第23回 ニュースルームとオウンドメディア(9)

こんにちは、荒木洋二です。
大企業が展開する広報は、ニュースルーム、オウンドメディア、SNSが主流の手段として定着しつつある、と筆者は見ています。これらをいかに組み合わせて情報を発信するのか、日夜試行錯誤しているようです。「情報」を扱っているという点で、前述の三つは共通しています。
「ニュースルームとオウンドメディア」と題した連載をお届けしています。
前回(8)で述べたとおり、ニュースルームは自社の魅力を「蓄える」場所です。大企業においては、オウンドメディアも同様の役割を担っています。しかし、中小・中堅企業、スタートアップにとっては、ニュースルーム、オウンドメディア、SNSの全てを運営することは現実的ではありません。
◆ニュースルームを本拠地とする理由
これら大企業以外の企業・組織は、人員面・資金面から見ても、多岐にわたるコンテンツを作成し、発信することはできません。他方、大企業と比べてステークホルダー数ははるかに少ない、という事実もあります。限られた人員と資金で実行するしかありません。
同じ大企業でもBtoB企業は、BtoC業と比べてステークホルダー数は多くありません。運用するデジタルメディアを増やす必然性、理由はありません。「蓄える」場所は、1カ所に集約させるべきでしょう。
広報の本質を理解した上で、ニュースルームを運営することが最善かつ最適の道なのです。全てのステークホルダーを対象にして、自社の情報を「蓄える」場所として、共感とその先にある一体感を「見える化」する場所として運用するのです。
紙媒体ではステークホルダー別にコンテンツを作成し、配布していました。そのため、立場の違うステークホルダー間でコンテンツを共有する機会は、ほぼありませんでした。
顧客や取引先・パートナーは、窓口として接点を持っている社員以外にどんな社員がいるのかを知る良しもありません。経営者のビジョンや思いに触れる機会もありません。他方、顧客がどんな理由で自社を選び、どんな体験をしているのかを知る社員もごく一部に限られます。
採用なら社員のインタビュー記事を当てる。顧客候補や既存顧客には顧客体験インタビューだけを当てる。果たしてそれで十分といえるでしょうか。誰がどんな情報に共感するのかは、単純に判断すべきではありません。人間心理は少々複雑だからです。
社員のこだわりや熱い思いが、顧客から共感されることもあります。顧客の体験談がパートナー企業や、株主から共感されることもあるでしょう。ニュースルームに全てのコンテンツを「蓄える」ことで、紙媒体の限界と思い込みを超えて、共感と一体感が育まれます。
◆広報としてのオウンドメディア
ここで結論として述べたいこととして、現状でオウンドメディアと名付けているサイトでも、その中身は広報文脈でのニュースルームといえるものがほとんどです。
なぜ「広報」と位置付けるのかは、改めて詳しく解説します。また、転職支援大手エン・ジャパンのウェブ社内報『en soku』(エンソク)も、ニュースルームに分類できます。「社内報」ですから、広報です。また、「社内報」といいながら、誰でも閲覧できるよう一般に公開しています。
トヨタ自動車のグローバルニュースルームも、包み隠さず公開しています。従来であれば、一部のステークホルダーに限られていた中身、内側を一般に公開して、誰でも閲覧できる状態にしています。
マスコミ4媒体での広告の伸長とともに、視覚表現であるビジュアルデザインは発展してきました。しかし、インターネットの普及により、嘘やごまかしは、すぐに露呈されてしまいます。
これからは企業の姿勢として、ありのままの姿を隠さずに見せていくことがより重要となることは間違いありません。その中核を担うのがニュースルームなのです。
◆DXとはデジタル戦略+組織変革
DX(デジタル・トランスフォーメーション)について触れておきます。当連載では「情報のデジタル化」だけを伝えたいわけではありません。DXとは、そもそもどんな意味で何をすることなのかを明らかにすることが大切です。
コロンビア・ビジネススクールのデビッド・ロジャース教授はDXの第一人者として、世界中で知られています。
グーグル、マイクロソフト、トヨタ、カルティエなど多くの大企業に対してデジタルによるビジネス変革を支援しています。今まで5冊の書籍を出版しており、4冊目は『DX戦略立案書』(白桃書房、2021年刊)と邦訳され、世界中でもベストセラーになったほどです。
ロジャース教授は、5冊目の著書『THE DIGITALTRANSFORMATION ROADMAP(デジタル・トランスフォーメーション・ロードマップ) 絶え間なく変化する世界で成功するための新しいアプローチ』(東洋経済新報社、2024年7月刊)の中でDXを次のように解説しています。
DX=Digital Strategy(デジタル戦略)
+
Organizational Chage(組織変革)
デジタル戦略と組織変革を組み合わせることが真のDXだ、ということです。
◆広報DXを推進する2つの柱
「広報」そのものがそもそもどういう意味なのかは、改めて詳説します。ただ、勘違いしてほしくないこととして、広報の本質は経営そのものといえる、ということです。情報発信の一手段でもなければ、ましてやマスメディアで報道されることでもありません。このことをしっかりと理解してほしいと思います。
広報DXとは、情報のデジタル化を起点とした情報戦略が1つの柱です。情報がどう社内外、ステークホルダー間で共有され、流通するのか、という全体の設計図を描くことです。その中核を担うのがニュースルームです。
もう1つの柱がコミュニケーションの最適化による組織変革です。ステークホルダーに関する情報とその流通量は組織の意識、判断、行動に影響を与え、変革を促すことにつながります。
次回は、ニュースルームがどのように組織変革をもたらすのかを明らかにします。
