【ポッドキャスト #22】どうなる!? フジテレビとメディア・エンタメ業界のこれから

フジテレビ親会社の株主総会が6月に開催されます。4月16日、米国の大株主が

12人の取締役候補を発表。

20年前に世間を騒がせた「買収劇」に登場したプレイヤーたちに再び注目が集まっています。

フジはメディア企業で先陣を切り、組織風土を変えたロールモデルになれるのか

荒木: 皆さん、おはようございます。

濱口: おはようございます。

荒木: 今日は5月22日、木曜日。今日も元気に『広報オタ俱楽部』、始めていきたいと思います。よろしくお願いします。

濱口: よろしくお願いします。

荒木: 『広報オタ倶楽部』とは、本来の広報、企業広報の在り方を広めるべく、28年以上にわたって企業広報活動を支援してきた私、荒木洋二による「オタク」目線で語る広報の哲学ラジオです。聞き手は・・・。

濱口: 「まな弟子」の濱口ちあきです。よろしくお願いします。荒木さん、(私のことを)まな弟子って思っていただいていますか。(まな弟子と名乗って)大丈夫ですか?

荒木: もちろん、大丈夫です。全く違和感はありませんよ。

濱口: それなら、良かった~。ずっと私一人で言い続けていたので、今更ながら大丈夫かなと思ったので・・・。

荒木: 大丈夫です。問題ありません!

前回(#21)は、いよいよ本丸ともいえる「ニュースルームとは、なんぞや」という話をさせてもらったね。濱口さんから、「ニュースルームの話って、どこまで続くんだろう」という問い(突っ込み)の通り、ニュースルームの話ばかりでは「広報」に関して最近の動向に絡めた話ができなくなってしまう。そして、最近の動向(時事ネタに近い内容)は、あまりに古い話になっても仕方がない(まあ、多少は古くなっちゃうけど)。

そういうことで、今回の『広報オタ俱楽部』は、以前も取り上げたフジテレビの件(#7)の続報、「フジテレビのその後は、どうなっているのか」(フジテレビに絡む問題)を見ていこうと思う。

濱口: 余波がすごいですからね。

荒木: フジテレビの大株主にアメリカの投資会社がある。元タレントの中居正広さんの性加害問題(2025年3月31日、フジテレビに関する第三者委員会が調査結果を発表)においても、影響力を発揮していた。濱口さんは、その投資会社について覚えているかな。

濱口: 名前は・・・(何でしたでしょうか)。

荒木: 結構メディアでも名前を耳にすることがある「米国投資会社 ダルトン・インベストメンツ」(以下、米ダルトン)。フジテレビに対して「説明責任が果たされていないから、もう一度(2回目の)記者会見を開くように」(2025年、1月27日開催)と言ったのも、米ダルトンだったんだよね。

これについては濱口さんも「株主に言われたから動くのかい!」と突っ込んでいたね。もちろん、株主(米ダルトン)の言ったことは良いことで、当然のこと。でも、(フジテレビに対しては)株主に言われて初めて気づく、そこが残念でならない。『広報オタ俱楽部』#7の回では、そうした内容に触れていた。

濱口: そうでしたね。

取締役候補に選任されたSBIホールディングスの北尾氏が4月17日に記者会見

荒木: 米ダルトンは2025年4月16日、独自に選んだ取締役(候補)を12人発表(選任し提案)した。大手企業の多くは3月末が決算となり、(およそ3カ月以内)6月中に(定時)株主総会が開かれる。上場企業や大手企業では、その株主総会で新しい経営体制や経営戦略が決まる(最終決定される)流れになっている。

米ダルトンが取締役候補として提案した12人の中の一人である北尾吉孝氏(SBIホールディングス会長謙社長)は、(選任の提案、翌日)4月17日に記者会見を開いた。その様子がマスメディアで報道され話題になったけれど、濱口さんは、その報道を見たかな。

濱口: いえ、見ていなかったです。

荒木: 取締役候補の12人には、北尾氏以外にも、ジェイミー・ローゼンワルド氏(米ダルトンの共同創業者)や福田淳氏(旧ジャニーズ事務所、

現STARTO ENTERTAINMENT最高経営責任者)、岡村宏太郎氏(サッポロHD社外取締役)、坂野尚子氏(元フジテレビアナウンサー)、堤伸輔氏(新潮社「フォーサイト」元編集長)、西田真澄氏(米ダルトンのパートナー)、菊岡稔氏(前ジャパンディスプレイ社長)、北谷賢司氏(DAZN Japan Investmentチェアマン)、近藤太香巳氏(ネクシーズグループ社長)、松島恵美氏(弁護士)、そしてキーマンとして田中渓氏(元ゴールドマンサックス証券)も入っていた。

