【ポッドキャスト #27】マーケティングってそもそも何? ブランディングとの関係は?
永続を目指す企業経営における車の両輪とは? それは2つの現在進行形(=ing)であるMarketingとBrandingです。
それぞれに守備範囲があるのです。難しい専門用語を排除して、分かりやすく整理します。
キーワードは「つながり」です。「つながり」に焦点を当てて、解き明かしていきます。
新しくつながるための全ての行為がマーケティング
つながりを強く、深く、太くするための取り組みがブランディング
荒木洋二: 皆さん、おはようございます。
濱口ちあき: おはようございます。
荒木: 6月26日木曜日、今日も元気に『広報オタ倶楽部』を始めてまいります。
『広報オタ倶楽部』は、本来の企業広報のあり方を広めるべく、28年以上にわたって企業広報活動を支援してきた私、荒木洋二によるオタク目線で語る広報の哲学ラジオです。聞き手は・・・。
濱口: 「まな弟子」の濱口ちあきです。
荒木: はい、「まな弟子」です。一応確認。受け止めないとですね。
濱口: そこまでが最近定型文になっていて、なんかうれしいです。ありがたい。
荒木: もう早いもので、1年の半分がもう終わるという。
濱口: 終わりますね。ぞっとしますね。
荒木: よく続いているなと思いながらもぞっとしますね。早いな、と。
前回は日頃、われわれが中小企業の経営者と接する中で聞かれる言葉として、「マーケティングって何?」とか、「ブランディングって何?」という話でした。先週はブランディングについて、ブランドの語源や調査結果、大学の先生のお話を含めて、どういうことなのかを説明してきました。
では、「マーケティングとブランディングって何がどう違うんだろうか?」をきょうはお話できればなと思います。
濱口さんが僕に教えてくれたように、日本マーケティング協会のマーケティングの定義が、もはやパブリックリレーションズと同じになってしまっている。
濱口: そうなんですよ。だから、「濱口さんの言ってるPRとか広報って、マーケティングですよね」と言われると、そうじゃないとも言えなくなってしまった。
荒木: 言葉の意味合いから考えると、マーケティングはマーケットの現在進行形でしょう? ブランディングはブランドの現在進行形。「ing」が付くということは、現在進行形ということなんだよね。僕がどう理解しているかというと、企業が経営を続ける限り、終わることがない、常に動き続けている現在進行形の営みがマーケティングであり、ブランディングだと捉えている。
濱口: そう言われればそうですよね。そもそも進行形ですよね。言葉の意味を(私もですけど)考えていない人がほとんどですよね。
商品市場、労働(採用)市場、株式(金融)市場というマーケット
荒木: そういう意味では、マーケティングを単純に考えると「マーケット=市場」、つまり市場と関わる全ての行為が、マーケティングともいえる。もう少しブランディングとのつながりから、それぞれの守備範囲から考えたい。
結論を述べると、どちらも車の両輪で、絶対に企業経営に欠かせない。しかも終わることがない営みがマーケティングとブランディングなんだよね。
濱口: なるほど。
荒木: 詳しい説明は避けますが、一時期ですね、チャールズ・A・オライリー著/マイケル・L・タッシュマン 著『両利きの経営』(東洋経済新報社刊)というアメリカの経営書を入山章栄さんという早稲田大学ビジネススクールの教授が訳して話題になったんです。マーケティングとブランディングもある意味「両利き」なんだよね。
ここでその「両利き」の説明をしていると、また話が長くなって訳が分からなくなるから、やめておくね。本当にどっちも必要なんだなと思っている。
では、「市場って何だろう」と思うと、日本語の中では、もちろん「商品市場」とかもあるけど、「労働市場」とか「採用市場」、あるいは「金融市場」「株式市場」など、これらもマーケット。ある一つの領域の中で大勢の人たちが集まっている場所を市場、マーケットという。
そうすると、マーケティングとは何かというと、新しいつながりを持つために行っているのがマーケティングなんだよね。
新規顧客を獲得するためにどうしたらいいのか。つまり、お客さんが存在している市場に対して、この人たちとどうやったらつながれる、つまり、お客さんではない状態、全然自分たちのことを知ってもらっていない状況から、どうやって知ってもらってつながっていくことができるのか。
濱口: そうですよね。
荒木: これは採用も同じ。新卒・中途を問わず、自社の存在を知ってもらう必要があるから、マーケティングが必要なわけだよね。つながっていくかどうか。だから、どの会社もリクルートとかIndeed(インディード)とかに(広告などで採用情報を)出す。
