【ポッドキャスト #31】般若心境と物理学と広報 実はつながっている!?
般若心経に登場する仏教用語「色即是空、空即是色」を知っていますか。
世界の株式市場では、近年「無形資産」が企業価値の8割を占めていることが注目されています。
「目に見えない」とはどういうことなのか。ちょっと深掘りしてみました。
「無形資本」「知的資本」から生み出される企業価値
荒木洋二: 皆さん、おはようございます。
濱口ちあき: おはようございまーす。
荒木: 7月24日木曜日、今朝も元気に『広報オタ倶楽部』を始めてまいりたいと思います。
『広報オタ倶楽部』は、本来の広報、企業広報のあり方を広めるべく、28年以上にわたって企業広報活動を支援してきた、私・荒木洋二によるオタク目線で語る広報の哲学ラジオです。
聞き手は・・・。
濱口: 「まな弟子」の濱口ちあきです。
荒木 : はい。
濱口: ありがとうございます。
荒木: 早いもので、7月もあと1週間という、なんという早さなんでしょう。
濱口: もう、ぞっとしますね。
荒木: ぞっとしますね。その話、前もしましたけれど、本当にぞっとします。
濱口: ここから夏がね、この1年を折り返してからは、なんか早いですよ。
荒木: 早いですね、確かに。前回はちょうど参院選が近かったので、久しぶりに時事を絡めたテーマで話をしました。「ファクトは大事だよ」という話。
今回は通常運転に戻りまして、前回の番組で途中まで話しかけたことは、別の機会に話そうと思っています。
きょうは、私が全く関係のない書籍を読んでいて、「広報、パブリックリレーションズは深いな」と感じたことがあったので、その話をしますね。よろしいでしょうか。
濱口: 面白そう。お願いします。
原子核と電子の間には何があるのか
荒木: ある物理学の先生が、物理を分かりやすく解説している本があります。村山先生だったかな。名前はど忘れしてしまって。そこで面白いことが書いてあった。般若心経と物理学はつながっている、というような内容。
それは「色即是空、空即是色」を(物理学者として)解説している。「色」は形で、「空」は空っぽ(=無)という意味なんですよね。形があるというのは、すなわち形がないということ。だから、「色即是空、空即是色」は何もない空っぽなのだけれども、実は形があるんだ、ということ。
般若心経だから、ちょっと違うのだろうけど、禅問答みたいですよね。
それがなぜ物理学に通じるのか。原子は真ん中に原子核があって、周りを電子が飛んでいます。
濱口:はい。
荒木: 最近の物理学は、4つの力やクォークなど、もっと深い。ただ、一般的にはそう(原子核と電子)言われています。最小単位みたいなものとして認識されている。
どういうことか説明します。まず、東京ドームがあります、
濱口: はい。
荒木: (東京ドームには)行ったことないかもしれませんね。テレビでは見たことがあると思う。かなり広い、東京ドームがあって、そのど真ん中にボールが置いてあります。
それを起点にして、その周りを、東京ドームと同じ広さ、同じ直径の周りを、ぐるぐると、ピンポン玉が回っています。
濱口: うん、うん。
荒木: その間には何もありません。ただ、その真ん中にボールがあって、その周りをピンポン玉が東京ドームの大きさでぐるぐると回っている。それが原子核と電子の関係だという話なんです。
濱口:なるほど。
荒木 : 形があると言っているが、(原子核と電子)この間には何も存在していないんですよ。なぜなら、電子が回っているだけだから、その間の空間にはも何もない。
でも、それを形や原子だと言っている。「色即是空、空即是色」というわけです。形があると言っているが、実は「本質は無」なのだ。何もない(=無)ようでも「形」がある、ということ。
その話がすごく面白いと思ったんだよね。人と人との間になされるコミュニケーションや、そこに生まれる信頼につながる話だなと。今はよく「無形価値」という話が注目されている。以前(7、8年前)から、時折、日本経済新聞にこんな記事が出ていた。
アメリカの上場企業の中で「無形資本」「無形資産」という、目に見えない、お金ではない部分の価値が評価されている。それが約8割を占める。
目に見えない、形がないというけれど、それでも存在がないわけじゃないということだよね。その話が前から非常に印象深く心に、記憶に残っている。
「そうか、だからパブリックレーションズ(と同じ)だ」と腑に落ちた。真ん中に企業がいて、いろいろなステークホルダーがその周りにいて、そこでコミュニケーションしていますよね。
インターネット空間の中で、例えば、ニュースルームやSNSに、自分たちの情報や気持ちが載っている。「形」としてはないが、そこを見る人がいる。発信している人もいる。そのコミュニケーションで、電子空間は「形」がないものなのだけれど、そこに価値が生まれる。これはかなり深いんじゃないかなと思う。
