【ポッドキャスト #11】オーディション・プロジェクト「No No Girls」から見えた広報の本質

ラッパー兼シンガーのちゃんみながプロデュースしたガールズグループのオーディションが、異彩を放ち注目を浴びました。

誕生するまでの軌跡、つまり「舞台裏」に密着し、毎週配信することでデビュー前から熱烈なファンが生まれました。

ガールズグループ「HANA」が誕生するまでの「舞台裏」に密着

荒木: みなさん、おはようございます。

濱口: おはようございます。

荒木: 今週も『広報オタ倶楽部』をお届けします。

『広報オタ倶楽部』は、本来の広報、企業広報の在り方を広めるべく、28年にわたって企業広報活動を支援してきた私、荒木洋二による、「オタク」目線で語る広報の哲学ラジオです。聞き手は・・・

濱口: 「まな弟子」の濱口ちあきです。自分で「まな弟子」と言ってしまいましたね。

荒木: では、今週もよろしくお願いします。

濱口: よろしくお願いします。11本目の(当番組)収録にして初めてのオープニングですね。

荒木: 初めて、オープニングでちゃんと自己紹介ができたね。

濱口: 私、笑いをこらえるのに必死です。

荒木: 今後は毎回、ちゃんとオープニングをやりましょう。

濱口: そうですね。ラジオらしくいきましょう。

荒木: 今日は、いつもと雰囲気の違った話題に触れようと思います。

それは、ガールズグループのオーディション番組『No No Girls』(BMSG傘下のB-RAVE主催)。割と話題になっていたけれど知っているかな。

濱口: いえ。私は、「CCガールズ」しか分からないです。

荒木: 「CCガールズ」は、古くないかな? 古いよね。

濱口: 「No No Girls」は、それ(「CCガールズ」)とは、関係ないですよね? 

荒木: はい、関係ないですね。私は結構マニアックなところがあるので、これをよくチェックして、ついウォッチしてしまう。

濱口: 荒木さんは、マニアックなものしかウォッチしていないですね。

荒木: 確かに、そうなんだよ。

「No No Girls」は、(日本の)女性ラッパー兼シンガーの、ちゃんみながプロデュースしたガールズオーディション・プロジェクトのこと。ちゃんみなさんは知っているかな。

濱口: いえ。もう、全然分からないです。

荒木: ちゃんみなさんは、日本人(父親)と韓国人(母親)のハーフで、日本語、韓国語、英語を完璧に操る。彼女は20代で、主に同世代(20代を中心)に絶大なる人気を集めているアーティストなんだ。

(少し話が長くなるけれど)元々は、(男女混合ダンス&ボーカルグループ)AAAのメンバーにSKY-HI(スカイハイ:日高光啓)という人がいる。彼は、2020年に音楽プロダクション、BMSGを立ち上げた。

彼が主催するボーイズグループ発掘オーディション「THE FIRST」から誕生した、最初のボーイズグループがBE:FIRST(ビーファースト:日本の7人組ダンス&ボーカルグループ)。彼らは2021年にデビューを果たした。濱口さん、彼らのことは知っているかな。

濱口: もう、そっち系の界隈は全く分かりません。

荒木: このオーディション「THE FIRST」は、SKY-HI氏が自己資本で1億円かけて開催した。そして、その模様は日本テレビとHulu(日本テレビ系、アメリカの定額制動画配信サービス)が全面的にバックアップし、YouTubeやHuluで配信され人気を集めた。

配信では、「THE FIRST」の合宿模様や、オーディションの一次、二次、三次と選考が進む様子、参加者が一人ずつ選ばれていく様子などに密着し、ずっと映し続けていく。

今振り返るとBE:FIRSTが誕生するまでの舞台裏を、ずっと追いかけていたということ。デビューした彼らは、NHK紅白歌合戦に3年連続(第73回~75回)出場を果たし、2024年~2025年にかけてドームツアー(4都市9公演)を開催するぐらいの人気グループになった。

SKY-HI氏は、日本の音楽業界に危機感を持っているという。K-POPに押されていることなどから、「このままではいけない」、「日本に本物のアーティストを育てよう」という思いから取り組みを始めた。

グループ(7人)全員が、踊れて歌える(口パクなしで歌がうまく、しっかり踊れる)グループにするためのオーディション。

選ばれたメンバーの中には、ダンスの世界チャンピオンも入っていて、主に日本テレビ系列『スッキリ!!』(朝の情報番組 2006年4月~2023年3月)で取り上げられて話題になっていた。

