第15回 ニュースルームとオウンドメディア(1)

こんにちは、荒木洋二です。
大企業が展開する広報は、ニュースルーム、オウンドメディア、SNSが主流の手段として定着しつつある、と筆者は見ています。これらをいかに組み合わせて情報を発信するのか、日夜試行錯誤しているようです。
「情報」を扱っているという点で、前述の三つは共通しています。今回から「ニュースルームとオウンドメディア」と題し、数回にわたる連載を始めます。
企業内外で情報発信、あるいはコミュニケーションに従事するビジネスパーソンは少なくありません。彼らは情報を発信する手段、道具に振り回され、本質を見失いやすい立場に置かれています。
当連載では、そもそも何なのか、いつからどうやって始まったのか、という問いを繰り返します。そうすることで、情報、ニュースルーム、オウンドメディアについて深掘りし、その本質を炙り出したいと考えています。
◆企業の成長と存続に欠かせない情報発信
ここでまず「情報」とは何かを整理してみましょう。
私たちが生活するために情報は欠かせません。個人から家庭、組織、社会など、どの階層においてもコミュニケーションが土台になければ、その存在が成り立ちません。そのコミュニケーションを成立させているのが、情報です。
情報とは、個人・集団・社会の意識、判断、行動に影響を与え、変化を促すものです。その核心が「言葉」です。
企業・組織もまた経営するために情報が必要不可欠です。どんな情報を収集したり受け取ったりするのか、どんな情報を発信するのか、どうやって情報を流通させるのか。いずれもその成長や存続に大きな影響を及ぼします。
相手がどんな立場の人であろうとも、企業の存在、提供する製品・サービスの存在を知らなければ、それは存在していないのと同じことです。つまり「知らない=存在していない」のです。
「知らない」ということは、人々が何かしらの行動(求職・購買・利用・取引など)を起こす際の選択肢に挙がらない、ということにほかなりません。ですから企業経営は、「知らせる」ことから始まるのです。知らせなければ、何も始まりません。すなわち情報発信は、企業にとって逃れられない宿命的な行為ともいえます。
◆情報発信と媒体
直接の対面での口頭によるコミュニケーション、情報発信の場合、決められた時間内、非常に狭い範囲での伝達に限定されてしまいます。その場にいる、時間も場所も共有している人たちだけにとどまります。口頭ですから、発した言葉はその場で消費されます。
そのため、正確に伝わらなかったり、時間経過とともに聞いた内容に関する記憶が薄れたりします。さまざまな制約や障壁を乗り越えるため、もっとコミュニケーションを円滑にするためには、情報、つまり言葉を記録する「何か」がどうしても必要だったのです。
15世紀、ドイツのヨハネス・グーテンベルク氏により、活字の開発ならびに活版印刷技術の発明がなされたことは、よく知られています。この発明により、情報発信が劇的に変化します。いわば、印刷技術による「情報革命」が起こったのです。
情報、言語と密接に関わるのが「媒体=メディア」です。
媒体とは、情報の送り手と受け手の間を取り持つ、情報伝達の媒介手段のことです。情報発信は印刷媒体の登場により、時間や場所の制約から一定程度は解放されました。その印刷媒体の代表が紙媒体です。
活版印刷から約3世紀後、18世紀半ばから19世紀にかけて産業革命が起こります。産業革命により、社会を構成する主体・一員として企業という組織体が台頭します。その企業の情報発信を最初に担ったのが紙媒体でした。
◆企業の情報発信と紙媒体
人類史上最大のベストセラーは聖書といわれています。聖書は紙媒体となることで、世界中で読まれるようなったことはよく知られています。企業の情報発信も紙媒体の登場で広がりを見せました。
日本で最初の広報誌は、1878年に発行された『芳譚雑誌』です。薬局が主に薬の購入者たちや近隣の住民向けに配布していました。
社員向けの社内報の始まりは、1903年、鐘淵紡績(現・クラシエ)が発行した『鐘紡の汽笛』でした。
顧客や社員とコミュニケーションするために紙媒体で情報を発信したのです。
読者の中には広報業務に携わる人たちも少なくないと思います。「広報」という言葉が、パブリック・リレーションズ(略してPR)の 邦訳であることは、業界ではよく知られています。PRは第2次世界大戦後、米国から日本に導入された概念です。
ただ、ここでしっかりと確認しておきたいことがあります。PRの概念が日本に伝わる前から、企業は情報を発信していました。前述の広報誌や社内報で確認したとおりです。
企業自身が媒体を持っていた、ということです。つまり企業が所有する媒体ですから、「オウンド(Owned=所有)」の「メディア(媒体)」です。
次回は、企業とマスコミ(=マスメディア)の関わり、メディアの主役交代などに関して解説します。