最終的にはどうなるのか分からないけれど、4月16日、それらの人たちを新しい取締役に推している(取締役候補として提案している)。それを受けて、北尾氏が翌日(4月17日)に記者会見を開いたというわけなんだよ。同会見には近藤氏も同席していた。北尾氏は、近藤氏を代表取締役として選任することを提案している。

なお、北尾氏とフジテレビとの間には因縁がある。今から20年前、2005年にさかのぼる出来事に起因している。20年前、濱口さんは何をしていたかな。

濱口: 20年前、私は高校生でしたね。

荒木: 当時(2005年)、堀江貴文氏(通称:ホリエモン)が、フジテレビの買収に動いた。それが今から20年前なんだよね。濱口さんは高校生だったから、その当時の出来事は覚えていないかな。

濱口: そう言われてみれば、薄っすらと記憶にあります。

荒木: ホリエモンが、フジテレビの親会社であるニッポン放送の株を買い占めることで、フジテレビを自社(ライブドア)の傘下に置こうと(フジテレビに影響力を行使しようと)思った。ところがその後、ホリエモンが(有価証券報告書の虚偽で)捕まってしまったこともあり、世間を相当にぎわした。

ホリエモンがニッポン放送の買収を試みた際、ホワイトナイト(友好的買収者)としてフジテレビを救ったのが北尾氏だった。北尾氏は4月17日の記者会見で「堀江君に悪いことをした。20年前の判断は珍しく外れていた」と語っていたんだよね。

北尾氏は20年前にフジテレビを救った形になったけれど、20年経ってみて、ずっと(フジテレビ元取締役相談役)日枝久氏の体制のままで、結局このような重大な問題を引き起こしてしまっている。それに対して、当時の自分の判断が間違っていたかもしれない、と自分自身で反省しながら会見を開いていた。

北尾氏の会見後、株価は急落

荒木: l北尾氏の会見について『日経ビジネス』(2025年、4月18日の電子版)では、「フジテレビ、SBI北尾氏会見で株価急落 時が止まった20年」と記事になっていた。これは、フジテレビの改革案を披露したけれど、親会社の株価は急落したという内容で、若干ネガティブな報道がされていたんだよね。でも、北尾氏はとても前向きな姿勢で会見を行っていた。

ところで、私が理事長を務めている、NPO法人日本リスクマネージャー&コンサルタント協会(略称:RMCA)という設立32年目の団体がある。同団体はリスクマネジメントの専門人材を育成している。私は、2004年に(同団体の)事務局長に就き、その後、副理事長を経て、広報PRの仕事もしながら2013年、理事長に就いた。今年(2025年1月)で私が理事長になって13年を迎えた。

RMCA副理事長を務める石川慶子さんというかたがいる。彼女はYahoo!ニュース エキスパート(各分野の専門家や有識者などが自らの意思および判断でコンテンツを制作発信)として、コンテンツの執筆・寄稿も行っている。

議員や芸能人、企業などが(不祥事などで)記者会見を開くと、さまざまな失敗が起こり話題になることが多い。そうした会見の後には、テレビや新聞、雑誌、ウェブニュースなど、あらゆるメディアから「今回の会見はどうだったのか」というコメントを求められる。

実は、彼女は、私が最初に入社したPR会社の役員で、私はその会社で広報PRの仕事を覚えたんだよ。そんなつながりのある彼女が現在、(前述の)RMCAの副理事長を務めている。

同団体ではYouTubeの公式チャンネルを運営しており、彼女はその中の番組の一つ「リスクマネジメント・ジャーナル」を担当している。この番組では、以前からフジテレビの問題を継続して追いかけているんだよね。私も昨年(2024年)12月からこの番組に参加していて、対談を通じて彼女からさまざまな情報を得ているんだ。というのも、彼女は日頃から幅広く情報を収集しており、その知見を共有してくれるからね。

フジテレビの第三者委員会による調査報告書(約300ページ)は、自分で全て読んだけれど、それ以外の情報(全てではないけれど)は、彼女との収録時(対談の中)に得ている。

石川さんによると、北尾氏は「フジテレビを立て直そう」という強い思いを持って発言しており、その姿勢が良かった。そんな印象を受けたという。

セクハラ疑惑が報じられた清水社長 北尾氏の評価は?

