【ポッドキャスト #17】「対岸の火事」なのか!? フジテレビに見るメディア・エンタメ業界に巣くう病巣とは
フジテレビの第三者委員会報告書が、2025年3月31日に公表されました。ウェブサイトで全文(本文だけで約300ページ)掲載。
同報告書の要点を絞り、読み解いてみました。かなり踏み込んだ赤裸々な内容です。皆さんも読んでみては?
フジテレビでは、ガバナンスもコンプライアンスも機能していなかった 思考停止に陥っていたトップ3人
荒木: 皆さん、おはようございます。
濱口: おはようございます。
荒木: 今週も『広報オタ倶楽部』を始めていきます。よろしくお願いします。
『広報オタ倶楽部』は、本来の広報、企業広報の在り方を広めるべく、28年にわたって企業広報活動を支援してきた私、荒木洋二による「オタク」目線で語る広報の哲学ラジオです。聞き手は・・・
濱口: 「まな弟子」の濱口ちあきです。よろしくお願いします。
荒木: 濱口さんも、ここでタイトルコールしましょうか。
濱口: ここで?
荒木: ここで!
濱口: ここで・・・。
『広報オタ俱楽部』
荒木: はい、ありがとうございます。
濱口: なんか改めて言うと、めちゃくちゃ恥ずかしいですね。
荒木: 今日は、どんなテーマで話そうかと考えて、ちょうど(放送日から)2週間ほど前に、フジテレビに関する第三者委員会の調査結果が発表された(同報告書)ので、それについて話そうと思う。
この調査結果は、2025年3月31日、フジ・メディア・ホールディングスの公式サイトに公表・掲載されている。当時の特設ページ(ウェブサイト)にアクセスすれば、報告書の全文をダウンロードして読むことができる。また、(調査結果については)第三者委員会が記者会見も開いている。濱口さんは、その会見を見たかな。
濱口: テレビで放送されているものを見ました。どの局も一斉に取り上げていましたよね。
荒木: 確かにそうだね。この調査報告書は、実際に全部見ることができる。
濱口: それは知らなかったです。こうしたものが全部、文章で出ているんですね。
荒木: 通常は出すものだから、ちゃんと出している。この調査報告書は、公表版(約400ページ)と要約版(約50ページ)があって、実際のいわゆる報告書そのもののページ数は300ページほど。私は、これを全て読んだんだよね。
濱口: 300ページ全て読んだんですね!
荒木: うん、読んだね。
濱口: それはすごいですね。
荒木: 濱口さんはテレビで会見を見て、どんな感想を持ったかな。
濱口: ベタな感想ですけど、やっぱりフジテレビ側が最初に言っていたことと、実際の内容は全く違っていたんだな、という印象でした。
どこかで中居氏(元タレントの中居正広氏)をかばっているようなところはあるんだろうなとは思っていたんです。だけど、今回は第三者委員会がしっかり入って、その期間に何がどう事実と違っていたのかが、非常に赤裸々になったと感じました。
それに、(会場内の)記者たちの様子も(前回の記者会見と比較して)、今回はすごくおとなしかった印象です。前回のように場が荒れることもありませんでした。そういう意味でも、今回は本当に事実が明るみに出た、きちんとした場だったという印象を受けました。
第三者委員会は、かなり踏み込んでヒアリングや調査を行った
荒木: そうだね。今回、第三者委員会がかなりしっかりとヒアリングを行っているし、いわゆるアンケートのような形式での調査も行っている。それから、過去にさかのぼっていろいろ調べ上げているから、私もあの約300ページを読んだけれど、かなり突っ込んだ内容になっているなと感じた。
ちなみに、私自身が理事長を務めるリスクマネジメントの(専門人材育成を行う)団体(日本リスクマネージャー&コンサルタント協会)の副理事長に石川慶子さんというかたがいる。彼女はYahoo!ニュース エキスパート(各分野の専門家や有識者などが自らの意思および判断でコンテンツを制作発信)として、コンテンツの執筆・寄稿も行っている。石川さんは昔から記者会見や第三者委員会の報告書を読み込んで研究していて、その彼女の見方では「今回は、突っ込みが足りない部分もある。しっかり調べ切れていないところもあるから、もう少し突っ込んで調べてほしかった」といった意見だった。
そして、同団体のYouTubeチャンネルの中で、元検事で現在は弁護士をされている村上康聡さんが今回の調査報告書について評価を交えながら、「80点、惜しい」と語っていた。
