第32回 「蓄える」場と「流す」場(6)

こんにちは、荒木洋二です。
インターネットの普及、それに伴う多様なコミュニケーション手段の出現により、広報領域におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進展を続けています。大企業においてはニュースルーム、オウンドメディア、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という三つのデジタルメディアをどう組み合わせるか、各社が苦心しています。
企業が自社の魅力(情報)を「蓄える」場をニュースルームといいます。その最適な組み合わせとしての「流す」場がSNSなのです。今回は、「『蓄える』場と『流す』場」と題した連載の第6回です。
経営者がまず考えるべきことは、情報戦略を描くことです。どう設計するかが重要です。それが行動の起点となるのです。「場」をデザインするのです。デザインするとは、表現と伝達という手段の組み合わせの「妙」といえます。
SNSや広告運用などの専門事業者から提案があったからといって、思考停止の状態で会うべきではありません。情報戦略を設計する過程で明確な意思を持ったうえで、話を聞くべきです。
情報発信の構成要素は、目的・対象・内容・手段の4つです。前々回は、その中で最も重要な目的を3段階に分けて示しました。その上で前回は、対象に焦点を当てました。
◆ステークホルダーを時間軸で捉える
目的と対象はそれぞれの段階で連関しています。第1段階の目的は「知らせる」ことです。その対象はただの「知らない人」ではなく、「未来のステークホルダー」である、と前回述べました。
この「未来のステークホルダー」という捉え方は、筆者独自のものです。ステークホルダーは経営の根幹を支えています。だからこそ、この視点はどんな時も失ってはなりません。ステークホルダーの種類ごとに「ステークホルダー像」を明らかにすることが欠かせません。社員像、顧客像、パートナー像、株主像などです。
そして、常にステークホルダーとの関わりを時間軸で捉えるのです。現在と未来、両者をつなぐ過程においても貫くべき視点です。経営者がこの感覚で経営に取り組んでいるのか。それが企業の在り方、企業の未来、社会の未来に深く関わるのです。
話を元に戻します。目的と対象がどう連関しているのか。次のとおり、まとめました。

◆SNSの役割は、認知獲得と関係維持・深化
ステークホルダーの区分けに関して説明します。未来、候補、現在の違いは何か。そもそもステークホルダーとは、企業と金銭授受の間柄にある関係者のことです。だからこそ相互に影響し合います。利益と損害のいずれも共有せざるを得ません。
会社は社員に給与を支払います。顧客は会社に代金・利用料を支払います。完成品メーカーにとって部品メーカーはパートナー(取引先)です。完成品メーカーは部品の購入代金を支払います。株主は会社に投資します。金融機関は融資することもあります。会社は行政機関などに各種税金を支払います。つまり会社側が支払うか、受け取るかの違いがあるだけです。
SNSは、その機能的な特性により役割が2つに分かれます。3段階の目的とステークホルダーの区分けと照合し、まとめると次のとおりです。
1)認知獲得:知らせるため
・未来のステークホルダーとの最初の接点
・未来のステークホルダーが企業を明確に認知するまでの継続的な接点
=ステークホルダー候補となるまでの継続的な接点
「知らない人」から「知っている人」へと関係が段階的変化
2)関係維持・深化:選ばれるため/選ばれ続けるため
・ステークホルダー候補との双方向コミュニケーション
「知っている人」から「選んだ人」へと関係が段階的変化
・現在のステークホルダーとの双方向コミュニケーション
「選んだ人」から「選び続ける人」へと関係が段階的変化
未来のステークホルダーが起点です。その起点から情報に何度も接触し、コミュニケーションを繰り返す過程で心の状態が段階的に変化します。時間の経過とともに関係が段階的に変化するということです。
