【ポッドキャスト #06】 ブランディングって「焼き印」すること? 発信する「情報」の中身を考えてみよう!

ブランドの語源から企業ブランディングとは何か、どんな情報を発信すればいいのかをひもといています。

ネットの普及により、企業に関わる人たちの「感情」面の情報を発信することがより重視されている内容です。

企業広報、企業ブランディングにおける「ありのまま」の情報発信の重要性

荒木: おはようございます。

濱口: おはようございます。

荒木: 濱口さん、今日もよろしくお願いします。

濱口: よろしくお願いします。なんかいいですね、(『広報オタ俱楽部』の収録が)毎週の楽しみになってきました。

荒木: 一人でブツブツと言っていても、しょうがないから、話せる相手がいるというのはいいね。

濱口: いくら「オタク」の荒木さんといえども、一人で話し始めたら、これはもう重症です! 病気ですよ。

荒木: そうそう、よくないよね。

濱口: よくない、よくない。一緒に話しましょう。

荒木: 話しましょう。

最近ずっと思っていることがあるんだ。われわれは広報に関わっていて、情報を扱っている。特に私たちの場合は、企業に関わる情報を扱って、それを仕事としている。そこでよく思うのは、コロナ禍になってから、Zoomなどを使用したオンライン(でのコミュニケーション)が当たり前になった。

その中で、さまざまな経営者交流会に多く参加して、いろいろな人たちに会う。そうすると、(あくまでも肌感覚だけど)SNSの運用(代行)事業者、あるいはリード獲得、マーケティング代行などの事業者が、すごく増えている。

濱口: 増えていますよね。

荒木: 彼らは(前述の事業者は)、「オウンドメディアを作りますよ」とか、「ランディングページ(LP)を作りますよ」など、いろいろな言い方がある。要は、企業の情報をどう取り扱って、どう発信するか、ということ。そういった意味においては、事業者の名前は、オウンドメディア、LP、SNSなど、言い方はさまざまだけど、扱っているのはクライアント企業の情報。そういう意味では、同じことだと思う。

濱口: うんうん、そうですね。

荒木: この「情報の中身」がどうなんだろうか、ということを今日は話題にしたいと思う。

濱口: いいですね。中身は大事ですからね。

荒木: これだけインターネットが広がったから、誰もが情報発信の主体になれる。SNSやユーチューブもあるので、ちょっと勉強して、IT機器を使えるようになったら(スマホ一つでも)、誰でも情報発信できる時代になった。

ある面、フェイクニュースが広がりやすい部分はある。けれど、その反面、うそはつけない。例えば、企業が表でどんなきれいなことを言っていても、働く社員や関わった人たちが、「それ、違うじゃないですか」と言えば、ばれてしまう。

濱口: 簡単に発信できますもんね。

荒木: 中には、悪意を持った情報もあったりするけど、全部がそうではない。そうすると、うそはつけない時代になっている。そんな時代の中で、企業はどんな情報を、発信すればいいのか。このことは、広報もマーケティングもブランディングも、みんな情報を扱っているから、ちゃんと立ち止まって考えてみる必要があると思う。

濱口: うん、なるほど。

荒木: そこについて、(私が)思っていることを小難しい話にならないよう、気を付けて話すね。

一般的に「ブランド」とは、機能的な価値と情緒的価値、両方が合わさって「ブランド」という。だから、「ブランディング=ブランドをつくっていく」ためには、機能的な側面の情報ばかりじゃなく、企業の場合は、企業の情緒的(感情的)な側面の情報も発信する必要がある。そうしないと、企業ブランドはつくられないということになる。

以前放送(#03配信回)で「信頼関係を築くには、能力だけじゃなくて、その動機(気持ちや心)が大事」という話をした。言い方を変えてみると、それと同じことになる。

濱口: 今、「ブランディング」って言葉は、めちゃくちゃ言って(使われて)いるけれど、(意味合いが)曖昧ですよね。

荒木: 曖昧だね。(#1の配信時)「PRとアピールとプロモーションの違いを述べよ」という話をしたとき、「いやらしい(意地悪)」って言われたけど、さらにもう一つ、「ブランディングとマーケティングの関係を述べよ」とか「お互いにどういう役割があるか、日本語で説明してください」など、同じように聞くんだよね。

濱口: マニアックですね。

荒木: ブランドの語源を考えてみると、(諸説ある中で有力なのは)ヨーロッパの古代ノルド語で「brandr(ブランドル)」という意味がある。家畜の「焼き印」ね、「夜勤」じゃないよ。

