【ポッドキャスト #07】フジテレビ騒動を斬る! 危機管理広報の視点から見える問題点とは

1月27日に行われたフジテレビの記者会見は400人を超える記者やジャーナリストが集まり、10時間超にも及びました。

危機管理広報の視点からフジテレビ広報の問題点に鋭く切り込みます。同時にネットの恐ろしさにも警鐘を鳴らします。

10時間超の会見で浮き彫りにされたクライシスコミュニケーションの課題

荒木: おはようございます。

濱口: おはようございます。

荒木: 毎週木曜日の『広報オタ俱楽部』、今週もやってまいりました。

濱口: 朝のお楽しみ『広報オタ俱楽部』が、やってまいりましたね。

荒木: 当番組のラジオカードができました。カードには、(私がラッパーの格好をした)サムネイル画像を使用しています。まだ、濱口さんにも送っていないので、これから少しずつ配っていきます。

濱口: あのサムネイルだけ見ると、DJのラジオ番組だと勘違いされそうですよ。

荒木: 「倶楽部」って書いてあるし一体なんだろう、と思うよね。

濱口: サムネイルの画像からは、とても「広報の人」とは思えない。

荒木: (この番組は)濱口さんと、広報にまつわるいろいろな話(最近起こった出来事や自分が日頃感じていることなど)をしていければいいなと思っています。私は「オタク」だから、なんでも「広報的な視点」へ持っていきがちです。その視点を発揮しながら今週も進めていきます。

濱口: 荒木さんに話したら、なんでも(全部の話に)広報フィルターがかかります。

荒木: そんな感じだから、時折、濱口さんに、「今のところは、意味が分かりません」と言われながら(突っ込まれながら)、確認もしながら進めていければと思っています。ともすれば、だんだん前のめりになるので気を付けながら進めていきます。

濱口: (前のめりに話が進むと)専門用語だらけになってしまいますからね。

荒木: 聞きやすいように進めていきますので、よろしくお願いします。

濱口: よろしくお願いします。

荒木: (2024年)年末から今年に入って、元タレントの中居正広さんと芸能関係のX子さん(被害者といわれている女性)の話題で持ち切りになっている。それに端を発して、今やフジテレビの問題。1月27日に行われたフジテレビの記者会見は見たかな? 

濱口: 見ました。前代未聞の10時間超えの会見でしたね。

荒木: 10時間半にわたる会見だった。会見中は、ずっと見ていたかな? それとも途中途中で見たかな?

濱口: 途中途中で見ましたね。私が見ていたのは(午後)10時頃だったので、「(フジテレビの登壇者は)もう、疲弊しているな」という印象でした。

荒木: 疲弊してしまうよね、高齢者だから。

濱口: 記者たちの質問は飛び交っているけれど、「個人情報を特定されるので、お答えできません」という返答が何度も(繰り返えし)出てきた。

荒木: 私は最初の2~3時間くらい、生放送で見ていた(それ以降は、用事のため生放送では見れていない)。生放送で10時間以上もあったから、いろいろな角度から、さまざまな問題がたくさん出ていた。それをいろいろなメディアが報じていたので、自分が目についたものは一通り目を通した。

濱口: なるほど。記者会見が終わってから、『週刊文春』が(記事内容の一部を)訂正しましたよね。

荒木: (訂正をしたのは)翌日の朝だった。

濱口: 「なんで、このタイミングで?」って思いますよね。フジテレビ関係者のかたたちもおっしゃっていましたね。

荒木: いろいろな話題がある記者会見だったね。

濱口: そうですね。

荒木: われわれの世界では、企業が何か事故や不祥事を起こした場合、当然、「迅速に事実関係や原因を確認した上で、必ず記者会見を開いて公表しましょう」となっている。これを、専門用語で、「クライシスコミュニケーション」とか「危機管理広報」という。

これまで、われわれが記者会見を見る場合は、編集され、テレビで放送されるものだけだった。(今の時代は)これほどユーチューブなど(動画共有サービス)のユーザーが増え、(記者会見の)主催者が放送・配信をしなくても、そこに同席した人たちが生(放送)で流し続ける。だから、ノーカット、編集なしで全てを見ることができる。

だから、(公表する側は)良くも悪くも隠しようがない。それは、(生活者にとって)ネット時代の恩恵でもあるかなと思う。

私の近くには、(企業で)不祥事が起こった時などに、記者会見を手掛けるスペシャリストがいる。だから、その人たちと一緒に手掛けたこともあるし、もちろん、(私自身も)そういう(専門的な)勉強や研究をしている。

濱口さんから見て、今回の記者会見で「ここが変だな」と思うところはあった?例えば、フジテレビ側の姿勢や記者会見のやり方など、どう思った?