それは、そこを検索する人たちがいるから、すなわち職を求める人たちが集まっている場所に出すことで、接点を持ってつながれるかもしれない。そういうことを期待するのがマーケティング。
そういう意味では「株式市場」もそうであるし、それは変わらないなと思うんですよね。
新しくつながること、新しくつながるために行う活動がマーケティングであると理解できる。
つながって終わりかというと、そうではない。無事に就職してもらいました。無事に買ってもらったり利用してもらったりして、お客さんになりました。そこで終わりじゃなくて、これが始まり。
濱口: ですよね。
荒木: 入社したけど、半年で辞めちゃったとか。
濱口: (そういうケース)多いですよね。
荒木: 3年で3分の1が退職するとかよく言われる。すると、また新しいつながりを求めないといけないから、大変じゃないですか。
できれば、その社員が自分たちの考え方に、理念やビジョンに共感してくれて、本当に会社のことを好きになって、一生懸命働いてくれた結果として、長く勤め続けてもらった方がコスト面から考えてもいいわけなんでね。
それはお客さんでも同じ。すぐに離れてしまったら、また新しいお客さんを獲得しないといけない。となると、えらく大変じゃないですか。
濱口: ずっと新規顧客や従業員さんを探すのはきついですよね。
マーケティングの対象は未来のステークホルダー
荒木: よくマーケティング界隈の人たちが使う言葉として、「LTV」という言葉があるんだけど、これが何の略か分かりますか。
濱口: いや、分からないです。
荒木: 「Life Time Value」の略なんだ。Valueは価値だよね。日本語でなんと訳されてるかというと、「顧客生涯価値」。1回の単価はもしかしたら少額かもしれないけど、ずっと利用し続けることで、買い続けることで、結果的に金銭面で置き換えられる価値においてもちゃんと(会社の売り上げに)貢献している。
それを「顧客生涯価値」といい、注目されている。そうすると、まずは新しくつながるためのマーケティングをした後は、(企業としては)つながり続けてほしいわけだよね。
濱口: そういうことですよね。
荒木: つながり続けるためには、つながりがより強く、深くなること、太くなること(が大事)。つながりが強くて深くて太いと、いろんな荒波にぶつかったとしても、環境変化が起こったとしても、つながりが強いから切れない。結果として長く続く。
濱口: 大事ですよね。
荒木: 持続可能性とかサステナビリティという用語がはやっている。要は長く続くことじゃないですか。では何が続くのかといえば、お客さんとの関係が続くこと。社会からずっと受け入れられ続けること。安定株主がずっといて応援してくれることもそう。つながり続けることが大事なんですよね。1回つながっただけで、いきなりつながりは深くならないから(一定の期間を要する)。当たり前なんだけどね。
濱口: そうですよね。
荒木: 時間は必要だし、つながりを深くさせる理由が必要。その理由が前回述べた(企業の)人柄の部分だったりね。こういうところに共感していく過程でつながりが深まってくる。だからブランディングというのは、一度マーケティングでつながった人たちのつながりをもっと深く、強く、太くしていくために行うものなんだよね。
濱口: なるほど。
荒木: これはどんな企業でも規模に関係なく、社員と深くちゃんと絆を結んで、お客さんともちゃんと絆を結ぶ。前向きに辞める人もいるからそれはいいとして、何か不満をもって辞めてしまうような人たちが増えないようにする。
みんなが働きがいを持って働けるようにしていくためには、やっぱりつながりをちゃんと深くしていく必要がある。それを担うのが、ブランディングなんだよね。
でも、接点を持ってつながるまでの間、理性だけではなくて感性、左脳だけではなくて右脳に響く、刺さる情報もあった方がつながりやすくなる。
なので、実際にはマーケティングとブランディングで交わっている、重なっている部分もある。ただ、すごく大胆に分けると、新しくつながるために行う活動がマーケティングで、そのつながりを深く長くするために行う活動がブランディングといえる。(そのつながる)相手は全てのステークホルダー。
なので、マーケティングとは未来のステークホルダーを相手にしているわけですよ。
未来の社員、明日、うちの社員になるかもしれない、明日、うちの顧客になるかもしれない。今はまだ違うけど、なってほしいんだけど、まだなっていない。
だから、未来の利害関係者、未来のステークホルダーが集まっている場所がマーケットなんだよね。
荒木: 今は違うけど、いずれ社員やお客さんになって、「この会社いいよね。理念もいいし、考え方も共感できるよね」みたいな形になっていって、ちゃんとステークホルダーになって、価値を共に創造していく仲間になれるんだったら、素晴らしいことだよね。守備範囲が違うのだが、いずれも欠かせない。
