第28回 「蓄える」場と「流す」場(2)

こんにちは、荒木洋二です。

インターネットの普及、それに伴う多様なコミュニケーション手段の出現により、広報領域におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進展を続けています。大企業においてはニュースルーム、オウンドメディア、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という三つのデジタルメディアをどう組み合わせるか、各社が苦心しています。

前回から「『蓄える』場と『流す』場」というテーマで新たな連載を始めまています。企業が自社の魅力(情報)を「蓄える」場をニュースルームといいます。その最適な組み合わせとしての「流す」場がSNSなのです。

今回はそもそもSNSとは何なのかを整理して示します。そのうえで中小・中堅企業、スタートアップが直面する課題についても指摘します。これら企業の経営者、現場責任者がSNS運用を始める前に知るべきことです。

◆企業運営のSNSにおける5つの特徴

企業が運営(発行)するメディアは、その主役が印刷(紙)メディアからデジタルメディアへと完全に移行しています。その一角を占めるのがSNSです。そもそもSNSとは何なのか、その特徴といえる5点を示します。

⑴フロー型
情報の受け手を主体として設計されています。情報は受け手の画面でタイムライン的に流れます。時系列で投稿が流れ、最新情報が優先されるフロー型メディアです。

⑵プッシュ型
企業が能動的に情報を配信できるプッシュ型メディアでもあります。フォロワーやファンへの情報発信は、通知やタイムライン上で直接届けることができます。

⑶接触が手軽・迅速
リアクション(いいね、コメント、DMなど)が容易なため、従来メディアよりも速く気軽な接触が可能です。

⑷双方向コミュニケーションの成立
顧客、社員、取引先・パートナーなどステークホルダーとコメント、返信などを通じて直接対話できます。この双方向性はSNS独自の特徴です。

⑸長期的な信頼関係の構築
継続して情報発信や交流を重ねることで、顧客、社員、取引先・パートナーなどステークホルダーとの信頼関係を構築できます。

◆短いテキスト(文章)と視覚的・直感的なコンテンツを発信

前傾の5つを特徴としながら、もう少し掘り下げてみましょう。すると、発信する情報の内容にもSNSならではの特徴があることが分かります。

SNSでは、視覚的・直感的なコンテンツ(画像・動画)がアルゴリズム上有利です。利用者の関わりの度合い(=エンゲージメント)も高くなりやすいことが各種調査で明らかになっています。X(旧Twitter)やInstagramでは短いテキスト(文章)と画像の方が拡散力・反応率ともに高い傾向が強いです。
つまり長文のテキストは適していない、ということです。しかし、実際には熱心な経営者、専門家たちはSNSでかなりの長文を発信する傾向が強いというのが筆者の実感です。

経営者や現場の責任者が前述の特徴への理解を欠いたまま、やみくもにSNSに取り組んでいるのが実態です。SNSを自社で運用するにしろ、運用代行会社に委託するにしろ、正しく理解していなければ、望む成果を上げられるはずがありません。自社に都合の良い「魔法の杖」は存在していないことを肝に銘じるべきです。

前回も、中小・中堅企業、スタートアップの現場が直面している深刻な現状について言及しました。今回はもう少し詳しく現状を概観してみます。

◆SNSの誤用が招く経営危機

SNSの本質に加えて、人間の心理面への理解を欠いた投稿が氾濫しています。「共感」や「価値提供」が本質なのに、美化・虚飾・エンタメ化だけに偏る傾向が相変わらず続いています。今のところ、止まる気配はあまり見受けられません。
顧客、社員、社会が本質的に求める情報や感情移入の機会を提供できていません。このままでは、持続的かつ熱心なファン層を形成できません。

「バズる」ことの過度な目的化も厳に慎むべきです。バズ狙いで極端な演出をすると、会社の信頼は目に見えて低下します。炎上リスクにもつながります。SNS活用の失敗事例やケーススタディでもたびたび報告されていることです。

筆者が最も深刻な経営危機として捉えていることがあります。それは、(繰り返し述べますが)経営者がSNSの本質的意義を忘れている点です。
SNSは単なる宣伝手段ではないことを深く理解できていないことです。社員、顧客などステークホルダーとの継続的なコミュニケーションを実現できるのです。そのことを経営者自らが腹落ちすることで危機を脱することができます。

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