濱口: いや~、何もかも変でしたよ。

荒木: 前回1回目(1月17日)の記者会見は、「動画(撮影)は駄目だし、(テレビ・ラジオ放送の)記者クラブしか入れない」というやり方。とてもメディアがやる記者会見とは思えない閉鎖性で、あまりにもクローズだった。

2回目の会見は、媒体数が200弱で、400人を超える人たち(191媒体、437人)が集まって、(開催時間は)10時間半という前代未聞の記者会見だった。間違いなく歴史に刻まれた(大騒動として歴史に残る)記者会と言っても過言じゃない。

濱口さんは、それを目の当たりにして、フジテレビ側の姿勢と参加した記者たちを率直にどう思った?

今日は、「フジテレビの記者会見に臨む姿勢、情報開示などの問題」と「参加した記者たちの問題」この2点に絞って話を進めよう。(今回の放送分)1回だけでは話しきれないから、次回もこの話題をしようと思う。

濱口: 荒木さんが言っていたように、「株主が『記者会見をしなさい』って言ったから、やりました」ということ。それって、遅いですよね。しかも、メディアという世の中の出来事を1番に伝えるべき立場である放送局の人たちが、自分たちのことを隠していた。その上、株主から言われたから、(記者会見を)やるって、その順番はいかがなものかという思いがありましたね。

荒木: そうだよね。しかも、17日(1回目)の記者会見は「動画撮影は駄目」など(規制が多く)あり得ないことだった。27日(2回目)の会見に関しても、「説明責任が果たされていないから、もう一度会見を開くように」と言ったのは株主(米国投資会社、ダルトン・インベストメンツ)だった。そうした事実があって、本当に主体性がない。

濱口: (主体性が)ないですよね。保身に走っているのがバレてしまっているように感じます。今回の件は、視聴率やスポンサーが離れていく可能性が非常に高かったので、(保身に走ってしまう気持ちも)分かるんです。でも、そういう時こそ、「悪いニュース」も報じるのがメディアの役割のはず。そこを隠していたことで、なお印象が悪い方向にどんどん進んでいっているなと感じました。

公式見解に関する書面が配布されなかったことが驚き

荒木: そうだね、それで75社以上のスポンサー企業が、CM出稿を差し止めるなどの動きが広がって、AC(公益社団法人ACジャパン)のCMばかりが流れている状況だが、スポンサーの問題は、今回の放送では触れないでおこう。

まずは、濱口さんが言うように、フジテレビ自体に主体性がなく、(言い方は悪いけれど)「株主に言われたから仕方なく、とりあえずやらなきゃ」といった様子で、目的がはっきりしていない記者会見。

本来、記者会見には、必ず目的がある。「クライシスコミュニケーション」や「危機管理広報」でよくいわれるのが、「ダメージコントロール」。起こってしまったことに対して、いち早く、信頼を回復できるように手を打つことが必要で、それをステークホルダーとか社会に対して示していく場(が記者会見となる)。

(フジテレビ側は)10時間にわたり、生贄(いけにえ)になったことで、多少の同情を買うことはあるにしても、私が1番驚いたのは、紙(見解書など)が配られていなかったこと。

フジテレビの親会社(フジ・メディア・ホールディングス)のウェブサイトを確認すると、27日(記者会見同日)の日付で、社長交代(辞任)に関する(臨時)人事発表(PDFにて1ページ半ほどの文面のみ)が出ている。

通常、われわれが(企業広報について)教える時には、「何か起こった時には、文章でポジションペーパーや公式見解書を作りましょう」と伝えている。その内容は、「今回、何が起こったのかという事実」「どういう経緯で起こったのか」あるいは「どういう理由、原因が考えられるのか」、さらに「起こった後、自分たちがどう行動したのか」などを時系列で示すこと。

プレスリリースやニュースリリース(の作成時)にも言うように、5W3H(誰が、何を、いつ、どこで、なぜ起きたのか、など)を示す。現時点でどういう原因が考えられるのか。(問題が起きてから)どういう時系列で自分たちはこの記者会見に臨んできたのか。さらに、再発防止策など。

