第10回 情報発信の本質は「エモーション × ストーリー」(3)

こんにちは、荒木洋二です。
現代社会は、膨大な情報がネットを中心に目まぐるしく駆け巡っています。経営者や情報発信に従事する者たちは、企業が発信する情報の本流とは何なのか、どんな情報を組み合わせればいいのか。その最適解を日夜、必死に探しています。
その問いをひもとくためのキーワードが、エモーション(感情)とストーリー(物語)です。どんな情報が人々の心を動かし、行動を変えていくのか。
つまり、ニュースルームでどんな情報を共有し、蓄積していけばいいのか。
現代は感性で差別化する時代を迎えていると、前々回(第8回)で述べました。近年のSNSなどでの現象を取り上げ、パーソナルなエピソードが人々の「エモーション」を動かす、という事実を明らかにしました。
今回は、前回(第9回)からの続きで先進的な企業の取り組みから「エモーション」を動かす情報の実際を確認していきましょう。
◆エン・ジャパンのウェブ社内報『en soku!』
転職大手のエン・ジャパンは、2017年7月にウェブ社内報『en soku!』(エンソク)を開設しました。社員の日常や社内イベントなどを「ありのまま」に伝えています。「社内報アワード2018」(主催:ウィズワークス株式会社)のWeb社内報部門で「ゴールド賞」を受賞しています。
同サイトは非常にユニークかつ、本質を捉えている点が2点あります。まさしくその2点が受賞の理由でもあったのです。その一つが社外の人たちにも内容を全て公開していることです。
なぜ公開しているのか、その理由を同サイトでは「ワクワクする情報を社内に埋もれさせておくのはもったいない」という社員の声があったからです。キリンの平山氏も「もったいない」が理由でした。
もう一つが広報部門だけでなく、一般社員の約200人を「レポーター」に任命し、彼らを巻き込んで運用している点です。詳しく別の機会で述べますが、この体制が多くの企業にとっての道標になり得ます。
社員一人一人によるワクワクするエピソードの数々は、社外の人たちの心もワクワクさせる力を秘めています。何気ないように見える日常の出来事が、社内外の人たちの心を動かした例は枚挙にいとまがないといいます。
◆ビジネス書出版社クロスメディアグループの『クロスメディアン』
ここまでは大企業の実例が続いたので、ここで中小企業を紹介します。ビジネス書の出版社であるクロスメディアグループは、広報誌のウェブ版『クロスメディアン』を運用しています。
同サイトは文字だけでなく、動画や音声でも情報を発信しています。「読みもの」のカテゴリー内にある「My Work」では、コンテンツマーケティング室、法人事業部、セールスプロモーション部、経理財務室などのさまざまな部署の社員にインタビューし、それぞれの思いを引き出しています。
同カテゴリー「新刊ができるまで」では、出版企画のきっかけや著者とのエピソードなど書籍制作の裏側を担当編集者が語っています。動画と音声では、小早川幸一郎社長が著者と対談し、著書について深掘りしています。
筆者の知る限り、出版社のウェブサイトのほとんどは、出版した書籍情報が9割近くを占めている印象があります。しかし、クロスメディアグループは、出版に至るまでの裏側、過程を担当編集者が語っています。しかも著者を動画で登場させ、書籍に込めた思いの深い部分を引き出しています。
思いを言葉にすることで、そこに触れた人たちのエモーションを動かすだけのエネルギーがサイト内に満ちているように感じます。
紹介した企業のいずれにも共通することとして、個々の社員のパーソナルなエピソードを誰でもアクセスできる場所で公開している、ということです。社員以外の人たちでも記事を読むことができます。そのエモーショナルなエピソードに触れることで、心に感じるものがそれぞれにあるはずです。
次回は、企業発信の情報以外を実例に挙げます。その上で、エモーショナルなエピソードこそが情報発信の主流であることを確かめていきましょう。