濱口: ジューッ、って(押す)やつですね。

荒木: ヨーロッパの酪農家たちは、自分の家畜なのか、隣の(酪農家の)家畜なのか、外見からは識別できないよね。

濱口: できない、できない。

荒木: なので、焼き印で識別していた。そういう意味で、商品のロゴとか、企業のロゴを作ることは、それを見ただけで(他の企業や商品と)認識できるし、ある意味でブランドを認知してもらうためには重要だと思う。

「家畜の焼き印」を広報(情報)という視点を入れて本質的に話すと、企業ブランディングとは、(その魅力は企業によってさまざまだけど)「自分たちの会社の魅力を、みんなの心に焼き印する」ということ。心にね。

濱口: なるほど・・・いいですね。おしゃれ(な表現)です。

荒木: ありがとう。「みんな」って誰かというと、前回(#5で)話した「ステークホルダー」のこと。すでに、お付き合いをして関わっている目の前の人たちの心に、「ちゃんと焼き印できていますか?(ジューッとなっていますか?)」ということ。

もう一つのブランドの語源は、「burn(バーン)=燃える、焼く」という意味がある。熱がなかったら、当然、焼き印もできないから「burn」の燃えるも、確かにそうだと思う。

ちゃんと自分たちの事業を通じて、何かを変えていく(社会を良くしていく)、そういう強い思い(情熱)を持った企業じゃなければ焼き印はできないからね。焼き印をされると、常に(ステークホルダーの)心の中にあるから命令しなくて(されなくても)も「うちの会社いいよね」とか「ここの商品いいよ」と言ってくれる。

濱口: なるほど、忘れないですよね。

荒木: それが、われわれが目指す企業ブランディング。

単なる機能的な情報ではなく、企業の情緒的側面や感情に訴える情報を発信することが重要

荒木: 情報においては、機能(左脳の論理的思考)だけを訴えるのではなく、もっと感性とか感情(右脳の側面)の情報も発信していく必要がある。そう考えると、機能面の論理的な思考は当然大事だけど、そっち方面の情報に偏っているんじゃないかと思う。

濱口: そうですね・・・。メルマガとかを見ても、大体が「セール中です、安くなりましたよ」と、そういう話ばっかりです。

荒木: 他にも、キャンペーンとか、新製品の知らせなど、「こんないいとこが、ありますよ」という情報が多い。もちろん、それは言った方がいいけれど、そちらの(機能面の)情報の方があふれているね。

濱口: そうですね。

荒木: じゃあ、「感情とか情緒などの感性面の情報は発信しているかな?」と思うと、あまり、そうではない(発信していない)。もしくは、(言い方は悪いけれど)発信していても的外れ。

例えば、若い社員が(ステークホルダーに)「親近感を持ってほしい」とか「もっと振り向いてほしい」と思って、(若い人たちが多く見ているから)TikTokで、普段は(会社で)踊っていないのに踊っている姿を配信したとする。すると、「面白い」と思われて注目される。(少し極端な例え)だけど実際に、(その企業に)入ってみたら、「踊ってないじゃん」とか、「案外、みんなギスギスしているな」という印象を受け、普段の姿と異なる姿を発信していることになる。

「踊るぐらい(の企業の雰囲気)だからブラックじゃない」と思う情報を受け取る側の問題も(少なからず)あるけれど、(普段の企業の姿じゃない行いを発信する行為を)どうなのかなと思う。

あるいは、一人の担当者が、(企業の一員なのに)個を出し過ぎて発信してしまうこともある。それは一つの戦術としてはいいけれど、それだけだと、どうかと思う。

濱口: (企業として)みんなが、そう思っているかというと、そうじゃないですよね。

荒木: いいも悪いも、ありのままを発信する。当然、人間は失敗もすればミスもするからね。広報の大事なキーワードって、やっぱり「等身大」とか「ありのまま」。それが一番大事じゃないかと思う。

濱口: うん。「いいも悪いも」というところがポイントですよね。悪いところも、ちゃんと発信することですね。確かに大企業は、悪いところもちゃんと発信していますね。

荒木: 悪いところも早く発表しないと、後で「隠していた」と言われて、たたかれる。だから、大企業は問題を起こしたら、すぐに発表して対処しないと問われる。

ステークホルダーとの関係が良くなってくると、パートナーや仲間のような意識になってくる。仲間なんだから当然、いいことも悪いこともお互い分かった上で(事業)に取り組まないと信頼関係は結べない。都合の悪いところを隠していたら、信頼は成り立たない。そういう意味で、ありのまま(の企業の姿)を発信しないと、いずれ元社員とか、お客さんそのものが「こんなことやっていました」という状況になる。