ただ、私自身これまで第三者委員会の報告書を全文しっかり読むということはなかったので(以前の例でいえば、齋藤元彦・兵庫県知事の違法行為に関する調査報告書もざっと目を通した程度でした)、今回は私としてはかなり、しっかりと読んで、内容もかなり突っ込んで調べているなという印象を受けた。そして、濱口さんと同じように、「やっぱりこれまで、かなりの部分を隠していたんだろうな」と思ったね。
1番驚いたのは、(あんまり英語を使いたくはないけれど)「ガバナンス(企業統治)」が全くできていなかったこと。それが、今回の件で明らかになった。
当事案の対応を担っていたのは、フジテレビ前社長の港浩一氏、関西テレビ前社長の大多亮氏、そしてもう1人のかた、このわずか3人だけ。なんと、この3人だけで全ての対応が進められており、他の誰にも知らされていなかった。実際に情報を把握していたのは、上層部の3人に加えて、アナウンス室の責任者の男性や、報告書に登場する被害女性の上司である女性アナウンサーFさん。つまり、上層部の3人と限られた人しか情報を持っていなかった。
取締役会にも報告せず、監査役にも一切説明していない。そして今回に限っては、フジテレビ元取締役相談役の日枝久氏にも伝えていなかったようだ。一定期間、この3人だけの中で話が進められていたということ。当然ながら、コンプライアンス部門にも話を持っていっていないんだよね。
また、港氏と大多氏は被害女性本人から話を直接聞いていない。被害女性へのヒアリングは、主にFさんが担当していたようだ。当事者から直接、話を聞こうとすらしていないのに、(Fさんを通じた)伝聞だけで全ての判断していた。しかもFさんは、心理カウンセラーでもなく、カウンセリングの専門知識を持っているわけでもない。被害女性は、命(自死)の危険があるほどに追い詰められており、パニック状態に陥っていたという。もしかしたら、自分で自分の命を絶ってしまうのではないか、と恐れを感じていた。それなのに、専門家でもないFさんだけを窓口にして、対応を任せていた。産業医には一応相談されていたようだけど、基本的にはごく限られた人たちだけで話が進められてしまった。
当初、『週刊文春』の記者が「なんでコンプライアンス部門に共有しなかったのか」と突っ込んだり、突撃で取材をしたりしていた。さらに、コンプライアンス部門に対して「いつ知ったのですか」と質問したという内容もあった。でも、この報告書を読み進めると、フジテレビのコンプライアンス部門自体が社員から信用されてないようだった。
濱口: 「そもそも」ということですね。
荒木: そうだね。「言ってもしょうがない」と思われていた。なぜ、そう思われていたかというと、過去にもセクハラやパワハラの被害を訴えたケースがあったにもかかわらず、訴えられた上司(社内で力のある人物)は、結局軽い処分で済まされ、その後、取締役にまで上り詰めた。その人物は、BSフジの報道番組でキャスターを務めていた反町理氏。反町氏は、今回の報告書が公表された直後に取締役を辞任している。彼も相当なセクハラやパワハラ行為があったとされているのに、会社側は彼を守り、軽い処分で済ませ、最終的には取締役にまで就任させてしまっている。
女性社員や女性アナウンサーの中には、被害に遭っても「面倒くさいと思われたくない」とか「弱いやつだと思われたくない」「(被害を)言うことによって、なんらかの不利益を被るのではないか」など、さまざまな思いがあった。だからそれは、コンプライアンス部門自体が全く信頼されていないということ。そのことは、報告書を読んでいるとよく理解できる。
濱口: それは同じ女性として、すごく理解できますね。
被害女性を守るかのような発言の裏に何が潜んでいたのか? 無自覚のまま発動した保身と責任逃れの思い
荒木: そういう雰囲気が(社内に)漂っていたんだよね。本当に秘密裏に進められていて、広報にもコンプライアンス部門にも言っていない。判断をしていたのは、上層部の3人だけ。その3人だけの中で話を進め、被害女性に対しても会わないまま、ヒアリングも行わないままの状態で判断していた。
しかも事情を問われた際、彼らは「プライベートな男女の問題だと思った」と答えている。私はその発言に、(根本的な)感覚が狂っていると感じた。もう50歳を超えた中居氏と、まだ20代の女性の関係を、(一方的に)「プライベートな問題」と決めつけてしまっている。そして、「彼女のプライバシーを守らなければならない」「刺激してはいけない」と、理由を付けて、一切の思考を停止して、中居氏に対するヒアリングもせず、結局は中居氏の番組への出演継続の判断すら、被害女性に確認を取ることもしなかった。これはもう、「思い込み」と「思考停止」による対応。
