初級講座「Ⅲ.実務能力編」 ファクトブックの作り方 4.ファクトブックの各項目の作り方 ③第3部 どんな環境で生きているのか?

こんにちは、荒木洋二です。

今回も「4.ファクトブックを構成する各項目の作り方」について説明します。前回は「②第2部 どんな事業を営んでいるのか?」を解説しました。

今回は「③第3部 どんな環境で生きているのか?」を詳説します。

企業・組織を取り巻く環境の実態を伝える項目です。自らが置かれた立場や取り巻く環境の変化を知ることは、経営にとって欠かせない重要な営みです。時代や環境の変化を捉えることによって、次への打ち手(戦略)につながる大切な気付きを得ることもできます。

取り巻く環境の実態を知るためにはデータが欠かせません。後ほど詳しく述べますが、各種調査結果など、さまざまな関連データをグラフで示します。

第1部、第2部は五つでしたが、第3部は四つのパートで構成されています。次のスライドに記載のとおりです。

企業規模、事業形態、リモート主体などの働き方によっては、地域社会との接点がほとんどない企業もあるでしょう。その場合、あえて記載する必要はありません。今、実際に行っていることに関してのみ記載してください。今後、向き合う必要があると判断したなら、組み入れていきましょう。

それでは一つ一つ説明します。

1)市場・業界とどう向き合っているのか?

ここでは自社が事業を営んでいる市場・業界の構造を明らかにします。

まず、どんなプレーヤーが存在しているのか、業界全体がどんな構造、つまりどんなシステムで成り立っているのかを記します。

次に市場・業界の動向を、さまざまな調査結果から必要な情報を抽出して記載します。国の統計や業界団体、業界紙、あるいは民間調査会社が実施した直近の調査結果を入手します。調査で明らかになったデータを示します。数字で示すことが重要です。

そして、市場・業界の現状も記載します。自社が関わっている市場や業界がどんな課題を抱えているのか。どんなことに関心を持っているのか。どういう潮流があるのか。前述の調査結果などを活用して、数字とともに示します。これら三つの視点を踏まえて、自らの見解や展望を表明します。

2)地域・社会とどう向き合っているのか?

自らの企業・組織の本社(支社)が拠点を構える地域とどう向き合っているのか。さらにいえば、社会全体とどう向き合っているのか。これらのことを明らかにします。

自らが関わっている地域がどんな課題を抱えているのか。その課題に対してどんな解決策を講じているのか。その解決策として、具体的にどんな社会貢献活動を実践しているのか。これら実績を写真やグラフなどで明示します。

最初に断りを述べたとおり、地域社会との接点が現時点でほとんどない企業の場合、何か具体的な活動を実施していないのであれば、あえて記載する必要はありません。

3)自然環境とどう向き合っているのか?

続いて、自然環境とどう向き合っているのかを明らかにします。企業の経営資源は「ヒト・モノ・金・情報」だといわれています。これら経営資源は全て社会と自然環境に存在するものです。ある面、企業・組織はすべからく社会からの信頼と負託を受けて、事業を営んでいるといえます。

例えば、製造業であれば、自然環境に必ず何らかの影響を与えています。空気、土壌、海水(水)などを利用していますし、事業推進の結果、これらに何らかの影響を与えています。今でいえば、脱プラスチックの問題などが挙げられます。

自らの事業が深く関わる自然環境に対して、どんな現状認識を持っているのか。国内あるいはグローバル展開しているのであれば、世界も視野に入れ、今、一体どういう環境問題に直面しているのか。調査結果などを整理し、組織全体として課題を把握しておくことは重要です。その課題解決のために対策を講じているのか。どんな環境保全活動を行っているのか。これらを写真やグラフなどを駆使し、実績を記していきます。

4)どんな経済・社会環境で経営しているのか?

最後にどんな経済状況下、どんな社会環境のもとで経営しているのか、ということを明らかにします。

主に企業・組織は三つの環境のもとで経営しています。経営は常に環境から影響を受けながら行うものです。一体どんな環境で経営しているのか。三つとは「経営環境」「労働環境」「社会環境」です。これら環境の実態をデータから浮き彫りにします。

ここでも大切なのは「事実=ファクト」です。調査結果などから明らかになった数字、データは紛れもないファクトです。

経営環境とは国政政治、地政学リスク、法律改正、科学技術の進展など、経営判断に深く関わることです。労働環境とは働き方や仕事の価値観など、自社の社員にも深く関わるものです。社会環境でいえば、生活者の意識、ライフスタイル(生活様式)の変化などです。「生活者」ですから、何もBtoCの顧客だけが関係しているわけではありません。現在の社員も未来の社員も生活者です。個人の株主や地域社会で接点のある人たちも含まれます。グローバル展開している企業であれば、各国でのそれぞれの環境の実態も示す必要があります。

ここまで見てきた四つの環境から影響を受けながら、企業は事業を営んでいるのです。自らを取り巻く環境をファクトに基づいて数字、データで示します。そうすることで、自らの置かれた状況をステークホルダー(利害関係者)に正しく認識してもらうことができます。

これまで「4.ファクトブックを構成する各項目の作り方」を3回にわたり説明してきましたが、今回で終了です。

「ファクトブックの作り方」も残すところ2回です。最後までしっかり学んでいきましょう。

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