それらをしっかりと文章に書いて、配るのが当たり前のこと。その内容は間違えて書かれたら困るので、自分たちの言葉で書き、ちゃんとチェックした上で見解を述べていくことが大事。記者側もそれ(見解書)を見て質問していく。

今回の会見は、何の文章も配らないで、「辞任します」と発表し、いきなり質疑応答に入った。相当数の質問がくることは予想されたわけだから、なぜ(見解書などを)準備していないのか不思議だった。

時間がなかったことは分かる。それなら例えば、(何も公表していないから、できないこともあるけれど)事前に参加メディアから質問を全て(メールなどで)受けておいたり、会見後に改めて受け付けて、それに対して公式の見解・回答を(ウェブ上で)公開したりすればいい。だけど彼らは、「第三者委員会」や「被害者のプライバシー」という言葉だけで、ポジションペーパーなどもなく何も公表していない。

濱口: そうですよね。記者たちが(午後)10時台に入っても似たような質問を繰り返さざるを得なかったのは、そういう事情からだったんですね。

荒木: ちゃんとした文章(見解書やポジションペーパー)がないから、「隠蔽体質」や「人権意識が希薄」と言われてもしょうがない。(フジテレビ側は)中居さんを(有名なタレントだから)重んじるあまりなのか、「コンプライアンス室に、その情報が上がっていなかった」といわれている。その理由について問われたら、「個人のプライバシーで調査すると公になるから」と答える。

(前述のやり取りに対して)私は、「コンプライアンスの専門的な人たちが対応すべき問題を、そうしなかった理由は何なのか」と思う。いきなり社長案件になってしまって、社長自身も(被害について)曖昧な発言だった。だから、「被害に対する認識の甘さ」や中居さん側に「事実確認をしていなかったんじゃないか」という話もあった。

濱口: そうですね。

荒木: その問題が分かった後(フジテレビ側が事案を把握した後)も、中居さんをテレビに出演させ続けていたが、その明確な理由もない。そのあまりにも低い人権意識が、スポンサーたちの信頼を失ったのだと思う。

濱口: 視聴率などの理由で「やっぱり中居さんだ」ということでしょうか。こんなことになっても、やっぱりファンは一定数いるでしょうし。

荒木: そういう意味では、フジテレビの(難しい言葉で言うと)「情報開示と説明責任」が果たされていなかった。企業には、「企業が果たす社会的責任」という問題がある。(企業の取り組みとして)最近、はやっているSDGs(持続可能な開発目標)があるけれど、その前に「企業が果たすべき責任」を考える必要があると思う。

企業は、人も物も金も情報も全て社会から付託された立場で経営をして、価値を生み出している。そう考えると、包み隠すことなくオープンに(情報開示)していく必要がある(企業機密やプライバシーは除く)。

説明責任は、分かるように伝えることが大事。質問が出ないくらいに丁寧にきっちりと、誰でも理解できるように説明するのが説明責任。それは、どんな企業にもあって、それをしない企業に対して、(生活者を)代表して追求してきたのがマスメディアのかたがた。

大きな影響力を持ったフジテレビというマスメディアが、「情報を何も開示しない、説明責任を果たさない=透明性がない」となる。そして、全てを被害者と第三者委員会という言葉で隠し、何もしていないとなると、「一体何が起こったんだろうか」と、フジテレビ側の姿勢を疑ってしまう。

濱口: 疑いましたね。

全てがオープンなネット時代だからこそ、問われる報道関係者自身の質と責任

荒木: 一方で、参加した記者についてどう思ったかな。会見での質問、全部は聞いていないと思うけれど、ネットなどで記者たちが批判されている記事は読んだ?

濱口: 少し見ましたね。

荒木: 前(1回目の記者会見)から、「記者クラブだけ(を対象に)やるのは閉鎖的だ」と言われ、オープンな会見にしたことは分かる。けれど、約200近い媒体で400人(1社につき二人まで)を超える人数が集まった。媒体を持っていない、フリーのジャーナリストやユーチューブチャンネルの編集者のような人たちもいる。そして、記者の中(中日新聞社の女性記者やコメンテーター、もしくはキャスターのような立場の人)には、「被害者のプライバシーをあえてさらすような質問をする人」や「自説を粛々と述べ続ける人」もいた。「それは質問じゃなくて、あなたの感想ですよね」というような質問。

