

■成長と存続の王道

大企業、なかでも先進的な取り組みをしている企業は2種類の情報を発信し続けてきました。情報を伝達する媒体が印刷媒体だった時代に始まり、今日のようにインターネットがあまねく普及した現代では、ウェブサイトで発信し続けています。

大企業にとっては成長するために、2種類の情報を伝えることは避けて通れない道、王道でした。王道を歩んできたからこそ、「今」があるのです。大企業へと成長した「今」でも、なお手綱を緩めることなく、試行錯誤を繰り返しながら、あらゆる手法や手段を駆使して伝え続けることをやめていません。未来を切り開き、危機に備えるためです。

NPOなどの非営利組織にとっては存続に直結することでした。伝え続けなければ、存在意義は失せ、生きながらえることさえ困難だったでしょう。約16年前、筆者はNPOの事務局長に就任し、広報業務も担いました。事実として、理事長になって9年目になった現在も(十分とはいえないまでも)2種類の情報発信をやめていません。印刷媒体は費用がかかるため、数年前にやめました。今では全ての情報をテキストや動画で発信しています。この組織が創立から28年目を迎えることができたのは、伝えることをやめなかったからともいえます。

非営利組織にとっては存続するための王道だったのです。

■表舞台と舞台裏

前置きが長くなりました。では、成長と存続に欠かせない、2種類の情報とは何でしょうか。

それは「表舞台の情報」「舞台裏の情報」です。

では表舞台の情報とは、舞台裏の情報とはそれぞれ何を指しているのでしょうか。企業でいえば、次のとおりです。

<表舞台>
・企業の基本情報(社名・設立・所在地・代表者・事業内容・拠点・沿革)
・経営者のあいさつ/理念・ビジョン/事業・製品・サービスの詳細情報/業績・実績
・経営戦略/各種経営施策 など

<舞台裏>
・創業物語/製品などの開発秘話・苦労話/調達・販売など各部門の現場レポート
・社員(スタッフ)の失敗談・成長物語/理念・ビジョンを体現したエピソード
・顧客体験/取引先やパートナー、株主の声

例えるなら、一つの表舞台に対して舞台裏には上下、前後、左右の6方向の情報があります。表舞台は点です。どんなに熱心に伝えても点が広がるばかりで、いずれ情報の渦へとのみ込まれ、消えて忘れられる運命にあります。舞台裏は、それらの点と点同士をいくつも結び合わせることができます。

新製品をプレスリリースで発表します。これは表舞台の情報です。この表舞台の情報からつながる六つの情報を挙げてみます。

・前:製品を開発するまでの失敗談や苦労話/開発に懸ける思い
・後:同製品の顧客体験談(どんな課題があり、なぜ選んだのか、使ってどうだったか)
・左:研究開発・製造の現場(実態を取材・レポート)
・右:営業・販売の現場(実態を取材・レポート)
・上:事業領域にかかわる業界・市場の解説(動向・課題)
・下:製品を生み出すために必要な技術の解説(エビデンス・社会的意義)

例えば、六つの情報を広報専用ウェブサイトである「ニュースルーム」に公開します。テキストと写真で、あるいは動画で発信します。実際の丁寧な取材に基づく、インタビュー記事やレポート記事は熱量が違います。人の心を動かし、行動へとつながるエネルギーに満ちています。

これらの情報を全ての利害関係者に伝えることで、信頼や共感が育まれていくのです。

■成長と存続の鍵は舞台裏にあり

これから大企業へと成長できるのか、組織として存続できるのか。最も重要な判断基準の一つとなるのが、2種類、なかでも舞台裏の情報を発信しているか否かです。

・大企業の情報発信

大企業はいずれの情報も成長する過程で伝え続けています。顧客向け情報誌が発行されたのは1870年代です。鐘紡(現・カネボウ化粧品)が1903年に創刊した『鐘紡の汽笛』が社内報の始まりでした。あまり知られていない事実として、今も多くの大企業は社内報や顧客向け情報誌を発信し続けています。社内報もウェブと併用しながら印刷媒体でも発行しています。

エンジャパンはウェブ社内報を広く一般に公開し、誰でも閲覧できるようにしています。社内外の出来事を(広報部以外の社員たちで構成する)200人のレポーターが日々、エネルギッシュにレポートを続けています。全日本航空は、SNSで利害関係者に向けて、われわれ利用者などがふだん知ることも触れることもできない、各現場の社員の働く姿や仕事に取り組む思いなど、まさに舞台裏の情報を発信し続けています。

・中小・中堅企業の情報発信

一方、中小・中堅企業やスタートアップを見てみると、どうでしょうか。発信しているのはほとんど表舞台の情報です。ウェブサイト(コーポレートサイト)で掲載されている情報は表舞台の情報ばかりです。

これらの企業でも、採用LP(ランディングページ)では若い先輩社員のインタビュー記事や代表者のメッセージを掲載しています。メールマガジンも発行しています。SNSを駆使して、熱心に情報を発信しています。オウンドメディアと呼ばれる新規顧客獲得のためのウェブサイトを開設し、コンテンツ・マーケティングも展開しています。

・公式な舞台裏の情報とは

このような情報は一見すると、舞台裏の情報と思われるかもしれません。

採用のために必要な情報は一部若い先輩社員の声だけでしょうか。社長のメッセージだけでしょうか。外部に制作を委託した場合、一度の制作で何年も同じ記事だけを掲載し続けていないでしょうか。きれいに作られた採用ページは、どこまでいっても表舞台の情報にしか見えないのは筆者だけでしょうか。

メールマガジンやSNSはどうでしょうか。ほとんどがセミナーや展示会の案内、新製品情報が占めています。SNSは単なる個人の感想や日記にしか見えない情報も少なくありません。これでは公式な情報とは言えません。

オウンドメディアでは一般的な情報があふれているのではないでしょうか。雑誌が扱うような情報を(辛辣な言い方をすれば)まね事のレベルで発信しています。内容に「わが社らしさ」や「わが社ならでは」の情報がないのです。SEO(検索エンジン最適化)効果を狙い、そのために書く文章に人は関心を持つでしょうか。キーワードを組み込むことばかりを考えて書いた文章に心が動くでしょうか。熱を帯びない、事実に裏付けされない文章では何も伝わりません。つながったように感じても一過性で終わるに違いありません。自らの舞台裏の情報ではなく、借り物では信頼や共感は育めません。

今こそ、冷静に身近なところに視線を向けてみませんか。自らを取り巻く関係者たちは、共に価値を生み出している仲間たちといえます。彼らの振る舞いや思いと正面から向き合って、丁寧に取材してみませんか。取材を重ねていく先にこそ、ほかにはない自らの魅力を見い出すことができます。舞台裏は魅力の宝庫であり、価値の源泉ともいえます。

表舞台と舞台裏、2種類の情報を発信することで成長の礎を築いていきましょう。

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