【ポッドキャスト #13】広聴って何? 発信する前に行うべき大切なこと

広報というと情報発信ばかりに終始しがち。PRは日本導入当初、「広報・広聴」と訳され、使われていました。

まず、向き合い、相手の声を聴くことが大切です。ラベル・プリンターのサトーが実践する「三行提報」は好例です。

発信だけでなく、「相手の声を聴く」ことが大切

荒木: みなさん、おはようございます。

濱口: おはようございます。

荒木: 今週も『広報オタ倶楽部』、始めていきたいと思います。

『広報オタ倶楽部』は、本来の広報、企業広報の在り方を広めるべく、28年にわたって企業広報活動を支援してきた私、荒木洋二による「オタク」目線で語る広報の哲学ラジオです。聞き手は・・・

濱口: 濱口ちあきです。まな弟子です。

荒木: よろしくお願いいたします。

濱口: 慣れていない感じがめちゃくちゃ出ていて、なんかいいですね。

荒木: 別のラジオ番組(渋谷クロスFM:インターネットラジオ)に出たことがあって、そのオープニングは事前に録音したものが流れるんだよね。

濱口: なるほど。

荒木: でも、当番組は、毎回ちゃんと言います。

濱口: まだ慣れない感じがして、いいですよね。きっと「No No Girls」(#11の放送回で触れたガールズオーディション・プロジェクト)も、そういうところからスタートしていますからね。

荒木: 前回は「意外な共通点」ということで、二人とも『闇金ウシジマくん』(作者:真鍋昌平、出版社:小学館)を読んでいたという話だったね。

濱口: 大好き(な漫画)ですからね。

荒木: 今週も、濱口さんが最近あったことや、「これってどうなのかな」など、思うことがあったら、ぜひそこから始めようか。

濱口: 今週は、私の知り合い(ある企業の社長)の紹介で、鹿児島県の県知事(塩田康一氏)と食事に行かせてもらいました。

そこでの話で、「県庁など、そういう政治の場にも広報部はありますよね。広く報じるための部署。でも、(それだけではなく)ちゃんと話を聞くための課も置けばいいのにね」と言われたんです。

荒木: なるほど。

濱口: 広報には、広聴という意味も含まれていますよね。今、「広報」という言葉の意味もだんだん馴染みがなくなってきているけれど、「広聴」という言葉は、もはや知らない言葉になっているんだろうなと思います。

荒木: 『広報オタクラブ』(#9)でも話したように、行政には必ず広報課がある。それ以外に昔の名残で広報・広聴課(広く報じて広く聴く)という名前のまま残っている自治体も中にはある。

濱口: 今でもあるんですか。

荒木: 自治体によって異なるけれど、あるんだよ。

濱口: 知らなかったです。

荒木: 多くの自治体は「広報課」になっているけれど、いまだに「広報・広聴課」としているところもある。

(これも話したと思うけれど)日本に広報が広がったきっかけ(「パブリックリレーションズ」という言葉が入ってきたきっかけ)は、第二次世界大戦後にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が、日本に民主主義を広めよう、ということで全ての基礎自治体(県も含めて)にPRオフィス(PRO)という部署を設置したことにある。そこには、ちゃんと国民(県民・市民など)の声を聞きましょう。なおかつ、自分たちが行っていること(政策含めて)を国民、県民、市民に伝えましょう、という思いがあった。

その両方を担う部署としてPRオフィスが作られ、それが今、広報・広聴課、あるいは広報課になって残っているといわれている。では、PRとは本来の意味でいうと何の略でしょうか。

濱口: ・・・・パブリックリレーションズ! 

久しぶりに言うとパッと言葉が出てこないから恥ずかしかったな・・・、今。

荒木: そう、パブリックリレーションズだよね。(GHQが設置した部署は)パブリック・リレーションズ・オフィスだったので、「リレーション(関係)」という言葉の通り、本来は双方向の関係が大前提だった。だからこそ、「広報・広聴課」のような形になったし、当時は「公聴会」という言葉もよく使われていた。「公聴会」は「公に聴く」という意味で、実際に市民の声を聞く場として開かれていたといわれている。

(今でも、もちろん市民の声を聞くこともあるとは思うけれど)ただ、どちらかというと、広報誌を発行する(どんなに小さな町や市でも広報誌を作っている)など情報発信の方が主になっているのが現状。なので「パブリックリレーションズって何?」ということを考えていくと、いろいろ面白い広がりが持てるよね。

濱口: そうですね。今、広報の歴史について言っている人は少ないですよね。

荒木: ちょっと面白いと思ったのは、経済広報センター(経団連の関連団体)が(1997年度より)毎年、「生活者の“企業観”に関する調査」を実施している。

また、この団体は、『月刊 経済広報』という機関紙も出している。そのため、大企業の広報部に関わる人たちを取材する機会もある。そうすると、「広報部」と名付けているところもあるけれど、「パブリックリレーションズ部」とか「コーポレートコミュニケーション部」など、企業によっていろいろな言い方があった。

