【ポッドキャスト #29】情報発信は、企業にとって逃れられない「宿命」

「知らない = 存在していない」といえます。知られていないと、選択肢にも上がりません。

つまり「知らせる = 情報発信」は、企業の「宿命」なのです。宿命だからこそ、情報発信という営みを分解して整理することは重要です。

社長と社員たちの雑談から発信してみてもいいかも!? キーワードは「もったいない」です。

情報発信を4つの要素「目的・対象・内容・手段」に分解する

荒木洋二 : はい。皆さんおはようございます。

濱口ちあき : おはようございます。

荒木 : 『広報オタ倶楽部』、7月10日の今日も元気に始めていきたいと思います。
『広報オタ倶楽部』は、本来の企業広報の在り方を広めるべく、28年以上にわたって企業広報活動を支援してきた私、荒木洋二によるオタク目線で語る広報の哲学ラジオです。
聞き手は・・・

濱口 : 「まな弟子」の濱口ちあきです。

荒木 : はい。ありがとうございます。「オタク目線で語る哲学ラジオ」、いいですね。「どんなラジオなんだ?」みたいな。

濱口 : 地産地消ですよ。自分で言って自分でうっとりするのは、究極の地産地消。
でも面白いですよ。毎回面白くていいです。ありがたいです、1番そばでね。

荒木 : いえいえ。先週は「声の社内報」という話を濱口さんから聞きました。大変面白かったですね。

濱口 : ありがとうございます、うれしい。

荒木 : この前に話をしながら、「もしかしたら、この切り口の方が広報は企業に浸透するのかな」と。
支援する側の負担もそれほど掛からない。だから、いろいろな意味で気軽に雑談を(する)という話を先週にしていたけれどど、なかなか面白いなと思った。

濱口 : うれしい。

情報発信の手段を「表現」と「伝達」に分ける 表現手段の一つが「声」

荒木 : ちょっと小難しい話をすると、先週に話をしながら、「情報発信」について思うことがあった。
「情報発信」は、(ただ単純に)「情報発信」の一言で終わってしまい、深掘りしない。前々回にも言ったように、広報、マーケティング、ブランディング、プロモーション、いろいろな言葉がたくさんあるが、全て「情報」を扱っているんですよね。
それで、情報発信するにあたって、4つの要素がある。
1つが、「何のために情報発信するのか」という目的。「誰に対して発信するのか」という対象。「一体何を発信するとするのか」という中身。表舞台や舞台裏という話ですね。最後のに「どうやって伝えるのか、発信するのか」という手段。「どうやって」の部分では、「どう表現するのか、どう表すのか」(表現手段)と「どう届けるか、デリバリーするのか」(伝達手段)という両面がある。「どう表現するか」の1つに、音声、声がある。
全部やった方がいいし、大手さんは全部できる(中小にはかなりハードルが高い)。先週の話を聞いていて、声に関していろいろな深い話を濱口さんがしてくれたので、「声ってすごく武器になるな」と。雰囲気も伝わるじゃないですか。

濱口 : 伝わりますね。

荒木 : だから、「声による社内報」、すなわち表現手段を声に絞っていく。聞く方は耳で集中できる。そういう意味では、先週の話は非常に面白かったなと思いましたね。

濱口 : ありがとうございます。

荒木 : さっき言ったように難しい言葉で考えてしまいがちだが、1つ重要なことがある。結論から言うと、「情報発信」は企業がずっと事業を続けていく、生き続けようと思っている限りは、絶対に逃れられない「宿命」なのです。

濱口 : その言葉、好きです。荒木さんのパワーワード。

荒木 : ただ、2冊目の本では消されましたが。

濱口 : 分かってないですよ、2冊目の本の編集者!

荒木 : いやいや、「荒木さん、こういう長い文章の場合は、パワーワードが多すぎる(読者が)と疲れます」と(編集者に言われた)。

濱口 ; なるほど。削らなければいけないという。

荒木 : 「すごく思い入れがある言葉であるというのは分かるんですけど、これだけ分厚い本になると、読み切れません」と言われて、「確かに」と(腹落ちした)。
「コラムだったらいいかもしれませんが」と言われて、これまた「確かに」と思ってね。

濱口 : それを言われたら、さすが編集者さんですね。

荒木 : それで、(話を元に戻すと、情報発信は企業にとって)「宿命」なんですよね。なぜそうかというと、「知らない」ということは、「存在してない」ということに等しいですよね。そのサービス、製品が良いとか悪いとか、好き嫌いではなくて、知らないから何の感情も生まれないし、そもそも選択肢に上がらない。

