初級講座「Ⅲ.実務能力編」 プレスリリースの作り方 プレスリリースを構成する各項目の作り方②

こんにちは、荒木洋二です。

今回は「プレスリリースの作り方」第10回です。前回から「プレスリリースを構成する各項目の作り方」を解説しています。今回はその2回目です。

プレスリリースには基本の形があります。「プレスリリースの作り方」第3回(プレスリリースの基本構成)で説明したとおり、プレスリリースは12項目から構成されています(次のスライド参照)。

基本の形12項目の中で、1〜5までについては同講座第5回(プレスリリースを作る準備②)「(3)ひな形を作る」で説明しました。前回は6〜8にあたるタイトル、サブタイトル、リード文について説明しました。

今回はいよいよ9の本文を解説します。

毎回繰り返し確認しておきましょう。プレスリリースに欠かせない基本要素は「5W3H・YTT」です。文章の基本構造は結論を先に述べる、「結起承転」の流れです。

本文を書くにあたって、常に留意しなければならないことがあります。それは事実(ファクト)のみを扱い、分かりやすく説明することです。事実以外のことを書いてはなりません。

以前、日本の企業社会における営業、商談の現場でよく見られた場面があります。
担当者が交渉を優位に進めるため、何としても成約させたいという思いが先行し、実際の実績・数字よりかなり上乗せして、その実績がさも事実であるかのように伝えていました。倍の数字を語ることも少なくなかったのではないでしょうか。それが当たり前という文化・考え方が一部の業界、あるいは企業社会全体にまん延していたように思います。これはよろしくありません。騙していることになるからです。
そのような姿勢は厳に慎むべきでしょう。

プレスリリースに事実でないことを記載したとしましょう。それは虚偽の情報を公開したことになります。ここで経営者や広報担当者が、肝に銘じておくべきことがあります。プレスリリースは企業・組織の「公式発表資料」です。オフィシャルな資料であり、戦略の記録です。そこに虚偽があってはなりません。企業の信頼そのものに関わります。虚偽の情報を公開すれば、それは企業価値を著しく貶めることにつながります。事実に基づき、数字などは正確に記載しなければなりません。

■本文

本文は、次のスライドに記載されている四つの部分によって成り立っています。

1.背景・経緯・理由(起)

今回の講座では、1番の「背景・経緯・理由」について解説します。
文章の基本構造は起承転結です。プレスリリースは結論を最初に述べますので、「結」起承転という流れです。前回解説した「リード文」が結論に当たります。今回の「背景・経緯・理由」は「起」に当たります。

プレスリリースは、企業・組織の新たな取り組み、新たな打ち手を発表します。そこで重要なのが「なぜ、その新たな取り組みを始めるのか」という背景や経緯、あるいはその理由です。なぜの部分を分かりやすく説明しなければなりません。

新たな取り組みや打ち手は、成し遂げたい目標や関心の高い事柄を実現するため、あるいは課題を解決するために行います。ですから、その新たな取り組みや打ち手と関わる領域、つまり市場、業界、社会が一体どんな現状、どんな動向なのか、という事実(ファクト)を明らかにします。
なぜ、この取り組みを始めたのか、この打ち手をしたのか、ということを理解させることができる根拠(エビデンス)を示すのです。

根拠とは官公庁などの公共機関や、民間調査会社、シンクタンクの調査結果を引用して説明するのです。必ず出所を明記し、数字を示すことがとても大切です。なぜなのか、という理由を数字で示すということです。無償の公開情報であれば、出所を明記することで引用できます。ただし、報道や研究以外での引用を禁止している場合もありますので、注意深く確認することを忘れてはなりません。

プレスリリースのテーマが、例えば、新製品発売であれば、新製品を開発するに至った経緯や、なぜ、今この時期、タイミングなのか、などの理由にも触れます。要はプレスリリース全体の文脈が大切なのです。

ここで疑問に感じる人もいるかもしれません。

大企業、有名企業のプレスリリースを見ると、背景・経緯・理由について詳しく触れていないことが多いのは、なぜでしょうか。

理由は簡単です。それでも記事なるからです。

大企業、有名企業には広報部があります。常日頃から報道関係者と密に連絡を取り合っています。報道関係者もこれら企業のことを当然よく理解しています。すでに社会、多くのステークホルダーに影響を与える立場にあるのが大企業、有名企業です。そんな立場にある企業の新しい取り組みであれば、多くの人に影響が及ぶ、関係がある事柄なので、報道関係者は記事にせざるを得ません。そもそも記事となる確率が高いということです。だから、わざわざ背景や経緯、理由を書かなかったとしても報道されるのです。
大企業、有名企業のプレスリリースの場合、記事に必要な情報、根拠となる数字や事実は、記者自身が調べますし、取材してきます。そして、記事にします。

しかし、中小・中堅企業、スタートアップはそう簡単に記事にはなりません。

そもそも無名ですし、あるいは知名度も圧倒的に低いですし、記者とのつながりもほとんどないか、あっても極めて弱いものです。だから、報道関係者がプレスリリースを読んで、取材しよう、記事にしよう、と思わせるだけの情報、根拠となる数字や事実がどうしても必要です。質の高い、中身の濃い材料が必要です。規模が小さい、影響力も乏しい、無名な企業を取材するために、記者はわざわざ時間をかけて自ら調べてはくれません。取材に至るまでの、報道されるまでのハードルがかなり高いのです。

特に、経済や企業に関する記事には、数字が絶対に欠かせません。市場規模や市場動向などを必ず数字で示す必要があります。そうすることで、記者が自ら調べる手間が減ります。報道関係者にとって一次情報に当たることは、報道するためには絶対に欠かせない行動です。調査結果、現場・現地での取材など、自らの目と耳と足で情報を入手し、記事にします。裏付け、根拠(エビデンス)が弱いものを報道できません。

中小・中堅企業、スタートアップの広報部は、報道関係者と同じ目線、視点でどんな情報が必要なのかを考えて、全部そろえた状態でプレスリリースを作成し、記者クラブに投函したり、配信したりしなければなりません。

統計や調査結果の数字で裏付けがあれば、報道関係者にとってみれば、「なるほど、だから販売するんだ」「だからこういう新しい取り組みするんだ」「だから今取り組むんだ」と納得するのです。腹落ちします。
記者たちは、大企業や有名企業のためであれば、自分たちで調査結果を探してきます。そして載せます。
中小・中堅企業、スタートアップの場合、報道関係者の調べる手間、時間を減らすことも非常に大事だということです。

次回は本文の書き方の「2.テーマの解説」、「3.写真・図表」を解説します。

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