そのSKY-HI氏が今度はガールズグループを作るということで、ちゃんみなさんを指名し、全権限を彼女に移譲するとしてプロデューサーに迎え、「No No Girls」が始まった。

SKY-HI氏は経営者であり自身もアーティストということで、最近では『東洋経済オンライン』のインタビューを受けている。BE:FIRSTや今回の「No No Girls」の反響、さらに、利益も出しているということで、「音楽業界を変えるかもしれない」と注目されている。

濱口さんは、これまでに「No No Girls」について、全く聞いたことはないですか。

濱口: 荒木さんの口からしか、聞いたことがないですね。

オーディション番組が示した、熱烈なファンを生み出す秘訣

荒木: ちゃんみなさんの話で印象に残った面白い話がある。それは、「人格や性格、これまで経験してきことは表情や声に出る」「その人の人生が声に乗っていればいい」という。

同オーディションには(世界各国から)7000通を超える応募が集まった。応募メッセージには、「身長、体重、年齢はいりません。ただ、あなたの声と人生を見せてください」と示され、そういうスタンスで女性を集めた。

濱口: 面白いですね。

荒木: このオーディション番組は、なぜ「No No Girls」というのか。そこには、ちゃんみなさんがガールズグループのメンバーに求める三つの「No」があった。それは、同オーディションの審査基準でもある。

「No FAKE (本物であれ)」「No LAZE(誰よりも一生懸命であれ)」「No HATE(自分に中指を立てるな)」。この、ちゃんみなさんの発信に共鳴し、これまでの人生でさまざまな「No」を自分に突きつけたり、人から突きつけられたりしてきた女性たちが集まってきた。

例えば、これまでの人生でダンスも踊れて歌もうまいけれど、ルッキズムによってオーディションに落ちた経験を持ち、自信をなくしている人など。そうしたさまざまな人たち7000通の応募の中から30人を選び、1年間かけて最終的には7人まで絞り込んでいくプロジェクトだった。

これも(「THE FIRST」と同じく)YouTubeやHuluで審査の模様を(毎週)配信し、そのたびにファンが増えていった。そして、なんと、最終審査は、今年(2025年)1月11日にKアリーナ横浜(収容人数は約2万人)で開催された。同イベントは、ライブにて最終審査会を実施し、併せてコンサートも開かれるということで、5万人以上の応募があり、3分で完売するほどの盛り上がり。

この盛り上がりの面白いところは、年代や(女性は確かに多いけれど)性別を問わず多くの熱烈なファンがいるところ。毎週配信される彼女たちの舞台裏を見続け、一生懸命に努力したり、涙を流したりする姿(舞台裏)に共感し、応援してきたからこそファンになる。

プロデューサーである、ちゃんみんなさんは当時26歳。オーディション期間中(2024年7月)に結婚と妊娠を発表している。自身がそうした状況の中で、とても真剣に、本当に面倒見も良く、本質を突いたことを語っている。それによって、自信がなかった子たちが自信を持ち始め、成長する姿を1年間かけて追いかけてあった。

最終審査イベントでは、最終候補のメンバーたち(10人)だけではなく、三次審査まで進んだ候補者全員(30人)が出演するパフォーマンスや、ちゃんみなさんのステージ、(スペシャルゲスト)倖田來未さんらのパフォーマンスも披露された。同イベントの最終審査では、最終候補者たちが5人ずつに分かれて課題曲(プレデビュー曲)を歌い踊るほか、ちゃんみなさんの楽曲を全員がソロで披露する。彼女たちはデビュー前にもかかわらず、2万人の観客の前でのパフォーマンスとなった。

そこで、ちゃんみんなさんは課題として「自分(ちゃんみな)を超えろ」と示し、それぞれのオリジナル楽曲として披露することを求めた。そこで、ついにデビューする7人が選ばれ、グループ名「HANA」として誕生した。

彼女たちは芸能関係者からも注目を集めている。特に同イベントのMCを務めたMyM【マイムー:大島美幸さん(森三中)とガンバレルーヤ(よしこさん、まひろさん)が結成した音楽ユニット】は、彼女たちの熱烈なファンですごく感情移入して応援している。

そして、同イベントで特に驚いたことは、最終候補のメンバー10人とも、「本当にデビュー前なのか?」と思うほど堂々と2万人の前で歌っていた。でも、会場の2万人はすでに彼女たちの熱烈なファンだから、すごく温かい雰囲気の中で(誰一人として敵がいない会場で)審査が進んだ。彼女たちの歌を聞いたみんなは「あんなに自信がなかった子が、こんなにも迫力ある歌を歌えるんだ」と感動して目がうるうるとしていた。

