広報PRコラム#56 SECIモデル体験(2)

こんにちは、荒木洋二です。

■世界唯一の、知の創造理論

前回は一橋大学名誉教授・野中郁次郎氏のSECI(セキ)モデルの触り部分、形式知と暗黙知とは何かを確認しました。

筆者は、入山章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社刊、2019年)でのこのモデルの解説を読み、「わが意を得たり」と得心しました。起業後、14年にわたって取り組んできたこと、体験してきたことの一つ一つがことごとく当てはまりました。SECIモデルは「組織の知識創造理論」」として、これからの時代に圧倒的に必要とされる、と入山氏が断言する理論です。世界唯一の、知の創造理論とまで言い退けています。

当社は、2021年1月より245講座で構成される、広報PRに関するeラーニング講座の提供を始めています。この講座で語られていることは、14年かけて練り上げてきた新しい知識がそこかしこに埋め込まれています。同時期から執筆を始めた当コラムも新しい知識といえます。

SECIモデルとは、どのような知の創造理論なのでしょうか。前回も説明した各段階を再掲します。

①S:共同化(socialization)

②E:表出化(externalization)

③C:連結化(combination)

④I:内面化(internalization)

SECIモデルを図像にすると、四象限で表されます。左上が「S(共同化)」、右上が「E(表出化)」、右下が「C(連結化)」、左下が「I(内面化)」という順で進むサイクルです。

SECIモデルのサイクルを14年間で3度か4度、回してきました。もしかしたら、14年かけて、ようやく「内面化」に到達した段階なのかもしれません。

ここから筆者の体験を交えつつ、一つ一つを解説します。

■共同体験、共感、一対一の徹底した対話

①S:共同化(socialization):暗黙知→暗黙知

SECIモデルの出発点は「共同化」です。重要なことは三つです。共同体験、共感、一対一の徹底した対話です。

前回述べたとおり、当社は筆者と「相棒」の二人で始めました。二人いれば、それは組織です。

当時、筆者は10年間にわたり、広報の現場、最前線で実務を経験してきました。広告代理店経由での仕事、IT(情報技術)や外資などの仕事もしていました。毎日のようにプレスリリースを書き、報道関係者と会い、徹底してパブリシティに取り組んでいました。広報PRに関しては表層的な部分では理解していました。まだまだ浅かったのですが、一定の知識はありました。実はその間で企業経営に挑み、手痛い失敗も体験していました。

相棒は、20年弱にわたり、営業の最前線を走ってきました。主に成果報酬型で工作機械を町工場の社長たちに販売したり、中古機械を海外に販売したりしていました。営業には相当な自信を持っていました。その後、起業し、社員を抱え、事務所も都心に構え、果敢に挑戦しましたが、会社をたたまざるをえない事態に直面しました。

そんな状況の相棒が当社に合流し、「組織」になりました。ここが始まりでした。

では、何から始めたのか。ほぼ毎日のように「一対一」で徹底して対話を繰り返しました。性格も信条、思考法、経験もまるで違う二人が、全人格としての暗黙知をぶつけ合いました。一献傾けながら、相棒が「そもそも広報とは何か」と問うことから始まりました。回答すると、「それはなぜか」とまた問われます。「共感」するまで続きます。記憶は定かではありませんが、3、4カ月間、毎晩のように繰り返し、現在の企業理念が生まれました。共感から企業理念が生まれたのです。

企業理念以外でも2、3日で一つの解を見い出し、相棒がプレゼンテーション資料に落とし込み、中小企業の社長などを相手に二人で営業します。合流当初は、行動を共にする機会が数多くありました。これが「共同体験」です。

■知的コンバット

ちなみに企業理念は「それは『企業の人格』」です。

広報とは、PR(パブリック・リレーションズ)とは何か。何のために行うのか。そもそも何なのか。「企業の人格」を形成するために広報PRを実践します。広報PRを実践することで、「企業の人格」は形成されるのです。一対一の徹底した対話から共感が生まれ、共同体験をもとに一対一で徹底して対話を繰り返しました。詳しくは次回で解説しますが、企業理念が生まれたのは、まさしく次の段階の「表出化」です。

今も変わらない、「広報文化を広げる」というビジョンが生まれたのも、つまり「表出化」されたのも同時期でした。

野中氏は、一対一の徹底した対話を「知的コンバット」と呼んだといいます。いい響きの言葉です。当時のことを振り返ると、まさしく「知的コンバット」を繰り返していました。必ずしもお酒を飲む必要はありませんが、われわれ二人の場合、その方がリラックスして、自由な発想も湧きやすいと感じていました。実はこの「知的コンバット」を今も続けています。今も現在進行形で、(手前味噌なのですが)新しい語録、新しい知が芽生えています。

次回は「②表出化」を体験と照らし合わせて、解説します。

★参考文献『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社刊、著者:入山章栄)

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