【ポッドキャスト #12】人気マンガからも読み解ける広報の本質

人気マンガ『闇金ウシジマくん』が、荒木・濱口の共通愛読マンガだったことが判明! しかも同じ視点で評価していました。

創業者の物語は企業ストーリーにおける重要なプロローグ。見落とされがちですが、社員一人一人のエピソードが企業ストーリーの最小単位なのです。

社員の体験とそれにひもづく思いが企業の物語を紡ぐ

荒木: みなさん、おはようございます。

濱口: おはようございます。

荒木: 今週も『広報オタ倶楽部』を始めてまいります。

『広報オタ倶楽部』は、本来の広報、企業広報の在り方を広めるべく、28年にわたって企業広報活動を支援してきた私、荒木洋二による、「オタク」目線で語る広報の哲学ラジオです。聞き手は・・・

濱口: 「まな弟子」の濱口ちあきです。今週も自分で「まな弟子」と言ってしまいましたね。

荒木: よろしくお願いします。

濱口: よろしくお願いします。

荒木: 濱口さんは、何か気になっていることや、「これってどうなんだろう」など思っていることはありますか。

濱口: 私は元々、コーチングの仕事をしていました。私がその仕事で独立したばかりの時の話です。鹿児島のとある企業のかたに、「有名なコーチング(企業研修)をされているかたを招いて社内研修をするので、勉強のために良かったら見に来ませんか」と声をかけてもらったんです。

私は、他の企業の社長さんや興味のあるかた数人にも声をかけて、研修に参加させていただきました。当然、その場には、(声をかけていただいた)その会社の社長や従業員たちもいました。研修の中で、(有名なコーチングをしているかたは)「従業員さんたちの、(自社に対する)思いの強さも分かります。でも、その思いは社長の思いを超えることは絶対にありません」という話をされたんです。

その話を聞いたのは、もう6年ぐらい前になるのですが、いまだに引っ掛かっています。私も従業員の時代が長かったので、何をもって「社長の思いを超える」ということになるのか。そして、それを従業員の前で話すことに「なんだかな・・・」という思いをずっと持っています。

荒木: 言い方の問題もあるのでしょう。当然、事業を立ち上げるということは並大抵のエネルギーではできない。特に長く続く企業の場合、創業者は事業に対して並々ならぬ思いとこだわりを持って立ち上げ、運営していく。だから、その気持ちは尊いもので、その情熱が全てのスタート地点となって動き始めている。そういう意味では、その創業者の思いを社員も知っておくべきだよね。そして、できれば社員だけでなく、全てのステークホルダー(顧客や株主、取引先も含めて)が知っておくべきだと思う。

だけど、「社長(創業者)の思いを超えるか、超えないか」という話については、比較の対象ではないよね。

濱口: そうそう、そうなんですよ。

荒木: そのことは、言い方の問題もあると思う。濱口さんの話にも良くあるように、企業経営のことを一般的には、ストーリー(企業の物語)と表現される。例えば、長く続く企業には必ず物語がある。企業の物語の最初は、当然、創業者が会社(事業)を立ち上げる時のいろいろな苦労やそれまでの経験がある。そうした経験を積み重ねて、やっとの思いで会社を立ち上げるに至る。

それは、企業の物語でいえば、プロローグ(序章)という位置づけだと思う。それ以降も創業者(経営者)の思い、あるいは、それを継ぐ人の思いがストーリーの中に出てくるけれど、「最初の熱い思い=尊い思い」はプロローグ(始まり)だから、みんな知っておいた方がいいし、(繰り返しになってしまうけれど)その思いを超える、超えない、ということではない。

濱口さんが感じたように、(有名なコーチングをしているかたの言い方では)社員側の士気が下がったり、気持ちがなえてしまったりしかねないと思う。

濱口: そうですよね。

荒木: その話を聞いた社員の思いは複雑だよね。

濱口: 複雑だったと思います。当事者じゃない私が聞いていても複雑だったので・・・。頑張っている社員たちも、いっぱいいたはずなので「それは言っちゃ駄目だよ」と思いましたね。

荒木: 真意は別にあったのだろうけれど、何かを強調したいあまりに配慮に欠けた発言だったように思う。「社員さんたちの思いも強いと思いますけど」と「だけど・・・」という言い方をすると相手を否定するような形になってしまう。

濱口: そうなんです。

荒木: それは良くないよね。

逆に、「創業者の思いには、とても熱い思い(こだわり)があって、皆さん知っておくべきだと思います」「その思いは会社の始まりですから、共有しましょう」というように伝えたいね。

そして、「皆さん(社員)がいないと会社は成り立たない。だから、皆さんの思いもとても大事で、それがいろいろな人たちに伝わって、広がっていく。皆さんがどういう思いで仕事に取り組んでいるのかということは、とても大切です」と、そうしたことをみんなに伝えないといけないと思う。

(以前から話しているように)私は、ドラマ好きで、昔は漫画もよく読んでいる漫画少年だった(少年ではなくなってからもよく読んでいたけれど)。そんな私がよく思うことは、面白い漫画は、主人公以外の脇役の人物についても丁寧に描かれているということ。おそらく、ドラマの脚本家も、漫画を描く人、あるいは漫画の原作者も、かなり取材をしていると思う。

現実世界のいろいろなところに自分が飛び込んでいって取材して、さまざまなエピソードをかき集めているからこそ、すごく現実味があって、考えさせられたり、いろいろな意味で心を揺さぶられたりする漫画やドラマが作れるのだと思う。そして、取材に基づいているから、脇役まですごく丁寧に描くことができる。

『闇金ウシジマくん』など、脇役を丁寧に描くマンガがなぜ人気が高いのか

濱口: そうですよね。私は、『闇金ウシジマくん』(作者:真鍋昌平、出版社:小学館)がずっと好きで読んでいました。

荒木: そうなんだ。驚き!