1年間のプロジェクトだったけれど、放送が始まったのは半年ぐらい前。それから毎週YouTubeでアップされ、その次にはHuluで放映される。そうして、これまでの過程を見てきたから、(視聴者は)みんな情が入っている。だから、デビュー前にもかかわらず、その歌を聴くと目を潤ませてしまう。

濱口: そりゃ、感動しますよね。

荒木: 大事なのは、その人がどのような葛藤を抱え、どんなこと(もの)を突きつけられてきたか、あるいは、(同プロジェクトで言えば)合宿やオーディションの中で、いろいろな経験をしながら変わっていくさま、それらを全て見せること。その上でのパフォーマンスであって、ただパフォーマンスだけを見せるわけじゃない。そこには、見ているみんなの感情移入する度合いに違いが出る。

なぜこの話をしたかというと、本当に情熱やこだわりを持って企業経営をしている、あるいは働いているのであれば、その姿はありのまま見せた方が、やっぱりいいと感じたから。

濱口: 全部見せた方がいいですね。

荒木: 改めてその力(ありのままの姿を見せることによる影響力)を感じる。弱い部分や葛藤する姿を全て見せながらデビューまでの過程を追ってきた。だから、最初から熱烈なファンが多い。私も人生初の「推し」ではないか、というくらいに彼女たちがデビューした後にはすぐさま、オフィシャル公式YouTubeにチャンネル登録した。

濱口: あら! 「推し」になっちゃいましたか。

荒木: 当日、会場には行けなかったけれど、(翌日にはHuluで)当日のオーディションの一部を切り取って配信してくれたから、それを見ることができた。それを見たとき、思わず感動して、うるっと目頭が熱くなった。彼女たちの真剣さに心を揺さぶられ、生きてきた年数なんて関係ないと思えるほど、魂がびんびん伝わってくるんだよね。

だから、(彼女たちの成長も)すごいな、と思うし、改めて「広報って大事だな」とも感じた。

濱口: 広報、大事ですよ。「舞台裏を発信する」というところですよね。

荒木: パフォーマンスを見ただけでも感動する場合はある。でも、今までルッキズムやさまざまな批判を受けたり、批判されるためのアカウントを作られたりと、つらい経験をしてきた人たちがいる。また、能力はあるのに「No」と言われ続け、自信を持てなくなってしまった人たちもいる。そんな彼女たちが

「No No Girls」を通して変わっていく姿を見た上で、パフォーマンスを見れたことは本当に良かった。

そして、ちゃんみなさんの話を聞いて「やっぱり広報が大事だな」と思った。その内容は、「まず、自分たちのメンバーを大切にしなさい」(自分と向き合い、メンバーたちと向き合う)ということ。それから、「自分たちのステージのために、真剣に関わってくれているスタッフに対する感謝の気持ち、大事にする気持ちを持ちましょう」ということ。そして、そうした思いが土台にないと、2万人の観客に圧倒されてしまうという。

2万人の心を動かすためには、まず自分と向き合うことが必要。そして、メンバー同士が本当に大切に思い合い、信頼関係を築いていくことが欠かせない。さらに、関わってくれた多くのスタッフに感謝し、しっかりとした関係を築くことが重要。

それがなければ、ファンはつかないし、2万人の心に響く歌は歌えない。だからこそ、大切にしなければいけないと改めて感じる。

実際に彼女たちにダンスや歌を教えたプロの先生も会場に来ていて、イベント中に彼女たちに向けてコメントを伝える。その場面では、先生たちが彼女たち(の成長)に心打たれ、感極まって涙する様子があった。特に先生たちは、1年間みっちり彼女たちと付き合ってきているから思いも深い。

濱口: その場が、集大成ですもんね。

企業広報にも通じる「舞台裏」を見せることによる効果とは

荒木: だからやっぱり、目の前の人を大切にしていくこと。何でもそこから始まる。これが、やはり広報だと思う。それ(目の前の人を大切にしていく思い)がないと、ファンはつかない。

彼女たちの乗り越えていく姿に、(彼女たちを応援してきた)視聴者たちが「私も今までNoと言われてきたけど、自分も頑張ろう」という気持ちになってきていて、ものすごいファンがついている。だから、プレデビュー曲(まだデビュー前)なのにYouTubeのミュージックビデオが再生回数600万回を超えて、700万回に迫る勢いがある(2025年4月、ソニー・ミュージックレーベルズよりメジャーデビュー予定)。

