広報PRコラム#35 ブランディングの鍵は「舞台裏」にあり(7)

こんにちは、荒木洋二です。

◆テレビ番組で工場に潜入、ものづくりの過程に密着

セミナーに参加した大学生の感想をきっかけに、工場見学について思い出したことを前回は綴りました。自らの体験も踏まえて、工場見学は「舞台裏体験」なのだと妙に腹落ちしたからです。思い出したことに加え、さらに2、3度に分けてインターネットで調べた内容をもとに、今回も工場見学について、あれこれと綴ってみますのでお付き合いください。

工場見学はテレビ番組でも定番の感があります。いわゆる会社系・お仕事系のバラエティ番組をご覧になった人も多いでしょう。

筆者は約4年半前から毎週土曜日、自宅近所のスポーツジムに通っています。一時期かなりの肥満状態が続き、明らかに不健康だし身体のことを身近な人から相当心配されていました。何人かの近しい人の勧めと手助けのおかげで、体質改善や健康増進の仕上げとして通うことになったのです。しかもパーソナルトレーナーを付けての筋力トレーニングを1時間かけて取り組んでいました。現在は12時から行っていますが、通い始めた当初1、2年は18時からでした。1時間の筋トレ後、最後に有酸素運動としてフィットネスバイクを20分間こいでいました。ジムに通った経験のある人はご存じのように、同バイクにはたいてい液晶画面が装着されています。そこで退屈しないようテレビ番組を見ながらトレーニングするのです。

つまり毎週土曜日19時から、トレーニングしながらテレビ番組を視聴していたのです。その時にほぼ毎週流していた番組の内容が工場に潜入、密着するという切り口でした。例えば、海外から3人前後有名なパティシエが日本を訪れ、日本のお菓子メーカーの工場を見学する、といった具合の内容が毎週続いていました。どうやってお菓子を製造しているのかを単純に工程を追って見せるのではなく、パティシエのコメントを交えたり、パティシエが工場責任者に質問したりする姿を映し出しており、知らず知らずのうちに引き込まれ、没頭していたので、毎回あっという間に20分が経過していました。このトレーニング時間以外でも日曜の夜は自宅で何となくテレビ番組を流していることも多く、同様の番組が放映されていた記憶がおぼろげながらにですが、あります。

◆舞台裏で大事なのは「人肌感」

土曜19時からの番組が何という番組だったのか。記憶をたどり、さまざまなワードを組み合わせ検索しましたが、番組を特定できませんでした。ただ、探している過程でいくつか確認できたことがあります。10年前の『日経エンターテイメント!』(日経BP社)の2011年8月8日付けのオンライン記事です。遠藤敏文さんというライターの記事です。「ここ1~2年、会社の裏側を紹介するバラエティ番組が元気だ」(遠藤さん)として、代表的な番組を二つ紹介し、内容を比較しています。『シルシルミシルさんデー』(テレビ朝日系)と『潜入! リアルスコープ』(フジテレビ系)だ。『リアルスコープ』の総合演出担当者にインタビューもしています。同番組の特徴は「従業員など、そこに関わる人の趣味や特技、ときに仕事観までさりげなく織り込む“人肌感”」(同)といいます。

「人肌感」とはいい響き、いい言葉です。舞台裏には常に「人肌感」があふれています。だからこそ人の心を動かし、行動まで起こさせるだけのエネルギーがあるのでしょう。共感を呼び起こすことができるのは、「人肌感」を前面に打ち出した「舞台裏」の情報だと理解しました。

◆工場見学ブームはいつから始まった?