濱口: よく分かります。
荒木: 新しい人が入社してこなかったら、新しいお客さんが獲得できなかったら、企業の成長が止まってしまうわけだよね。個人も法人も寿命がありますからね。
濱口: そうですよね。
荒木: 新しく関わってくる人が増えることは、人に寿命がある限りは、会社に寿命がある限りは必要である。ただ、関係が薄いままだと、永遠にコストがかかり続けてしまうことになる。
「ステークホルダー関係管理ビジネスモデル」とは
濱口: そうなると疲弊しますよね。
荒木: 疲弊する。なので、大事なのはつながりを深くしていく。つまり両方とも必要だよね。それが、マーケティングとブランディングの守備範囲ということになるんだよね。
守備範囲の違い、それが明確に分かってくるといいなと思っています。
このラジオでも紹介した、ラジェンドラ・シソーディア , ジャグディッシュ・シース , デイビット・B・ウォルフ (著) 『愛される企業 社員も顧客も投資家も幸せにして、成長し続ける組織の条件』(日経BP社刊)というアメリカの研究者が書いた本があって、2023年12月に日本で出版された。そこでは、ある一つのビジネスモデルを採用してる会社が、実は10数年ないし15年にわたって、実力面で市場の10倍以上の実績を出していると(指摘されている)。
何が違うのか、何が共通しているのかというと、それが「ステークホルダー関係管理ビジネスモデル」なんだ。つまり、簡単に言うとステークホルダーを大事にしている。共に価値を生み出している仲間という意識が根付いている。
濱口:興味深いですね。
荒木:「大きな意味での社内だ」みたいなね。本当に仲間なんだっていう身内感覚で、そういう人たちと一緒に価値を創造していく。そういうビジネスモデルを採用している企業が実は伸びている。
同書では、アメリカの上場企業20数社、上場してない企業20数社、あとアメリカ以外で15社、全部で70数社の結果を分析している。ある会社、今、名前が出てこないんだけど、アメリカの靴メーカーだったかな、その会社はほとんどマーケティング費用をかけていない。
荒木: でも、ちゃんとお客さんを獲得できているし、お客さんがファンになって、ちゃんと自分たちの商品を使い続けている。
ただ有名なスポーツ選手やアスリートを使って、莫大な広告コストをかけることをしなくても、安売りをしなくても、ちゃんと買い続けるお客さんがいる。
濱口: 口コミで広がっていっている、ということですか?
荒木: 口コミというか、別に広告費ゼロという意味ではない。膨大な広告費をかけたり、大勢の有名人を起用したりしているのではなくて、極めて低いコストで済んでいる。それは、1回買った人が使い続けているというのもあるし、もちろん使った人たちがよかった、という口コミも当然あるわけで。そのことをちゃんと他の人に共有できる場所を持っている。
濱口: そういうことですね。
荒木: そうすると(必然と関係が)長くなる。結果的に利益率も良くなって、同じ業界なのに市場の10倍以上の利益・実績を上げる。それは、そういうつながりの深さに実は理由がある。でも、マーケティングが不要という意味ではない。やはり常に新しい人たちと出会い続ける必要は当然あるよね。企業も生き物だし、あるいは人間も寿命があるわけですから。そうすると(マーケティングが)必要になってくる。両輪、どちらも欠かせないよね。
濱口: うん。いやあ、確かに面白い。
荒木: 「デジタルマーケティング」も今、日本で急速に広がっている。ちょっと言い方は違うかもしれないが、「デジタルブランディング」の領域は先週伝えたようにニュースルームが担っている。マーケティングが必要ないとは全く思っていない。
マーケティングを実行した後に、1回接点を持った後に、どうやって自分たちのことを理解してもらい、願わくば共感してもらうのか。「あ、この会社いいな」「この考え方好きだし、こんな商品を作るのはそんな理由があったからなんだ」というところまで結びついた方がいい。その方が「値段が安いから、この商品に変えよう」「給料がいいから、この会社に転職しよう」というふうに簡単にスイッチされない。お客さんや社員との関係を長く築いていくことができるようになる。そうなるための取り組みが必要だ、ということを強調したい。
継続意欲と推奨意欲をNPSで測る
濱口: そうですよね。だから、今、いろいろな会社さんはどこも、採用で人が来ない、と困っているという話を聞きます。しかし、「当社は困っていないんですよ」という社長さんともたまに会うんです。