⒋つの力(重力、電磁力、強い力、弱い力)が示す本質
濱口: なるほど。
荒木 : それで、たまにしか買わない『Newton』(株式会社ニュートンプレス)という雑誌がある。その誌面で「無の世界」の特集がなされていた。
当時、(前述の物理学の)本を読んだ時と同じ時期だったから、買って読んでみた。面白いのが、宇宙空間には「ダークマター」というものが26.8%、通常の物質が4.9%しかない。あとは「ダークエネルギー」「暗黒エネルギー」というものが、68.3%ある。それは目に見えない。「ダークマター」も見えないし、さらに「ダークエネルギー」も見えないから、普通の物質は全体のエネルギーの中で4.9%しかない。
そうすると、「上場企業の企業価値の8割は無形価値」という言説と、なんか数字的にも似ているよね。
濱口: でも、そう言われると、ちょっとそういう反映かもしれないですね。
荒木 : 目に見えないものでも、それは何もないというわけではない。見えないものを見えるようにすることもできる。
広報は、やはりそういうことを考えていく必要もあるのではないかと思っている。だから、「そうか、般若心経はそこまで深いことを言っているんだ。宇宙はそうなっているんだ」と思うわけです。
まだ勉強不足なんだが、さらに少し深掘りした話をする。「宇宙の根源は4つの力で構成されている」という話。それは重力、電磁力、強い力、弱い力。この4つの力がある。まさに今、物理学は深い研究がなされているみたいので、これは最新情報ではないと思う。
一時期、もう少し研究したいと思った時期があって、物理の本を5冊ぐらい買った。ただ、ほとんど読めていない。これを機会にまた読もうと思っている。
荒木 : それで、4つの力でさっきの話に絡んで面白いなと思ったことがある。強い力、弱い力といっているが、英語だと「ストロング・インタラクション」、「ウィークネス・インタラクション」という。パワーじゃない。双方向のことをインタラクティブというじゃない。双方向性で、インタラクティブ。インタラクションだから、「相互作用」なわけね。
「力」という字だと「パワー」に見えるが、実は「インタラクション」、すなわち「相互作用」ということなんだ。
では重力、電磁力って何だろうと考えると、これもまた面白いと思っている。この話もつながっていく。
濱口 : なるほど。
社会関係資本(ソーシャルキャピタル)における「弱いつながりの強さ」とは
荒木 : 何回か、このラジオでも話題にした入山章栄さんという、今は早稲田大学のビジネススクール教授を努めている人がいる。40代の若手経営学者として注目され、本もたくさん出版している。『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)という分厚い本がある。分厚いにもかかわらず、10何万部も売れている。その中では、入山さんが世界で最も標準となる30個の経営理論を選んでいる。
濱口: はい。
荒木 : その中には「社会関係資本=ソーシャルキャピタル」という経営用語が出てくる。ソーシャルキャピタルの流れがさらに2つに分かれている。社会関係資本というのは、前述した「目に見えない資本」と近い、周辺のこと。ソーシャルキャピタルの中で「弱いつながりの強さ」というものがある。
強いつながり、弱いつながり、閉じた空間、開かれた空間という話があるわけです。「弱いつながり」なのだが、それが実はすごい「強さ」を持っている。弱いつながり。つながりだから、インタラクション、双方向ということ。
だから、社会関係資本の「弱いつながりの強さ」とか、あるいは物理でいう4つの力である弱い相互作用、弱いインタラクションの話がリンクして見えてくる。そう考えると、重力を企業形態で例えると、「もしかしたら企業理念かな」と思っている。企業理念が浸透していると、常に重心が定まっているということにつながる。だから、(企業理念が)貫かれていて、ぶれないということ。
それなら、電磁力はもしかしたら、情報のやり取りかな、とこう考えられるわけです。
濱口 : なるほど。
荒木 : そういう観点からすると、(詳しくは知らないが)経済物理学が一時期注目されたように、物理の世界と経営の世界には似ている部分もあるのではないかと思う。
物理の世界と、情報発信、コミュニケーション、広報の世界にも、何か通じるような部分がどこかにあるのではないかとも感じている。これはもう少し年をとってから研究しようかなと考えている。
濱口: 今すぐにはちょっと・・・、ということですね。
荒木: でも、話がそれぞれリンクしているな、面白いなと思っている。
濱口: 確かに、それはすごく面白いですね。
