第21回 ニュースルームとオウンドメディア(7)

こんにちは、荒木洋二です。
大企業が展開する広報は、ニュースルーム、オウンドメディア、SNSが主流の手段として定着しつつある、と筆者は見ています。これらをいかに組み合わせて情報を発信するのか、日夜試行錯誤しているようです。「情報」を扱っているという点で、前述の三つは共通しています。
「ニュースルームとオウンドメディア」と題した連載をお届けしています。
前回の後半から引き続き、今回も『ステークホルダーを巻き込みファンをつくる! オウンドメディア進化論』(平山高俊著、宣伝会議刊)を参照し、オウンドメディアとは何かを深掘りします。
◆伝える対象が顧客から全てのステークホルダーへと変化
平山氏は、デジタルマーケティングの立場からオウンドメディアの運営に携わりました。筆者は、広報PRの立場からニュースルームの運営に関わり始めました。
平山氏の著書を読むと、オウンドメディアは、もともとの守備範囲を超えて、広報領域に足を踏み入れているように映ります。
もともとはデジタルマーケティングの一環としてオウンドメディアは運営されていました。マーケティングなのでその目的は、あくまでも新規顧客の獲得です。情報を伝える対象は顧客候補です。BtoC企業であれば、生活者あるいは社会です。BtoB企業であれば、市場・業界(企業)です。
それがどう変化したのか。平山氏の著書タイトルには「ステークホルダーを巻き込みファンをつくる」と明記されているではありませんか。これは明らかに広報PRの領域なのです。
パブリック・リレーションズとは、ステークホルダーとの良好な関係構築という概念です。良好な関係を築くには、ステークホルダーそれぞれとのコミュニケーションが欠かせません。つまり顧客だけでなく、全てのステークホルダーを対象としているのです。
ですから大企業における広報部門の名称は、広報部だけでなく、パブリック・リレーションズ部、コーポレート・コミュニケーション部となっているのです。キリンを見てもそのことが分かります。
2023年、日本広報学会は新たな広報の概念を定義しました。そこでは「広報=パブリック・リレーションズ=コーポレート・コミュニケーション」と明言しています。
◆大企業を中心としたオウンドメディアの変遷
平山氏によると、「Google Trends」で遡ると「オウンドメディア」が検索され始めたのが2011年です。それが急激に伸び始めたのが2014年だといいます。その後、2018年にピークを迎え、落ち着きを見せた、とのことです。
そのきっかけとなったのが、DeNAが運営していた医療情報サイト「WELQ(ウェルク)」を巡る騒動でした。同サイトで不正確な情報や無断転載された記事が多く掲載されていることが発覚したのです。ほどなくして、同サイトは休止に追い込まれたのでした。
同書で紹介されているオウンドメディア運営企業の顔ぶれは、トヨタ自動車、ユニクロ、メルカリといったBtoCの大企業がほとんどです。これらが2019年に立ち上がったことは偶然ではない、と平山氏は述べています。オウンドメディアにとって、ターニングポイントとなる年だったといえます。
キリンも含めて、先に挙げた企業のオウンドメディア(同書では『トヨタイムズ』もオウンドメディアと認識)は、その内容を見ると、紙媒体の社内報、広報誌のコンテンツと重なります。読み手も一般の生活者(顧客候補)だけでなく、ステークホルダー全体を意識しています。
◆オウンドメディアの現在と企業ウェブサイト
ここで同書において、オウンドメディアをどう捉えているのか、引用しつつ紹介します。すると、デジタルマーケティング文脈ではない別の姿が見えてきます。
●自社で保有するコントール可能なメディア(同書P80)
●オウンドメディアが持つ6つの「副次的」な役割(P212)
・社員が自身の仕事を「振り返る」きっかけとなる役割
・企業のカルチャーを見直す役割
・コミュニティ的役割
・クリエイターを発信する役割
・社内のスター発掘
・強固な企業・ブランドとなるための「灯台」(拠り所)としての役割
明らかに「広報=パブリック・リレーションズ=コーポレート・コミュニケーション」の領域です。さらに企業ウェブサイトに関しても興味深い視座で考察しています。企業ウェブサイト・リニューアル時のポイントとして、次の2つを挙げています(P110)。
・企業の人格を知ることができる「一丁目一番地のメディア」へ
・コンテンツのストックの場としての公式サイト
ここまでの連載でニュースルームに関する解説を読んだ人は気付くでしょう。「企業の人格」、「ストックの場」とは、まさしくニュースルームのことを指しています。
次回もニュースルームとオウンドメディアの役割と関係性を読み解きます。
