中級講座 Ⅰ.理論・基礎知識 経営と広報 リスク・コミュニケーション 〜情報開示と説明責任〜
こんにちは、荒木洋二です。
前回まで4回にわたり、「経営と広報」の「2.CSRの基礎」について解説しました。今回から最後の「3.リスク・コミュニケーション」です。3回にわたり、解説します。
次のスライドのとおり、三つに分けて説明します。
①情報開示と説明責任
まず、情報開示と説明責任です。
企業・組織と社会の間には情報の非対称性があります。
企業・組織にとっての社会とは、利害関係者を含んでいます。両者の間には明らかに情報の非対称性があります。当然のことですが、企業・組織の方が多くの情報を有しています。社会、つまり利害関係者はその情報の全てを知ることはできません。この情報の非対称性を解消するために、企業・組織には情報開示と説明責任が求められています。情報開示と説明責任こそ、企業の社会的責任の一丁目一番地です。
情報開示のことを「ディスクロージャー」といいます。分かりやすくいうと、隠さない、嘘をつかない、ということです。
説明責任のことを「アカウンタビリティ」といいます。分かりやすくいうと、相手に理解できるように伝える、ということです。伝わるように伝えるのが説明責任です。
情報開示と説明責任の起源、歴史を簡単に振り返ります。
1789年、「フランス人権宣言」が発せられました。社会は、全ての公の職員にその行政に関する報告を求める権利を有する、というものでした。これはまさしく民主主義の根幹です。説明責任を求める権利こそ、民主主義の根幹であるといえます。
1966年4月、米国で「情報自由法」が制定されました。同法は現在における各国の情報開示の模範となっていると言われています。
日本では2001年4月に「情報公開法」が施行されました。正式名称は「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」です。
世界全体の動向として、行政だけでなく企業にも情報開示と説明責任は求められています。
日本では2006年4月、「公益通報者保護法」が施行されました。組織の不正を見逃してはならない、ということで制定された法律です。
簡単に言いますと、企業・組織が不正、法律違反、犯罪などを行った場合、従業員は自社が設けた「内部通報制度」に従い、まず企業に通報します。大企業を中心に多くの企業が内部通報制度を設けていますが、形骸化している企業も少なくないと予想されます。
企業側に通報したにも関わらず、それでも企業が不正を止めない、法律違反を止めない場合、次に従業員は行政・管轄省庁に通報します。それでも改善しない場合、報道機関やNPO(非営利組織)、NGO(非政府組織)に訴えます。
企業に通報しても改善しなければ、社外のしかるべき組織に報告、通報するのです。社会に対して説明責任を果たしましょう、不正を犯しているのであれば、しっかりと情報を公開しましょう、ということです。公益通報者保護法は、情報開示と説明責任の文脈で制定された法律といえます。「公益通報者保護法の一部を改正する法律」が2020年6月12日に公布されました。今年の6月1日から施行されます。
次回は「②リスク・コミュニケーションとは」について解説します。