荒木: そして、北尾氏の会見での発言の背景には、いくつかの経緯があるようだ。例えば、フジテレビの清水賢治社長については、以前『週刊文春』でセクハラ疑惑が取り上げられて少し批判されたこともあった。ただ、清水氏はもともとアニメ畑の出身で、『ちびまる子ちゃん』などの作品を立ち上げた(企画・プロデュースした)実績がある人物。

北尾氏は、(フジテレビの人事について)自分で情報を収集した中で、清水氏にはフジテレビに対する明確なビジョンや理念があり、しっかりとした信念を持って取り組んでいる印象を持っているようだった。そうした点から、「清水さんは役員に残すべきではないか」という意見を述べていた。

一方で、それ以外の役員については全員刷新、言い方は悪いけれど「クビ」という話も出ていた。

20年前、フジテレビの買収を試みたのは、ライブドアのホリエモンだけでなく、村上ファンドの村上世彰氏も同様だった。実は現在、フジテレビの親会社であるフジ・メディア・ホールディングスの株式を、北尾氏も保有しており、さらに、村上世彰氏の娘・村上絢氏(村上財団の代表理事)も株主になっている。

そのため、当時の「ライブドア騒動」を知る人たちの間では、「20年前と同じようなプレイヤーがそろっている」として、「今後のフジテレビはどうなっていくのか」と注目が集まっているんだよね。

ただ、今回の人事では、いわゆる「生え抜き」とされる役員が一人しか残らない。また、元フジテレビの女性アナウンサーも役員として加わる予定なので、6月の株主総会で承認されれば、(フジテレビにとって)大きな変化が起きるかもしれない。

そして、今回の株主総会で新たな取締役の就任が決まれば、「取締役の任期」や「年齢の上限」などの制度についても検討が進む見込みだという。現在は任期の制限がないため、(一度役員になると)長く居座ることで、かつての日枝氏のような状況が繰り返される懸念があるからね。

(※フジテレビの親会社フジ・メディア・ホールディングスは5月16日、6月25日開催予定の株主総会に諮る新たな役員人事案を発表。米ダルトンの人事案に対して「取締役全員一致の決議により、本株主提案に反対する」として、12人全員がフジの案から外れた。)

また、北尾氏は写真を見ると分かる通り、非常に迫力のある経営者なんだよ。だから、あまり前面に出すぎると、かつての日枝氏と重なる印象を持たれる可能性もあり、「そこはどうなのか」といった意見も出ているようだ。

これまでの取締役には、日枝氏の友人である有名企業の会長などが社外取締役として多く就任していたけれど、今回そのほとんどが退任することが発表された。こうした流れを見ても、フジテレビは今、これまでにないほど大きく変わっていくかもしれない状況にあるといえるね。

社員、制作会社スタッフなど、全てのステークホルダーを大切にできるのか

荒木: だからこそ、今後は株主が変わり、経営体制が見直され、社員も全てのステークホルダーも大事にする。そして、人を大切にしない人権を侵害するような行為をする人たち容認しない。そうした方向に変わっていけるかどうかが重要。

特に、第三者委員会が最後に述べていたように、今回の調査対象はフジテレビの社員に限られている。でも実際には、フジテレビの制作の現場には、資本関係のない外部の制作会社に所属するアシスタントディレクター(AD)など、多くの人たちが関わっている。そうした人たちも、番組制作という重要な役割を担っている。

だからこそ、フジテレビ自身が、社員だけでなく、そうした外部の制作スタッフも大切にし、彼らを無下に扱ったり、利益を圧迫したり、パワハラやセクハラのようなことをしない体制を築けるのか。そして、制作会社を含めた全てのステークホルダーをどれだけ大切にできるのかが注目される。

また、これから社員への接し方や組織の風土が変わっていく可能性がある。それがどこまで(本質的に)変われるのか、特に大きな注目点だと思っているんだよね。

濱口: (社員への接し方や組織の風土を変えていくには)ものすごく大きなエネルギーと長い時間が必要だろうなと感じます。率直にいえば、今回の中居さんの問題も、氷山の一角に過ぎないのではないかと思っています。それだけフジテレビは(問題を見過ごしたり、黙認したりするような体質が)、メディアとしての長い歴史や独自の文化を積み重ねてしまっているんですよね。

そして、その中にいる人たちは何千人もいて、関連会社や制作会社まで含めれば、何万人という規模になると思います。それを変えていくということは、一つの国の文化を変えるくらいのイメージと同じことのように感じます。

荒木: 第三者委員会も、メディア・エンターテインメント業界全体に共通する課題である、というような表現をしていた(正確な表現ではないけれど)。確かにフジテレビが突出していただけでフジテレビだけの問題ではないと思う。

さらに、第三者委員会は、「セクハラの実態」についてフジテレビの役職員に対して「誰からセクハラを受けたのか」を調べている(被害者が男性か女性かに関係なく、全ての実態が調べられている)。その結果、最も多かったのは社内。特に上司から受けたことが最も多かった。それ以外にも、番組出演者(つまり芸能人)や広告代理店(の関係者)からのセクハラも上がっている。そして、スポンサー企業も上げられている。

メディア・エンタメ業界には、当然ながらスポンサー企業も広告を出稿する以上、片足を突っ込んでいるわけだよね。もちろん広告代理店も同様に。そうした関係者全てを含めて、メディア・エンタメ業界全体がこれから本当に変われるのか、ということが問われている。