少し前の話題になるけれど、旧ビッグモーター(現:株式会社WECARS)も、「実は困っていたお客さんがいた」ことが分かった。今は、そういうことがばれてしまう時代だから、自分たち(自社)のありのままを発信していくことを、もっと意識した方がいいと思う。

濱口: 確かに、そうですね。

荒木: 企業に関わる個人(BtoBの場合は、相手先企業の直接の担当者)が、何を感じ、何を思っているのか、そこをもっと見える化していくことが大事。(見える化するには)言葉は、なるべくなら媒体(今の時代はデジタルなど)に残していく方がいい。口頭言語は記憶に残りにくく、誤解を生むことがあるからね。

(企業に)関わる人たちが何を感じ、思っているのかを正直に話をしてもらう。例えば、エピソードや体験談。それは、社員でもいいし、お客さんでもいい。自社と関わるさまざま人たちの言葉(体験やエピソードの中で感じる人間活動)に、心が揺さぶられ、いろいろなことを感じる。その内面を見て、「分かるな~、いいな~」と感情を揺さぶり、感情に訴えるような情報を、もっともっと発信していかないと、(ステークホルダーとの)結びつきは弱いものになる。

 濱口さんが言ったように、キャンペーン情報ばかりを発信しても、結びつきは強くならない。

濱口: そうですね。他(他社の商品・サービス)に、「より安いも」や「良いもの」があったら、すぐに離れていってしまいますね。

荒木: だから、ありのままを発信する時代なんだろうなと思う。これだけ、インターネットのインフラが広がっていくと、より手軽な情報発信(情報共有)ツールが増えてくる。そうなると、なおさら企業はありのままを発信していかないと信頼されないんじゃないかと感じる。

濱口: そうですね。

企業も人間と同じように自己開示する(弱さや失敗を隠さず見せる)ことで信頼を得られる

荒木: 今からの話は、ちょっとだけ難しい(オタク的な)内容になるかもしれない。

濱口: オタクっぽい話、いいですね。お願いします。

荒木: 10年ぐらい前に(2011年10月)発売された、佐藤尚之さんが書いた『明日のコミュニケーション「関与する生活者」に愛される方法』(アスキー新書刊)の内容を紹介するね。彼は元々、大手広告代理店の電通で働いていたんだけれど、SNSが広がっていく10数年前から、「これからはSNSの時代だ」と思って独立した。

同書では、「人間が、物を選んだり買ったりなどの行動を起こすとき、どのようにして行動に移すのだろうか」ということを分析している。例えば、「インターネット時代、情報を拡散する(人に勧めることも含む)など、どのようになっていくのか」という分析など、その内容がとても面白い。

マーケティングの世界には、「購買行動のメカニズム」がある。消費者が商品やサービスを購入するに至るまでの購買行動を(心理的)プロセスで表したものをAIDMA(アイドマ)という。

AIDMAのAは、Attention(認知・注意)。

Iは、Interest(興味・関心)、Dは、Desire(欲求)、

Mは、Memory(記憶)、Aは、Action(行動)という意味がある。

これがインターネット時代になってAISAS(アイサス)へ変わった(2004年、電通が提唱)。AISASの最初のAttention(認知・注意)とInterest(興味・関心)はAIDMAと同じなんだけど、

次のSはSearch(検索)して、調べてから、Action(行動)する。そして、最後のSは、Share(共有)する。

彼は(SNSがこれだけ広がると)、AIDMAとAISASに次いで、SIPS(シップス)を提唱している(2011年、佐藤尚之氏をリーダーとした社内ユニット「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」が提唱)。

SIPSは、ソーシャルメディアに対応した生活者消費行動モデルで、

Sは、Sympathize(共感する)。Iは、Identify(確認する)。例えば、発信者が企業だった場合、「いいな」と思っても、発信している企業がどんな企業なのか分からない限りは、自らの発信や拡散はしないということ。発信力や影響力が大きい人ほど、そこを確認しない限りは、自分の評判に関わってくるから、発信や拡散はできない。

