第12回 情報発信の本質は「エモーション × ストーリー」(5)

こんにちは、荒木洋二です。
現代社会は、膨大な情報がネットを中心に目まぐるしく駆け巡っています。経営者や情報発信に従事する者たちは、企業が発信する情報の本流とは何なのか、どんな情報を組み合わせればいいのか。その最適解を日夜、必死に探しています。
その問いをひもとくためのキーワードが、エモーション(感情)とストーリー(物語)です。どんな情報が人々の心を動かし、行動を変えていくのか。
つまり、ニュースルームでどんな情報を共有し、蓄積していけばいいのか。
現代は感性で差別化する時代を迎えていると、(1)で述べました。(2)(3)では、先進的な企業の取り組みから「エモーション」を動かす情報の実際を確認しました。
前回(4)では、エモーショナルなエピソードこそが情報発信の主流であることを、YouTubeやテレビ番組などの実例から確認しました。
今回は、筆者が最近「ハマって」いる、いや「推し」ている、あるアーティスト・グループを取り上げ、個人のエピソードに秘められた力をひもときます。
◆オーディション番組はエモーショナルなエピソードの宝庫
筆者が直近の5年間程度で注目している現象の1つが、オーディション・プロジェクトです。「少人数&短期間」であってもエモーショナルなエピソードは生まれる、という事実を確認していきましょう。
少々飛躍しているように感じるかもしれません。しかし、1年間程度という短期間のプロジェクトであり、プロジェクトに参加する人数も30人から100人と決して大人数ではありません。
有名なものとしては、2020年の日本テレビグループによる「Nizi Project」でしょう。1万人の応募の中から9人のガールズグループ「Nizi U」がデビューするまでに密着し、その合宿や審査の模様を地上波番組で放送、オンライン動画配信サービス「Hulu(フールー)」で配信したのです。
「Nizi Project」を前後して、オーディション番組が相次ぎ始動します。オーディション番組が地上波のテレビ局や動画配信サービスで次から次へと登場し、空前の活況を呈しています。
◆乱立するプロジェクトの中で異彩を放つ『NoNoGirls』
オーディション番組は、世代を超え、若者の心をつかんできました。多くのスター、アイドルがこれら番組から誕生しました。オーディションですから、どの番組も選考審査があり、そこに悲喜こもごもなパーソナルなエピソードを垣間見ることができます。そこにエモーショナルなコンテンツがあったというわけです。
ただ、オーディション・プロジェクトは今や乱立状態といっても過言ではありません。そんななかで、女性ラッパーでシンガーのちゃんみながプロデュースする、ガールズグループ・オーディションプロジェクト『No No Girls』が一際異彩を放っていました。
YouTubeでの動画配信ならびにオンライン動画配信サービス「Hulu」で、2024年10月から2025年1月までほぼ毎週、16回にわたり、放送・配信されてました。
同オーディションから、7人で構成されるガールズグループ「HANA」が誕生したのです。HANAは、同年4月2日、「ROSE」でメジャーデビューを果たしました。同23日にはソニーミュージックからCDシングルを発売。多くの配信チャートで1位を獲得するなど、目覚ましい躍進を遂げています。筆者が最近「推し」ているのは、このHANAです。
HANAは、続いて6月9日、新曲「Burning Flower」をデジタルリリースしています。YouTubeのオフィシャルチャンネルは登録者が100万人を超え(6月16日深夜)、全動画55本で総視聴回数が実に2億回を超えています。
◆SKY-HIが私財1億円を投じ、オーディションプロジェクト開催
ここで「HANA」誕生の背景を少し掘り下げて説明させてください。『No No Girls』主催は、音楽プロダクションのBMSGです。同社は、2020年設立。AAA(トリプルエー)のメンバーSKY-HI(スカイハイ=本名:日高光啓)が自己資本のみで立ち上げ、代表を務めています。
彼は日本の音楽・芸能に強烈な危機感を感じ、真剣に「才能を殺さない、未来を殺さない、夢を殺さない」を唱えて、起業したのです。
彼の本気度を世間に示すかのように、2021年4月、私財1億円を投じて、ボーイズグループ・オーディションプロジェクト「THE FIRST」を立ち上げ、一躍音楽業界で脚光を浴びます。
「THE FIRST」にHuluを擁する日本テレビグループが賛同し、地上波の番組『スッキリ』での放送とHuluでの番組配信が始まります。オーディション「THE FIRST」は、SKY-HIの真剣度と呼応し、これぞ「ドキュメンタリー 」といえるほどの熱量がありました。
合宿に密着し、メンバー一人一人の生の声を拾い上げます。選考に漏れたメンバーたちとSKY-HIの交流も映し出します。そうすることでデビューできなかったメンバーたちにも熱烈なファンが生まれたのです。
「THE FIRST」から誕生した7人組のダンス&ボーカルグループの「BE:FIRST」が同年11月にデビューを果たします。彼らは瞬く間にスターダムを駆け上がり、翌年から3年連続でNHKの『紅白歌合戦』への出場を果たします。さらに2024ー2025年にドームツアーを開催するまでに至りました。
この延長線上に生まれたのが、No No Girlsだったのです。次回はNo No Girlsに関して、詳しく解説します。