第14回 情報発信の本質は「エモーション × ストーリー」(7)

こんにちは、荒木洋二です。
現代社会は、膨大な情報がネットを中心に目まぐるしく駆け巡っています。経営者や情報発信に従事する者たちは、企業が発信する情報の本流とは何なのか、どんな情報を組み合わせればいいのか。その最適解を日夜、必死に探しています。
その問いをひもとくためのキーワードが、エモーション(感情)とストーリー(物語)です。どんな情報が人々の心を動かし、行動を変えていくのか。
つまり、ニュースルームでどんな情報を共有し、蓄積していけばいいのか。
個々人の体験(エピソード)が、それに触れた人々の感情を揺さぶり、その心に深く刻まれます。前々回の(5)と前回の(6)の2回にわたり、実例としてガールズグループ「HANA」を取り上げました。
◆「感情 × 物語」が行動の起点
HANAの人気から見えた社会現象は、決して一過性のものではありません。人間の本質が現れたものといえます。人々の心を動かし、明確な動機を持った行動へと導くのは「エモーション × ストーリー」なのです。
パーソナル(=個人)に光を当てたエピソードは、共感などのエモーション(=感情)を生み出します。さまざまな立場の人たちのエモーショナルなエピソード一つ一つが集約され、ストックされる(蓄えられる)ことでオリジナルなストーリー(=物語)が構成されます。
企業発信の情報にも全く同じことがいえます。大切なことは、自社に関わる一人一人に光を当てることです。ふだんは外部からうかがいしれない、自社の中身、内側、裏側に光を当てていくことが決定的に重要です。
そこに存在するパーソナルなエピソードには、体験とともに必ず個々人特有の感情、思いが表れます。エモーションが埋め込められています。そのエモーショナルなエピソードを集め、ストックし続けることで企業のストーリーが徐々に紡がれていくのです。
トヨタやキリンなどの先進的な企業は、そのことを理解しています。ですから、自ら積極的に自社の中身、内側、裏側を公開している、というわけです。
◆自社のストーリーにおける登場人物
企業経営は、オーディションプロジェクトのように短期間では終わりません。5年、10年、30年と長く続いていくものです。経営者の本能は(もしくは良心というべきかもしれませんが)、会社が長く続くことを求めています。永続することを望んでいます。そして、永続を目指す企業には必ずストーリーがあります。その登場人物は誰でしょうか。
企業が成長し、事業拡大していく過程で、自社に関わる人たちは増え続けます。社員だけでなく、顧客も増加の一途をたどります。取引先やパートナーも増えます。上場を目指すのであれば、株主も加わります。関わる個人、そして企業(とその社員)の全て、つまり全てのステークホルダーが登場人物です。
企業は「法人」とも呼ばれるように、法の下に人格が認められています。企業も「人」なのです。人格があります。自社を取り巻く関係者を総称してステークホルダーといいます。社員だけでなく、顧客、取引先・パートナー、株主・金融機関、そして地域社会も全て最小単位は個人によって構成されています。
キリンは退職者たちのエピソードも共有・公開しています。彼らも長く続くストーリーの重要な登場人物たちと捉えているからでしょう。
ここまでで明らかになったことは「エモーション × ストーリー」が情報発信の本流(メインストリーム)だ、ということです。ひいては競争力および持続可能な経営の源泉にもなりえる、と筆者は見ています。
◆エモーショナルなエピソードを蓄える場所を創り上げる
オーディション・プロジェクトは、テレビ局が持つ資本力、技術力、表現力を後ろ盾に公式動画チャンネルを駆使して、エネルギーを蓄える空間、場所を創り上げることができました。この場所を起点にすることで、ファンは思いを大きく熱く実らせ、その思いを持ち続けることができています。
企業発信において、どんな規模の企業でもインターネット上に自前のメディアを立ち上げることができる時代を迎えています。自社の社員を筆頭に、顧客、パートナーなど、さまざまな立場にある関係者たちのエピソードを自前のメディアで発信すべきです。
関係者が企業・組織の場合、自社と直接コミュニケーションし、関わりを持つ個人に光を当てます。1人1つのエピソードに限定する必要もありません。一定期間を経過することで、新たな経験を積み上げ、成長している姿を改めて発信することもできます。
そんなエモーショナルなエピソードを蓄える場所が「ニュースルーム」です。ニュースルームを訪れるたびに、企業のストーリーを徐々に深く知り、好意、愛着、共感といった感情が育まれます。
ニュースルームを訪れた人たちは、それぞれの置かれた立場とは関係なく、一つ一つのエピソードに触れ続けます。その過程で企業の熱心なファンへと成長していくのです。
長くファンとして関わる人たちは、その企業の物語を「当たり前」のように周囲の人たちに伝えます。時には口頭、時にはSNSで。そんな好循環を生み出すことができる場所がニュースルームなのです。