昨年、キリンのオウンドメディアを中心とする取り組みを公開ラジオで聞く機会があった。その時のキリンの担当者の部署名は「コーポレートコミュニケーション部」。なぜ、その名称になるのかというと、それはパブリックリレーションズの概念にある。

パブリック(の部分)を直訳すると、「公衆関係」とか「公共関係」となってしまうけれど、広報PR業界では一般的に(どんな教科書にも)「パブリックリレーションズ」とは、具体的に公共を構成する主体を「利害関係者(ステークホルダー)」として捉え、ステークホルダーと良好な関係を築くことがその概念とされている。良好な関係を築くには、コミュニケーションが必要。だから、企業が組織としてちゃんとコミュニケーションを行っていくという意味で、「コーポレートコミュニケーション」という言い方が随分とされるようになってきている。

私は、日本広報学会に入っており、そこでは「パブリックリレーションズ」という言葉と同様「コーポレートコミュニケーション」という言葉もよく使われる。

今でも、そのまま「広報部」としている部署もあれば、ブランディングと冠している部署などもあり、企業によって部署名は随分と変わってきている。だけど、一方的に情報発信をする広報だけが残っていると思われがちだよね。

濱口: だから、PRも広告に寄った意味合いが強くなるんでしょうね。

荒木: 発信だけにフォーカスすると、「広報と広告の違い」ということになる。だけど、コミュニケーションを分かりやすく言うと、相手のことをちゃんと見て、相手の行動、振る舞いを見て、その本音をしっかり聞き、考えた上で、自分の考えを伝えるということ。見る、聞く、考える、話す(伝える)。文字で書く(コミュニケーションの)場合は、見る、聞く、考える、伝える。そこを企業として、しっかりと見ていますか、聞いていますか、考えていますか、伝えていますか、ということ。それは、全部トータルで考えないと、パブリックリレーションズにはならない。

濱口: ならないですね。私がよく感じるのは、一方的に発信する人(良くも悪くもおしゃべりな人)が多いなということです。例えば、(紙やその他の媒体、SNSで)発信すれば、みんなが聞いているとか、みんなが読んでくれるという思いが前提で話していることがよくあります。でも、人は(自分が)思っているよりも聞いていなかったり、読まれなかったり、そこのギャップがすごく多いなと感じますね。

荒木: マーケティングでは、リサーチや調査を行ったり、いろいろな人たちの声をインタビューで聞いたりする。調査には、定量調査と定性調査があって、アンケートは(数値データを集める)定量調査になる。定量調査では、人々がどんなことを感じているかまでは分からない。だから、座談会やインタビューを実施して、どのように思っているのか、声(具体的な意見)を拾おうということになる(これは、マーケティングとして行っている)。

ただ、マーケティングや広報では、どうしても「発信すること」に意識が向きがちな気がする。そのあたりが気になるところだね。

良い意見を集める取り組み:サトーの全社員が毎日実践する「三行提報」

大手企業には「お客さま相談室」のような仕組みがあるよね。それは、「ちゃんと顧客の声を聞きましょう」という意図がある。そして、昔でいうと「目安箱」のようなものがあって、それは「社員の声を聞きましょう」という意図がある。

さらに、リスクマネジメントの観点では「内部通報」の制度もある。これは、不正や問題が発生した場合に、しかるべき人に通報し、伝えましょう、という仕組み。

そのように「会社の中に不正が生まれないようにしよう」という考え方がある。それが「公益通報者保護法」といった仕組みにつながるけれど、「ちゃんと聞く」という視点は見落とされがちだよね。

濱口: そうですね。今、荒木さんに言われて思ったことがあります。「コンプライアンス室」のように、「不満などがあれば言いましょう」というような仕組みを設ける企業は増えています。だけど、本来は良い意見も必要ですよね。どちらの意見もフラットに上げて(伝えて)いくべきだし、もともと「目安箱」は、そうした仕組みとして作られたのではないかと思います。悪い点を伝えていくことも必要だと思うのですが、逆に、良い点はあまり聞かなくなっているように感じました。

荒木: 今の濱口さんの話に、いい例がある。サトー(ラベル・プリンターのサトーホールディングス)と言う会社を知っているかな。そこの会社は面白い取り組みを行っている。それは、濱口さんが言ったように「良い意見を聞こう」という取り組み。そして、そこからビジネスを生み出している。

サトーでは、「三行提報」という制度がある。社員が毎日欠かさず社長に宛てて、不満や提案、報告など何でもいいので(サトーのウェブサイトでは「会社を良くする創意・くふう・気付いたことの提案や考えとその対策報告」と記載)、それを3行(100~150文字)にまとめて送りましょう、という制度(ちょうどXと同じ文字数)。社員はそれを90%以上の達成率で行っているという。それをきっかけに、いろいろなビジネスや商品が生まれたということで、十数年前から有名になっている。

