第24回 ニュースルームとオウンドメディア(10)

こんにちは、荒木洋二です。
大企業が展開する広報は、ニュースルーム、オウンドメディア、SNSが主流の手段として定着しつつある、と筆者は見ています。これらをいかに組み合わせて情報を発信するのか、日夜試行錯誤しているようです。「情報」を扱っているという点で、前述の三つは共通しています。
「ニュースルームとオウンドメディア」と題した連載をお届けしています。
前回(9)は、中小・中堅企業、スタートアップにおいては情報発信、ならびに自社の魅力を「蓄える」本拠地をニュースルームとすべきと提唱しました。DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは「デジタル戦略 × 組織変革」のことです。
当連載の総まとめとして、広報DXを牽引するニュースルームがいかにして組織変革をもたらすのかを明らかにします。
◆ステークホルダーごとに分けられた紙媒体を発行
前回、最後に述べたことを改めて再掲します。
広報DXとは、情報のデジタル化を起点とした情報戦略が1つの柱です。情報がどう社内外、ステークホルダー間で共有され、流通するのか、という全体の設計図を描くことです。その中核を担うのがニュースルームです。
もう1つの柱がコミュニケーションの最適化による組織変革です。ステークホルダーに関する情報とその流通量は組織の意識、判断、行動に影響を与え、変革を促すことにつながります。
インターネット普及以前は、情報を伝える手段はもっぱら紙媒体でした。大企業は、成長の過程で必ず広報媒体を作成してきた歴史があります。
社員、顧客、取引先・パートナー、株主、社会全体、そして報道機関。これらステークホルダーそれぞれと情報を共有したり、それぞれに提供したりするための手段は限られます。口頭、あるいは紙媒体しかありませんでした。
その結果、社内報、広報誌、ニュースレター、株主通信、アニュアルレポート、プレスリリースという具合にステークホルダーごとに分類して、紙媒体を発行するしかありません。
◆紙媒体とリアルのコミュニケーションの限界
媒体を作成する際、見落としがちな視点として、発信することだけに意識が傾きがちです。しかし、媒体を作成するためには取材が欠かせません。取材するために現場に足を運んで自分の目で確かめます。関わる人たちの思いをインタビューで引き出し傾聴します。
そこで必然的に双方向のコミュニケーションが生まれるのです。コミュニケーションを最適化しようと努力する過程で、良質な媒体が出来上がるというわけです。
ここで重大なコミュニケーション課題が組織の根底に横たわっていることに気付きます。社員には社内報、顧客には広報誌と対象ごとに分類しています。そのため、優先順位などの諸条件が影響して、伝える内容、中身がどうしても媒体ごとに偏ってしまいます。
極端な表現を使えば、ステークホルダー間で分断が生まれます。媒体を通じて受け取る情報がそれぞれ偏ってしまうからです。どのステークホルダーも会社全体を知ることができません。社員も含めて誰も全体像が見えない、という奇妙な状態に陥るのです。ステークホルダー間に横たわる壁を超えられない、といった方が適切かもしれません。
各部署の社員は、各ステークホルダーの個々とリアルかつ対面で交流する機会はあるでしょう。ステークホルダー側から見ても同じことがいえます。しかし、紙媒体と同様、そこには壁が横たわっています。真の意味で社員も含めてどのステークホルダーも会社全体を知ることができません。一部分、かつ表面的なコミュニケーションにとどまっているのです。
◆デジタルは時間と空間の壁を超える
リアル(対面)と紙媒体。これら手段に共通している課題は、時間と空間に制約があり、その壁を超えられないことです。その結果、ステークホルダーそれぞれがお互いに深く知り合えないのです。その機会をつくり得なかったのです。心理的に深い部分でつながり合うことを望んでも、その術も機会もありませんでした。
インターネットが登場し、普及することで、社会全体のあらゆる場面でデジタル革命が起こりました。その革命は、企業とステークホルダーとのコミュニケーションの領域にも確実に及んでいます。デジタルは時間と空間の制約を受けません。そのことが組織にどんな変化を生じさせるのか、想像してみてください。
次回は、その変化から生じる組織変革について事例をもとに解き明かします。