濱口 : それ以前の問題ですよね。

荒木 : それ以前の問題。だから、知ってもらわないと何も始まらない。

濱口 : うん。

荒木 : まず、知らせることから始まる。企業のことを知ってもらう。企業の名前を知ってもらう。製品の名前を知ってもらう。とにかく知らせないと、存在してないことに等しいわけだからね。
その人にとって、どれだけに良い製品でも、ぴったりの製品でも、知らなかったら絶対に選ばれない。そういう意味においては、もう知らせるしかない。
つまり、情報を発信するところから全てが始まる。それは口頭であろうが、声であろうが、文字であろうが、とにかく発信しないと誰も知ってくれない。そういう意味において、情報発信は企業にとってまさしく「宿命」なんだよね。

発信していないと、「何もしていない」「何か隠している」と見られる

濱口 : うーん。

荒木 : やめてしまうと、記憶からだんだん消えていく。

濱口 : そうですね。

荒木 : 何も情報を発信してないとどう思われるのか。「ああ、この会社は何も活動していないのかな」と思われる。

濱口 : いや、そうですね。

荒木 : なので、毎回思うことなんですが、中小企業は、結構いろいろなことをやっている。日々、業務に取り組んでいるわけですよ。それは、ニュースリリース(として発信)できるニュースではなかったとしても、工夫したりとか、悩んだりとか、いろいろやっているわけですよ。
でも、何にも発信していなかったら、何も起こっていないように見えてしまうんですよ。
例えば、ウェブサイトにアクセスしたら、「夏季休暇のお知らせ」や「移転しました」などの情報があったら、どう見えるか。何も動いてないような、何の温かみもないような、何もそこにドラマが生まれてないような会社に見えてしまうわけですよね。それは良くないなと思っているわけです。

濱口 : 本当はいろいろなことがいっぱいありますからね、会社の中は。

荒木 : だから、「発信しない」ということは、「何もしていないんだ」あるいは「隠している」と思われてしまうんですね。

濱口 : それはありますよね。

荒木 : やっているのに発信しなかったら、「何もやっていない」や「隠し事があるんじゃないか」と見られてしまう。そうすると企業にとってプラスのイメージにはならないんですよ。

濱口 : 特に不祥事があった時にはもう・・・。

荒木 : 旧ビッグモーター(現:WECARS)みたいな会社だって、コマーシャルをガンガンやっていた。しかし、広報部がなかったわけです。外部に向けて発信する機能はなかったわけだから、隠していると思われるわけですよね。

濱口 : そうですね。

荒木 : だから、広告であろうと、CM、広報や何であろうと、とにかく「知ってもらわないと何も始まらない」という大前提がある。だからこそ、知らせる。ホームページも、検索に引っかからなかったら意味がないから、まず立ち上げる。検索したら引っかかるかもしれない。出合って分かってくれるかもしれない。
社名を知らなくても、キーワードで引っかかるかもしれない。
ホームページも情報発信の1つじゃないですか。
企業の経営者って、経営する限り(「情報発信」から)逃れられないわけですね。
その大前提に立つと、「広報」という言葉を使ってしまうと訳が分からなくなってしまうが、「いや、やらないっていう選択肢はないよね」となる。

情報発信には2段階の目的 「知らせるため」と「選ばれるため」

濱口 : そうですね。特に今はどの社長さんも、情報発信は何かしなければいけないと思っていますよね。

荒木 : それはやるしかないわけですよね。それで、1番最初に戻ると、「「宿命」だからこそ、ちゃんと考えよう。「情報発信」とは何なのか、きちんと分けて考えないと手段に振り回される。
例えばSNSは、「Facebook」や「Instagram」もあるし、「TikTok」など、いろいろありますよね。あるいは、「Youtube」もある。
とにかく、それらは全て手段です。その手段に結構振り回されてしまう。
もちろん手段があって飛びつくのは分かる。ただ、その前に「宿命」であるが故に、ちゃんと情報発信を整理していかないと、訳が分からなくなって、踊らされてしまう。