(Ⅹが登場する前から3行、約150文字以内で、社長に直接声を上げようという仕組み)それが、すごく風通しのいい文化になって、新しいものを生み出していたんだよね。不安とか内部通報だけではなく、「良い意見を集める」良い例として、いろいろなところで取り上げられていた。

濱口: 面白いですね。以前、私が勤めていた会社では、雑誌の売り上げが全体的に落ち込む中で、唯一右肩上がりの女性誌(高齢層向け)がありました。その雑誌では、(誌面と連動した)通販(事業)も一緒に行っていて、下着を作って販売していました。その開発担当者が、下着を購入してくれたかたに「ご意見を聞かせてください」ということで5段階評価などを記入するハガキを添えて配送し、回収をしていたんです。返答のハガキは何百件も届いており、それらに対して一軒一軒全てに電話をかけ、「このご意見をもう少し詳しくお聞かせいただけますか?」というように尋ねていました。

そうした働きかけをすると、改善点が出てきます。でも、出てきた改善点をあえて全部改善しなかったようです。なぜかというと、(電話で詳細を聞く中で)そこには良い意見も入っていて、そこを全部、改善してしまうと今まで良いと思って購入している人が、良いと思えなくなる可能性があるからだそうです。そのことが、すごく面白いと感じました。

荒木: 昔からクレームは「宝の山」といわれるけれど、今の話のように意見には良い意見もあるのだから、何でも(クレームばかりを)言えばいいというものでもない。そうした、いろいろな声を拾っていくことは大事だよね。

日本人は、どうしてもカタカナが好きだから「ソーシャルリスニング」とか「VOC」(ボイスオブカスタマー)、「ユーザーズボイス」という言い方をする。

濱口: 日本人は横文字に憧れ過ぎですよね。

荒木: 言い方はどうであれ、大事なことは目の前にいる人たち(実際に自分の会社に関わっている人たち)の声をしっかり聞きくこと。そうすることで初めて相手のことが理解できる。そして、相手の置かれた状態や状況を知ることで、どのように相手に伝えるべきかが、より具体的に(適切な形やタイミングで)情報を伝えていくことができるようになると思う。だから、相手のことを知ることは大事だよね。

濱口: 大事ですね。

荒木: 「彼を知り己を知れば百戦殆からず」といわれるように、まずは相手のことを知らなければ、何を伝えるべきかが分からない。そういう意味では、パブリックリレーションズを「広報」と訳すことによって、広報を担当する人たちは聞く側(リサーチや意見を聞く)としての意識が薄れ、そうした視点が抜けてしまいがち。だけど、「聞くこと」はとても大事だと思う。

濱口: 大事ですよ。私も偏ってしまっていますね。

荒木: 「心理的安全性」においても、「話しやすさ」はコミュニケーションに必要な要素の一つだよね。例えば、社員でいえば、お互いに本音で話し合うことが大事だという話もある。

私の知り合いに組織開発の専門家がいて、関連する本も出版している。彼が言ったのは、やはり本音で話すことが大事だということ。机の下、つまりしっかりと自分の思っていることを言わないと、組織は本当の意味で変わらないという。

そのことは、やはりコミュニケーションが大事であって、相手としっかり向き合うことが大切だということ。そのためには、「見ること」と「聞くこと」その両方の側面が必要だと感じた。

また、「見ること」については別の(関連した)話があるけれど、それを話すと10分ほどかかってしまう(放送時間を過ぎてしまうので、今回は割愛しよう)。

とにかく、情報を発信する前に、まず自分の足元をしっかり見ることが大切。自分の目の前に何があるのか、誰がいるのか。そして、その人たちが何を考えているのかを見て聞いて、その上で発信していく。

だからこそ、広報に携わる人たちは、まず自分たちの目の前で関わっている人たちをしっかりと冷静に見つめ、向き合うことから始める。そして、何を発信すればいいのかを考えた方がいい。

そうしたところで、そろそろ(放送終了となる)20分が経つかな。

濱口: 毎回、早いですもんね。

荒木: 今日は、「『広報』というと、つい発信することばかりに意識が向きがちですが、本来は『聞く』ことも大切です」という話でした。もともとリレーションやコミュニケーションが前提にあるので、発信する前には、まずしっかり考えましょう。そして、周りの人をよく見て、しっかりと話を聞きましょう。そのことを忘れずに、日々取り組んでいきましょう。

濱口: はい、取り組みましょう。

荒木: 今日の放送もあっという間に過ぎてしまいました。皆さん、木曜日の朝(週末です)ですが、頑張って仕事をしていければと思っています。皆さん、いってらっしゃい。

濱口: いってらっしゃい。

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