濱口: そうですね。ちゃんと(情報を)開示していないフジテレビ側にも問題はあったと思うんです。けれど、記者側も被害者がいるわけだから、憶測でいろいろな質問を投げているところに違和感がありました。中居さんと被害者といわれている女性の間には、本人たちにしか分からないやりとりがあったと思います。私は、「今、そこの事実がはっきりと出ているか」といったら、まだ出ていないと思っています。

荒木: そうだね。ルールを守らないで、やじや怒号が飛びかかったり、声を荒げヒステリックになったりする状況があった。

そんな場面で、「The HEADLINE」の編集長(石田健氏)と通販新聞社のかたの発言が、称賛を浴びていた。(会見場)全体に向けて、「われわれは節度を持ってルールを守りましょうよ」というような内容だった。

総じて、再生回数を増やしたいのか、あるいは、あえて感情を逆なでするような質問をして失言を引き出そうとしているのか、と感じられる質問もあった。その辺は、記者の質の問題。「誰でも彼でも入れればいい」というものではないことを、みんな感じたと思う。

濱口: フジテレビ側が(記者会見を)クローズにしたがたる気持ちも分からなくはないな、と思いますね。

荒木: 明らかに礼儀を欠いた人たちもいたから、一定のルールを決めて、(難しいけれど)最低限の線引きをする必要があると思う。

濱口: メディアって事実を粛々と伝えることが役割だと思うんです。広報も同じですよね。記者たちの主観で、フジテレビ側が事実を隠してしまうと同時に事実も表に出なくなってしまいます。今、報じられていることが全部、本当に真実なのか。また、真実だったとしても、それは断片にすぎないなら・・・(その他は憶測になってしまう)。

荒木: そうなんだよ。憶測だけで全てが回っていく。私が一番恐れているのは、個人(中居さん、被害者といわれている女性、フジテレビのプロデューサー)に対するネット上の誹謗中傷で、自殺をしやしないかということ。今は、フジテレビ全体の問題や『週刊文春』の訂正記事で出版社に矛先が向いているけれど、彼ら個人は、名前や写真、いろいろな情報が平気でさらされている。

今までに何度も、ネット上の誹謗中傷による自殺が起きている。(2024年の)兵庫県知事選後に議員の一人が、「さまざまな批判にさらされ、それを苦に自殺した」ともいわれている。

「無自覚な自分の一突きで、人の心を壊しているかもしれない」という想像力を働かせないといけないと思う。(人を自殺に追い込むほど)何か正義感があるわけでもないし、われわれには直接関係ないようなことに対して、あそこまで人をたたく(追い詰める行為をする)ことは恐ろしく感じる。今回は本当に亡くなる人が出てほしくないという思いが一番にあります。

濱口: なるほど、そうですね。

荒木: あそこまで過熱すると、メンタルが(疲弊して)壊れてもおかしくないと思う。その問題は常について回っていることだから、気を付けなければならないのに、(誹謗中傷を)みんな平気で変わらず続けている。全てが悪だったかのように。

タレントの笑福亭鶴瓶さんも、イメージキャラクターを務めていた「スシロー」の公式サイトから、写真が削除された(1月末)。

(当事案に関連した)バーベキューにいただけなのに。中居さんが凶悪な犯罪で捕まったわけでもない。ましてそこで犯罪が行われたわけでもない。なのに、そういう風潮があるって、怖いよ。

濱口: 怖いですよね。今回の事実は、被害者といわれている女性と中居さんにしか分からないことです。仮に、その女性が今回の事案で「被害者である」となった場合、「被害者であるはず」なのに、世論やメディアは、その女性もまるで加害者のように扱うじゃないですか。「被害者が悪い」っていう風潮って、すごく恐ろしいなと思います。

荒木: そのことを思うと、われわれは今回の問題では(いろいろな情報に振り回されやすくなるけれど)冷静になって憶測をやめて、「何が明らかになった事実なのか」「果たして、われわれが事実を知る必要があるのか」ということを、注意しなければいけないと思う。特に、「われわれが事実を知る必要があるのか」という話は、また別の問題だからね。

あっという間に時間が経ってしまって、今日の放送では(伝えたい内容の)半分しか話せていないので、次回はもう少し、「マスメディアという業界全体の構造」について、改めて考えてみたいと思います。

「構造自体がいろいろな問題を起こしているな」と思うこともあるので、次回は、その辺りをお伝えできればと思います。

濱口: はい、ありがとうございます。来週が待ち遠しいです。

荒木: じゃあ今日はここまでということで、またお願いします。ありがとうございます。

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