濱口: 主人公は「ウシジマくん」なんですが、そのウシジマくんが出てこない回もあるんですよね。その原作者はすごく取材をするようで、作品に登場する脇役も驚くほど忠実に描かれているため、「なんで勝手に俺の話を書いているんだ!」と全く知らない人からクレームの手紙が届くこともあるそうです。その話を聞いて、「なるほどな」と思いました。

荒木: 濱口さん、それは意外な共通点。私も『闇金ウシジマくん』に同じことを思っていた。

濱口: 本当ですか!

荒木: 濱口さんの話を聞きながら「その話、濱口さんにしたことあったかな」と思ったぐらい。私もよく例に出して人に話をする。濱口さんと同じく、「主人公(ウシジマくん)が最後の最後にしか登場しない」と。

現実の取材をもとに描いているからこそ、あんなふうにリアリティのある作品が書けるのだろう。確かに物語の主人公はウシジマくんかもしれない。だけど、そこに関わる人たちを丁寧に描くからこそ、ファンがつくし、映画化されるほど人気の漫画になったのだと思う。

濱口: 主人公が出ないって、すごいことですよね。

荒木: 他にも(背景が丁寧に描かれている作品に)『バンビーノ!』(作者:せきやてつじ、出版社:小学館)というイタリアンレストランを舞台にした作品がある。

濱口: はい、はい! 松本潤さん(男性アイドルグループ嵐のメンバー)が主演でドラマにもなっていましたよね(『バンビーノ!』2007年4月18日~6月27日、夜10時から放送開始の日本テレビ系「水曜ドラマ」)。

荒木: そう、そう。そのレストランに訪ねてくるお客さんは、すごく(味にうるさい)美食家であり、いろいろな人生経験を積んできている人ばかり。そのような場で物語の主人公は、ある女性客を料理でうならせる場面がある。彼女は修羅場をくぐり抜けてきた人生を送っていて、物語ではその背景が丁寧に描かれる。この作品も(『闇金ウシジマくん』と)同じように(その間は)主人公は出てこない。

この作品はさまざまな背景を持った人(お客さん)に対して、どういう料理を提供するのか、という話。その描き方がとても丁寧だと感じる。

これらの作品と同じように、「創業ストーリー」はどんな企業にもある。だから、それを丁寧に描く事は大事で、みんな(社員や、その他のステークホルダー)がそれを知るべきだと私は思う。そこからつながっていく人たちがいるからこそ、企業の歴史が続いていく。

濱口: そうですよね。

荒木: そして、その企業の社員たちが体験した事や思った事を言語化した方がいい。

濱口:それは本当にそう思います。

荒木: 体験は誰かに伝えない限り、本人の中だけにとどまってしまう。しかも、本人がその体験を言葉にして人に伝えてみなければ、自分の中でもそのことを整理できなかったり、時間の経過とともに薄れていってしまったりする。

濱口: その瞬間じゃないとできない表現の仕方がありますよね。

荒木: みんなそれぞれ違う人生を歩んできた人たちが、一つの会社に集まって、同じ理念やビジョンのもとに仕事をしている。だけど、当然ながら持っている経験や価値観はみんな違う。だから、たとえ同じような仕事をしていても感じ方は人それぞれで、体験はどれもオリジナルなもの。つまり、その人だけの唯一無二のエピソードがたくさん集まることになる。

だからこそ、それぞれの体験をきちんと聞くためにインタビューなどをして言語化してもらう。そして、共通の言葉で整理し、分かりやすい文章にして残しておく。そうすると、本人にとっても、例えば3~4年経って仕事に行き詰まった時や、何かに悩んだ時に、4年前の自分のインタビューを見返して、「そうだ、自分はこういう気持ちでやっていたんだ」と原点回帰できる。あるいは、他の人が読んだ時に、その体験を追体験できて、「なるほど、そういうことか」と共感したり、新しい気付きを得られたりする。

体験には感情はつきもの。人は感情を持っているから、感情とともに語られるのがエピソード。そのエピソードの中には、具体的な体験と思いが詰まっている。その個々人のパーソナルなエピソードが、実は、ストーリーを作る最小単位だと私は思っている。だから、そこにスポットライトを当てて、インタビューで引き出し、言語化していかないと大事な会社の資本が薄まって消えてしまうように思う。