おそらく、「自分たちの身に降りかかる火の粉があるし、問題を起こしたらまずい」といった気持ちは当然、働いたのだろう。しかしそれを、「プライベートな問題だから」「彼女が公になることで傷ついてしまうから」などと言って、(言い方は悪いけれど)全ての責任を被害女性になすり付けて、黙って済ませようとする。その発想が、無自覚のうちに、瞬間的に出てきているように思える。
濱口: 「無自覚」ってどうなんでしょう。
荒木: 多分、無自覚だと思う。でも、冷静に考えたら、当然、自分の保身もあるわけだよね。
濱口: 絶対に、それもあったと思います。
荒木: それでも、言葉としては、「(被害女性の)プライベートを、これ以上刺激してはいけないし、命の危険があるから」ということで、自分たちを納得させ、思考停止のまま何もしなかった。
濱口: 「無自覚なところもあったのだろう」とは思います。けれど、無自覚でやっているからこそ、こんなに恐ろしいことはないですよね。
荒木: 冷静に考えれば、あのような対応にはならいだろう。だけど、実際には、きっと、自分たちが良くない(不利な)立場に置かれることへの恐れがあったり、言い訳を探したり、さまざまな気持ちがあったはず。それなのに、「プライベートなことだから」という言葉だけで、自分たちを納得させてしまった可能性がある。おそらく彼らは、瞬間的に、そうした発想になってしまったのだと思う。そして、それ以降(そうした対応の後も)、何も考えていなかった(深く考えることなく、対応を続けてしまった)。
この事案が公になり、『週刊文春』や『女性セブン』などが記事を出したときも、フジテレビの広報部は、上層部(事案を知る3人)の拙速な対応に反対していた。というのも、フジテレビ広報部に情報が共有された段階で、上層部は「うちの社員は関与していません」と公式に発表しようとした。それに対して広報部は、「何も調べていないのに、現段階で断言するのは危険性がある」「ちゃんと、おわびをした方がいいのではないか」と(その場で反対して)提案した。でも、上層部は「おわびをしたら、非を認めたことになる」と判断。実際、当該の社員に確認したら、当事案の「その場・その瞬間」には関わっていないけれど、その事案の流れをつくった。それなのに、港氏は事実関係を無視し(確認することもせず)、広報部の反対を押し切って「関与していません」と発表してしまったんだよね。
あるいは、年末の段階で「どういった内容の文(公表文)を出すか」という話し合いをしていたときでさえ、港氏は接待ゴルフに行っていたようだ。百歩譲ってゴルフに行ったとしても、その後に宴会まで行ってしまっていた。一次会、二次会と続く中で、お酒が入った状態のまま、広報部が送った文案を見て「これは良くない」とか「こうした方がいい」といった反応を返し、「(〜に関しては)公表しない方がいい」というように反論していたという。最終的には広報部の提案に納得し、一部情報を公表した部分もある。
当時の(広報部)社員たちは、こうした対応にあきれていた。これほどの一大事なのに、お酒を飲んだ状態で文案を確認し、しかも、(広報部が話し合う場)現場に来ないで、電話だけで済ませてしまうという、その感覚に。その広報の中心となって動いていたメンバーたちも、(やるせなさや)苛立ちがあったのではないかと思う。
濱口: これは、「面倒事から逃げたな」と思われますよね。
荒木: そうだね。とても無責任なことで、その重要性が分かっていない。
濱口: そうですね。
最初からうそをついて呼び出した中居氏は確信犯 示談内容を明かすことも拒否
荒木: 第三者委員会は今回、「間違いなく、性暴力があった」と明確に認めている。私の知人である元警察関係者が運営するYouTubeチャンネル(『佐藤誠の警察O Bチャンネル』)でも、このような問題は「非親告罪」に当たるので、被害者などが告訴しなくても立件することができる、と話していた。
さらに、中居氏は最初から他の人(被害女性以外)を呼ぶつもりもなく、(食事をする)店を探すこともせず、最初から自宅に誘っている(彼には、「自宅」とされるマンションがいくつかあるが、今回、誘ったのはバーベキューが行われたマンション)。つまり、中居氏は初めから(意図的に)うそをついていた確信犯だよね。
(フジテレビの)編成の責任者(中居氏と仲の良い人)も、明らかに中居氏側に付いている。だから、そのことをすぐには、上に報告もしていない。