荒木: そこで「資本と資産」という話がある。資本はキャピタル、資産はアセットなんですね。これは日本語では同じような意味で使われている場合も多い。この「資本と資産」も僕は面白いなと思っている。
資本とはなんだろう。資本主義ともいう。何が資本になるのだろうかと考えていくと、「社会関係資本=ソーシャルキャピタル」という意味合いも分かってきていて、この辺も深掘りすると面白くなるのではないかなと思っている。
知的資本とは、人的資本と組織資本と関係資本で構成
荒木: もう少し突っ込むと「知的資本=インテレクチュアル・キャピタル」というものもある。これはヨーロッパで広がって日本に逆輸入されたともいわれている。「もともと日本型の経営がそうであって、日本から学んでヨーロッパでそれが定着したのだ」という説もあるんですね。
だいぶ前に勉強したので、細かいところに微妙な違いがあるかもしれない。その中で、「知的資本=インテレクチュアルキャピタル」というのは、実は「無形資本」である。目に見えない。知的資本には人的資本、組織資本、関係資本の3つで構成されている。
2023年に、東京証券取引所か発表した「人的資本経営」という言葉がある。「人的資本にどれほど投資したかをちゃんと開示資料に明記しましょう」という内容です。それから、「人的資本」という言葉が、新聞やいろいろなビジネスの現場で飛び交っている。それはもともと「人的資本、組織資本、関係資本」という、3つの無形資本がある。その流れからきていると見ている。
濱口: うんうん、なるほど。
荒木 : そういう経緯がある、ということ。それで、「人的資本」は個人の中にあって、難しい言葉で言うと「暗黙知」という。個人が持っている知恵・実力・能力といった、個人にひもづいているものが「人的資本」。その個人がいなくなれば、その会社には残らない資本ということです。
「組織資本」というのは、マニュアルを作ることや特許などです。まだ形(有形)になってないから目に見えない。よく「知的財産」と言われるものは、(個人ではなく)組織の資本である。
個人から生み出されたものなので、発明者にちゃんと渡すべきだという話も確かにある。ただ、基本は「組織資本」になる。
さらに組織文化もそれに当たる。目には見えないが、(少し難しい言葉でいうと)心理的安全性もそう。それも組織のもっている資本。一人が抜けても変わらないものが組織で、「組織資本」ということです。
3つ目の「関係資本」は、「こういう社員がいます」「こういう株主がいます」「こういうお客さんがいます」という彼らと、自分の会社とのつながりが、その関係が資本だ、ということなんです。
さらに言うと、社会全体との関係も含まれます。社員も会社自体もお客さんも、みんな社会と交わっているから、その先にあるのが、「社会関係資本=ソーシャルキャピタル」という話になる。無形資本、社会関係資本をつくっていくのが、実は広報である、ということです。
等身大の情報を発信して、きちんと足を運んで、リアルでもきちんとステークホルダーとコミュニケーションをする。そういうことをしていくこと自体が、目に見えない「社会関係資本」をつっくっていく、という話があるわけです。
そういうつながりの中で、つながりも目に見えないわけですよね。資本とはそういうものなんだ(と思ったわけです)。そうすると、金融資本主義は「今はもう違うよね」と言われていて、最近言われるのが「ステークホルダー資本主義」。金融が資本ではなくて、ステークホルダーが資本である。それが主流なんです。
濱口: うんうん。
荒木 : 「つながりが大事だよね」という話にもなっていくんですよね。資本に関連して言うと、僕が(資産よりも)資本を好きな理由がある。財務諸表で、資本の部、資産の部がある。資本はどこからお金を持ってきたのか。資産はお金をどう使ったのかを示している。ということは資本が原因ですよね。だから、原因と結果みたいな関係かなと思っている。
「資産」というよりは「資本」といった方がいいと僕は思っている。経済産業省は「知的資産」といって、「人的資産」「組織資産」「関係資産」と呼称していた。
国際統合報告評議会が掲げる6つの資本
荒木: ただ、今回の「人的資本経営」の場合は、また資本が出てきたので、「どっちなんじゃい」という気持ち。この「資本」という考え方は面白いなと思っている。
それで、「国際統合報告評議会」というものがある。今、注目されているのが「金融の世界も株主以外のステークホルダー全員に分かりやすいように報告書を毎年発行しましょう、それは責任ですよ」というもの。昔は「アニュアルレポート」と呼称したものです。
今は「統合報告書」になっている。その統合報告書のガイドラインをまとめている国際評議会がある。そこが、企業というのは6つの資本から価値を生み出している、と述べている。その中に、先述の3つも入っている。