それで、「採用はどうされているんですか」と聞いたら、社長さんが従業員さんたちと雑談したりして、関係性をしっかりと築いている。1回、2回ではなく、もうしっかりと(従業員と)深い話をされている。
だから、自然と従業員さんが一緒に働く人を連れてきてくれる。いわゆる「リファーラル採用」ができているから、「採用費をかけてないんですよね」と言える。
荒木: それが本当のリファーラルだよね。紹介は真理をついている。その会社のことを本音、本心でどう思っているのかを測る指標として、継続するかどうか、つまり「継続意欲」があるかどうかが一つ。もう一つが、人に勧めるかどうか、つまり「推奨意欲」があるかどうか。
濱口: なるほど。
荒木: これらの意欲があるかどうか。一般的には顧客が「この会社のこの商品がいいよ」という推奨意欲がある。そのことが「うちの会社、いいんだよね」という採用場面でも同じことがいえる。
濱口: 分かります。
荒木: これは「NPS=ネットプロモータースコア」という。顧客の満足度、関係の深さを測る指標として有名なんだよね。同じことが社員にも当てはまる。その通りだと思う。そうすると、自然と(社員からの)紹介で入社する人がいる。
濱口: いやあ、面白いですよね。
荒木: 最近知り合った(名前はここでは出せないが)、クライアントさんも同じ。社長の情熱に触れて、異業種からいろんな人たちが入社してきている。自分たちがこの会社で行っていることも、社長のことも好きで、信頼している。
だから、自分の知り合いを誘う。「一緒働いてみない?」とね。そうすると、結果的に採用コストはあまりかからないんだよね。すごくいいことだよね。
濱口: そうなんですよね。岡山県の津山市、人口が確か9万人ぐらいの町があるんです。そこで梱包資材会社を営んでいる、知り合いのかたがいらっしゃっいます。従業員50人程度の会社なんです。「採用費を全くかけていない」と言っています。人口の少ない町で人を集めるのは大変そうだ、と思うじゃないですか。しかし、やはり「従業員さんたちが、自分のご家族だったり、ママ友だったりを連れてきてくれるから」と。めっちゃいいですよね。
その分、採用費をかけないから、従業員さんたちにイベントなどで還元している。
荒木: なるほどね、それはいい流れだよね。
濱口: なんか、これからのあるべき(会社の)姿だな、と私は勝手に感銘を受けたんですよね。
荒木: そうだと思いますよ。(そういう会社の振る舞いは)大事だと思うから、とても理解できる。理想的だね。そうすると、採用コストをかけずに採用できてしまうよね。
だから、どこまで広がるかはあるが、何かを買う時も、紹介でいくこともあるからね。
昔はそんなに広告はなかったわけだから、口コミなどの紹介で、「いいよ」という話を聞いて、「そんなにいいなら、それを買ってみよう」となる。そういう意味でも、今、目の前にいる人たちとの関係がしっかり築かれていると、うまく回り始める。
とっても分かりやすい実例、好例ですよね。すごい会社だね。
濱口: すごいと思いました。
荒木: まさしくブランディングだよね。
社長の人柄が良くて、社員との関係もいいわけだから。
濱口: そうですよね。
荒木: 磁力に吸い寄せられるようだよね。ちょっと来てみなよ、と何か良さそうに思って入社してくれる。非常に好循環だよね。
濱口: いやあ、すごいですよね。
荒木: そうそう。それを外に表していくのがニュースルーム。
もう少し規模が大きくなっていくと、だんだん人の(対面の)つながりだけでは足りない部分も表れる。規模の拡大を望むならね。
そうではなくて、地元で頑張って、このまま(の規模で)事業を進めよう。そういうことであれば、必要はない。ただ、他社から見て模範になる。「こんなことを実行している企業もあるんだ」ということは、良い影響を他社に与えられる。
そういう意味では、社会的責任の一環として、自分たちのやっていることをちゃんと言葉や映像に残していく。「こういう良い企業があるんだよ」「こういうことをやっているんだよ」と知ってもらうことが大事。そんな方向も意識をしてもらえれば、なおいいなと思います。
はい、ちょうど20分過ぎましたね。
濱口: いつもあっという間に。
荒木: また今日も楽しい話ができました。ありがとうございます。あっという間に6月が終わりますね。
濱口: 寂しい。
荒木: 来週からはもう今年も後半戦に入ります。
濱口: 7月は本当に暑くなるから、皆さん、体調管理を気を付けていただきたいですね。
荒木: 僕も、来週にはもうすでに還暦を迎えている。7月1日が誕生日なんでね。別に祝ってほしいというわけではなく(笑)。
ということで、今週も木曜日。残すところ、きょうとあすが仕事という人が多いと思います。頑張って仕事していきたいと思います。
皆さん、いってらっしゃい。
濱口: いってらっしゃい。
荒木: ありがとうございます。