濱口: それは、悲しいですよね。

荒木: 濱口さんが言うように、だから本当に社員って大事だよね。

濱口: 荒木さんがいつも話されているように、(会社では社長がトップだとは思うけれど)会社を作っているのは従業員。会社はみんなでつくっているものだと思うので、(前述の)「社長の思いを超えることはない」という言葉を聞いて、すごく独りよがりなになってしまうのではないか、と思いました。

でも残念なことに、その場にいた社長たち(主催した会社も他社も含め)が、赤べこ(福島県会津地方の張子の郷土玩具)のようにうなずきながら聞いている姿を見て、「いやいや、(社員側の士気が下がったり、気持ちがなえてしまったりするのは)そういうところですよ」と思ったんです。

ラグジュアリーブランドに見るブランド4要素とは「歴史」「土地」「人物」「技術」

荒木: ところで、ヨーロッパのラグジュアリーブランド(カルティエやルイ・ヴィトンなど)をひたすら研究している長沢伸也氏(早稲田大学ラグジュアリーブランディング研究所 所長)。彼は、「なぜこれほどまでに世界中に広がり、愛され、価値や価格も高いのか」と研究する中で、「ブランドの4要素」があることを示している。その4要素は、「歴史」「土地」「人物」「技術」。

「人物」とは、決して創業者だけのことを指しているわけではない。デザイナーや技術者なども強いこだわりを持っている。ラグジュアリーブランドには必ず、伝説のデザイナーとか、卓越した技術者などがいて、彼らの物語をみんなが知っている。それは、その物語をちゃんと伝えているということ。だから価値が高い。

長沢氏の著書には、「その歴史や人物、技術をしっかりと伝え続けてきた背景がある」ということが書かれている。だから、もちろん経営者や創業者は大切だけれど、それだけではなく、関わる人々、特に社員たちの思いも重要。それがなければ、企業は成り立たない。だから、そういう意味では、濱口さんが抱いた違和感は、なんとなく分かる。

濱口: そうですよね。めちゃくちゃうれしいです。

荒木: 「言い方」にもよると思うけれど、ともすれば、(会社の中に上下はないはずなのに)社員を軽視したようなニュアンスに受け止められてしまうことは良くないよね。

濱口: そうですね。まだまだ、やっぱりどこか上下をつけている会社が多いなと思いました。そして、私が思ったことは、「荒木さんが同じように研修をすることになった場合、絶対にそういう(社員を軽視した)表現はしない」ということです。

荒木: それは、しませんね。

濱口: そうですよね。そうすると、口では(上下はないと)同じようなことを言っていても、どこかで上下関係をつくってしまっているかたは、まだまだ多いように思います。

荒木: そうだね。それは、あるのかもしれない。

濱口: その状態では、まだ良好な関係は築けていないと思います。だけど、逆に言えば「のびしろ」だと言えます。

荒木: そうだね。そういう意味では、経営者が一番、思いを込めて社員と接して、(自社に対して)自分が大切にする以上に同じ思いで大切に思ってくれる人が現れたなら、それこそ次の代に引き継がれ企業は続いていく。場合によっては、相当なこだわりを持った技術者がいたら、その人の技術に対する思いは、ある意味では創業者を上回るぐらいの思いを持っている場合もある。

濱口: そうですよね。「2代目が創業者を超える」という話は良くある話ですよね。

荒木: 社員の中でも、技術やデザインなどそれぞれの分野でみんなが力や思いを持っている。それが同じところに集まって一つの会社を経営している。だから、上下もないし、優劣もない。みんなフラットで、同じ価値を持った者たちが役割を持っている。例えば、「創業者という役割を持っている」というような考え方の方がいいと思う。

濱口: うん。間違いないですね。

荒木: そんなところで、今日は濱口さんからの「お題」でお送りしました。

すごく大事な視点だと感じました。

濱口: うれしいです。ありがとうございます。まさかの共通点が『闇金ウシジマくん』だったっことは意外でした。

荒木: 意外な共通点だった。同じことを本当に他の人に話していたから、びっくりした。「あれ、私の鏡か!」と一瞬思ってしまった。

濱口: 私は元々、荒木さんの大ファンで、こうやって学ばせていただいていますから、共通点があって良かったです。

荒木: 感じ方が似ているんだろうね。

今回は、(ウシジマくんの話ではなくて)ちゃんと社員と向き合って、社員がいるからこそ企業経営が成り立つということ。だから、彼らの思いを大事にした方がいいし、それを「見える化」した方がいい。そうすると、彼らの体験を共有することができて、社長や顧客にも伝わる。

体験は「見える化」しないと、次第に消えてしまい、残らない。それでは、共有することができないからね。経験で得た大事な思いを共有できないことは、もったいない話。企業には、そんな「もったいない」がたくさんあるはずだから、「もったいない」をもったいなく終わらせないためには、インタビューをして「見える化」し、残していくことが重要。それが企業の資産になっていく。

という話で、今回も放送終了時間の20分が経ちます。

濱口: あっという間の20分です。

荒木: 今日はここで締めくくりたいと思います。今日もありがとうございます。皆さん、今日も1日お仕事頑張ってください。いってらっしゃい。

濱口: いってらっしゃい。ありがとうございます。

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