第1回 広報DXを牽引するニュースルーム

こんにちは、荒木洋二です。
「PRコラム」を刷新し、約1年ぶりに再開します。投稿するカテゴリーも新設した「ニュースルーム・アカデミー」に変えます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が、国内外を問わず産業界全体で推進されています。広報の領域にもDXの波は押し寄せています。カテゴリーに「ニュースルーム」を冠したのには理由があります。広報におけるDXはニュースルームが牽引する、と筆者が捉えているからです。
DXとはデジタル戦略と組織改革の組み合わせで成立します。DXの世界的な権威として有名なコロンビア・ビジネススクールのデビッド・ロジャース教授がそう述べています。
ニュースルームを中軸に据えたデジタル広報戦略は、かつてない速度で組織にポジティブな変化をもたらすでしょう。近年、注目されているステークホルダー関係管理ビジネスモデル※においても重要な役割を果たしている、とみています。
当社は5年以上前から自前でニュースルームを運用しています。自社で開発したニュースルーム・システムを他社にも提供しています。さらに筆者自身、ニュースルームに関する研究をライフワークとすることを決めたばかりです。
そんな経緯もあり、ニュースルームが広報DXを牽引することを「ニュースルーム・アカデミー」においてコラム形式で解説します。同時に自らの知見を蓄える場所としたいと考えています。
◆米国など世界的な潮流と日本におけるニュースルームの台頭
いつ頃からどんな経緯や背景があってニュースルームが登場したのか。日本に上陸したのか。主に二つの流れがあります。一つは企業統治(コーポレートガバナンス)の観点から求められる情報の一元化と透明性の確保です。
それが英国の財務報告評議会(FRC)が推進するコーポレートガバナンス・コードの流れだ、といわれています。FRCは、企業統治や財務報告に関する規制を行う独立した機関です。
同コードは企業の透明性と説明責任の向上を目指しています。そのため、企業が各部署に横たわる膨大な情報を一元管理し、部署間でコントロールする必要性が生じました。その上で透明性と説明責任の一環として、企業の公式情報を発信する場として、ニュースルームが登場したというわけです。
もう一つは、今から10年ほど前、先進的な米国企業が相次ぎニュースルームを開設したことが始まりといわれています。商品ブランドごとのニュースルームの立ち上げがそもそもの始まりでした。その後ほどなくして企業サイト内に「newsroom」というディレクトリーを設けるようになったようです。これが米国におけるニュースルームの登場です。
さらに、その背景としては次の3点が挙げられます。
(1)メディア環境の変化
(2)企業の情報発信ニーズの変化
(3)テクノロジーの進歩
詳細は次のとおりです。
(1)メディア環境の変化
①従来メディアの影響力低下
インターネットの普及により、従来の新聞やテレビなどのマスメディアの影響力が相対的に低下。
②情報アクセスの多様化
新たなメディア環境の出現により、情報へのアクセス方法が多様化・細分化。
(2)企業の情報発信ニーズの変化
①直接的な情報発信
企業が自社で情報を直接発信する必要性の高まり。
②広報PRの最適化
広報PRを最適化するためのウェブサイトとしてニュースルームが登場。
(3)テクノロジーの進歩
①デジタル技術の発展
動画や画像を容易に扱えるようになり、マルチメディアコンテンツの提供が可能。
②ウェブサイト運営の容易化
企業が独自のウェブサイトを運営し、情報を発信することが技術的に容易。
前述の3点は米国のみならず、日本を含むグローバル全体の潮流でもあります。加えて、日本企業は情報技術やビジネスモデルにおいては「米国発」を追随する傾向があります。
米国でニュースルームが台頭した流れが日本に及んだのが、2019年頃、先陣を切ったのがトヨタ自動車です。トヨタは「グローバルニュースルーム」と銘打ち、展開しています。
皆さんもテレビCMで見かけたことがある、有名な『トヨタイムズ』もニュースルーム配下のコンテンツとして位置付けられています。筆者が同ニュースルームを初めて訪れたのも2019年の夏でした。
自動車業界は、右ならえと言わんばかりに日産自動車、本田技研工業、マツダと相次ぎニュースルームを開設します。他業界でもパナソニックホールディングス、大和ハウス工業、JTB、りそなホールディングスなどが企業サイト内に設けました。米国同様にウェブサイトのディレクトリーを「newsroom」としています。
ニュースルームは、企業の広報DXを牽引し、今後の企業における情報発信の本流となる可能性が極めて高いといえます。なぜかといえば、ニュースルームが企業の公式情報を集約・蓄積し、多様なコンテンツを提供する総合的な情報発信プラットフォームだからです。
※ステークホルダー関係管理ビジネスモデル:『愛される企業 社員も顧客も投資家も幸せにして、成長し続ける組織の条件』(日経BP社、2023年12月刊)で示されたビジネスモデル。