中居氏との会話を見ると、ごまかしているし、彼に対しても本当のことを言わない。
今回、被害女性側は示談に応じたけれど、(第三者委員会に対して)、「示談の内容をオープンにしても構わない」というスタンスだった(いわゆる「守秘義務」の全面解除に応じる旨を回答)。だけど、中居氏側がそれに反対したため、公表できなかった。示談の内容を公開するには、両者が同意する必要があるからね。
また、この事件が起きる前にも、「スイートルームの会」と呼ばれるものがあって、被害女性もそこに呼ばれていたという(その際、彼女は途中で帰っており、顔を出しただけだった)。この「スイートルームの会」には、被害女性と一緒に、(別の男性)タレントがもう1人参加していたというが、彼は第三者委員会の調査に協力していない。おそらく、委員会に話をすることで秘密が漏れ、自分が不利益を被ると思ったのだろう。
(関西テレビ前社長)大多氏は、以前からずっと女性アナウンサーを交えた、有力な番組出演者との会合を開いていた。そこではセクハラ行為や発言はなかったようだけれど、大多氏と一緒にその会を開いていた有力な番組出演者も、かなりのベテランで大物だと思われる。でも、その人物も「忙しい」という理由で、調査への協力をしていない。
濱口: 本当に、信じられないですよ。
広告代理店、スポンサー企業もセクハラとパワハラの当事者という重大な事実
荒木: 第三者委員会は、(セクハラの実態についてフジテレビの役職員に対して)「誰からセクハラを受けたのか」を調べている。(被害者が)男性か女性かに関係なく、全ての実態が調べられている。その結果、最も多かったのは社内。特に上司から受けたことが最も多かった。それ以外にも、番組出演者(つまり芸能人)や広告代理店(の関係者)からのセクハラも上がっている。そして、スポンサー企業も上げられている。
今回、フジテレビの人権を軽視している姿勢に意を唱え、降りた(CMを差し止めた)スポンサー企業は300社以上に上るという。でも、そのスポンサー企業の中にも、セクハラ行為をした人が所属している会社があるはずなんだよ。その会社全体とは言えないけれど、スポンサー企業や広告代理店の中でも、いわゆる広告宣伝部などメディアやエンターテインメントに関わる部署の一部の人たちは、セクハラに関わっていた事実があるということ。
これはフジテレビだけの問題ではなく、メディア・エンタメ業界全体における問題ではないかと感じる。実際、スポンサー企業の中にもセクハラを行った人物がいるわけだよ。そう考えると、スポンサーがフジテレビへのCM出稿を差し控えることはいいけれど、「では自分たちはどうなのか」という視点を持つことが必要。
私が思うに、スポンサー企業や広告代理店も、過去に接触や交流があった部署の人たちを中心にしっかりと調べ、その結果を自ら公表すべき。今回の問題が第三者委員会によって発表されたからには、「自社の中にも(同様の行為を行った人物が)いるかもしれない」という観点を持つことが重要だと思う。もちろん調査には時間がかかると思うけれど、300社を超えるスポンサー企業のうち、1カ月後、あるいは2カ月後に「当社の社員の中にもそうした行為を行った者がいました」「事実を確認したため、処分しました」と発表できるかどうか、私はそこに注目している。
濱口: どうですかね・・・。それを(そうした対応が)できる企業、出てきますかね。「ぜひ、出てきてほしい」という思いはありますよね。
荒木: もし出てこなければ、やはりどこかおかしいよね。今回、スポンサー企業の多くがフジテレビへのCMを差し控えているわけだから、それなら自分たちの社内にも同様に、「そうした社員がいたかもしれない」と想像し、(必要であれば)追加で自ら調べるくらいの姿勢がなければ、フジテレビだけに責任を押し付けていることになりかねない。だから私は、それってどうなんだろうと思った。
濱口: そうですね。私は、これだけ長い間、「コンプライアンス」についていわれ続けている中、いまだにこんなことが起きているということが、本当に信じられないですね。
荒木: そう、「いまだに」なんだよ。セクハラやパワハラ、そしてコンプライアンスなどといわれているけれど、フジテレビの場合は、会社の組織風土が根強く、全く機能しておらず、形骸化していたということだよね。実際、コンプライアンス部門に「言ってもしょうがない」と感じている女性社員が多いということは、組織の風土そのものが、(今もなお)変わっていなかったということになる。