Pは、Participate(参加する)で、最後のSは、

Share&Spread(共有&拡散する)なんだけど、

(Identify)確認しないと乗っからない(参加しない)ということ。いくら「いいね~」と思っても、企業に関しては確認する必要がある。

例えば、「北海道のおいしいカニ」とか「おいしい店がある」など、みんな知っていて評判になっていれば、それは拡散してもいいけどね。

普段から自分たちの中身や内面(何を考えていて、どういう風に社会と関わり、どんな失敗をしてきたなど)を常に発信しておく。そのようにして、確認できる場所がないと、とてもじゃないけれど共有とか拡散というところまでに至らない。

濱口: なるほど、めちゃくちゃ面白いですね。

荒木: 一個人においては、AIDMAとAISASとSIPSが同時進行で起こっている(高齢者の場合は、あまりネットを使用しなければ、変わらずAIDMA)。

だから、年代や人によって、AIDMAで行動を起こす場合もあれば、AISASやSIPSの場合もあって、いろいろな場面とか状況などによって変わってくる。

彼は、私が普段よく言っている「舞台裏」と同じ意味合いで「そのとき(共有&拡散する際)に企業の中身(普段何をやっているのか、何を考えているのか)、を発信する中で初めて信頼される」と話していた。

そのように考えると、以前(#3「情報の非対称性」について)話した「信頼関係を結ぶために大事なのは能力と動機」ということになる。動機は、「この人は誠実だし、うそをつけない。何かあれば、ちゃんと謝るし、失敗は認める」というような姿勢や心持ちを見せていかないと、信頼されない。難しい言葉では「透明性」という。

さらに、(前述の)感情面の情報がないとブランディングもできない。それは、綺麗にすることも大事だけれど、カッコつけることではない。それ以上に自分が、「どんなことを考え、どんな人間なのか」ということを、法人、企業として普段から隠さずに見せていくことが大事。そちら側の情報も戦略的に、より積極的に発信していった方がいいと思う。

濱口: そうですね。これを人に例えると、「お見合いします」となったときに、「私は家事もできるし、旦那さんには尽くすんです」と、いいところばかり言われても、絶対にうそだなって思いますもんね。「そんな女の人、今時いない!」ってなります。

荒木: そうだね、「いいと思って結婚したけれど、実際は違った」ということはあるからね。これを社会心理学で「自己開示」といって、自己を開示して弱さを見せた方が、相手も安心して自分の弱さを見せられる(自己開示の返報性)という話がある。企業も「法人=人」なので、完璧なんてないし、間違うこともある。ミスをしたり、失敗したりすることも当然ある。それを隠さないで、過ちがあったと思えば認めていく。そういう姿勢を見せていかないといけないと思う。

(#5)で話したように、情報を受け取る側が、「どういう情報を欲するのか」「どうやって情報の確かさを確保するのか」という問題もある。だけど、一方で、企業も分かった上で今の自分たちの情報発信がどうなっているか、一度棚卸しをしてみる必要がある。

濱口: そうですね、そう思います。いや~、めちゃくちゃ面白い内容ですね。その発信ができている企業って、まだまだ少ないと思います。

荒木: そうだね、少ないと思うから、いいなと思ったところ(いい情報発信をしている企業)があれば、またラジオ(『広報オタ俱楽部』)の中で紹介したいね。

私は、トヨタ自動車株式会社の「グローバルニュースルーム」の中にある、有名なコンテンツ『トヨタイムズ』を見ていると、トヨタ自動車の姿勢が分かるところが、いいなと思っている。

そのことも含めて、面白い情報発信(感情に訴える発信)で、いいなと思うものがあれば、紹介していきたいなと思っている。

濱口さんも、「この企業、ちゃんと内面(感情面)を発信していて、いいな」という情報発信を発見した場合は、ぜひ共有してもらいたいね。

濱口: そういう企業の発信って、自然とお手伝いしたいな、と思いますよね。

荒木: うん、思うね。「この会社=社長は、こんな人柄なんだ」ということも見えてくると、(その企業の印象は)全然、変わってくる。また、そんな実例も紹介できればと思います。

濱口: 楽しみですね。

荒木: もう、あっという間に20分が過ぎました。

濱口: あっという間ですね。

荒木: 長くなり過ぎないように気を付けないとね。ということで、また、いろいろな「気になったこと」を、この『広報オタ俱楽部』を通じて濱口さんと話していければと思います。引き続きよろしくお願いします。

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