10年後に「広報人」を1万人育成 本来の広報を当たり前にすることが天命
株式会社AGENCY ONE 代表取締役 荒木 洋二(後編)
Q.今だから話せる・笑える「起業家としての失敗」(大変だったこと)はありますか?
当社は、「本来の広報を当たり前に」という理念を掲げています。広報文化を日本の企業社会に広げたい。そんな思いで事業を営んでいます。会社立ち上げ当初は、中小・中堅企業、スタートアップの広報部業務を請け負っていました。
メディア・リレーションズを多数手掛けたり、社内報やステークホルダー向けの情報誌も作成したりしていました。多い時は年間40回ほどの記者発表会などの報道関係者向けイベント(プレスイベント)を実施したこともあります。
業務委託の形態では当社がほぼ全ての広報活動を担うため、相手企業に広報文化を根付かせることは困難です。当然のことながら普及も進みません。この経験を糧に、私たちは2019年より自社の理念に立ち返り、広報の内製化を主要事業として進める決断をしました。クライアント企業に対して広報のノウハウを教え、自社内で広報業務を遂行できる人材を育成します。
事業の方向転換を決断したのですが、現状は力不足で売り上げは下がっています。道半ばの状態です。これからどのようにして成功に導いていくか、新たな挑戦の真っただ中にいます。
Q.起業家・経営者としてゆずれないこだわりとは?
私は、広報を内製化させることを目的に事業を行っています。本来の広報を伝え、それを理解し実践するスキルを持った人材の育成に責任を持ちたいと考えています。企業が広報機能を導入し、実践できる環境へ導くことが私の最も大切にしているこだわりです。
私が掲げる本来の広報とは、自社の魅力を明確に理解し、それを全てのステークホルダーと共有することです。企業の理念やビジョンに共感し、ステークホルダー自らがこの会社と関わり、共に価値を生み出していく仲間であると感じてもらうことが広報の役割です。
ステークホルダーそれぞれが、それぞれの立場を理解することが大切です。どんな人(個人・法人)でどんなことを大切にしているのか。会社と関わる理由、選び続ける理由など、一つ一つが会社の魅力を形作っています。
社員、顧客、取引先、株主など、全てのステークホルダーがそんな会社の魅力を一つ一つ認識し、その先に共感が醸成され、蓄積されていきます。それぞれが協力し、共に成長する環境をつくるのです。企業はこうした広報活動を通じて、関係者との持続的で強い結びつきを育んでいきます。
調和による安心な社会をつくり、皆が笑顔で働ける会社を増やしたい
Q.これからどんな挑戦をしたいですか?(現在の課題やかなえたい目標など)
私は、今後10年間で、本来の広報を実行できる能力を備えた人材(当社は「広報人」と名付けています)を1万人育成することを目指しています。育成する人材には二つの系統があります。前提として、広報の本質とニュースルームの重要性を理解していることです。
一つは、企業の広報・ブランディングを担う責任者たちです。起業家などの経営者も含みます。もう一つは、企業の情報発信を外部から支援する立場の人材です。彼らが企業社会に広める活動を担います。この取り組みが広がり、ニュースルームを導入する企業が2万社に達することが目標です。
大学で講座を持つことや、書籍執筆など、本来の広報の価値を学生や社会に伝える活動にも挑戦します。書籍は10年後(2033年まで)に20冊を上梓することを目指します。
現在、大多数の企業における広報活動はメディア・リレーションズ、報道に偏りがちです。自社の情報を自ら発信するニュースルームの必要性を広め、広報の本質を理解する人々を増やしていきたいと考えています。
私は、ニュースルームには企業の人格が表れると捉えています。ニュースルームを持つことが当たり前になると、企業は等身大の魅力、つまりその実力と人柄を自然体で共有、発信できます。そんな情報に触れた人たちには、「この企業はいいな」「この企業と付き合いたい」という共感が芽生え、信頼感が育まれます。打算的な理由ではなく、本当に共感するから働きたい、取引したいという人たちが集まるでしょう。
さらに、「ニュースルーム・アワード」のような賞を設け、優れたニュースルームやコンテンツを評価し、認め合える場が生まれると面白いな、と考えています。優れたニュースルームやコンテンツを評価し合う文化を育て、共感でステークホルダーとつながる企業を増やしたいですね。
Q.あなたにとってのビジネス(事業)とは?
私にとってビジネスは天命です。広報を当たり前にするために生まれてきたと強く感じており、それこそが私の使命だと思っています。その目的に向かって生きることを、心から強く決意しています。
私は2006年に当社を一人で起業しました。その翌年、現在も共に歩む大久保仁氏と出会い、二人三脚で事業を進めています。彼とは全人格をぶつけ合い、徹底的に一対一の対話を続け、共に行動してきました。それは現在も変わりません。その対話の中で、「本来の広報」や「ブランディングの本質」にたどり着いたのです。
彼と出会う前の約10年間、私はパブリシティに専念していました。広報の本質を広めたいという思いが芽生えたのは、彼との出会いがきっかけです。彼と積み重ねた対話を通じ、それが大きな転機となり、広報の本来の意義を深く理解するようになりました。
Q.これから進路や将来を考える子どもたちに、あなたの仕事の魅力を教えてください。
私は自分の仕事を通じて、良い会社づくりに貢献したいと考えています。そのことが、企業で働く誰かの笑顔を作り、みんなが誇りを持って働ける環境を整えることにつながります。広報の仕事は企業の魅力を伝えることです。人々がその企業に共感し、一緒に成長できる仲間を増やすことにつながります。
大手企業でも中小企業でも、広報を通じて企業の透明性を高めることで、社員や取引先が安心して働ける環境をつくることができます。隠さずに自社の活動や考えをオープンにすることで、真に共感してくれる人たちが集まり、皆が笑顔で働ける会社が増えていきます。
最終的に、仕事を通じて調和による安心な社会をつくることにつながっていくのです。企業は人で成り立っています。私の仕事の最大の魅力は、自身の仕事に誇りを持ち、喜びを感じながら働ける環境をつくることです。
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