しかも、フジテレビの社外取締役には、超大手企業の会長など有名な人物が多く入っている。けれど、港氏を含む上層部3人は、社外取締役に知られたくないという理由から、取締役会でこの問題を報告していない。
今回、社外取締役たちが事実を知り、「フジテレビの組織をこう変えた方がいい」といった提案をしたという。その提案自体は理解できるけれど、私はどこか「後出しじゃんけん」のように感じてしまう。というのも、今回の社外取締役の多くは、(フジテレビ元取締役相談役の)日枝氏の知り合い(関係の深い)人物ばかりだったから。
本来なら、もっと早い段階で問題を真剣に聞き出し、問いただしていくべきだったはず。だけど、それが行われていなかったということは、結局、社外取締役も「形だけ」だったということ。また、監査役も同様。監査役も第三者委員会が発表するまで機能していない。(もっと早い段階で)問いただし、追求すべきだったのに、それができておらず、「野放し状態」となっている。だから、「形だけの社外取締役」「形だけの監査委員会」と言われても仕方のないこと。
それくらいひどい内容だった。
濱口: ひどいですね。
第三者委員会が示した着目すべき視点「人権救済メカニズム」
荒木: これは、(第三者委員会が)しっかりと調べてくれたからこそ明らかになった。
さらに、被害女性を中居氏に会わせた編成局長は、1月に入ってからスマホのやり取りを消していた。その消されたやり取りの内容を「デジタル・フォレンジック」という10年以上前からある技術を使って、復元している。
だから、調査報告書には、中居氏と編成局長の事細かなやり取りが編集されることなく原文のまま載せてある。もちろん、被害女性と中居氏のやり取りも同様に載せてあった。(この報告書からは)しっかりと調査した上で書かれていることが良く分かる内容だった。
ただ一方で、いまだに事実を隠している人や、調査に協力しない人がいることも明らかになった。だからこそ、今回の問題は「フジテレビだけの話」「対岸の火事」ではなく、メディア・エンタメ業界全体が「自分たちはどうなのか?」と、(調査を行うなどして)本気で変えていかいないといけないと思った。
濱口: 私が今回すごいと思ったのは、相手が大企業であるというだけでなく、その大企業が「メディア」、しかも「テレビ局」だったということです。
本来、事実を発信する最たる(伝える役割を最も担っている)機関のはずが、(自らの問題については)何も事実を発信していなかった。こんなことがあれば、今後「情報を得るとき、何を信用すればいいの?」と、(不信感を持つことに)なりますよね。
荒木: そうだよね。それから、大企業が不祥事を起こした際、メディアは追求する側でしょ。そうした場合、必ず「コンプライアンス」や「ガバナンス」といった言葉を使って追及し、大概は批判する。でも今回、そのメディア自身(フジテレビ)は何もできていなかった。
じゃあ、これはフジテレビだけの問題なのかといえば、私たちから見れば、他のテレビ局も同じような体質なのではないかと思ってしまう。正直、「似たり寄ったりなんじゃないか」と。
確かに、フジテレビは「楽しくなければテレビじゃない」などと掲げて、(他局に比べて)少しやんちゃをするような(攻めた姿勢)のイメージはある。でも、他のテレビ局に関しても、「どうなのか」という思いはある。他のテレビ局だって、芸能人やタレントを使った番組を数多く制作しているからね。そう考えると、メディア・エンタメ業界全体が、この機会に本気で変わっていかないと、いずれ(社会からの)信頼を失ってしまうのではないかと(危機感を)感じる。
濱口: そうですね。
荒木: 同報告書には、「人権救済メカニズム」について書かれていて、人権に関する用語が詳しく説明されているので、読むと勉強になる。その中に、(人権救済メカニズム)定義のようなものも示されていて、必要とされる八つの要素が挙げられていた。そして、それらの定義に「違反している」という(明確に指摘するような)書き方がされていて、内容としてもかなり踏み込んで書かれているので、ぜひ一度、頑張って読んでみてほしい。
濱口: そうですね。たまに私は、(情報収集のために)夜にラウンジなどで働くことがあるのですが、そこで今回の件について話すと、「中居氏に抱かれて8000万もらえるなら、いいでしょ」というように表面的な意見を言う人がやっぱり少なくないんです。(その反応を目の当たりにすると)「世間にはまだまだこういう感覚の人が多いんだな」と、残念に思いました。
