第4回 トヨタ自動車のニュースルームが示す未来の情報発信の在り方(3)

こんにちは、荒木洋二です。
国内外の各社が展開するニュースルームの中で、最も注目しているのはトヨタ自動車のグローバルニュースルームです。
筆者は英語が得意ではないため、米国企業のニュースルームを事細かく調べて確認したわけではありません。そのため、バイアスがあることは間違いありません。それでも、トヨタ自動車のグローバルニュースルームは先駆けて始めた米国企業よりも何歩も先を歩んでいる、とみています。
新しい時代、その近未来における情報発信の在り方としては理想的な取り組みをしています。あらゆる企業・組織がお手本とすべき仕組みと取り組みに注目しています。筆者がお手本と断言する理由として、特に次の3点が挙げられます。
(1)重要情報の即時(リアルタイム)配信
(2)ステークホルダーファーストの徹底
(3)透明性の飛躍的な向上
今回は(3)について詳説します。
(3)透明性の飛躍的な向上
前回述べたステークホルダーファーストの姿勢が何を示しているのか。それは透明性が飛躍的な向上を遂げていることを明かしています。トヨタは、先の記者会見のみならず、投資家・アナリスト向け説明会、株主向け決算説明会も同様にリアルタイムで視聴できるようにオープンにしたのです。
■ステークホルダーを分け隔てていた壁や垣根を取り払う
従来、それぞれリアルタイムで説明内容を直接聞けるのは投資家・アナリスト、株主だけでした。それが、メールアラート登録者全員が本人の意思さえあれば、アナリストや株主でなくてもリアルタイムの編集なしで視聴できるのです。ここでも質疑応答まで全て見せています。
従来の情報発信は、ステークホルダーの種別で分けるしかありませんでした。インターネット普及以前、リアルに集める場を設ける際、報道関係者、投資家・アナリスト、株主、顧客、取引先、社員、地域住民などに分けて開催するしかありません。しかも会場のキャパシティや時間(時期)、地域性に大きく左右されざるを得ません。
同じくインターネット普及以前、そんな時間や空間に縛られないで実行できる情報発信の主流は、もっぱら紙(印刷)媒体でした。しかし、紙媒体の場合、ステークホルダーごとに分けざるを得ませんでした。

トヨタのニュースルームは、このようなステークホルダーの種別で分け隔てられていた壁や垣根をいとも簡単に取っ払ってしまったのです。時間や場所の壁も、紙媒体の壁もありません。情報発信の本質を知るとあまりにも明白なことです。なぜならば、もともと壁を設ける必要などなかったのです。
■未来における理想的な情報発信の在り方を体現
ニュースルーム登場以前、社内報『トヨタイムズ magazine』を発行していたのです。ニュースルームの配下で『トヨタイムズ』が運営される過程で、2023年11月に終刊しました。
インターネットが普及して間もない頃は、デジタル化が企業経営や情報発信に何をもたらすのか、理解できていなかったのでしょう。ステレオタイプな思考に囚われて、壁や垣根をそのままにしていたのでしょう。
トヨタはニュースルームを起点、中心点として全てのステークホルダーに対して重要な情報をリアルタイムで視聴可能にしてのけました。そればかりか、先(2023年2月13日)の記者会見でも当日の動画をいつでも(今でも)視聴可能にしているだけでなく、テキスト(文字)も掲載し、いつでも読めるようにしています。
佐藤執行役員(現社長)のメッセージや記者たちとの質疑応答も掲載してあります。常にオープンな状態を維持し、動画でも、テキスト・写真でも表現しています。重要な情報であるほど、徹底されています。全てをニュースルームに集約・蓄積させています。
あらゆる壁や垣根を取り払い、透明性を飛躍的に向上させています。固定観念に縛られず、ステークホルダーを大切にすること、情報発信が企業経営に重大な影響を及ぼすことを十分理解しているからこそ、ここまで徹底させることができるのでしょう。
トヨタはニュースルームを中心に据えることで、(1)重要情報の即時(リアルタイム)配信(2)ステークホルダーファーストの徹底(3)透明性の飛躍的な向上、という未来における理想的な情報発信の在り方を体現しているのです。