濱口 : どうでもいいことを発信したりしやすいですよね。本当の魅力はそこじゃないのに。

荒木 : そう。それで、計画性がなかったりするじゃないですか。だから、「何のために情報発信をするのか」という原点に立ち返る。
情報発信の目的にも段階がある。すごくざっくりと言うと、2段階あって、まずは「知らせるため」、次は「選ばれるため」です。選択肢に上がっても、結局選ばれなかったら意味がないよね。さらに言うと1回選んでもらっても、離職してしまう。あるいは「もうこの会社のサービスを利用しない」とやめられると困る。
「選んでもらった」その次は、今度は「選ばれ続ける」ために情報は発信する必要がある。
情報発信は、その目的が段階に分かれているが、要は「宿命」なわけですよ。まずは知ってもらうため。さらに選ばれるためにも、情報が必要です。選ばれ続けるためにも、情報が必要です。ということは、逃れられない「宿命」だということです。
前回は、「ブランディングとマーケティングは現在進行形」という言い方をしました。見方を変えたら、「宿命」とは、やめてはいけない、やめたら企業が企業として終わってしまうことにつながる。だから、常に情報は発信し続けるしかないというのが、企業という生き物、組織という生き物ですよね。

濱口 : 「情報発信は面倒くさいな」と思うのは分かるんです。でも、私も企業さんの情報発信の手伝いをしていく中で、「こんなところもあったんだ、うちの会社」みたいなことを気付くきっかけにもなる。だから、そういう機会を損失するのは、よろしくないし、「もったいないな」と思います。やっていくことで(社内の)みんなが、意外とモチベーションが上がっていく。社外向けにやっているつもりだけど、実は社内(向けに)もなっていくのが、すごくいいなと思います。

荒木 : その逆に、社内向けでやっていたのに、社外にウケたりとか。以前のラジオで話題にしたエン・ジャパンの『ensoku』(えんそく)もそうですが、社内報だけど会社の周りからもウケている。

濱口 : うんうん。

荒木 : そうなんです。だからそう思うと、どの段階においても、情報は発信しないと企業として生きていけない。

濱口 : うんうん。

荒木 : それから、われわれは「誰」に情報を発信するのか。一番大事なのは、目の前の人ですよね。
まずは遠くの人が目の前に来てもらわないといけないから、最初は遠くの人かもしれない。しかし、(出会った、認知された)その後は目の前の人たちに情報発信していく必要がある。
よく言われるのは、「企業理念をもっと浸透させたい」とかありますよね。企業理念も、1つの情報。ただ理念を毎朝毎朝唱えればいいわけではないから、「どうやったら理念が伝わるんだろうか」と考えていく必要がある。それも何らかの内容を伝えていく必要がある。

濱口 : うんうん。

「素」が表れる「雑談」を社内外に発信する

荒木 : それで、対象は目の前の人、難しく言うとステークホルダーとなる。内容においては、さっきも言ったように、「表舞台も必要だけど、舞台裏も必要だよね」ということです。舞台裏の最たるものが「雑談」ではないですか。

濱口 : 「雑談」ですね。

荒木 : 「雑談」。しかも、社長と社員が話している姿というのは、素が出ますよね。
緊張していれば緊張していると分かるし、「仲がいいんだろうな」というのは、声だけでも伝わってきますよね。
そう思うと、やっぱり「雑談」というのも1つの手かなと思う。

濱口 : うんうん。

荒木 : 最後に手段。手段はとにかくニュースルームもあれば、オウンドメディアとか、いろいろなSNSとか呼び名はあるのだけれども、何らかの手段を使って、(情報を)相手に届けていこう、ということですよね。
そう思うと、声で伝えるという前回の話はとてもいいなと思う。気軽に続けられる気がするんですよね。
もちろん、きちんと計画していく必要がある。最初に、情報発信の設計図、戦略を作った方がいいのは当たり前。続けやすいという意味においては、声で発信していくのがいいのかなと思いますね。

濱口 : 他の番組なのですが、Podcastで『隣の雑談』という番組がとても好きです。コロナに入った頃から毎週やっている番組で、女性2人が話しているんです。今は効率化がとても求められますよね。余計なものを省いて、とか。それも大事なんですけれど、コロナでリモートワークが普及した中で、雑談がなくなっていって・・・。

荒木 : うんうん。

濱口 : でも、「なくなったからこそ、その大事さに改めて気付かされたよね」というテーマでやっているラジオなんです。

荒木 : 確かに雑談は大事だね。そこから何か降りてくるじゃないですか。

濱口 : そうなんですよ。

荒木 : 「そうか!」みたいな。

濱口 : そうですね。あと、会社の中(オフィス)だったら、喫煙所のコミュニティが・・・。

荒木 : ありますよね。あれも「雑談」。そこから部署と部署の壁を超えた交流ができるという話もある。

濱口 : そうそう、そうなんですよ。

荒木 : このラジオもシナリオがないから、言うならばこれも「雑談」ですよね。まどろっこしい、面倒くさい話が多いけれど、別にシナリオを決めて話しているわけではないから。テーマとして「こんなこと話そうかな」というのはあるにしても、事細かに話す内容や順番を決めずにやっている。

