中級講座 Ⅰ.理論・基礎知識 経営と広報 リスクマネジメントの基礎
こんにちは、荒木洋二です。
前回は「経営と広報」コースの全体像について、まず解説しました。
今回はNPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会発行の『リスクマネジメント基礎講座』のテキストを参考文献としています。関心のある人、もっと深く学びたい人は、同講座を学んでみてください。
ここで話す内容は、リスクマネジメントの基礎の基礎でしかありませんから。
「経営と広報」コースは、次のスライドに記載の三つの項目で構成しています。
今回から4回にわたり、最初の「1.リスクマネジメントの基礎」を解説します。ここでは次のスライドに記載の三つの項目に分けて説明します。
①リスクとは
まず、「①リスクとは」から解説します。
リスクの語源から見ていきましょう。
ラテン語では「to navigate cliffs」という意味です。座礁・沈没も予想される険しい岩礁を縫って航海するような状況のことです。つまり「冒険」に近い、ということです。
次にアラビア語では「明日の糧」が語源です。つまり明日ですから「未来」にある、ということです。
次にイタリア語では「risicare(リズカーレ)」です。勇気を持って試みる、という意味です。つまり危険を承知で挑戦する、ということです。
リスクは未来にあるのです。同じような言葉で「不確実性」という言葉があります。リスクと不確実性は似ています。ほぼ同じと言ってもいいのですが、専門書では明確に分かれています。なぜなら不確実性はリスクマネジメントできません。つまり、ある事象の結果の影響度合いとその発生の起こりやすさを計算できないからです。確率論の範疇を超えているからです。ただ、リスクは未来にあるし、不確実性も未来にあります。そういう意味では同じ領域の話ともいえます。
続いてリスクの定義です。ISO31000におけるリスクの定義は「目的に対する不確かさの影響」です。
ISOとは国際標準化機構のことです。「International Organization Standardization」を略です。アイエスオーと読みます。イソと呼ぶ場合もあります。補足説明しますと、ISO31000は2009年11月に発行されました。これはリスクマネジメントに関する国際規格です。認証ではなく、ガイドラインです。2018年に第2版の改訂版が発行されています。
話を元に戻します。リスクとは「目的に対する不確かさの影響」でした。言葉を一つ一つ突き詰めて確認していきましょう。目的とは何か。影響とは何か。リスクとは何か。もう少し深く探っていきます。
【目的】
目的はどんな目標なのか、どんなレベルで設計されているのかによって変わります。
どんな目標なのかということは、例えば財務の目標、安全衛生に関する目標、環境に関する目標など、さまざまです。それぞれ異なった側面があります。どんなレベルで設計されているかということは、例えば戦略でいえば、組織全体なのか、各プロジェクトのプロセスなのか、という異なったレベルで設計されています。
それぞれの目的に対する不確かさの影響がリスクだということです。
【影響】
続いて、影響とは何か。これは期待されていることから乖離することです。好ましい方向なのか、好ましくない方向なのか。いずれにしても乖離することです。
リスクとは何か。もう少し掘り下げます。
リスクは起こる事象の結果と、その発生の起こりやすさの組み合わせとして表現されます。事象の結果にはいい結果と悪い結果があります。それとその発生の起こりやすさの組み合わせがリスクです。次のスライドをご覧ください。
リスクには「プラス=好ましい方向」と「マイナス=好ましくない方向」の両方があるということです。
今や時代は激しく移り変わります。経済も社会も自然環境もどんどん変化します。その変化の中で多様かつ複雑なリスクが増えています。
リスクは必ず未来にあります。重要なことは「ゼロリスク」は絶対にあり得ない、ということです。2020年、2021年は新型コロナウイルス感染症が世界を席巻しました。感染対策の前提として、「ゼロリスク」はあり得ないという認識をもとに行動しなければ大きな過ちを犯すことにつながります。社会のいたる所に歪みが生じてしまいます。
未来は不確実性にあふれています。そして、ゼロリスクはあり得ません。このことを忘れてはいけません。
今回は「リスクマネジメントの基礎」の中で「①リスクとは」を解説しました。次回は「②損失発生のメカニズム」を説明します。