今回、フジテレビではさまざまな問題が噴出し、多くの課題や事件が明るみに出たことで、社会や株主からの要請を受けて経営陣が大きく入れ替わる事態になった。(そうした背景があるからこそ)フジテレビが一つのロールモデルとなり、先陣を切ってメディア・エンタメ業界を変えていける存在になれるかもしれない。もちろんそれは簡単なことではないけれど、そうした期待を持っている。

濱口: 私もその通りだと思います。時間と労力がかかるだろうけれど、経営者が変わるというのは、大きな意味を持つと感じます。

荒木: 本当に大きな意味を持つよね。例えば、外部から(有能な)役員を招いたり、清水氏や元フジテレビの女性アナウンサーのように、業界にある程度精通し、知見と理解を持つ人たちが関わったりして組織を変えていこうとしている。そうした変革の意識を持つ人材が集まっているからこそ、組織が本当に変わっていくことへの期待が持てるよね。

濱口: とても期待しますよね。

TBSテレビが独自調査結果を公表 他のメディアも続くのか?

荒木: 一方で私が懸念しているのは、他のメディア(特にテレビ局を中心としたメディアや広告代理店、スポンサー企業)も、同様にきちんと調査を行い、言い方は悪いけれど、自らの「膿」を出す必要があると思う。そして、フジテレビの問題を「対岸の火事」として傍観するのではなく、「他山の石」として受け止め、自分たちの問題として真剣に向き合い、(組織変革に)取り組んでいくことができるかどうかが、今後の注目ポイントだと感じている。

濱口: そうですね。

荒木: TBSテレビも同様に調査を行い、発表はしている。25年前の事例なども含めてアナウンサーたちからヒアリングを行い、その結果を公表したんだよね。二次被害を防ぐために配慮したことは理解できるけれど、実名は伏せられていて、フジテレビのような第三者委員会による調査とは異なり、非常に簡潔な文章での発表だった。取り組み自体はしていると思うんだけど、(どこまで踏み込んでいるのか)「どうなのだろう」と少し疑問も残る。

TBSテレビ以外のメディアについては、私の知る限り、まだ発表はしていない。スポンサー企業や広告代理店についても、同様にまだ発表していない状況だね。

今後、業界全体が大きく変革していくのかどうか、そこを注視していきたいと思う。ステークホルダーを大切にしていくためには、やはり情報開示や情報公開、情報共有といった取り組みを通じて、良い情報も悪い情報も隠さず、自然体(ありのまま)で発信していく姿勢が重要。そうした広報の大前提ともいえる精神にのっとり、業界全体が開かれた、常に情報をオープンにしていく方向へと変わっていけるかどうかが、注目すべきポイントだね。

濱口: そうですね。性加害の問題については、特に被害にあった女性が「話すことで世間に知られてしまう」という精神的な負担が非常に大きいと聞きます。だからこそ、簡潔な内容でしか公表できないという点については、十分に理解できるんです。

これからは本当に、そもそもそうした事件が起こらないようにすることですよね。(こうしたことが起きること自体)一般的な企業ではあり得ないことですよ。

荒木: あり得ないね。だから、そのあたりも含めて、パワハラやセクハラの問題というのは、濱口さんも言っていたように、(組織を本質的に)変えていくことは大変なこと。だけど、誰かが苦しみ、誰かが虐げられることで成り立つ社会は、やっぱり健全ではないし、良くないよね。

今後も『広報オタ俱楽部』では、メディア・エンタメ業界がどのように変わっていくのか、追っていきたいと思う。

濱口: そうですね。

荒木: やっぱり話し始めると長くなってしまうな~。言いたいことが多いからね。

濱口: (フジテレビの問題は)関わっている話とか内容が多過ぎますからね。

荒木: これからは、それぞれのステークホルダーが価値ある存在であることを正しく認めて、対等な立場でコミュニケーションをしていくことが大切だね。そして、情報もオープンにしていくこと。彼ら(ステークホルダー)が何を思っているかを常に観察して、会社と関わることでどんなことを感じているのかをちゃんとインタビューして発信することは、どんな企業でも大事だと思う。今後は、取り繕ったりせず、誠実に取り組んでいくことを期待しているね。

放送時間がオーバーしているので、今回はここまでにして、次回は「ニュースルーム」について話を戻していきたいと思います。

濱口: ありがとうございます。今回は、少し「箸休め」の放送回でしたね。

荒木: そうですね。今月もあっという間に5月も22日となり月後半に入っております。皆さん、今週も残り木・金の二日を残すのみです(週末を迎えます)。ぜひ、週末に向け仕事を頑張っていきましょう。今日もありがとうございました。いってらっしゃい。

濱口: いってらっしゃい。

前の記事へ 次の記事へ