濱口 : そう。だから、荒木さんは毎回すごいなと思う。これはPodcastでやっているから、みんな編集していると思われるかもしれない。でも、一切編集なく、荒木さんがかまずにこれだけ話せる。

荒木 : 「オタク」ですから。

濱口 : 「オタク」極まれり、ですよ。

荒木 : 「オタク」ですよ。「よくペラペラとしゃべるな」と自分でも思っている。

でも、本当に「雑談」は大事ですよね。だから、もちろんリアルな場で、社長と社員たちのコミュニケーションができてないと難しい。情報発信や情報共有ができないと、リスクのマイナス面が顕在化しやすい。
私が理事長をしている、リスクマネジメントの専門人材育成する法人があります。1993年12月設立だから、今は32年目。

濱口 : 長いですね。

情報発信・共有というコミュニケーションが不足することで危機が発生

荒木 : 僕は2013年に理事長に就任して、丸12年が経った。そこでリスクマネジメントや危機管理の勉強をする中で思ったことがある。不祥事あるいは事故が起こる原因は、すごく大ざっぱかもしれないけれど、2つに集約できる。

濱口 : うんうん。

荒木 : 一つが、「理念不在」。すなわち理念が浸透してないということ。お飾りになってしまって、社長含め誰も信じていない、(理念は掲げているが、実際は心の内では)そう思ってないんだろうな、ということです。
「理念不在」が一つで、もう一つが、「コミュニケーション不全」。つまり、コミュニケーションできていない、していない、お互いのことを分かっていない。情報も全然共有されてないところに、不祥事も事故も起こってくる。

濱口 : うんうん。

荒木 : いわゆる「情報発信」をしていない、重要な情報を共有してないんですよね、お互いに。そうすると、そこでいろいろな問題が起こってくる。伝えていく、お互いに伝え合っていく。これをしていかないと、企業の存在そのものを脅かすクライシス、危機が訪れる。やはり理念をきちんと伝わるように伝えていないから、理念が浸透していないわけです。
そう思うと、「情報発信」は「宿命」ですね。

濱口 : そうですね。

荒木 : 「お互いに」という意味でね。

濱口 :確かに。

荒木 : コミュニケーションが命だから、それができていないと(経営は)難しいなと思ったりする。だから、よく言われる「心理的安全性」は大事なんだよね。

日本語で言うと「安心」ということ。最近、誰かが「何が心理的安全性だ、なんでそんなに難しく言うの」と言って、「安心な職場でいいよね」みたいなことを言っていた。それは「確かにな」と思う。

濱口 : いや、確かに。みんな言葉を作りすぎているところがありますよね。

荒木 : 海外の言葉を(日本語に)訳しちゃうからね。そのまま日本語に訳さずに「パーパス」という場合もある。濱口さんも知っている僕の古い知人は「パーパス? パンパース(=オムツの商品名)のこと?」みたいな冗談を言っていましたね。

濱口 : 言いそうですね。

荒木 : でも、難しく言い過ぎてしまうと、訳が分からなくなってしまう。ただ、「情報を扱っているんだ」という意識で、それを何らかの形で発信しないと、何も始まらないじゃないですか。

濱口 : うんうん。

荒木 : だから、企業の経営者は「情報をどう扱うのか、何が情報なのか」ということをよく考える必要がある。
発信はするのだが、なんでもかんでもすればいいわけではない。これはまた別の機会に話したいと思う。何を発信すればいいのか、それをどう見つけていくのか、というテーマですね。

濱口 : うんうん。

荒木 : (端的に言えば、発信内容は)前回言ってくれた「もったいない」という言葉がキーワードになる。

濱口 : 確かにそうですね。

荒木 : だから、声から始めるのは、もう先週から引っ張っていますけど、なかなかいいキーワードだなと思っている。

濱口 : いや、なんかやばい。やっぱり荒木さんに褒められるとすごく嬉しいですね。
褒められるというか・・・。でも、二宮さんのパクリですけどね。

荒木 : でも、「声の社内報」という言い方、キーワードが浸透しやすいのかなと思う。
その辺りは、またラジオ以外の時間で、広報が広がるきっかけになるかもしれないから、別の場でちょっと詰めていきたいなと思っています。

濱口 : ありがとうございます。楽しみです。

荒木 : はい、今日もあっという間に20分が過ぎましたので、これで終了したいと思っています。
皆さん、暑い日が続いてますが、今日も木曜日で週末間近ですから、頑張って仕事をしていければなと思っております。
では、今日もありがとうございました。

濱口 : ありがとうございます。熱中症に気をつけてください。

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