残念ながら両番組ともレギュラーでの放送は終了しています。『リアルスコープ』は先月4日に6年ぶりに地上波ゴールデン帯に復活しました。ざっと調べたところ、レビュラーで工場見学を主に取り上げる情報番組はないようですが、時折、扱われています。『日曜ビッグバラエティ』(テレビ東京系)では2019年10月27日放映分で人気のアイスやお菓子、名産品の工場に「潜入」しています。

ーーー工場見学がブームになっている。

ここ数年に何度か、こんな言葉に出合っています。妻や知人に聞いたり、報道で触れたりしています。改めて、記事検索サービスの「日経テレコン」(日本経済新聞社)と、インターネットで検索してみました。

まず、日経テレコン。範囲は日本経済新聞系列の各紙と全国紙(読売・朝日・毎日・産経)、全期間で「工場見学ブーム」と検索したところ、抽出されたのは64件。最も古い記事は、2010年6月23日に日本経済新聞本紙の地方経済面に掲載された記事でした。新日本製鉄君津製鉄所(現・日本製鐵・君津製鉄所)の見学者数が150万人を突破したことを報じています。同記事中で「最近の『工場見学ブーム』のなか、人気スポットになって」いると記載されていました。次が同年8月24日の読売新聞朝刊での記事です。工場見学ブームに乗って、神奈川県内のいくつかの企業の工場が夏休みの新名所となっていると書かれていました。同記事中ではアサヒビールの神奈川工場崎陽軒の横浜工場ライオンの小田原工場などが紹介されています。うち見出しに「ブーム」「人気」とあったのは2010年は先の2件、2011年5件、2012年2件でした。

次にインターネットで「工場見学ブーム」と検索したところ、次の四つの記事が目に留まりました。

・『NIKKEI STYLE』(日本経済新聞社・日経BP社)2010年8月23日
キユーピー工場を紹介。2009年度全国6カ所の工場で年間約10万人が見学。工場側では働く人にとっても消費者とじかに触れ合うことにより、やる気を引き出せるという利点がある。

・『工場タイムズ』(インターワークス社)2015年6月26日
工場見学とはそもそも何かに始まり、レジャー施設のような楽しみがあることを紹介。工場見学にどうすれば行けるのかを説明し、体験することを薦めている。

・『じゃらんニュース』(リクルート社)2019年6月5日
関東エリアの行ってみたい工場ランキングを調査に基づき、発表。1位は「中村屋 中華まんミュージアム」(21.4%)、2位は「造幣局さいたま支局」(19.0%)。

・『トラベル.jp/旅行ガイド』(ベンチャーリパブリック社)2019年11月15日
大人も楽しめるユニークな工場をランキング形式で紹介。1位はカモ井加工紙のマスキングテープ、2位が赤城乳業の「ガリガリ君」。

こうしてみると、工場見学ブームは2010年の夏前に始まったといえるでしょう。そして、その後何度か波はありながらも、新型コロナウイルス感染症が広がる前までは続いていたことが分かります。

◆バーチャル工場見学もブームになるか?

コロナ禍にあっては工場見学の実施は簡単ではありません。筆者の確認した範囲内でも休止している会社は少なくありません。そんな状況で大手企業ではバーチャル工場見学の取り組みを今後強化していくことが予想されます。

前回のコラムでは森永製菓の「バーチャル工場見学」ページを紹介しました。森永製菓以外でもいくつか挙げてみましょう。ロッテアサヒ飲料三菱自動車コカコーラJFEスチール、さすが大手企業ばかり、それぞれが視覚表現に富んでおり、アニメや動画などを駆使しながら分かりやすく丁寧に作っています。

最新のバーチャルリアリティー(VR/仮想現実)技術を利用して、どこまで人の手間と制作費用をかけずに、バーチャル工場見学を制作できるのでしょうか。

VR技術をクラウドで利用できるサービスを展開している、スペースリーという会社があります。同社がVRを活用した工場見学の活用事例として23社を紹介しています。サイトをみると一番安いもので月額5,000円前後で利用できるプランもあるようです。

同社のようなサービスが広がることで、中小・中堅企業やスタートアップを巻き込んだ「バーチャル工場見学ブーム」が起こるのか。大手企業と比較し経営資源が不足しており、人手も費用もかけられないのが中小企業です。必要なのは、VR技術の認知と普及という側面だけではありません。「舞台裏」を見える化することで、共感を得ようとする気持ちや意思がどれほど芽生えているのか。ブームになるかどうかは、後者が鍵を握っているのではないでしょうか。

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