また、今回の第三者委員会の発表があったときにも、「まだこの話題をやっているの?」と反応する人も多くいました。
荒木: なるほどね。そういう意味では、(世間の)関心も薄いのかな。被害にあった女性は、フラッシュバックに苦しんでいて、食事すらとれなくなったという。事件当時に鍋を食べていたようで、その食材を見るだけでパニックになってしまうほどに。
そして、彼女がSNSで発信したら、(関係者から)「そんなことしない方がいい」と止められそうになったこともあったようだ。でも彼女にとっては、SNSでの発信が唯一社会とのつながりを感じられる場所であり、ストレスを発散できる場でもあった。実際に、担当の精神科医から「本人はこうして自分の精神を保っているのだから続けた方がいい」と言われ、彼女はSNSでの発信を続けた。
さらに、彼女に対して「ついて行くのが悪い」といった心ない発言があった。けれど、業界で数多くの番組を持ち、「ナンバーワン」といえるほどの大御所MCが、もともとその気だったにもかかわらず、巧妙にうそをついて(相手を油断させ)ごまかしながら、2人きりの状況をつくって行為に及んだ事実がある。
しかも、彼女がその場に行かざるを得なかったのは、業務の延長線上で、もし断ったら、会社が不利益を受けるかもしれない恐れを感じたから。そうしたこと(背景)があって、このようなことになっていることが、とてもやるせない。
メディア・エンタメ業界は「対岸の火事」で済ませてはいけない
荒木: また、(同報告書にも記載されていたとおり)10年ほど前にも似たような事案があった。(そのことを)『週刊文春』が報じた。そのときは、「とんねるず」の石橋貴明氏が関わっていたとされていて、(二次会に誘われて、2人きりで立ち寄ったバーで)同行した女性アナウンサーは、危険を察してその場を立ち去ったそうだ。
私自身も男性として、自戒を込めて言うと、さっきの濱口さんの話にあった「中居氏に抱かれて8000万もらえるなら、いいでしょ」というような女性に対する価値観や接し方について、改めて考えなければならないと感じた。そして、女性の中にも「ついて行くのが悪い」という意見を持つ人がいるのも事実。でも、「そうではない」と思っている。
濱口: 確かに。女性の中には、(自分にとって)利益になると分かっていて「ついて行く」人もいます。でも、今回の被害女性の場合は違います。
フジテレビの中で、そもそもコンプライアンス自体が信用ならない場であり、そうした社風が漂う環境の中で、これだけの事実を公にできたこと。その彼女の勇気と、いまだに戦っていることに対して、私は同じ女性として、本当に誇らしいという気持ちです。
荒木: そうだよね。そのあたりも含めて、今回のフジテレビの問題というのは、まさしく「メディア」という大手企業で起きた出来事なわけで、これを機に、何度も言うようだけど、フジテレビだけの問題として済ませてはいけないと思う。
同じようにテレビ局を持つ他のメディア企業も、それぞれが調査に乗り出した方がいいし、さっき触れたような広告代理店やスポンサー、芸能プロダクション(大手の事務所)なども、「自分たちはどうだったのか」と見つめ直す。
そして、フジテレビのせいにして終わるのではなく、自ら調査を始める企業が増えてほしい。
芸能プロダクションの社長たち(3社)も、港氏が(それぞれの社長たちのために個別に)企画した会に女性アナウンサーや女性社員を招いていた、と記されていた。報告書にはプロダクション名までは書かれていなかったけれど、「3社」と明記されていて、そのうち2社は調査に協力したものの、1社は協力していなかった。そう考えると、フジテレビ以外にも、こうした会に関わっていた利害を共有する結束された側にいた企業は、もう一度、自分たちでしっかりと調べ、事実を公表してほしい。それこそが、本来あるべき姿だと思う。
というところで、もう、放送終了時間を超えてしまったかな。
濱口: 今、30分くらいたちました。
荒木: 今回、長くなってしまったけれど、また今後もこの件について、追いかけて(何かあれば)取り上げていきたいです。それから、他の(この事案に)関わった企業についても、意識して追っていきたいと思います。
今日は朝から少し重たい内容になりましたが、「フジテレビの第三者委員会の調査報告書」についてお話ししました。
それでは、皆さん今日も一日頑張っていきましょう。いってらっしゃい。
濱口: いってらっしゃい。
荒木: ありがとうございます。