濱口: うん、うん。
荒木: 3つ以外に「財務資本」など、別の資本も入ってきていて、6つになっている。だから、目に見えないものを大事にすることは重要であるし、目に見えない資本を、言葉にして、目に見える形にして伝えていく。それで「社会関係資本」が広がって、それが価値を生み出していく、ということも考えられる。
未来に生きていける理由をつくっている。原因をつくる取り組み、そういうことにつながるので、コミュニケーションはとても大事だなと思う。
濱口: いや、面白いですね。私は、目に見えないところから、ものはできていくと思っているので。
荒木: うん、そうだね。
濱口: ペン1本を作るのにも、「こういうペンを作ろう」と思わないと、ペンは出来上がらないそうです。「目に見えないけれど、ある」というものを大事にするのは、すごい分かりますね。
荒木 : そういう視点を大切にしたいですよね。
われわれは人生を歩む中でいろいろなことを経験してきている。そして同時に情報を得ている。その経験や過程により、難しい言葉で言うと、「暗黙知」が自分の中に出来上がっている。自分でも言葉にしていないけれど、一定の価値観みたいなものが出来上がっている。でも、それは一方で危険もはらんでいる。前回も話題にした・・・。
濱口: アンコンシャス・バイアスですね。
「暗黙知」とアンコンシャス・バイアス
荒木: そうそう、アンコンシャス・バイアス、つまり無意識の思い込みにもつながってしまう。そうすると、自分にとって有益な情報なはずなのに、拒絶してしまうかもしれない、という怖さもあったりする。
それでも、この「暗黙知」がどう形成されるかによって、同じ言葉を聞いても解釈が変わってしまったり、伝わらなかったりすることもある。この辺のこともよく踏まえた上で広報に取り組んでいくのが大事だと思います。
濱口: 目の前に見えるものだけではない。話がつながるのかは分からないんですけれど、今、田川ヒロアキさんという全盲のギタリストにすごくハマっているんです。パラリンピック東京2020の時にも・・・。
荒木: 目が見えないということですね。
濱口: そうなんです。たまたまこの前、福岡でライブをされるところに人に招かれて行ってきたんですよ。
それで、本当に目が見えないのだろうな、という感じだったんです。でも、彼が話しているのとか、ギターを弾いていたり、歌っていたりするのを見ると、「この人、目に見える以外のものは全部見えているんだろうな」と思ったんですね。
だから、目に見えているものって、大したことないんや。大事なんですけど、それ以上に目に見えないところをちゃんと見る。それをするっていうのがいい。彼は歌という表現、音楽で表現しています。それが広報だと、文字だったり言葉だったりにもなる。そうして表現して、出来上がっていくことを大事にする。
荒木: そうだね。事実とは目で確かめたり、耳で確かめたりする。物事には過程や背景があるから、それを知らないと、その事実の捉え方が変わってくる。
前回の話に戻るが、マスコミの報道も怖いよね。尺の関係で発言を切り取るじゃないですか。そうすると、その発言、そこだけを読んでしまうと、ひどいことを言っているように見える。しかし、前後(の話)を聞いたら、(真意は)そうではないということがある。切り取られているということを知る。その感覚を持つ。
われわれはそれを見て、実際はどういう文脈で語ったのか。そこを自分で確認してみる。だから、目に映った報道のその言葉、情報だけに惑わされない。もう一歩踏み込んでみることだよね。目に見えないものもそうだから、この背後に何があったのかを知ることが大事ですね。
濱口: そう思いますね。
荒木: もう20分過ぎちゃいましたね。
濱口: あっという間ですね、
荒木: わけの分からない話から、今回も始まっちゃいましたね。
濱口: いや、でもマニアックすぎる話が荒木さんですからね。
荒木: 「目に見えない」とはそもそも何なのか。この視点は大事だね。繰り返しになってしまうが、経済社会でも無形資本、無形価値が現在、価値として評価されている。現実的世界において無形のものに対する価値が高まっているのは、報道からも明らかなとおり、事実としてあるんだよね。
では無形とは何か、目に見えないとは何か。そのことを念頭に置きながら、広報に取り組むことが重要だ。
濱口: 面白いですよね。
荒木: 来週はもういよいよ7月31日だから、8月に入ってしまうことになりますね。
濱口: はい。8月ですね。
荒木: 本当に早い。あっという間だよね。皆さん。暑い日が続いています。今日は少しだけ長くなりました。
濱口: はい、皆さん、夏バテしないように。
荒木: 皆さんいってらっしゃい。きょうもありがとうございます。