濱口: そりゃ、すごいですね。

荒木: デビュー前なのに結構なものだと思う。YouTubeのコメント欄には、温かいコメントしかなく、批判する人はいない。それは、ファンによって守られた一つのコミュニティみたいなものが作られている感じがある。

濱口: それはすごい話ですよ。芸能界の中に、そういう話はないですよね。

荒木: ないよね。ちゃんみなさんにとって初めてのプロデュース(今まではセルフプロデュース)で、本当に真剣で真面目なオーディション。彼女は日本語、韓国語、英語が完璧だったけれど、さまざまな「No」を突き付けられ、いろいろな目に遭ってきた。それを(そうした思いや経験を)歌詞にして歌うから、人々の心に刺さる。

濱口: 感情もそうなりますよね。

荒木: 彼女に勇気づけられたり、「人生が変わった」という人がいたりするぐらい熱烈なファンが多い。その、ちゃんみなさんが愛情深く彼女たちを育てて、ついにデビューを果たす。だから、私は本当に良いもの見せてもらったと思っている。

濱口: だから、「推し」になったわけですね。

荒木: やっぱり、舞台裏を見ているから本当に感情移入してしまうんだよね。例えば、(今は引退しているけれど)日本の女子卓球選手、福原愛さん。(ここ数年は批判にさらされているけれど)小さいころから彼女のこと(卓球する姿)をテレビで追いかけてきた。彼女が、お母さんの特訓に耐えながら涙を流す姿は、映像を通して多くの人たちが見守ってきている。だからこそ、オリンピックに出場する頃には「泣きながら頑張っていたあの子が…」という思いが強く残り、愛ちゃんファンがたくさんいた。

濱口: 小さい頃から知っていますからね。

荒木: そういう舞台裏を知ると、人は感情移入あるいは共感してファンになりやすい。今はインターネットの時代なので、もちろんHuluでやっていたんだけど、YouTubeでも配信していたんだよね、その模様を。別に動画とは言わないんだけど、やはり自分たちが普段努力している姿、真剣に仕事に取り組んでいる姿は、もっと堂々と見せていってもいいなと。それを社員一人一人にスポットライト当てて。

「No No Girls」のすごいところは、30人から始まったオーディションは最終審査では10人になる。だけど、最終審査に選ばれなかった20人に対してもファンがついているところ。だから、その20人がステージに上がっても歓声が上がる。それは、そのメンバーみんなが苦労して頑張ってきている姿を映像で見る中で、それぞれに「推し」ができていたということ。その「推し」を応援しているし、「推し」に勇気づけられている。

そうしたことから、広報の本質として「舞台裏」を包み隠さず伝えることの重要性を改めて感じた。

濱口: アイドルとかスポーツ選手にとっては「舞台裏」が大事だと、みんな思っているけれど、企業の「舞台裏」は別のことだと思っていますよね。だけど、全然そんなことはなく、企業も企業のストーリーがありますからね。

荒木: 企業のストーリーを構成する個人。細かく分解すると、個人や社員、パートナー、顧客など。その人たちとの心揺さぶるような一つずつのエピソードが、重なってストーリーになっていく。だから創業者だけのストーリーではなく、働く人たちや自社に関わる人たちそれぞれにスポットライトを当てて、彼らの思っていることや体験したことを言語化してもらう。そうすると、たくさんのエピソードが集まって大きな物語になっていくと思う。

濱口: そうですよね。

荒木: 改めて「No No Girls」のプロジェクトを見ながら、「やっぱり広報の本質は変わらない」と感じた話でした。

例によって時間が経ってしまいました。

濱口: めちゃくちゃいい話でした。私も「No No Girls」を見てみます。「CCガールズしか知らない」と言った自分が少し恥ずかしくなりました。もう、時代は変わりましたね。

荒木: 変わりましたね。ぜひ見ていただければと思います。

濱口: ありがとうございます。

荒木: 今週は「No No Girls」に見る広報の本質と舞台裏の大切さ、について話しました。

濱口: 広報の本質。それから、荒木さんの意外な「推し」の話でしたね。

荒木: そうですね、意外な「推し」ということで・・・。

濱口: 意外過ぎますね。

荒木: というところで、今日もありがとうございます。皆さん、今日も元気に仕事をしていきましょう。いってらっしゃい。

濱口: いってらっしゃい。

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