#14 「経営の基礎体力」とは?

こんにちは、荒木 洋二です。

■戦略や戦術が実らないのはなぜ?

企業社会には膨大な情報があふれています。欧米から輸入されてきた戦略や戦術(施策)の数々が、外来語(つまりカタカナ用語)とともに日本企業の現場や日常を席巻しています。経営企画、新規事業立ち上げ、マーケティング、人材育成など、あらゆる業務に浸透しています。

同じ戦略や戦術を採用したとしても、着実に実りを上げ成長する企業と、何をやってもちっともうまくいかない企業に分かれます。なぜ、こうも差が出るのでしょうか。なぜ、戦略や戦術が実らないのでしょうか。

結論から述べます。
それは、「経営の基礎体力」が備わっていないからです。
この一言に尽きます。

■アスリートたちの共通項

スポーツ観戦を趣味とする人はかなりの人数いるでしょう。

実にさまざまなスポーツがあり、個々人により嗜好は異なります。野球、サッカー、ラグビーなどの団体スポーツを好きな人がいます。柔道、卓球、水泳、陸上、スケートなど、主に個人技を競う方が面白いと感じる人もいるでしょう。いずれにしろ、アスリートたちがその鍛錬を重ねた身体を武器に、白熱した試合を展開します。そんなアスリートたちの躍動する姿に多くの人々が魅了されます。

アスリートたちはスポーツのジャンルを問わず、共通する、あるものを必ず備えています。備えていない人は皆無と言っていいでしょう。では、共通するものとは何でしょうか。

それは「基礎体力」です。

基礎体力とは「筋力」「持久力」「柔軟性」「バランス」の四つで構成されるといいます。ある一定以上の基礎体力が備わっていない人は、どんなに優れた戦略を知っていようとも試合には勝てません。戦略を実行できる能力を身に付けていないからです。どんなに優れた技術を習おうとも試合には勝てません。そもそもの基礎体力がないのに、試合でその技術を発揮できるはずがありません。身に付いてすらいないでしょう。

■利害関係者こそ経営資源

企業経営にも同じことがいえます。

戦略や戦術が、企業の成長に、しかも持続的な成長につながらないのは十分な基礎体力が備わっていないからです。時折、成果が上がったように見えても、それが一過性で終わってしまうのも同じ理由です。

では、経営の基礎体力はと何なのか。

それは、企業・組織を取り巻く関係者たちとのつながりの程度です。これら関係者のことを「利害関係者(ステークホルダー)」といいます。具体的にいえば、経営者・社員(スタッフ)に始まり、顧客、取引先(業界)、株主・金融機関、地域社会などです。

つながりの程度とは何かというと、次のとおりです。

・それぞれの利害関係者とのつながりの太さや強さがどの程度なのか。

・お互いの関係が希薄で表面上だけのつながりになっていないのか。

・一過性で終わらずに長くつながり続けることができるのか。

・膠着したり妙に縛られたりせず、お互いにしなやかな関係を築けているのか。

・関係者たちと偏りなく、バランスよく付き合えているのか。

それぞれの程度の組み合わせが「経営の基礎体力」を決定付けています。

経営資源といえば、ヒト・モノ・カネ、それと情報です。一つ一つを突き詰めていくと、全ては利害関係者からもたらされるものばかりです。利害関係者との関係なくして、何一つ生み出されません。

つまり、利害関係者こそ、経営資源なのです。

経営学者の遠藤 功 氏は、「経営戦略とは経営の意志であり、利害関係者との約束」だと定義しました。約10年前、建機で有名なコマツの坂根会長(当時、現・顧問)の講演を拝聴する機会がありました。坂根氏は「企業価値とは利害関係者の信頼の総和」であると語られました。「広報=PR=パブリック・リレーションズ」であり、意訳すると「利害関係者と良好な関係を築くこと」です。リスクマネジメントもCSR(企業の社会的責任)も、利害関係者との関わり方が中軸を担っています。

このように経営の文脈を丁寧にたどると、利害関係者の存在が浮かび上がります。

■広報PRの実践で基礎体力を鍛える

パブリック・リレーションズとは利害関係者と良好な関係を築くことです。良好な関係を築くためには、双方向のコミュニケーションが欠かせません。コミュニケーションとは、「見る、聞く、考える、話す」の四つの要素で成り立ちます。具体的に表現すると次のとおりです。この過程を繰り返し、積み重ねていくのです。

・利害関係者の姿や振る舞いをつぶさに観察・洞察する。

・同じく生の声や本音、心の声まで傾聴する。

・得られた情報を論理的思考で整理・分析し、戦略を立てる。

・策定した戦略に基づき、自らの価値を伝える。

まず、利害関係者たちと正面から向き合うことから始まります。広報PRの実務の要諦は、自ら価値を伝えることです。利害関係者から選ばれ続けることで、企業・組織は永続できます。選ばれ続けるためには、常に環境の変化に適応しつつ、利害関係者と正面から向き合い続け、自ら価値を伝え続けるしかありません。これら広報PRの営み、実践が経営の基礎体力を鍛えることにつながります。

鍛え続け、確かな基礎体力を備えることができれば、優れた戦略のもとで事業を営むことで、確実に成長へとつなげることができます。優れた各種施策が現場で見事に運用され、それぞれの施策は豊かな実りを上げることができるでしょう。

広報PRの本質を理解し、実践する能力を身に付けることで、「経営の基礎体力」は強化できるのです。

ここが出発点です。正しく広報PRに取り組もうではありませんか。

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