第33回 「蓄える」場と「流す」場(7)

こんにちは、荒木洋二です。

インターネットの普及、それに伴う多様なコミュニケーション手段の出現により、広報領域におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進展を続けています。大企業においてはニュースルーム、オウンドメディア、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という三つのデジタルメディアをどう組み合わせるか、各社が苦心しています。

企業が自社の魅力(情報)を「蓄える」場をニュースルームといいます。その最適な組み合わせとしての「流す」場がSNSなのです。今回は、「『蓄える』場と『流す』場」と題した連載の第7回です。

「蓄える」場と「流す」場は、いずれも情報発信の「手段」であることはすでに述べたとおりです。そこから一歩踏み込んで情報発信を構成する4要素、情報戦略の設計に関して、前回までで整理してきたわけです。

物事の本質は、単純化することで見えてくることがあります。一見、複雑な構造に見えても大胆にそぎ落とすことで、本質の輪郭が浮かび上がります。反面、単純化することで細部が見えなくなることもあります。それぞれを非連続かのように捉えてしまい、重要なつながりを見落としかねません。

単純化することで、今まであえて言及しなかった2点に関して、今回は解説します。情報戦略とは何かをより深く理解してもらうためです。

それは次の2点です。

1)認知獲得の主要ツールは広告である
2)「流す」場は、SNS以外にも複数存在する

前回SNSの役割が認知獲得と関係維持・深化の2つであることを明らかにしました。しかし、認知獲得でいえば、その手段(ツール)はSNSだけではありません。むしろSNSは主流とはいえません。

◆認知獲得の主要ツールは広告

インターネットが普及する以前、認知獲得の主戦場はマスメディアでの広告が独占していたのです。ネットが普及した現在でも、(主戦場とまでは言い切れませんが)間違いなく主要ツールは広告です。ただし、従来のマスメディアでの広告はかつての勢いを失っています。インターネット広告費が今や広告費全体の5割に迫るほどです。
広告代理店最大手の電通が発表した「2024年 日本の広告費」(2025年2月)に詳細が記されています。関心のある人は直接データを確認してみてください。

中小・中堅企業、スタートアップは、大手と比較して資金力が圧倒的に不足しています。企業名や商品・サービス名を認知してもらうまでには、時間もかかります。マスメディアで数回広告を実施するだけでは無意味です。長期間にわたり、繰り返し接触しなければ、認知されません。マスメディアでの広告では莫大な費用がかかります。これは現実的な施策ではありません。

大手以外の企業にとっての広告は、インターネットの一択といっても過言ではありません。SNSや、ユーチューブなどの動画配信サービスでの広告が主流です。それでも資金は潤沢ではありません。ですから、広告以外の手段も組み合わせて、認知を獲得するのです。広告費を極力抑えた、認知獲得の施策を模索すべきです。自社にとって最適な組み合わせを探るのです。

◆広告、DM、展示会、メールマガジンも「流す」場

企業にとって、認知獲得や接点維持のために「流す」場が必要です。他方、「蓄える」場は、関係深化のために欠かせません。

インターネット普及以前の「流す」場といえば、広告です。マスメディア4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)だけでなく、交通・屋外広告もそうです。アウトドアメディアと呼ばれています。DM(ダイレクト・メール)も「流す」場として、企業規模に関係なく、広く使われていました。郵送、直接投函、FAXなど手法もさまざまありました。
展示会への出展も重要な「流す」場です。こちらも企業規模に関係なく、実に多くの企業が利用していました。展示会は、リアルで対面できる場です。認知獲得だけでなく、同時に対話など、コミュニケーションも可能な場です。
DMや展示会は、ネットが普及した今でも「流す」場として活用している企業は少なくありません。自社にとっての最適な組み合わせの一つとして、選択されている手法です。

当連載(2)で、SNSはフロー型であり、プッシュ型であることがその特徴であると述べました。SNS登場以前の「フロー&プッシュ」型メディアがメールマガジンなのです。今もメールマガジン、メール配信は重要な「流す」場として機能しています。最適な組み合わせの一つとして、選択している企業は少なくありません。

「流す」場として、どんな手段の組み合わせが最適なのか。情報戦略を設計する際には、SNS以外の手段があることも忘れてはなりません。

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