第16回 ニュースルームとオウンドメディア(2)

こんにちは、荒木洋二です。

大企業が展開する広報は、ニュースルーム、オウンドメディア、SNSが主流の手段として定着しつつある、と筆者は見ています。これらをいかに組み合わせて情報を発信するのか、日夜試行錯誤しているようです。「情報」を扱っているという点で、前述の三つは共通しています。

「ニュースルームとオウンドメディア」と題した連載をお届けしています。

前回、企業内外で情報発信、あるいはコミュニケーションに従事するビジネスパーソンに対して警鐘を鳴らしました。情報を発信する手段、道具に振り回され、本質を見失いやすい立場に置かれているからです。

原点や本質に立ち返えるためには、「そもそも何なのか」をいちいち自らに問うことが重要なのです。そこで、情報の定義に始まり、情報と媒体の関わり、企業における情報発信と媒体との関わりを概観しました。

マスコミ4媒体の企業に対する影響力

その一環として、オウンドメディアの意味を日本語で示したわけです。「オウンド(Owned=所有)」の「メディア(媒体)」ですから、「企業が所有する媒体」ということです。

日本では今から約150年前に広報誌が生まれ、20世紀初頭には社内報が発行されていたのです。企業はオウンドメディアをずいぶん以前から発行していたという「事実」があったのです。

決して、目新しいことではないのです。企業経営に欠かせない重要な営みとして、今日まで脈々と続いてきたのです。

そして、インターネットの普及により、メディア(媒体)の主流が印刷・紙から、「電子=デジタル」へと移行したのが現代です。

デジタル化の波は、企業社会において絶大な影響力を及ぼしていたマスメディアの有り様や存続を左右するまでに至っています。マスメディアとは、テレビ、新聞、雑誌、ラジオのマスコミ4媒体のことを指します。

印刷と電波の技術革新と商用利用が、マスコミ4媒体を生み出し、その隆盛を後押ししたといえます。特に日本においては第2次世界大戦後、高度経済成長とともに勢力を伸ばし、企業社会のあらゆる場面での意思決定に多大な影響を与えたことは疑いようがありません。

マスメディアという企業体は、主に2つの機能(役割)により成り立っていますそれが報道と広告です。マスコミ報道は人々の意識、判断、行動に影響を与えます。広告の方は特に購買行動に絶大な影響を及ぼしました。

大量生産と大量消費を可能にした影の立役者が、マスコミ4媒体での広告だったと断言しても決して言い過ぎではないでしょう。20世紀後半、生活者の意識およびライフスタイルの変化、日本経済全体の成長に影響を与えたことは疑いようがありません。

マスコミからデジタルへとメディアの主役が交代

ところがインターネットが登場することで、テレビを頂点としたマスコミ4媒体の牙城が崩れ始めます。その潮流は広告費の推移を見ることで明らかです。最大手広告代理店・電通は毎年「日本の広告費」を公表しています。ここ10年ほどの発表内容を確認してみましょう。

すると、企業などが投下する広告費の年間総額において、インターネット(デジタル)は2004年にラジオを抜きます。続いて、2006年に雑誌、2009年には新聞と、瞬く間に抜き去ります。そして、2019年にはとうとうテレビをも越えていきます。

長らくトップの座を守り続けたテレビをも凌駕してしまったのです。インターネットの勢いは止まりません。2020年、マスコミ4媒体の広告費(2兆4538億円)が束になっても、デジタル広告費(2兆7052億円)に敵わなくなったのです。

しかもマスコミ4媒体由来のデジタル広告費を差し引き、マスコミ4媒体に上乗せしても下回っています。この傾向は翌年以降も続き、年々その差は広がっています。主役は完全に交代しました。

デジタルマーケティングとトリプルメディア

メディアの主役交代は、マーケティングの主役交代も意味しますマーケティングの主な目的は新規顧客の獲得です。そのために何から始めるのか。端的にいえば、それは「認知獲得」です。前回解説したとおり、「知らない=存在していない」ことと同じです。ですから、まず「知らせる=情報発信」から全てが始まります。

認知獲得を長年にわたり牽引してきたのが、マスコミ4媒体での広告でした。もう一つ挙げると屋外・交通系(アウトドアメディア)の広告です。インターネットが登場するまでは、これらがマーケティングの主役でした。それがデジタルへと交代したわけです。

インターネット広告は、情報通信技術の革新とともに多様な手法が現れ、進化を続けました。世界のマーケターたちが、ウェブマーケティング、デジタルマーケティングの最適解を求め、研究・実証する過程で2010年前後くらいから注目を浴び始めたのが、「トリプルメディア」です。

トリプルメディアとは、広告を掲載する「ペイド(paid)メディア」と自社が運営する「オウンドメディア」、信頼や評判に関わる「アーンド(earned)メディア」のことを指します。アーンドメディアとは、生活者や企業・組織が発信するブログやSNSのことです。

近年、情報発信に携わる人たちの中で盛んに使われる「オウンドメディア」。この用語は、デジタルマーケティングの一環として企業社会に登場したのです。

次回は、オウンドメディアに関してもう少し掘り下げます。日本の企業社会にどのように浸透していったのか。報道状況などから確認します。

前の記事へ 次の記事へ